健康診断や診察室で測ると140を超えているのに、家に帰って測ると120台。そんな経験から「自分は緊張しやすいだけ」と考えている方は少なくありません。この状態は白衣高血圧と呼ばれ、医師の白衣を見ると血圧が上がる、という語感のとおりの名前がついています。ただ、この状態をどう受け止めるべきかは、少し込み入っています。「病気ではないので気にしなくてよい」と説明されることもあれば、「将来の高血圧の予備軍なので経過をみましょう」と言われることもあり、患者さんの側からは判断がつきにくいためです。この記事では、白衣高血圧とは何を指すのか、研究で何がわかっていて何がわかっていないのか、そして言われた場合に何をすればよいのかを整理します。
白衣高血圧とは?
白衣高血圧は、医療機関で測った血圧は高血圧の基準を超えているのに、診察室の外で測った血圧は正常範囲にとどまっている状態を指します。研究では一般に、診察室血圧が140/90mmHg以上で、かつ家庭血圧が135/85mmHg未満、という組み合わせで定義されます。重要なのは、この判断には診察室の外で測った血圧が必ず必要だという点です。診察室の数値だけを何度繰り返し測っても、白衣高血圧かどうかは区別できません。
もうひとつ、言葉の使い分けがあります。まだ降圧薬を飲んでいない人で診察室だけ高い状態を「白衣高血圧」、すでに治療を受けている人で診察室だけ高い状態を「白衣現象(白衣効果)」と呼び分けることが多く、後で述べるように、この二つは将来のリスクの意味合いが違います。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」でも、第5章「血圧測定と臨床評価」で診察室外血圧の重要性が扱われています。
なぜ診察室でだけ血圧が上がるのか
もっとも分かりやすい説明は、医療機関という環境が一時的な緊張を生み、交感神経が優位になって心拍数と血管の緊張が高まる、というものです。実際、白衣高血圧という名前もこの発想から来ています。ただ、本人に「緊張している」という自覚がまったくないことも多く、性格が神経質かどうかとも必ずしも一致しません。無意識のうちに起こる反応であるため、「リラックスしよう」と意識するだけでは解決しないのが実情です。血圧と精神的な緊張の関係についてはストレスと血圧の科学的関係でも扱っています。
環境要因も無視できません。受診前に急いで歩いてきた、待合室で待たされた、直前にコーヒーを飲んだ、話しながら測った、といった条件はいずれも血圧を押し上げる方向に働きます。測定手順そのものの影響も大きく、背もたれのない椅子に座る、足を組む、腕の位置が心臓より低い、といった条件が重なると数値は上振れします。つまり「白衣」だけが原因とは限らず、診察室という場面に伴う複数の要因が合わさった結果と考えたほうが実態に近いと言えます。
興味深いことに、診察室血圧と診察室外血圧の差の大きさは、年齢とともに広がることが分かっています。IDACOという国際共同研究の解析では、この差は10歳年齢が上がるごとに収縮期で3.8mmHg(95%信頼区間 3.1〜4.6mmHg)大きくなる一方で、その人がもともと持っている心血管リスクの高さとは関係していませんでした(出典:Franklin SS ほか(IDACO研究)Journal of the American College of Cardiology 2016)。年齢を重ねるほど診察室での上振れが大きくなりやすい、というのは知っておくと役に立つ性質です。
「問題なし」と考えてよいのか
ここが白衣高血圧のいちばん難しいところです。長らく「診察室の外で正常なら心配ない」と考えられてきましたが、近年の大規模な解析では、少なくとも治療を受けていない白衣高血圧については、正常血圧の人と完全に同じとは言えない、という方向で結果が積み重なっています。
研究でわかっていること
27件の観察研究をまとめた解析では、治療を受けていない白衣高血圧の人は、正常血圧の人と比べて心血管イベントのリスクが1.36倍(95%信頼区間 1.03〜2.00)、総死亡が1.33倍(同 1.07〜1.67)、心血管死が2.09倍(同 1.23〜4.48)でした。対象は白衣高血圧・白衣現象を持つ25,786人と正常血圧の38,487人で、平均3〜19年追跡されています。一方、すでに降圧薬を飲んでいる人の白衣現象については、心血管イベント(1.12倍、95%信頼区間 0.91〜1.39)も総死亡も、統計学的に意味のある差は認められませんでした(出典:Cohen JB ほか、Annals of Internal Medicine 2019)。
日本高血圧学会の学会誌に掲載された別のメタ解析でも、治療を受けていない白衣高血圧の心血管アウトカムのリスクは正常血圧に比べて1.33倍(95%信頼区間 1.10〜1.62)と報告されています。ただしこの解析では、脳卒中だけを取り出した場合、心臓の病気だけを取り出した場合、総死亡について見た場合には、いずれも統計学的に意味のある差は出ていません(出典:Fujiwara T ほか、Hypertension Research 2019)。つまり「全体としてはわずかにリスクが高そうだが、個々の病気ごとにはっきり示せるほどではない」というのが現時点の状況です。
