高血圧は、大動脈解離と大動脈瘤のもっとも重要な危険因子の一つです。高血圧がある人は大動脈解離を起こすリスクがおよそ3倍、腹部大動脈瘤ができるリスクもおよそ1.7倍高いと報告されています。予防と再発予防の柱は、血圧を130/80mmHg未満に保つことと禁煙で、突然の激しい胸や背中の痛みが出たときは、迷わず119番に連絡してください。
この記事では、大動脈解離と大動脈瘤がどのような病気か、なぜ高血圧と深く関係するのか、見逃してはいけない症状、そして日本のガイドラインが勧める血圧管理の目安を、研究結果をもとに解説します。
大動脈解離・大動脈瘤とは?
大動脈は、心臓から送り出された血液を全身に運ぶ、体の中でいちばん太い血管です。心臓を出てすぐ上に向かい(上行大動脈)、弓のように曲がって(弓部大動脈)、背骨に沿って胸からお腹へと下っていきます(下行大動脈・腹部大動脈)。大動脈の壁は内膜・中膜・外膜の3層でできていて、心臓が拍動するたびに強い圧力を受け止めています。
大動脈解離は、内膜に裂け目ができ、そこから血液が中膜の中に入り込んで、壁が縦に裂けていく病気です。本来の血液の通り道(真腔)とは別に、壁の中に新しい通り道(偽腔)ができます。日本のガイドラインでは、裂け目が心臓に近い上行大動脈に及んでいるものを「スタンフォードA型」、及んでいないものを「B型」と分類しています。A型は心臓や脳へ向かう血管を巻き込みやすく、原則として緊急手術の対象になります(出典:日本循環器学会ほか「2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」英語版 Circulation Journal 2023)。
大動脈瘤は、大動脈の一部がこぶのようにふくらんだ状態です。同じガイドラインでは、正常な太さの1.5倍を超えてふくらんだもの(目安として胸部で45mm、腹部で30mm)を「瘤(りゅう)」と呼んでいます。ふくらみはゆっくり進むことが多く、大きくなるほど破裂の危険が高まります。
この2つは別の病気ですが、どちらも「大動脈の壁が圧力に負ける」病気という点で共通しており、高血圧が大きく関わっています。また、解離のあとに裂けた部分がふくらんで瘤になる(解離性大動脈瘤)こともあります。
なぜ高血圧が大動脈を傷めるのか
血圧とは、血液が血管の壁を押す力のことです。血圧が高い状態が続くと、大動脈の壁は拍動のたびに、より強い力で押し広げられることになります。風船を強くふくらませるほどゴムが薄く伸びるのと同じように、管の壁にかかる張力は、内側の圧力が高いほど、また管が太いほど大きくなります。そのため、一度ふくらみ始めた大動脈は、高い血圧のもとでさらに広がりやすくなります。
長く続く高い圧力は、壁をしなやかに保っている中膜の弾性線維にも負担をかけ、動脈硬化を進めます。動脈硬化と高血圧の関係で説明しているように、血管が硬くなると拍動の衝撃を吸収しにくくなり、壁へのダメージがさらに積み重なるという悪循環に入ります。大動脈解離は、こうして弱くなった壁に急な血圧の上昇が加わったときに起こりやすいと考えられています。
研究でわかっている高血圧とのつながり
高血圧と大動脈の病気の関係は、多くの研究で一貫して示されています。大動脈解離の国際的な登録研究(IRAD)では、急性大動脈解離の患者さんの72%に高血圧があり、もっとも多い背景因子でした(出典:Evangelista A, et al. Glob Cardiol Sci Pract. 2016)。
「高血圧の人は、そうでない人に比べてどのくらい起こりやすいのか」を調べた研究もあります。日本の特定健診の受診者約53万人を追跡した研究では、高血圧がある人は大動脈解離で亡くなるリスクが約3.6倍でした。同じ論文で、世界のコホート研究をまとめた解析(約456万人)でも、高血圧がある人の大動脈解離のリスクは約3.1倍で、収縮期血圧が20mmHg高いごとにリスクが約1.4倍になっていました(出典:Hibino M, et al. Circulation. 2022;145:633-644)。
腹部大動脈瘤についても、複数のコホート研究(参加者は合計約540万人)をまとめた解析で、高血圧がある人は大動脈瘤のリスクが約1.66倍高く、収縮期血圧が20mmHg高いごとに14%、拡張期血圧が10mmHg高いごとに28%リスクが上がっていました(出典:Kobeissi E, et al. Eur J Epidemiol. 2019)。
日本人を長く追いかけた研究もあります。茨城県の健診受診者約9万6千人を26年間追跡した研究では、拡張期血圧が100mmHg以上の人は80mmHg未満の人に比べて、大動脈瘤の破裂や大動脈解離で亡くなるリスクが約3倍でした。同じ研究で、1日20本を超える喫煙も約2.5倍のリスクと関係していました(出典:Koba A, et al. J Am Heart Assoc. 2023;12:e027045)。血圧は「下の血圧(拡張期血圧)」も含めて管理することが大切だとわかります。
