起きてすぐ、あるいは朝食の前に測った血圧が、日中や夜より高い。診察室で測ると正常なのに、自宅の朝だけ高い。そんな経験はありませんか。朝の血圧が高い状態は「早朝高血圧」と呼ばれ、自覚症状がほとんどないまま、心臓や脳の血管に負担をかけ続けることがわかってきました。
日本高血圧学会(JSH)が2025年8月に発行した「高血圧管理・治療ガイドライン2025」でも、家庭血圧、とくに朝の血圧が重視されています。この記事では、早朝高血圧とは何か、なぜ朝の血圧が大切なのか、どのように見つけてどう向き合えばよいのかを、一次文献とガイドラインの内容に基づいて整理します。
早朝高血圧とは?
早朝高血圧とは、朝の血圧が高い状態のことです。起床後に自宅で測る家庭血圧が基準を超えているケースを指すのが一般的で、診察室で測った血圧が正常でも起こりえます。診察室では正常なのに診察室以外で高い状態を指す「仮面高血圧」の代表的なタイプの一つでもあり、くわしくは仮面高血圧とは?家庭でだけ血圧が高くなる原因と見つけ方の記事もあわせてご覧ください。
定義は文献によって少しずつ異なります。アジアの高血圧専門家で構成するHOPE Asiaネットワークの2022年の合意声明では、朝の家庭血圧の平均が135/85mmHg以上の状態を「早朝高血圧」と定義し、診察室血圧に関係なく診断できるとしています(Kario K ほか, J Clin Hypertens 2022;24:1112-1120)。一方、日本高血圧学会が2025年に公表した「早朝高血圧徹底制圧プロジェクト」では、朝の収縮期血圧(上の血圧)が130mmHgを超える状態をリスクのある水準として示し、朝の血圧管理の目標を130/80mmHg未満としています(Kario K ほか, Hypertens Res 2025)。数字が違って見えるのは、診断の基準と治療の目標という役割の違いや、発表時期の違いによるものです。ご自身の目標値は、年齢や持病によって変わるため、主治医に確認してください。
朝の血圧が高いと、なぜ問題なのか
血圧は一日のなかで一定ではなく、眠っている間は下がり、起きて活動を始める時間帯に上がります。この上がり方が大きいと、血管や心臓への負担が強まります。こうした背景から、朝の血圧が将来の脳卒中などのリスクとどう関係するのかが、日本を中心に研究されてきました。
その根拠の一つが、日本の研究グループによる高齢高血圧患者の追跡調査です。高齢の高血圧患者519人を平均で約41か月追跡したところ、この間に44件の脳卒中が発生しました。解析の結果、朝の収縮期血圧が10mmHg高いごとに脳卒中のリスクが約1.44倍になり、朝の血圧が脳卒中のもっとも強い予測因子として示されました。さらに、朝と夕の収縮期血圧の平均が135mmHg以上で、かつ朝のほうが夕より20mmHg以上高い「早朝高血圧」の群では、持続的に高血圧が続く群と比べて、脳卒中のリスクが3.1倍高いという結果でした(Kario K ほか, Hypertens Res 2006「Morning Hypertension: The Strongest Independent Risk Factor for Stroke in Elderly Hypertensive Patients」)。
日本の一般診療を受ける人を対象にした大規模研究「J-HOP研究」でも、同じ方向の結果が得られています。心血管リスクを持つ4,258人(平均年齢64.9歳)を平均6.2年追跡し、269件の心血管イベントを検討したところ、朝の家庭血圧が夕方より20mmHg以上高い人は、心血管イベントのリスクが高い傾向があり、調整後のハザード比は1.40でした。さらに、朝と夕の平均が135mmHg以上で朝夕の差も大きい人たちでは、どちらも高くない人たちに比べてハザード比が1.64でした(Hypertens Res 2021「Difference between morning and evening home blood pressure and cardiovascular events: the J-HOP Study」)。ここでいうハザード比とは、ある期間にイベントが起こる起こりやすさを、比較する集団と比べた数値のことです。
