高血圧と診断されたあと、あるいは降圧薬を飲み始めたあとに、性生活の変化に気づく男性がいらっしゃいます。ただ、診察室では切り出しにくく、「年のせいだろう」「薬のせいかもしれない」と一人で悩まれている方も少なくありません。
勃起不全(ED)は、単なるプライベートな悩みではなく、血圧や血管の状態を映し出すサインのひとつとして医学的にも注目されています。一方で、「血圧の薬を飲むとEDになる」「ED治療薬は高血圧の人には使えない」といった思い込みも根強く、正しい知識がないまま自己判断で服薬をやめてしまうと、かえって脳卒中や心臓病のリスクを高めてしまいます。
この記事では、高血圧とEDがなぜ結びつくのか、降圧薬との関係はどう整理されているのか、ED治療薬を使うときに高血圧の方が気をつけたい点、そして受診の目安について、日本高血圧学会(JSH)のガイドラインと一次文献をもとに解説します。
勃起不全(ED)とは?血圧とどうつながるのか
EDとは、満足のいく性行為を行うのに十分な勃起が得られない、あるいは維持できない状態が続くことをいいます。一度うまくいかなかっただけでは該当せず、疲れや緊張で一時的に起こることは誰にでもあります。気になるのは、そうした状態が繰り返されて続く場合です。
勃起は、性的な刺激をきっかけに陰茎の動脈が広がって血液が流れ込み、海綿体と呼ばれる組織が血液で満たされることで起こります。ED治療薬の患者向け説明でも、陰茎の海綿体の平滑筋をゆるめて血液量を増やすことで勃起を起こし、維持する薬であると説明されています(出典:PMDA「患者向医薬品ガイド」バイアグラ錠)。つまり勃起は、血管がしなやかに広がり、十分な血液が流れ込めることに支えられた現象です。
高血圧の状態が長く続くと、血管の壁には常に強い圧力がかかり、内側の細胞が傷みやすくなって、血管の広がりやすさが損なわれていきます。これは脳や心臓、腎臓の血管で起こる変化と同じ性質のもので、動脈硬化と高血圧の関係として知られています。陰茎の血管もこうした全身の血管の一部であるため、血管の状態の変化が勃起のしにくさとして現れることがあると考えられています。
研究からわかっている高血圧とEDの関係
高血圧の人ではEDが多い
高血圧とEDの関連は、以前から多くの研究で報告されてきました。2006年に発表された総説では、高血圧の人におけるEDの有病率は50歳で約30%、70歳を超えると50%以上に達し、血圧が正常な人の同年代と比べておよそ2倍にのぼると整理されています(出典:Gidaro B et al. 「Hypertension and Erectile Dysfunction」 High Blood Press Cardiovasc Prev, 2006)。年齢とともに増えること自体は高血圧の有無を問いませんが、高血圧があるとさらに頻度が高くなる、というのがこの報告の要点です。
もうひとつ重要なのは、同じ総説が「降圧薬を飲んでいる人も飲んでいない人も、EDの頻度は同程度である」と指摘している点です。これは、EDの背景には薬よりも高血圧という病気そのもの、つまり血管の状態があることを示唆しています。薬を飲み始めた時期とたまたま重なって気づく方が多いため、「薬のせい」と考えられがちですが、実際にはそう単純ではありません。
遺伝情報を使った解析でも関連が示された
高血圧が本当にEDの原因になっているのかを調べるのは簡単ではありません。年齢や肥満、糖尿病、喫煙など、両方に影響する要因が多いためです。そこで近年は、遺伝的な体質の違いを利用して原因と結果の関係を推定する「メンデルランダム化解析」という方法が使われています。
2023年に発表された解析では、遺伝的に高血圧になりやすいことがEDのリスクを高めることが、2つの異なるデータベースで示されました。一方で、収縮期血圧や拡張期血圧の数値だけでは明確な因果関係は示されず、研究者らは血圧の高さとEDリスクの関係が単純な直線ではない可能性を指摘しています(出典:Zhao C et al. Front Cardiovasc Med, 2023)。この研究は欧州系の集団を対象としており、そのまま日本人に当てはまるとは限らないことも踏まえておく必要があります。