リスクの大きさは人によって違う
さらに踏み込んだ知見として、白衣高血圧のリスクは誰にでも一律に当てはまるわけではないことが示されています。先ほどのIDACO研究では、治療を受けていない白衣高血圧653人と、年齢や集団を揃えた正常血圧653人を中央値10.6年追跡しました。その結果、もともと心血管リスクが高い群(危険因子が3つ以上、糖尿病、あるいは心血管疾患の既往がある人)では白衣高血圧の心血管イベントリスクが2.06倍(95%信頼区間 1.10〜3.84)と高かった一方、リスクが低い群では有意な差がありませんでした。年齢別に見ると、この差は60歳以上かつ高リスクの人に限られていました(出典:Franklin SS ほか(IDACO研究)Journal of the American College of Cardiology 2016)。
この結果は、白衣高血圧そのものが単独で危険というより、他の危険因子を抱えている人において意味を持つ、という見方を支持します。裏を返せば、若く、糖尿病や脂質異常症などがなく、喫煙もしていない方の白衣高血圧を過度に恐れる必要はない、ということでもあります。ただしそれは「何もしなくてよい」という意味ではありません。理由は次の節にあります。
本当の高血圧へ移行することがある
白衣高血圧をそのままにしてよいと言い切れない最大の理由は、時間が経つと診察室の外でも血圧が高くなっていく人が相当数いるためです。日本の岩手県大迫町で行われた地域住民を対象とする追跡研究では、白衣高血圧の128人と、診察室でも家庭でも正常だった649人を8年間追跡しました。その間に家庭血圧が高血圧の域に達した(あるいは降圧薬を開始した)人は、白衣高血圧群で60人(46.9%)、正常血圧群で144人(22.2%)でした。年齢などの影響を調整したうえでの移行のオッズ比は2.86で、統計学的に明確な差がありました(出典:Ugajin T ほか(大迫研究)Archives of Internal Medicine 2005)。
先に挙げた日本発のメタ解析でも、持続性高血圧への移行のリスクは正常血圧の2.85倍(95%信頼区間 2.32〜3.49)と報告されており、複数の研究で一貫した傾向です(出典:Fujiwara T ほか、Hypertension Research 2019)。白衣高血圧は「今この瞬間の危険度」よりも「これからどうなるか」を教えてくれる所見だ、と捉えるのが実態に近いと言えます。この点が、白衣高血圧と言われた方に定期的な家庭血圧測定と経過観察が勧められる理由です。
仮面高血圧との違い
白衣高血圧とちょうど裏返しの関係にあるのが仮面高血圧です。仮面高血圧は、診察室では正常なのに家庭や職場では高い状態を指します。診察室の数値だけを見ていると見逃されるため「仮面」と呼ばれ、白衣高血圧よりも心血管リスクが高いことが知られています。この二つを整理すると、診察室と診察室外という2つの軸で4つの組み合わせができることになります。
- 診察室も家庭も正常 → 正常血圧
- 診察室のみ高い → 白衣高血圧
- 家庭のみ高い → 仮面高血圧
- 診察室も家庭も高い → 持続性高血圧
この4分類は、家庭血圧を測って初めて成り立ちます。診察室の数値だけでは、正常血圧と仮面高血圧を区別できませんし、白衣高血圧と持続性高血圧も区別できません。仮面高血圧については仮面高血圧とは?家庭でだけ血圧が高くなる原因と見つけ方で詳しく解説しています。
なお、すでに治療中の方で診察室だけ高い場合には、別の注意点があります。診察室の数値だけを見て「効いていない」と判断し薬を増やしていくと、実際には十分下がっている家庭血圧がさらに下がり、ふらつきや立ちくらみにつながることがあります。降圧薬が効きにくい状態を評価する際にも、まずこの白衣現象を除外することが出発点になります。この点は治療抵抗性高血圧とは?薬が効きにくいときに考えることでも扱っています。
どうやって見分けるのか
白衣高血圧かどうかを判断する材料は、家庭血圧測定と24時間自由行動下血圧測定(ABPM)の2つです。家庭血圧測定は、自宅で上腕式の血圧計を使い、朝と夜に決まった条件で測って記録する方法で、費用がかからず長期間続けられるのが利点です。ABPMは腕に装置を装着して24時間、一定間隔で自動的に測る検査で、睡眠中を含めた1日の変動が分かります。夜間の血圧が下がらないタイプの高血圧を見つけたい場合など、より詳しい評価が必要なときに用いられます。
日常的にまず取り組めるのは家庭血圧測定です。ただし、測り方が揃っていないと数値がばらつき、判断の材料になりません。とくに測定前の安静、姿勢、カフの位置は結果を左右します。具体的な手順は高血圧の診断基準と測定方法|正しい血圧の測り方にまとめていますが、要点は次のとおりです。
- 朝は起床後1時間以内、排尿をすませ、朝食と服薬の前に測る
- 夜は就寝前に測る
- 背もたれのある椅子に座り、足を組まずに1〜2分安静にしてから測る
- カフは上腕に巻き、位置を心臓の高さに合わせる
- 会話をせずに測り、出た数値は高くても低くてもそのまま記録する
