健康診断でも診察室でも血圧は問題ないと言われているのに、心電図や心臓の検査でわずかな異常を指摘された。あるいは、きちんと薬を飲んで昼間の血圧は落ち着いているのに、なぜか主治医が「一度、夜の血圧を調べてみましょう」と言う。こうした場面の背景にあるのが夜間高血圧です。眠っている間の血圧は、自分では測りようがないため、本人がいちばん気づきにくい高血圧といえます。この記事では、血圧が一日のなかでどう変動するのか、夜に下がらないことがなぜ問題になるのか、そして家庭でどう調べればよいのかを、国内外の研究とガイドラインをもとに整理します。
血圧は一日のなかで大きく変動しています
血圧は一日じゅう同じ値を保っているわけではありません。朝、目が覚めて活動を始めると上がり、日中は活動量に応じて上下し、夜になって眠りにつくと下がっていきます。この上下動は体内時計(概日リズム)に沿ったもので、健康な状態では、眠っている間の血圧は起きている間よりもはっきりと低くなります。
この「夜になると下がる」という性質は、単なる現象ではなく、心臓や血管を休ませるという意味を持っています。1日24時間のうち、6〜8時間は血管にかかる負担が軽くなる時間帯があるからこそ、心臓や血管、腎臓は回復する余地を得ます。逆に言えば、この下がるはずの時間帯に血圧が下がらないままだと、臓器は24時間ずっと圧力にさらされ続けることになります。夜間高血圧が問題視されるのは、まさにこの点です。
夜間の下がり方による4つのパターン
夜間の血圧を昼間の血圧で割った比率によって、血圧の日内変動は次の4つに分類されます。この分類は、循環器の分野で広く用いられているものです(出典:Kario K, et al. Nighttime Blood Pressure Phenotype and Cardiovascular Prognosis: Practitioner-Based Nationwide JAMP Study. Circulation. 2020;142:1810-1820.)。
- dipper(ディッパー)型 夜間の血圧が昼間より10〜20%程度下がる、基本となるパターン
- non-dipper(ノンディッパー)型 下がるものの、その幅が10%未満にとどまるパターン
- riser(ライザー)型 夜間の血圧が昼間よりむしろ高くなるパターン(夜間/昼間の収縮期血圧比が1.0超)
- extreme dipper(エクストリームディッパー)型 20%を超えて下がりすぎるパターン(同じ比が0.8未満)
このうち、non-dipper型とriser型が「夜間に血圧が十分下がらない」状態にあたります。とくにriser型は、本来もっとも低くなるはずの時間帯に最も高い値を示すという、リズムが完全に逆転した状態です。一方のextreme dipper型は下がりすぎるパターンで、こちらは夜間から早朝にかけて臓器への血流が不足する方向のリスクが議論されてきました。ただし、この点についての研究結果は一致しておらず、高齢者でのみ関連がはっきりしたとする報告もあります。
夜間高血圧はなぜ見つかりにくいのでしょうか
理由は単純で、通常の血圧測定はすべて起きている時間に行われるからです。診察室で測る血圧も、家庭で朝晩に測る血圧も、測定しているのは覚醒時の値です。夜間の血圧がどうなっているかは、そこからは分かりません。
そのため、診察室の血圧が良好でも、夜間だけ高いという状態が起こりえます。診察室以外で血圧が高くなる状態を広く仮面高血圧と呼びますが、夜間高血圧はそのなかでも、家庭での朝晩の測定でさえ捕まえられないタイプにあたります。朝の血圧だけを見て「よく下がっている」と判断していると、眠っている間の8時間近くに何が起きているかを見落とすことになります。
興味深いことに、夜間の血圧は測定条件が安定しているという利点もあります。日中の血圧は、歩いた直後か座っていたか、緊張していたかどうかなどによって大きく揺れますが、睡眠中は身体活動の影響をほとんど受けません。そのため、夜間の値は診察室の血圧よりも将来の心血管疾患をよく予測する、と指摘されています(出典:Kario K, Williams B. Nocturnal Hypertension and Heart Failure: Mechanisms, Evidence, and New Treatments. Hypertension. 2021;78:564-577.)。測り方の基本については高血圧の診断基準と測定方法|正しい血圧の測り方もあわせてご覧ください。
夜間の血圧が高いと何が起こるのか|国内6,359人の研究から
夜間血圧のリスクを日本国内で大規模に調べた研究に、JAMP研究(Japan Ambulatory Blood Pressure Monitoring Prospective study)があります。全国116施設の130名の医師が参加し、心血管疾患の危険因子を1つ以上持ちながら、症状のある心血管疾患はまだ発症していない患者さんを対象に、24時間血圧測定を行ったうえで追跡した前向き研究です。
解析対象は6,359名(平均年齢68.6歳、男性48%)。平均4.5年の追跡期間中に306件の心血管イベントが発生しました。内訳は脳卒中119件、冠動脈疾患99件、心不全88件です。