同じ論文では、欧州の調査でEDの有病率が年齢層によって6〜64%と大きく幅があり、年齢とともに増えることも紹介されています。EDは決して珍しいものではなく、年齢を重ねるほど多くの方が経験しうる状態だといえます。
EDは心臓や血管の病気の「サイン」になりうる
EDが注目される大きな理由は、心臓病や脳卒中などの前触れとなる可能性があるためです。心血管疾患とEDに関する専門家の合意文書「プリンストンIV・コンセンサス」では、EDは心血管疾患の「リスクマーカー」であると位置づけられています。解説記事によれば、米国の大規模研究(MESA)で、EDは心血管イベントのほぼ2倍の増加(ハザード比1.9、95%信頼区間1.1〜3.4)と独立して関連しており、EDが臨床的に明らかな心血管疾患に数年先行して現れることがあるとされています(出典:米国心臓病学会(ACC)「Erectile Dysfunction as an ASCVD Risk-Enhancing Factor」)。
ここで誤解のないようにお伝えしておくと、「EDがある=心臓病になる」という意味ではありません。リスクマーカーとは、「その人の将来のリスクを見積もるうえでひとつの手がかりになる」という意味です。それでも、血圧が高めの方にEDの症状が出てきた場合は、勃起の問題として切り分けるのではなく、血圧や血管の状態を一度全体として確認する良い機会になります。
特に、すでに高血圧を指摘されている方では、血圧の管理状況、コレステロールや血糖値、喫煙や睡眠の状態などをあわせて見直すことで、EDの背景にある要因が見つかることがあります。糖尿病を合併している場合は高血圧と糖尿病の関係も確認しておきたいところですし、いびきや日中の眠気がある方は睡眠時無呼吸症候群と高血圧の可能性も頭に置いておくとよいでしょう。
降圧薬はEDの原因になる?
「血圧の薬を飲むと性機能が落ちる」という話を聞いたことがあるかもしれません。結論からいうと、降圧薬の種類によって影響の出方は異なり、研究によって結果も分かれています。
前述の2006年の総説では、利尿薬や交感神経を抑える作用のある薬は、一部の人でEDを悪化させる可能性があること、いっぽうでカルシウム拮抗薬やレニン・アンジオテンシン系を抑える薬(ARBやACE阻害薬)はEDに対して中立であり、ARBでは改善する可能性を示唆する報告もあることが述べられています。ただしこれは当時の整理であり、すべての人に当てはまるわけではありません。
さらに、先ほどの2023年のメンデルランダム化解析では、ACE阻害薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、サイアザイド系利尿薬のいずれについても、使用がEDのリスクを高めるという証拠は見いだされませんでした。このように、薬が影響する可能性と影響しないという結果の両方が報告されており、現時点では「薬の種類や個人差による」と受け止めるのが適切です。
大切なのは、気になる症状があっても自己判断で降圧薬を中止したり減らしたりしないことです。血圧が高い状態に戻ると、EDだけでなく脳卒中や心臓病のリスクがむしろ高まります。薬をやめてよいかどうかの考え方は降圧薬はやめられる?で詳しく解説していますが、まずは主治医に症状を伝えてください。薬の種類や量の見直しで対応できることもありますし、降圧薬の種類ごとの特徴は降圧薬の種類と選び方でも整理しています。
ED治療薬を使う前に高血圧の人が知っておきたいこと
EDの治療には、PDE5阻害薬と呼ばれる飲み薬が広く使われています。高血圧があるからといって一律に使えないわけではありませんが、安全のためにいくつか守るべき点があります。ここでは、国内で承認されているシルデナフィル製剤(バイアグラ)の添付文書に基づいて、基本的な注意点を整理します。
最も重要なのは、硝酸剤との併用です。添付文書の警告と禁忌には、ニトログリセリン、亜硝酸アミル、硝酸イソソルビド、ニコランジルなどの硝酸剤や一酸化窒素(NO)供与剤を使用中の患者には投与してはならず、併用すると降圧作用が強まって血圧が過度に下がることがあると明記されています(出典:バイアグラ錠 添付文書(JAPIC))。狭心症などで硝酸剤を処方されている方は、特に注意が必要です。