見逃してはいけない症状
大動脈解離は「突然の激痛」が特徴
大動脈解離の典型的な症状は、これまで経験したことのないような、突然の激しい痛みです。ガイドラインでは「鋭く、裂けるような痛み」と表現されており、A型では前胸部の痛み、B型では背中やお腹の痛みが特徴とされています。IRADでは、A型の患者さんの84.5%が「突然始まった痛み」を訴えていました。解離が広がるにつれて、痛む場所が胸から背中、腰へと移っていくこともあります。
次のような症状があるときは、様子を見ずにすぐ119番に連絡してください。
- ✔ 突然始まった、胸・背中・お腹の激しい痛み
- ✔ 痛む場所が移動していく
- ✔ 冷や汗、顔色が悪い、意識が遠のく
- ✔ 片側の手足が動かしにくい、ろれつが回らない
- ✔ 手足が急に冷たくなる、しびれる
解離が脳や手足へ向かう血管の入り口をふさぐと、脳梗塞のような症状や手足の血流障害が出ることがあり、痛みがはっきりしない場合もあります。日本高血圧学会のガイドラインでも、急性大動脈解離を伴う高血圧は、すぐに血圧を下げる治療が必要な「高血圧緊急症」の一つに挙げられています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」Hypertension Research)。高い血圧と救急受診の目安については、高血圧緊急症と切迫症の違いもあわせてご覧ください。
大動脈瘤は「症状がない」ことが多い
一方、大動脈瘤はふくらんでいくあいだ、ほとんど症状がありません。腹部大動脈瘤は健診や別の病気の検査のときに偶然見つかることが多く、お腹の張りや便秘、腰の痛みといったはっきりしない症状から診断につながることはまれだとされています。胸部大動脈瘤が大きくなると、周囲の神経や臓器を圧迫して、声がかすれる、飲み込みにくいといった症状が出ることがあります。
問題は、破裂してしまうと命を救うのが非常に難しいことです。ガイドラインでは、腹部大動脈瘤が破裂した患者さんの8割以上は救命できないと述べられています。だからこそ、症状が出る前に見つけて、大きさを見守ることが重要になります。高血圧の「症状の出にくさ」については、高血圧に症状はある?でも詳しく解説しています。
起こりやすい時期と、日本での発症の多さ
大動脈解離は、夏より冬に多い傾向があると報告されています。時間帯では、活動を始める朝6時から昼12時ごろに多く、夜間は少ないとされています。発症には気温の低下が影響していると考えられています。寒い季節の血圧の変化については、冬の血圧とヒートショックも参考にしてください。
日本での急性大動脈解離の発症は、地域の調査では年間10万人あたりおよそ3人と見積もられてきました。しかし、東京都の急性大動脈スーパーネットワークのデータでは年間10万人あたり10人と、より多い数字が示されています。決してまれな病気ではありません。
大動脈瘤を早く見つけるには
日本循環器学会などのガイドラインは、腹部大動脈瘤ができやすい人に対して、お腹の超音波(エコー)検査を積極的に考えるよう勧めています。対象として挙げられているのは、次のような人です。
- ✔ 65歳以上の男性
- ✔ 喫煙歴のある65歳以上の女性
- ✔ 親・きょうだい・子どもに腹部大動脈瘤のある人
診察室でお腹を触って、脈打つかたまりがないかを確かめることも、簡単にできる大切な検査です。日本高血圧学会のガイドラインでも、胸部X線写真で大動脈が太く見える場合や、お腹に脈打つかたまりを触れる場合には、超音波・CT・MRIで詳しく調べることが勧められています。高血圧と診断されたときに受ける検査の流れは、高血圧と言われて初めて受診するときで紹介しています。
大動脈瘤が見つかった場合は、定期的なCT検査で大きさの変化を確認します。ガイドラインでは、一般に胸部大動脈瘤で直径55〜60mm以上、腹部大動脈瘤で50〜55mm以上が、手術やステントグラフト治療を検討する目安とされています。ただし、こぶの形や大きくなる速さ、年齢や持病によって判断は変わるため、具体的な方針は担当の医師と相談して決めます。
予防と再発予防のための血圧管理
日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」は、大動脈瘤では原則として130/80mmHg未満を目標に厳格に血圧を管理すること、慢性期の大動脈解離でも130/80mmHg未満を目標とすることを勧めています。同じガイドラインでは、血圧をしっかり管理することで、解離の再発がおよそ3分の1に減ると報告されていることも紹介されています。日本循環器学会などの大動脈のガイドラインも、大動脈瘤や慢性大動脈解離の患者さんについて同じく130/80mmHg未満を目標としています。
この目標は、一般の高血圧の方の降圧目標と同じ水準です。くわしくは高血圧の降圧目標はいくつ?で解説しています。目標に届いているかを確かめるには、診察室の血圧だけでなく、毎日の家庭血圧が役立ちます。測り方は血圧の正しい測り方を参考にしてください。
