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更年期に血圧が上がるのはなぜ?女性ホルモンの変化と受診の目安

2026 10/20
基礎医学
2026年10月20日

監修:鎌形 博展(医師・医療法人社団季邦会 理事長)

更年期に血圧が上がるのはなぜ?女性ホルモンの変化と受診の目安

45歳を過ぎた頃から、健康診断で「血圧が少し高め」と言われるようになった。ほてりや動悸があって病院で測ったら、血圧も高かった。更年期にさしかかった女性から、こうした声を聞くことは少なくありません。それまで血圧を指摘されたことがなかった方ほど、「なぜ急に?」と戸惑われるようです。

この記事では、更年期の前後で血圧が上がりやすくなる理由を、女性ホルモンの変化を中心に整理します。あわせて、更年期の症状と高血圧のサインが見分けにくい理由、家庭血圧での確かめ方、ホルモン補充療法(HRT)と血圧の関係、受診の目安までをまとめます。血圧管理全体の考え方は、日本高血圧学会の最新版である「高血圧管理・治療ガイドライン2025」に沿って説明します。

目次

更年期とは?閉経の前後で体に起きていること

更年期とは、月経が永久に止まる「閉経」を境に、その前後5年間ほどの時期を指します。日本人女性の平均的な閉経年齢はおよそ50歳とされており、多くの方が40代半ばから50代半ばにかけて更年期を迎えます(慶應義塾大学病院 KOMPAS「更年期症状・更年期障害」)。

この時期には、卵巣から分泌されるエストロゲン(女性ホルモン)が大きく減っていきます。ほてり、発汗、冷え、動悸、不眠、頭痛、気分の落ち込みなど、さまざまな症状が現れることがあり、これらが日常生活に支障をきたす状態は「更年期障害」と呼ばれます。症状の出方には大きな個人差があり、ほとんど自覚のない方もいれば、つらさで仕事や家事に影響が出る方もいます。

ここで押さえておきたいのは、エストロゲンは月経や妊娠だけでなく、血管や自律神経、代謝にも関わっているホルモンだということです。閉経に向かってその量が減ると、目に見えにくいところで血圧を保つしくみにも変化が生じます。

閉経後は高血圧が増える?研究からわかっていること

一般に、女性は男性より若い年代で血圧が低めに保たれやすく、閉経後に血圧が上がってくることが知られています。2024年に発表された女性の高血圧に関する総説では、閉経を境に高血圧になるリスクがおよそ2倍になり、閉経後の女性では最大で約41%が高血圧を発症するとまとめられています(Gnanenthiran ら,Current Heart Failure Reports,2024)。

また、閉経前後の女性のデータを紹介した別の論文では、治療を受けていない高血圧(収縮期または拡張期)の割合が、40代の女性では約5%だったのに対し、50代以上の閉経後の女性では約11〜12%と、2倍以上に増えていたと報告されています(Kim ら,Journal of Menopausal Medicine,2014)。ただし、これらは海外を含む研究をまとめたものであり、国や年代、調査方法によって数字は変わります。「更年期を迎えたら必ず血圧が上がる」という意味ではなく、「上がりやすくなる時期である」と受け止めておくのが適切です。

なお、年齢を重ねること自体も血圧を上げる大きな要因です。閉経の影響と加齢の影響を完全に切り分けるのは難しく、研究者の間でも議論が続いています。年齢と血圧の関係については、高血圧と年齢の関係でも詳しく解説しています。

女性ホルモンの低下が血圧に影響する4つのしくみ

閉経後に血圧が上がりやすくなる理由は、ひとつではありません。前述の総説や関連研究では、いくつかの要因が重なって働くと考えられています。

まず血管への影響です。エストロゲンには、血管の内側の細胞から一酸化窒素(NO)が作られるのを助け、血管をしなやかに広げる働きがあるとされています。エストロゲンが減ると、この働きが弱まり、血管が硬くなりやすく、血流に対する抵抗が高まります。加齢による動脈の硬さも加わることで、血圧が上がる方向に傾きます。

次に自律神経です。エストロゲンは、体を休ませる副交感神経(迷走神経)の働きを支え、緊張状態をつくる交感神経が優位になりすぎるのを抑える役割も担っています。閉経後の女性では、心拍のゆらぎ(心拍変動)が小さくなり、交感神経の緊張が高まりやすいことが報告されています。ほてりや動悸、寝つきの悪さといった更年期の症状と、血圧の上がりやすさが、自律神経という共通の土台でつながっているとも考えられます。

