「親が高血圧だから自分もいずれなる」と感じている方は多いと思います。実際、血圧には遺伝的な要因が関わっていることが研究でわかっていますが、遺伝がすべてを決めるわけではありません。
この記事では、血圧における遺伝の影響の大きさと、家族歴がある人が今からできる対策を、研究データとともに解説します。
血圧はどのくらい遺伝で決まる?
一卵性・二卵性の双子を対象にした17件の研究(双子10,613人)をまとめた解析では、収縮期血圧の遺伝率は平均54%、拡張期血圧は49%と推定されています。つまり血圧の個人差のうち、およそ半分は遺伝的な要因で説明できるということになります(出典:Wang B, Liao C, Zhou B, et al. Genetic contribution to the variance of blood pressure and heart rate: a systematic review and meta-regression of twin studies. Twin Res Hum Genet. 2015;18(2):158-170.)。
ただし「遺伝率50%」は、特定の1つの遺伝子で血圧が決まるという意味ではありません。100万人以上を対象にした大規模な遺伝子解析では、血圧に関連する遺伝子領域が新たに535か所発見されており、血圧は非常に多数の遺伝子がそれぞれごくわずかな影響を及ぼし合って決まる「多因子遺伝」の代表例とされています(出典:Evangelou E, Warren HR, Mosen-Ansorena D, et al. Genetic analysis of over 1 million people identifies 535 new loci associated with blood pressure traits. Nat Genet. 2018;50(10):1412-1425.)。特定の遺伝子検査で高血圧になるかどうかを予測できる段階には、まだ至っていません。
家族歴があると、実際どのくらいリスクが上がる?
元医学生1,160人を54年間追跡した研究では、両親の高血圧の有無によって、その後の高血圧発症リスクに次のような差が見られました(出典:Wang NY, Young JH, Meoni LA, et al. Blood pressure change and risk of hypertension associated with parental hypertension: the Johns Hopkins Precursors Study. Arch Intern Med. 2008;168(6):643-648.)。
- 母親のみ高血圧 発症リスクは約1.5倍
- 父親のみ高血圧 発症リスクは約1.8倍
- 両親とも高血圧 発症リスクは約2.4倍
- 両親とも55歳以下で高血圧を発症(早期発症) 発症リスクは6.2倍、35歳時点では20.0倍
両親がともに、しかも若いうちに高血圧になっている場合ほど、リスクが大きく上がることがわかります。日本高血圧学会のリスク層別化でも、「若年(50歳未満)発症の脳心血管病の家族歴」は血圧以外の重要な危険因子の一つとして位置づけられています(出典:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019に関する解説冊子」表3)。
「遺伝だから仕方ない」ではない理由
遺伝的な要因があっても、生活習慣によって血圧が左右される部分は大きく残っています。家族歴がある人ほど、次のような生活習慣の影響を受けやすいと考えられます。
- 塩分の影響を受けやすい体質(食塩感受性) 同じ量の塩分をとっても血圧が上がりやすい人がいます。家族歴がある人は、より意識的な減塩が勧められます
- 体重増加の影響を受けやすい 肥満によるインスリン抵抗性やRAAS活性化が血圧に及ぼす影響が大きく出やすい傾向があります
- ストレスによる血圧上昇 交感神経の反応性に個人差があり、家族歴がある人は影響が出やすいことがあります
言い換えると、家族歴があること自体は変えられませんが、「どの生活習慣がとくに自分の血圧に影響しやすいか」を意識することで、対策の優先順位をつけやすくなります。減塩の具体的な方法は高血圧と食事の関係|減塩のコツとおすすめレシピ、体重管理については高血圧と肥満の関係|体重を減らすと血圧は下がる?で解説しています。
家族歴がある人がとるべき行動
- 若いうちから家庭血圧を測る習慣をつける 自覚症状がないまま進行するため、早期に気づくことが重要です
- 健康診断を毎年受ける 血圧だけでなく血糖・脂質もあわせて確認する
- 両親の発症年齢を主治医に伝える とくに55歳未満での発症がある場合は、リスク評価の重要な情報になります
- 二次性高血圧の可能性も念頭に置く 家族性に高血圧が多い場合、まれに遺伝性の内分泌疾患が背景にあることもあります
血圧の正しい測り方は正しい血圧の測り方、二次性高血圧の可能性については本態性高血圧と二次性高血圧の違いとは?をご覧ください。
まとめ
- 血圧の個人差のおよそ半分は遺伝的要因で説明できるとされていますが、単一の遺伝子で決まるものではありません
- 両親とも高血圧の場合、発症リスクは約2.4倍、両親とも早期発症の場合は6.2〜20倍に達するという報告があります
- 家族歴は「変えられないリスク」ですが、塩分・体重・ストレスなど生活習慣の影響の受けやすさを知る手がかりになります
- 家族歴がある人ほど、若いうちからの家庭血圧測定と定期的な健診が勧められます
市販の遺伝子検査サービスをどう捉えるか
近年、唾液などから手軽に調べられる消費者向け遺伝子検査サービスが普及し、「高血圧になりやすい体質」といった結果が示されることがあります。しかし前述の通り、血圧には500か所を超える遺伝子領域がそれぞれごくわずかに関与しており、単純な検査結果だけで将来の高血圧発症を正確に予測することは、現在の科学的知見ではまだ難しいとされています。市販の検査結果はあくまで統計的な傾向を示す参考情報のひとつと捉え、その結果に一喜一憂したり、逆に「リスクが低い」という結果を過信して生活習慣を見直さなかったりすることのないよう注意が必要です。
家族歴がある人が今からできること
遺伝的な要因は自分で変えることができませんが、血圧の個人差の残り半分は生活習慣などの環境要因で説明されることも、同じ研究から示されています。両親のいずれかに高血圧がある方は、そうでない方に比べて発症リスクが高い分、生活習慣の見直しに早いうちから取り組む意義がより大きいといえます。減塩や適度な運動、適正体重の維持といった基本的な対策に加え、家族歴がある方は健診での血圧測定を軽視せず、20〜30歳代のうちから自分の血圧の推移を把握しておくことが、将来の高血圧の早期発見・早期対応につながります。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- Wang B, Liao C, Zhou B, et al. Genetic contribution to the variance of blood pressure and heart rate: a systematic review and meta-regression of twin studies. Twin Res Hum Genet. 2015;18(2):158-170. PubMed
- Evangelou E, Warren HR, Mosen-Ansorena D, et al. Genetic analysis of over 1 million people identifies 535 new loci associated with blood pressure traits. Nat Genet. 2018;50(10):1412-1425. PubMed
- Wang NY, Young JH, Meoni LA, et al. Blood pressure change and risk of hypertension associated with parental hypertension: the Johns Hopkins Precursors Study. Arch Intern Med. 2008;168(6):643-648. PubMed
- 日本高血圧学会. 「高血圧治療ガイドライン2019に関する解説冊子」(脳心血管病リスク層別化). PDF