結果として、夜間の収縮期血圧が20mmHg高いごとに、動脈硬化性の心血管疾患のリスクはハザード比1.18(95%信頼区間 1.02〜1.37)、心不全のリスクはハザード比1.25(同 1.00〜1.55)と、それぞれ有意に高くなっていました。さらに注目されたのが日内変動パターンの影響です。riser型の人は、正常なリズムを保っている人と比べて、心血管疾患全体のリスクがハザード比1.48(同 1.05〜2.08)、なかでも心不全のリスクがハザード比2.45(同 1.34〜4.48)と、はっきり高い値を示しました。
この心不全との結びつきの強さは、riser型の特徴として押さえておきたい点です。しかもこの関連は、診察室血圧や24時間血圧の値で調整した後も残り、夜間血圧そのもので調整しても有意なままでした。つまり「夜間血圧が高いこと」と「リズムが逆転していること」は、それぞれ別個にリスクとして働いていると考えられます。研究者らは結論として、夜間の収縮期血圧を標的とした降圧戦略の重要性を指摘しています。心臓への負担については高血圧と心不全|心臓が疲れるしくみと早めに気づくサインで詳しく解説しています。
なぜ夜に血圧が下がらなくなるのでしょうか
夜間高血圧やnon-dipper型の背景として、いくつかの仕組みが指摘されています。中心にあるのは、ナトリウム(塩分)の処理のしかたと、交感神経の緊張です。
塩分を摂りすぎたとき、腎臓は余分なナトリウムを尿として排泄しますが、日中にうまく出しきれないと、その処理が夜間にずれ込みます。体内に水分とナトリウムが溜まった状態が続けば、循環する血液量が増え、夜間も血圧が下がりにくくなります。この「塩分感受性」の高さは、腎機能が低下している方や糖尿病のある方、高齢の方で強く出やすいとされています。高血圧と腎臓病|慢性腎臓病(CKD)を防ぐには?で扱っている腎臓と血圧の関係が、ここでも効いてくるわけです。
もうひとつ見逃せないのが睡眠時無呼吸症候群です。睡眠中にくり返し呼吸が止まると、そのたびに血液中の酸素が下がり、眠りが分断され、交感神経が強く働きます。その結果、本来なら血圧が下がるべき時間帯に、逆に血管が収縮して血圧が上がる方向の刺激が加わり続けることになります。実際、睡眠時無呼吸が重症であるほど、non-dipper型を示す割合が高くなることが報告されています。いびきや日中の強い眠気が気になる方は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と高血圧の関係|治療で血圧は下がる?を参考にしてください。
このほか、睡眠時間が短い、眠りが浅い、夜勤や交代勤務で生活リズムが不規則である、といった要因も、血圧の概日リズムを乱す方向に働きます。睡眠と血圧の関係については睡眠と高血圧の関係|寝不足は血圧を上げる?で整理しています。
夜間高血圧を疑ったほうがよい人
すべての方が夜間の血圧を調べる必要はありません。ただし、次のような条件に当てはまる場合は、主治医に相談してみる価値があります。
- 診察室や朝晩の家庭血圧は落ち着いているのに、心臓や腎臓、眼底に高血圧による変化を指摘された
- 複数の降圧薬を使っていても、なかなか目標値に届かない
- いびきが大きい、睡眠中に呼吸が止まると指摘されたことがある、日中に強い眠気がある
- 慢性腎臓病、糖尿病がある
- 夜勤や交代勤務など、睡眠のリズムが不規則な生活を続けている
- 夜中に何度もトイレに起きる
なお、これらはあくまで「調べる価値がある」という目安であって、当てはまるからといって夜間高血圧があると決まるわけではありません。判断は必ず医師と一緒に行ってください。
夜間の血圧を調べる方法
夜間の血圧を知る方法は、大きく2つあります。
ひとつは24時間自由行動下血圧測定(ABPM)です。小型の血圧計を腕に装着したまま日常生活を送り、日中は30分ごと、夜間は1時間ごとといった間隔で自動的に測定します。24時間の血圧の推移がグラフとして得られるため、夜間の平均血圧も、日内変動のパターンも同時に把握できます。JAMP研究で使われたのもこの方法です。装着したまま眠るため多少の睡眠の妨げはありますが、夜間血圧を評価する基準となる検査と位置づけられています。
もうひとつは夜間家庭血圧測定です。夜間の自動測定機能を備えた家庭用血圧計を使い、就寝中の決まった時刻に自動で測定する方法で、近年その活用が広がっています。ABPMほど細かくは追えませんが、自宅の寝床で普段どおり眠りながら測れるという利点があり、くり返し測定できるため経過を追うのにも向いています。
評価の目安としては、夜間の血圧を120/70mmHg未満に保つことが、24時間を通じた血圧管理の次の目標として提案されています。朝の家庭血圧を整えたうえで、さらに夜間血圧に目を向けるという段階的な考え方です。どの方法を選ぶか、どこまで調べるかは病状によって異なるため、かかりつけ医と相談して決めてください。
夜間の血圧に向き合うためにできること
夜間高血圧が見つかった場合、対応は原因によって変わります。自己判断で薬の飲む時刻を変えたり量を増やしたりせず、必ず主治医の指示に従ってください。そのうえで、生活面でできることもいくつかあります。