三つ目は、体内の水分と塩分を調整するしくみです。血圧は、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系と呼ばれるホルモンのしくみによって、体内の塩分と水分の量を通じて調整されています。閉経後の女性では血漿レニン活性が高まり、血管が収縮しやすく、塩分を体にため込みやすい状態になることが示されています。さらに、閉経後の女性では塩分の影響を受けやすい「食塩感受性」が高まる可能性も指摘されています。前述のKimらの論文では、閉経後の高血圧の女性12人のうち8人(約67%)が食塩感受性を示したのに対し、血圧が正常な女性では7人中1人(約14%)だったと紹介されています。対象者の数が非常に少ない小規模な検討であるため、数字そのものを一般化することはできませんが、「塩分の影響が出やすくなる方向に変わる」という傾向を示す一例といえます。

四つ目は体重や代謝の変化です。閉経の前後は、お腹まわりに脂肪がつきやすくなり、コレステロールや血糖値の変化、インスリンが効きにくくなる状態(インスリン抵抗性)が現れやすい時期でもあります。内臓脂肪の増加は血圧を上げる要因の一つです。体重と血圧の関係は肥満と高血圧の記事でも解説しています。

更年期の症状と高血圧のサインは見分けにくい

更年期に多い「ほてり」「のぼせ」「動悸」「頭痛」「肩こり」「めまい」といった症状は、血圧が高いときにも起こりうる症状です。逆に、血圧が高くても、多くの場合は自覚症状がありません。そのため、症状の有無だけで「更年期のせい」「血圧のせい」と判断することはできません。「更年期だから仕方がない」と我慢しているうちに、血圧の高い状態が長く続いてしまうことがあるのです。

もう一つ注意したいのは、動悸や発汗、血圧の乱れの背景に、更年期以外の病気が隠れている場合があることです。たとえば甲状腺の病気(甲状腺機能亢進症と高血圧)や、副腎の病気による二次性高血圧(本態性高血圧と二次性高血圧の違い)などは、動悸・発汗・血圧の変動といった似た症状を伴うことがあります。「更年期だろう」と決めつけず、血圧を測って数字で確認し、必要に応じて医療機関で相談することが大切です。

家庭血圧で確かめる:測り方のポイント

更年期の血圧の変化をつかむには、家庭での血圧測定が役に立ちます。診察室では緊張して高く出る人もいれば、家庭でだけ高い人もいるため、日常の血圧を知る手がかりになります(家庭血圧と心血管リスクの関係)。日本高血圧学会のガイドライン2025では、診察室血圧で130/80mmHg未満、家庭血圧で125/75mmHg未満が目標の目安として示されています(ケアネット「全年齢で130/80mmHg未満を目標に、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊」)。測り方の基本は次のとおりです。詳しい手順は血圧の正しい測り方をご覧ください。

  1. 椅子に座り、背もたれに背中をつけて、1〜2分ほど落ち着いてから測る
  2. カフ(腕に巻く部分)の高さが心臓と同じになるようにして、腕の力を抜く
  3. 毎日なるべく同じ時間帯に測り、数値を手帳やアプリに記録する
  4. ほてりや動悸などの症状があるときは、いつ・どんな症状があったかも一緒に書いておく

症状と血圧の数値を並べて記録しておくと、受診したときに「症状のあるときに本当に血圧が高いのか」「普段から高めなのか」を医師が判断しやすくなります。

生活の中で見直したいこと

更年期に血圧が上がりやすくなるとはいえ、日々の生活で整えられる部分もあります。まず塩分です。食塩感受性が高まる可能性があることを考えると、汁物や漬物、加工食品の塩分を意識して控えめにすることは、この時期の血圧管理の基本になります。具体的な減塩の進め方は高血圧の食事と減塩のコツで紹介しています。

次に体重管理です。閉経前後はお腹まわりに脂肪がつきやすいため、食事の量と質、運動習慣を見直すことが役立ちます。急に激しい運動を始める必要はなく、ウォーキングのような無理のない有酸素運動を続けるだけでも意味があります。

そして睡眠です。更年期には、ほてりや発汗で夜中に目が覚めたり、寝つきが悪くなったりしやすくなります。睡眠不足や睡眠の質の低下は血圧に影響することが知られており(睡眠と高血圧の関係)、つらい症状が続くときは、我慢せず婦人科などに相談することも選択肢になります。

ホルモン補充療法(HRT)と血圧の関係

更年期の治療として、減少したエストロゲンを補う「ホルモン補充療法(HRT)」があります。ほてりなどの症状の緩和や骨折の予防などが期待できる一方で、5年以上の長期使用では乳がんのリスクが高まることが報告されており、定期的な乳腺の検査が勧められています(慶應義塾大学病院 KOMPAS)。