なお、これらは一部の集団を対象とした観察研究であり、朝の血圧を下げれば必ずイベントが減ると断定できるものではありません。それでも、朝の血圧を測って状態を知ることが、血管の病気を防ぐ手がかりになるという点では、専門家の意見は一致しています。日本全体で見ても、日本高血圧学会は高血圧の人が約4,300万人いる一方で、血圧が十分にコントロールされている人は約27%にとどまると報告しており、薬を飲んでいる人でも朝の血圧が130/80mmHg未満に達している人は3割に満たないとされています(同上、Hypertens Res 2025)。
朝に血圧が高くなる仕組み
HOPE Asiaの合意声明では、早朝高血圧を大きく二つのタイプに分けて考えています。一つは、起床後に血圧が急激に上がる「モーニングサージ型」です。もう一つは、夜間から朝にかけて血圧が高いまま下がらない「持続性の夜間・早朝高血圧型」で、夜間に血圧が十分に下がらないタイプや、夜のほうがかえって高いタイプがここに含まれます。夜間の血圧については夜間高血圧とは?眠っている間も血圧が下がらない人のリスクで詳しく扱っています。
朝の血圧上昇には、起きてからの活動量、自律神経のはたらき、血管の状態などが関わると考えられています(Yano Y, Kario K, Hypertens Res 2008;31:1491-1494)。一方で、朝の血圧上昇の定義や測り方がまだ統一されていないという課題も指摘されています。ご自身がどちらのタイプなのかを知るには、朝だけでなく夜の血圧も合わせて記録することが役立ちます。降圧薬を飲んでいる人で朝の数値が高いときは、服薬のタイミングも含めて主治医に相談することが大切です。
早朝高血圧を見つける朝の測り方
早朝高血圧は、診察室での測定だけでは見つけにくい状態です。見つけるうえで中心になるのが、自宅での朝の血圧測定です。HOPE Asiaの合意声明と日本高血圧学会のプロジェクトでは、おおむね次のような条件が示されています。
- 起床後1時間以内に測る(朝食の前)
- トイレを済ませてから測る(排尿後)
- 降圧薬を飲んでいる人は、薬を飲む前に測る
- 椅子に座って背もたれにもたれ、1〜2分ほど安静にしてから測る
- 1分ほどあけて2回測り、結果を記録する
- 5日以上続けて測り、平均を確認する
測るときは、腕に巻くタイプ(上腕式)の血圧計が推奨されています。日本高血圧学会のプロジェクトでも、精度が確認された上腕式の自動血圧計を用いて測ることが示されています。測定の基本は血圧の正しい測り方の記事で詳しく解説しています。家庭血圧がなぜ重要かについては、家庭血圧はなぜ大切なのか?追跡研究からわかった心血管リスクとの関係も参考になります。
測定値は、血圧手帳やアプリに日付と時刻をそろえて残しておくと、受診のときに医師が状態を判断しやすくなります。その日の数値に一喜一憂せず、数日から数週間のまとまりで傾向を見てください。
目安となる数値
家庭血圧の目安は、診察室血圧より低めに設定されています。日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」は、診察室血圧130/80mmHg未満を目標とし、それに対応する家庭血圧の目標を125/75mmHg未満としています(ケアネット「全年齢で130/80mmHg未満を目標に、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊」)。診断の目安としては、HOPE Asiaの合意声明が朝の家庭血圧135/85mmHg以上を早朝高血圧としています。つまり、135/85mmHg以上が続く場合は、はっきりと高い状態と考えられます。日本高血圧学会のプロジェクトでは、朝の収縮期血圧が130mmHgを超えるとリスクが高まるとされているため、130/80mmHgを超える日が続く場合も、一度主治医に相談しておくと安心です。
ただし、年齢、持病、服用中の薬によって適切な目標は異なります。自分の数値が基準を超えていたからといって、すぐに心配しすぎる必要はありませんが、続けて高いときには放置せず相談してください。
朝の血圧を落ち着かせるために日常でできること
日本高血圧学会のプロジェクトでは、生活習慣の見直しのなかでも、とくに減塩を重視しています。塩分の摂りすぎは、血圧を高める代表的な要因です。味噌汁やめん類の汁、漬物、加工食品など、ふだん何気なく口にしているものに意外と塩分が含まれています。食事全体を見渡して、少しずつ薄味に慣れていくことが現実的です。
