家庭で血圧を測るなら、まず選びたいのは「上腕にカフ(腕帯)を巻くタイプ」で、日本高血圧学会のガイドラインも家庭血圧には検証された上腕式の機器を使うよう定めています。手首式は手軽ですが、手首の高さや構造の影響で数値がずれやすいためです。ただし、上腕が太くてカフが巻きにくい方など、手首式を検討してよい場合もあります。
この記事では、上腕式と手首式のどこが違うのか、なぜ上腕式が基本とされているのか、購入前にどこを確認すればよいのかを、ガイドラインと研究報告に沿って整理します。測り方そのものは血圧の正しい測り方の記事で、家庭血圧が将来のリスクとどう結びつくかは家庭血圧はなぜ大切なのかの記事で詳しく解説しています。
家庭用血圧計は何で選ぶ? まず知っておきたい基本
家庭用の血圧計は、腕に巻いて測るもの(上腕式)と、手首に巻いて測るもの(手首式)に大きく分かれます。どちらも、カフで血管を圧迫してから緩めていくときの血管の振動をとらえて血圧を算出する「オシロメトリック法」を使う電子血圧計で、ボタンひとつで自動的に測れる点は同じです。
見た目や使いやすさでは手首式に軽さと手軽さがあり、旅行や職場に持ち歩きたい方には魅力的に映ります。一方で、血圧の数値は「どこで、どんな姿勢で測ったか」の影響を受けやすく、機器の形が違えば測定の条件も変わります。血圧計選びで大切なのは、使いやすさよりも先に、診断や治療の判断に使える信頼性の高い数値が得られるかどうかです。
家庭血圧が重視される理由は、診察室だけでは分からない血圧の実態をつかめるからです。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(JSH2025)も、家庭血圧測定を高血圧の診断と管理の中心に位置づけており、診断の基準値は家庭血圧で135/85mmHg以上、125〜134/75〜84mmHgを「高値血圧」としています(出典:JSH2025のハイライト論文)。基準値と比べるための数値ですから、測る機器の精度が土台になります。なお、診察室では高いのに家庭では正常な白衣高血圧や、その反対の仮面高血圧を見つける手がかりも、家庭血圧です。
ガイドラインが「上腕式」をすすめる理由
JSH2025では、家庭血圧測定は「検証済みの上腕式オシロメトリック機器を、正しい手順で使う」ことが基本とされています。あわせて、カフを使わずに血圧を推定するタイプの機器(カフレス機器)は、読み取りの信頼性への懸念から、現時点では診断や治療には推奨されないと明記されています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(JSH2025))。スマートウォッチなどに血圧表示の機能がついていても、それを診断や薬の調整の根拠にするのは、今のところ勧められていないということです。
ガイドラインでは、家庭血圧は朝と晩にそれぞれ測り、7日間(少なくとも5日間)の平均で評価するとされています。原則として1回の機会に2回測定し、4回以上の測定は続けにくくなるため勧められていません。つまり家庭血圧は「その日の1回の値」ではなく、毎日の積み重ねで見るものです。毎日使う道具だからこそ、同じ条件でぶれずに測れる機器が望まれます。
もうひとつ、日本高血圧学会は国内で販売されている血圧計の精度検定の結果を公開していますが、その一覧に載っているのは上腕式の機器です。手首式は水柱圧(心臓の高さとの差)の補正が難しいことや、手首の解剖学的な特性から動脈の圧迫が保証されない場合があることを理由に、集計から除外されています(出典:日本高血圧学会「血圧計の試験結果に関する集計」)。なお、この一覧はメーカーなどから提供された情報をそのまま掲載したもので、学会が特定の機種を推奨するものではありません。
手首式が不正確になりやすい理由
手首式の課題として、JSH2025は2つの点を挙げています。1つ目は、心臓と手首の高さの違いによる「静水圧」の影響です。血圧は、測る場所が心臓より高ければ低めに、低ければ高めに出ます。上腕なら、肘をテーブルに置くだけで心臓の高さに近づけやすいのですが、手首は手の置き方や角度で高さが変わりやすく、補正が難しくなります。
2つ目は、手首の構造です。手首には骨や腱が多く、動脈をカフで十分に押さえきれないことがあります。血管を完全に圧迫できないと、測定値が実際とずれる原因になります。これらを理由に、ガイドラインは手首式は簡便だがしばしば不正確な測定値になるとして、現時点では上腕式を用いるとしています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(JSH2025))。
研究のうえでも、同じ方向の結果が報告されています。家庭血圧測定が血圧に及ぼす効果を調べたランダム化比較試験のメタ解析(65論文・約2万1,000人)では、家庭血圧測定を取り入れたグループは通常の診療より、収縮期血圧が平均で約3.3mmHg、拡張期血圧が約1.6mmHg多く低下していました。ところが、手首式のカフを使った4つの試験をまとめて解析すると、収縮期血圧の低下との関連は認められなかったと報告されています。報告者らは、上腕式の機器を使う場合に効果が目立つと結論づけています(出典:Satoh Mら、Hypertens Res. 2025)。手首式を使った試験の数が少ないため断定はできませんが、「手首式なら同じ効果が得られる」とは言いにくいことを示す結果です。
手首式を選んでもよいのはどんなとき?