記録は1日や2日ではなく、できるだけ多くの日数をまとめて持参すると、医師が判断しやすくなります。何日分を目安にすればよいかは通院先で確認しておくとよいでしょう。数値を選んで書いたり、高い日を除いたりすると、かえって適切な評価から遠ざかります。
白衣高血圧と言われたら何をすればよいか
まず押さえておきたいのは、白衣高血圧と言われた時点では、多くの場合すぐに降圧薬を始める段階ではないということです。診察室の外で正常であれば、薬で下げる対象がそもそも見当たらないためです。ここで薬を始めてしまうと、診察室外の血圧が下がりすぎる可能性があります。
一方で、何もせず放っておく状態でもありません。ここまで見てきたとおり、白衣高血圧の方は正常血圧の方に比べて、年単位で診察室外の血圧も上がっていく割合が高いことが複数の研究で示されています。したがって、実際に行うことは家庭血圧を測り続けて記録を残すこと、そして定期的に受診して経過を確認することの2つが中心になります。数か月に一度でも記録を持って受診していれば、移行が起きたときに早く気づくことができます。
あわせて、生活習慣の見直しは白衣高血圧の段階から意味を持ちます。減塩、適正体重の維持、飲酒量の調整、運動、禁煙、睡眠の確保は、いずれも将来の高血圧への移行を遅らせる方向に働く要素です。とくに、IDACO研究が示したように白衣高血圧のリスクは他の危険因子を抱えている方で高くなる傾向があるため、糖尿病や脂質異常症、喫煙といった要素を持っている場合には、そちらの管理を並行して進めることが理にかなっています。
注意したいのは、自己判断で「自分は白衣高血圧だから大丈夫」と結論づけてしまうことです。家庭血圧が正常であることを確かめずに、緊張しやすい性格だからという理由だけで診察室の高値を説明してしまうと、実際には持続性高血圧だった場合に発見が遅れます。診察室で高い値が出たら、まず家庭で測って確かめる。この順序が大切です。
まとめ
白衣高血圧は、診察室では高血圧の基準を超えるのに、診察室の外では正常範囲にとどまっている状態です。診察室の数値だけでは判断できず、家庭血圧測定やABPMといった診察室外の測定が欠かせません。
研究の状況を整理すると、治療を受けていない白衣高血圧は正常血圧と比べてわずかに心血管リスクが高い可能性が示されている一方、そのリスクは主に高齢で他の危険因子を併せ持つ方に集中しており、誰にでも一律に当てはまるものではありません。すでに治療中の方の白衣現象については、正常血圧と比べたリスクの差は示されていません。それよりも一貫しているのは、白衣高血圧の方が年単位で本当の高血圧へ移行しやすいという点です。
過度に不安になる必要はありませんが、放置してよい所見でもありません。家庭で測って記録を残し、定期的に受診して経過を追い、生活習慣の見直しを並行して進める。この積み重ねが、将来の高血圧を早く見つけ、必要になったときに適切なタイミングで手を打つための備えになります。
参考文献
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(2025年8月29日発行)第5章 血圧測定と臨床評価
- Cohen JB, et al. Cardiovascular Events and Mortality in White Coat Hypertension: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med. 2019;170(12):853-862.
- Fujiwara T, et al. Are the cardiovascular outcomes of participants with white-coat hypertension poor compared to those of participants with normotension? A systemic review and meta-analysis. Hypertens Res. 2019;42(6):825-833.
- Franklin SS, et al. The Cardiovascular Risk of White-Coat Hypertension. J Am Coll Cardiol. 2016;68(19):2033-2043.
- Ugajin T, et al. White-coat hypertension as a risk factor for the development of home hypertension: the Ohasama study. Arch Intern Med. 2005;165(13):1541-6.
監修
監修:鎌形博展 株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
専門科目 救急・地域医療
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
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- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
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