冬は寒さそのものが朝の血圧を押し上げます。起きたあとの寒い部屋や脱衣所、トイレでの温度差は避けたいところです。暖房をタイマーで起床前に入れておく、羽織るものを枕元に置いておくといった工夫が役立ちます。くわしくは冬に血圧が上がるのはなぜ?室温・ヒートショックと朝の血圧対策をご覧ください。
そのほか、飲酒や喫煙、睡眠不足、運動不足なども血圧に影響します。起床直後にいきなり動き出すのではなく、布団の中で体を少し動かしてから起き上がる、ゆっくり身支度をするなど、朝の動作を穏やかにすることも、血圧の急な変動を和らげる助けになります。
受診の目安と治療の考え方
朝の家庭血圧が135/85mmHg以上の日が続く場合や、すでに高血圧の治療中なのに朝の数値が目標に届かない場合は、測定記録を持って受診してください。逆に、朝に頭痛や強いめまい、胸の痛み、ろれつが回らない、手足の力が入らないといった症状を伴うときは、早急に受診が必要です。
治療については、HOPE Asiaの合意声明で、血圧の目標を一般には135/85mmHg未満、リスクの高い人では125/75mmHg未満とし、薬の種類としてはカルシウム拮抗薬やRAS阻害薬が優先される場面があると述べています。1日1回の服薬で朝の血圧が十分に下がらない場合には、服薬回数の変更や、就寝前の服薬を個別に検討することもあるとされています。ただし、これらは医師が一人ひとりの状況を見て判断するものです。服薬の時間や量を自分で変えることは、血圧の下がりすぎなどにつながるおそれがあるため、必ず主治医に相談してからにしてください。
まとめ
- 早朝高血圧とは、診察室の血圧にかかわらず、朝の家庭血圧が高い状態のことです。
- 観察研究では、朝の血圧の高さや朝夕の差が、脳卒中や心血管イベントのリスクと関連することが示されています。
- 見つけるには、起床後1時間以内、排尿後、服薬前に、座って安静にしてから2回測り、数日以上続けて記録します。
- ガイドラインでは、診察室130/80mmHg未満に対応する家庭血圧の目標を125/75mmHg未満としています。
- 減塩や冬の室温管理などの生活習慣の見直しが基本ですが、数値が続けて高いときは、服薬の自己調整はせず受診してください。
朝の血圧は、自分で測れて、自分で変化に気づける数少ない健康の指標です。まずは1週間、朝の血圧を測ることから始めてみてください。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(2025年8月29日発行)
- 日本高血圧学会「早朝高血圧徹底制圧プロジェクト アクションプラン公開について」
- Kario K ほか「The JSH Morning Hypertension Eradication Program Project」Hypertension Research (2025)
- Kario K ほか「The HOPE Asia network 2022 up-date consensus statement on morning hypertension management」J Clin Hypertens 24:1112-1120 (2022)
- Kario K ほか「Morning Hypertension: The Strongest Independent Risk Factor for Stroke in Elderly Hypertensive Patients」Hypertension Research (2006)
- 「Difference between morning and evening home blood pressure and cardiovascular events: the J-HOP Study」Hypertension Research (2021)
- Yano Y, Kario K「Unresolved Issues of the Morning Blood Pressure Surge」Hypertension Research 31:1491-1494 (2008)
- ケアネット「全年齢で130/80mmHg未満を目標に、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊/日本高血圧学会」



