「若い頃は血圧が低いほうだったのに、健康診断で高血圧と言われた」という方は少なくありません。これは特別な体質の変化というより、加齢に伴って多くの人に起こりうる自然な変化です。なぜ血圧は歳を重ねると上がりやすくなるのか、そして何に注意すればよいのかを整理します。
若い頃の血圧が低かった人ほど安心、とは限らない
血圧は一生を通じて一定というわけではなく、年齢とともに変化していきます。日本高血圧学会のガイドライン(JSH2025)でも、この考え方は明確に反映されており、2019年版までは年齢や合併症によって降圧目標が異なっていたものが、2025年の改訂で、原則としてすべての年齢層で診察室血圧130/80mmHg未満を目指す方向に統一されました(出典:日本高血圧学会「Key highlights of the Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025(JSH2025)」Hypertension Research誌)。これは、若いころの血圧が低めだった人も含め、誰にとっても加齢に伴う血圧上昇が起こりうるという前提に立った変更といえます。
血圧が年齢とともに上がっていく仕組み
血圧が加齢とともに上がりやすくなる背景には、血管の変化があります。血管の壁は加齢とともに弾力を失い、硬くなっていきます(動脈硬化)。若いころは血管がしなやかにふくらむことで圧力を吸収できていたのが、血管が硬くなると同じ心拍出量でもより強い圧力がかかるようになり、特に上の血圧(収縮期血圧)が上がりやすくなります。日本高血圧学会の学会誌に掲載された30年間の追跡調査では、6歳から45歳までの血圧の変化パターンを分析し、若い時期から血圧が上昇し続けているグループでは、中年期になった時点で頸動脈の動脈硬化や心臓の肥大、腎機能の低下といった臓器への影響が、血圧が低いまま安定していたグループより高い頻度でみられたと報告されています(出典:日本高血圧学会「Associations of blood pressure trajectories in early life with target organ damage in midlife: a 30-year cohort study」Hypertension Research誌)。
低血圧そのものは治療の対象になりにくい
一方で、低血圧そのものは、めまいや立ちくらみなどの症状がなければ、必ずしも治療が必要な状態ではありません。とくに立ち上がったときに収縮期血圧が20mmHg以上下がる「起立性低血圧」は自律神経の働きと関係しており、症状がある場合には原因を調べたほうがよいこともありますが、症状のない軽度の低血圧を心配しすぎる必要はないとされています。
血圧の変化に気づくためにできること
若いころに血圧が低かったかどうかにかかわらず、年に1回程度は血圧を測る習慣を持ち、変化に早めに気づけるようにしておくことが大切です。
- 健康診断のたびに血圧の数値を記録し、経年変化を見る
- 家庭血圧の正しい測り方で、普段の血圧も定期的に確認する
- 塩分の摂りすぎ、運動不足、体重増加など、血圧を押し上げる生活習慣を見直す
- 数年単位で数値が上がってきていると感じたら、自己判断せず医師に相談する
まとめ
血圧は加齢とともに変化するものであり、若いころに低血圧だった人が将来も高血圧と無縁でいられるとは限りません。生活習慣の見直しを意識しながら、定期的な血圧測定で自分自身の変化を把握していくことが、将来の血圧管理につながります。
若いうちの血圧が将来を左右する理由
前述の追跡調査が示すように、血圧は「今の数値」だけでなく「これまでどう推移してきたか」という軌跡そのものが、将来の臓器への影響を左右します。20〜30歳代のうちは多少血圧が高めでも自覚症状がなく、健診で指摘されても様子を見てしまいがちですが、その時期からの緩やかな血圧上昇が、中年期以降の血管や心臓、腎臓への負担として積み重なっていきます。若い頃に血圧が低かったことは、将来にわたって血圧が上がらないことを保証するものではなく、むしろ「その後どう変化していくか」を継続的に見ていく視点が重要です。
加齢による血圧上昇とどう向き合うか
加齢に伴う血圧上昇は、誰にでも起こりうる自然な変化である一方、生活習慣によってその上昇のスピードを緩やかにできることも分かっています。
- 定期的に家庭血圧を測り、年単位での推移を記録する
- 減塩や適度な運動を若いうちから習慣にする
- 健診で「正常高値血圧」「高値血圧」を指摘されたら、様子見にせず生活習慣を見直す
- 家族に高血圧の人が多い場合は、特に早めの対策を意識する
「歳をとれば血圧が上がるのは仕方ない」と諦めるのではなく、上昇のペースを緩やかにする、あるいは早めに対処するという考え方で向き合うことが、将来の合併症リスクを減らすことにつながります。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