まず塩分です。夜間高血圧の背景に塩分の処理の問題がある以上、減塩はそのまま夜間の血圧に関わってきます。日本高血圧学会は「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(2025年8月29日発行)で、食塩摂取量を1日6g未満に減らすことを推奨しています。あわせて、野菜・果物・低脂肪の乳製品などカリウムを多く含む食品の摂取も勧められており、尿中のナトリウム/カリウム比という新しい指標の活用も盛り込まれました(出典:Ohya Y, et al. Key highlights of the Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025). Hypertens Res. 2025;48:2500-2511.)。具体的な工夫は高血圧と食事の関係|減塩のコツとおすすめレシピにまとめています。
次に睡眠です。睡眠時無呼吸が隠れている場合、その検査と治療が夜間の血圧に関わってきます。いびきや日中の眠気を「体質」として済ませず、一度きちんと調べてもらうことが出発点になります。睡眠時間の確保や、就寝前のアルコール・カフェインを控えるといった基本的な生活習慣も、眠りの質を通じて血圧に関わります。
なお、同じガイドラインでは降圧目標が全年齢で診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満に統一されました。ただし収縮期血圧を120mmHg未満まで下げるような強い降圧では、症候性の低血圧や急性腎障害といった有害事象が増える可能性も示されており、低ければ低いほどよいわけではありません。夜間血圧についても同じで、下げること自体が目的ではなく、24時間を通じて無理のない範囲に収めることが目指されています。
まとめ
夜間高血圧について、押さえておきたい点を整理します。
- ✔ 血圧は体内時計に沿って変動し、健康な状態では夜間に10〜20%ほど下がる(dipper型)
- ✔ 下がり方が10%未満のnon-dipper型、むしろ上がるriser型は、夜間も臓器に負担がかかり続ける
- ✔ 診察室でも朝晩の家庭血圧でも見つからないため、自覚も発見も難しい
- ✔ 国内6,359人のJAMP研究では、riser型で心血管疾患全体のリスクが約1.5倍、心不全は約2.5倍
- ✔ 背景には塩分の処理と交感神経の緊張があり、睡眠時無呼吸・慢性腎臓病・糖尿病などが関わる
- ✔ 調べる方法は24時間自由行動下血圧測定(ABPM)と、夜間自動測定機能のある家庭血圧計
- ✔ 気になる条件に当てはまる場合は、自己判断で薬を変えず、まず主治医に相談する
朝と晩に血圧を測る習慣がついている方は、すでに大切な一歩を踏み出しています。そのうえで、もし気になる点があれば「夜の血圧はどうなっているでしょうか」と主治医に尋ねてみてください。見えていなかった時間帯に目を向けることが、次の一手につながります。
参考文献
- Kario K, Hoshide S, Mizuno H, et al. Nighttime Blood Pressure Phenotype and Cardiovascular Prognosis: Practitioner-Based Nationwide JAMP Study. Circulation. 2020;142:1810-1820. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7643792/
- Kario K, Williams B. Nocturnal Hypertension and Heart Failure: Mechanisms, Evidence, and New Treatments. Hypertension. 2021;78:564-577. https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/HYPERTENSIONAHA.121.17440
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(2025年8月29日発行) https://www.jpnsh.jp/guideline.html
- Ohya Y, Sakima A, Arima H, et al. Key highlights of the Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025). Hypertension Research. 2025;48:2500-2511. https://www.nature.com/articles/s41440-025-02331-8
- ケアネット「全年齢で130/80mmHg未満を目標に、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊/日本高血圧学会」2025年9月8日 https://www.carenet.com/news/general/carenet/61350
監修
監修:鎌形博展 株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
専門科目 救急・地域医療
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
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