一方で、ガイドラインは手首式を一律に否定しているわけではありません。上腕が太くて短く、カフを巻いても十分に圧迫しにくい肥満の方については、手首式の使用も考慮してよいと述べられています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(JSH2025))。上腕式でカフの大きさが合わないまま測ると誤差が出るおそれがあるため、その場合の選択肢として手首式が位置づけられているということです。
また、手首式の機器の中にも、国際標準(ISO 81060-2)にもとづく精度検証を満たしたと報告されているものがあります(例:Mu Sら、Blood Press Monit. 2023)。ですから「手首式はすべてだめ」ではなく、「手首式は条件が難しく、使うなら検証結果を確認し、測定姿勢にも特に気をつける」と考えるのが現実的です。どうしても手首式を使う場合は、手首を心臓の高さに保ち、毎回同じ姿勢で測ることが大切です。迷う場合は、かかりつけの医師や看護師に、実際の機器を持ち込んで診察室の血圧と見比べてもらうと安心です。
購入前に確認したい4つのポイント
実際に血圧計を選ぶときは、次の点を確認してみてください。
- 上腕式かどうか:特別な事情がなければ、上腕にカフを巻くタイプを基本にします。
- 精度の検証結果があるか:AHAの科学的声明でも、血圧を正確に測るには検証され校正された機器の使用が欠かせないとされています。日本では、日本高血圧学会が公開する精度検定の一覧が参考になります。
- カフが腕の太さに合うか:説明書にある対応する腕周囲の範囲に、自分の上腕が入っているかを確認します。
- 気になる警告表示があるか:脈の乱れなどを知らせる機能があると、受診のきっかけになります。
精度の検証については、米国心臓協会(AHA)の科学的声明、Hypertension 2019も、家庭血圧測定は24時間自由行動下血圧測定(ABPM)が使えない、または負担が大きい場合の代替手段であり、どの方法を使うにせよ検証された機器が重要だと述べています。
カフの大きさについては注意点があります。市販の家庭用血圧計には、幅広い腕周囲に1本のカフで対応する「ワンサイズ」のワイドレンジカフが付属していることが多くあります。ところが、こうしたカフの精度を調べた系統的レビューでは、検証研究25件のうち、カフの対応範囲全体を評価していたのは2件のみで、腕周囲ごとに結果を示していたのも2件のみでした。報告者らは、ワイドレンジカフの精度を裏づける根拠は十分ではないと結論づけています(出典:Sprague E, Padwal RS、Blood Press Monit. 2018)。腕が特に細い、または太い方は、購入前に店頭や医療機関で、より適したサイズのカフが用意されているかを相談するとよいでしょう。
買ったあとに気をつけたいこと
せっかく良い機器を選んでも、測り方がばらばらでは数値の意味が薄れてしまいます。朝と晩の決まったタイミングで、原則2回ずつ測り、記録は1回ごとにすべて書き残します。ガイドラインは、測り方を医療者が患者さんに指導することを強く勧めており、受診の際には記録を持参するよう求めています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(JSH2025))。
また、測った数値に一喜一憂しすぎないことも大切です。1回ごとの値は、気温や緊張、直前の動作などで変わります。数日分の平均で見る習慣をつけると、不安が和らぎます。
こんなときは医療機関に相談を
JSH2025は、健康診断で140/90mmHg以上だった場合や、5日以上測った家庭血圧の平均が135/85mmHg以上だった場合には、医療機関への相談を勧めています。決められた条件を守って測っているのに毎日の値のばらつきが大きいときや、血圧計が脈の乱れなどの警告を表示するときも、受診の目安になります(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(JSH2025))。
強い頭痛や胸の痛み、手足のしびれや麻痺、ろれつが回らないといった症状がある場合は、血圧の数値にかかわらず、早めに医療機関や救急に連絡してください。
まとめ
- 家庭血圧計は、検証された上腕式のオシロメトリック機器を選ぶのが基本です。
- 手首式は、高さの補正や動脈の圧迫が難しく、不正確になりやすいとされています。腕が太く短くカフを巻きにくい場合は、手首式も選択肢になります。
- カフレス機器は、現時点では診断や治療の根拠として推奨されていません。
- 購入時は、精度の検証結果、カフが腕に合うか、警告表示の有無を確認しましょう。
- 朝と晩に原則2回ずつ、7日間(最低5日間)の平均で評価し、記録を受診時に持参しましょう。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
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研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- Ohya Y, et al. The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025). Hypertens Res. 2026;49(1):9-235.(日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」)
- Ohya Y, et al. Key highlights of the Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025). Hypertens Res. 2025.
- 日本高血圧学会 学術委員会「血圧計に関する日本高血圧学会からの情報(血圧計の試験結果に関する集計)」
- Satoh M, et al. Self-measurement of blood pressure at home using a cuff device for change in blood pressure levels: systematic review and meta-analysis. Hypertens Res. 2025;48(2):574-591.
- Sprague E, Padwal RS. Adequacy of validation of wide-range cuffs used with home blood pressure monitors: a systematic review. Blood Press Monit. 2018;23(5):219-224.
- Muntner P, et al. Measurement of Blood Pressure in Humans: A Scientific Statement From the American Heart Association. Hypertension. 2019;73(5):e35-e66.
- Mu S, et al. Validation of the U60EH Wrist Electronic Blood Pressure Monitor in general population according to the ISO 81060-2:2018/AMD 1:2020 Protocol. Blood Press Monit. 2023;28(5):280-283.