薬の選び方にも、大動脈の病気ならではの考え方があります。慢性の大動脈解離では、β遮断薬が解離に関連した合併症を減らすと報告されており、使用が考慮されます。一方、腹部大動脈瘤については、β遮断薬を含めて、ふくらみが大きくなるのを抑えると証明された降圧薬はありません。そのため、心不全や狭心症、腎臓病など、ほかの持病とのバランスを見ながら薬を選びます。急性大動脈解離で入院した直後は、収縮期血圧を100〜120mmHg、心拍数を1分間60回未満に保つよう、降圧薬を使って厳しく管理することが勧められています。これは入院中の特別な管理であり、退院後に自宅で目指す値とは異なります。
禁煙と生活のなかで気をつけたいこと
血圧と並んで重要なのが禁煙です。スウェーデンで約3万人を最長20年追跡した研究では、喫煙者は腹部大動脈瘤(破裂または手術が必要になったもの)のリスクが約5倍、大動脈解離のリスクも約2倍でした。同じ研究で、高血圧は大動脈解離のリスク約2.6倍、腹部大動脈瘤のリスク約2倍と関係していました(出典:Landenhed M, et al. J Am Heart Assoc. 2015;4:e001513)。日本の2つのガイドラインも、喫煙は腹部大動脈瘤が大きくなったり破裂したりする危険因子であり、禁煙の指導が重要だとしています。たばこと血圧の関係は喫煙と高血圧で詳しく紹介しています。
そのほか、ガイドラインでは脂質異常症や糖尿病、高尿酸血症、肥満など、動脈硬化の危険因子をまとめて管理することも大切だとしています。冬場は暖かい部屋と寒い脱衣所・トイレの温度差を小さくする、朝の血圧が高い人は医師に相談して家庭血圧の記録を見てもらうなど、急な血圧の上昇を避ける工夫も役立ちます。大動脈瘤や大動脈解離の治療を受けたことがある人は、自己判断で降圧薬を減らしたりやめたりせず、定期的な通院とCT検査を続けることが何より大切です。
まとめ
- ✔ 高血圧は大動脈解離と大動脈瘤の重要な危険因子で、高血圧がある人は大動脈解離のリスクが約3倍と報告されています
- ✔ 大動脈解離は突然の激しい胸・背中の痛みで始まることが多く、疑ったらすぐ119番に連絡します
- ✔ 大動脈瘤は症状が出にくいため、65歳以上の男性や喫煙歴のある人などは超音波検査での早期発見が勧められています
- ✔ 大動脈瘤や慢性大動脈解離では、130/80mmHg未満を目標に血圧を管理し、禁煙を徹底することが予防と再発予防の柱です
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」Hypertension Research
- Ogino H, et al. JCS/JSCVS/JATS/JSVS 2020 Guideline on Diagnosis and Treatment of Aortic Aneurysm and Aortic Dissection. Circulation Journal. 2023;87(10)
- Evangelista A, et al. Insights from the International Registry of Acute Aortic Dissection. Global Cardiology Science & Practice. 2016
- Hibino M, et al. Blood pressure, hypertension and the risk of aortic dissection incidence and mortality. Circulation. 2022;145:633-644
- Kobeissi E, et al. Blood pressure, hypertension and the risk of abdominal aortic aneurysms: a systematic review and meta-analysis of cohort studies. European Journal of Epidemiology. 2019
- Koba A, et al. Risk Factors for Mortality From Aortic Aneurysm and Dissection: Results From a 26-Year Follow-Up of a Community-Based Population. J Am Heart Assoc. 2023;12:e027045
- Landenhed M, et al. Risk Profiles for Aortic Dissection and Ruptured or Surgically Treated Aneurysms: A Prospective Cohort Study. J Am Heart Assoc. 2015;4:e001513