では、HRTは血圧にどう影響するのでしょうか。先ほどのKimらの論文では、エストロゲンを皮膚から吸収させる貼り薬(経皮)を6か月使った場合に、夜間の収縮期血圧が約4mmHg下がったと紹介される一方、飲み薬では血圧への影響は中立的であったとされています。ただし、これは小規模な検討を含めた紹介であり、HRTはあくまで更年期症状などを和らげる治療として位置づけられるもので、血圧を下げるための治療として使われるものではありません。高血圧がある方がHRTを検討する場合は、必ず婦人科の医師に血圧の状況を伝え、使う薬の種類や方法を相談してください。

血圧が高いと言われたら:薬による治療について

生活習慣の見直しを行っても血圧が下がらない場合は、降圧薬による治療を検討します。女性の高血圧の総説では、主な降圧薬の種類(ACE阻害薬、ARB、カルシウム拮抗薬、利尿薬など)で、男女とも血圧を下げる効果は概ね同程度とまとめられています。一方で、これまでの血圧の臨床試験では女性の参加者が全体の25〜30%程度にとどまっており、女性特有の病態に合わせた治療指針はまだ十分に整っていないことも指摘されています(Gnanenthiran ら,2024)。

日本高血圧学会のガイドライン2025では、年齢にかかわらず診察室血圧130/80mmHg未満を目標としつつ、個々の状態に配慮して下げていくことが示されています。どの薬をいつから使うかは、年齢、他の病気、症状の出方によって変わります。自己判断で薬を始めたり、やめたりせず、医師と相談しながら進めてください。

こんなときは受診を検討しましょう

次のような場合は、更年期の症状と決めつけず、内科などで血圧を確認することをおすすめします。

  • 家庭で測った血圧が、複数回続けて目標の目安(家庭血圧125/75mmHg)を超えている
  • 健康診断で血圧の高さを指摘されたことがある、または血圧が年々上がってきている
  • ほてり・動悸・頭痛などの症状が続き、日常生活に支障がある
  • 血圧が急に大きく上がる、または激しい頭痛・胸の痛み・息苦しさ・手足の麻痺やしびれ・ろれつが回らない、といった症状を伴う(この場合は、すぐに救急受診を検討してください)

特に最後の項目にあたる症状は、緊急性の高い状態のサインである可能性があります。迷ったときは、早めに医療機関に相談してください。

まとめ

  • 更年期は、閉経の前後5年ほどの時期で、女性ホルモン(エストロゲン)が大きく減る
  • 閉経後は高血圧になるリスクが高まると報告されており、血管・自律神経・塩分の調整・体重の変化などが関わると考えられている
  • ほてりや動悸などの症状は高血圧のサインと区別しにくいため、家庭で血圧を測って確かめることが大切
  • 減塩・体重管理・睡眠などの生活習慣の見直しが基本。HRTは血圧を下げる治療ではなく、使用は婦人科医と相談する
  • 血圧が高い状態が続くときや、強い症状を伴うときは早めに受診する

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SUPERVISOR

この記事の監修者

鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長

救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。

専門科目

救急・地域医療

所属・資格

  • 日本救急医学会
  • 日本災害医学会所属
  • 社会医学系専門医指導医
  • 日本医師会認定健康スポーツ医
  • 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
  • ICLSプロバイダー(救命救急対応)
  • ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
  • Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
  • FCCSプロバイダー(集中治療対応)
  • MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)

研究実績

  • 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
  • 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016

メディア出演

  • フジテレビ 『イット』『めざまし8』
  • 共同通信
  • メディカルジャパン など多数

SNS・関連リンク

  • YouTube Dr.鎌形の正しい医療ナビ
  • X(Twitter)
  • 株式会社EN
  • 医療法人社団季邦会

参考文献

  • 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」
  • ケアネット「全年齢で130/80mmHg未満を目標に、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊/日本高血圧学会」
  • Gnanenthiran SR, et al. The Pathophysiology, Prognosis and Treatment of Hypertension in Females from Pregnancy to Post-menopause: A Review. Curr Heart Fail Rep. 2024
  • Kim HM, et al. Postmenopausal Hypertension and Sodium Sensitivity. J Menopausal Med. 2014;20(1):1-6
  • 慶應義塾大学病院 KOMPAS「更年期症状・更年期障害」
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血圧の学校編集部は、医師・医学生・看護師・臨床工学技士・理学療法士・医療事務によって構成されています。日本高血圧学会のガイドラインや国内外の論文をもとに、血圧と上手に付き合うための情報をわかりやすくお届けします。すべての記事は鎌形博展医師(株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長)の監修のもとに制作しています。

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