血圧そのものについても基準があります。同じ添付文書では、低血圧の方(血圧90/50 mmHg未満)と、治療による管理がなされていない高血圧の方(安静時の収縮期血圧が170 mmHgを超える、または拡張期血圧が100 mmHgを超える)が禁忌とされています。つまり、血圧が高いまま放置している状態では使えず、まず降圧治療で血圧を安定させることが先になります。
また、これらの薬は医師の処方箋により使用するものです。他の薬を使っている場合や新たに使い始める場合は、必ず医師または薬剤師に相談するよう患者向けの説明にも書かれています(出典:PMDA「患者向医薬品ガイド」)。EDの治療を考えるときは、現在服用中の薬をすべて伝えたうえで、処方する医師と相談してください。心血管疾患の専門家の合意文書でも、PDE5阻害薬は硝酸薬を定期的に使用している人には使うべきでないとされています(出典:ACC解説記事)。
日常生活で意識したいこと
EDの背景に血管の状態があるとすれば、血圧を適切にコントロールし、血管への負担を減らす取り組みそのものが基本になります。日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、診察室で140/90 mmHg以上、家庭で135/85 mmHg以上を高血圧とし、治療の血圧管理を進めるうえで家庭血圧の測定を重視しています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」Hypertens Res 2026)。自宅での測り方は血圧の正しい測り方で詳しく紹介しています。
減塩、適度な運動、節酒、禁煙、体重の管理といった生活習慣の見直しは、降圧治療の土台です。それぞれ減塩の進め方、有酸素運動と血圧、喫煙と高血圧の記事で取り上げています。これらがEDそのものをどの程度改善するかは、今回確認した文献の範囲では断定できませんが、血圧と血管の健康を守る取り組みとして、続ける価値は十分にあります。
また、EDの相談がしづらいと感じる方も多いかと思いますが、血圧手帳や家庭血圧の記録を持参して、「最近こういう変化がある」と一言添えるだけでも、医師は全体像をつかみやすくなります。医療者にとって、こうした相談は決して特別なものではありません。
こんなときは医療機関に相談を
次のような場合は、早めに医療機関で相談することをおすすめします。
- 以前と比べて勃起しにくい、または維持しにくい状態が続いている
- 降圧薬を始めた時期や薬を変えた時期と重なって症状が出てきた
- 胸の痛み、息切れ、動悸、足のむくみなどを伴っている
- いびきや日中の強い眠気がある
- 血圧が高いと言われているのに、治療や血圧測定をしていない
相談先は、血圧を診てもらっているかかりつけの内科が最初の窓口として適しています。血圧、血糖、コレステロールなどをまとめて確認でき、必要に応じて泌尿器科や循環器科へつなぐこともできます。胸の痛みなどの症状が急に出た場合は、様子を見ずに救急受診を検討してください。
まとめ
- EDは血管の状態を映すサインのひとつで、高血圧の人は血圧が正常な人より頻度が高いと報告されている
- EDは心血管疾患のリスクマーカーとされ、数年先行して現れることもあるが、EDがあれば必ず心臓病になるわけではない
- 降圧薬の影響は薬の種類や個人差で異なり、研究結果も分かれている。自己判断で中止せず、主治医に相談する
- ED治療薬(PDE5阻害薬)は硝酸剤との併用が禁忌で、治療されていない高血圧の方にも使えない。必ず医師の処方のもとで使う
- 気になる変化があれば、血圧の記録を持ってかかりつけ医に相談する
EDは話しにくい症状ですが、血圧や血管の状態を見直すきっかけにもなります。一人で抱え込まず、早めに専門家に相談してみてください。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- Ohya Y, et al. 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」Hypertens Res 2026;49:9-235
- Gidaro B, et al. 「Hypertension and Erectile Dysfunction」 High Blood Press Cardiovasc Prev 2006
- Zhao C, et al. 「Genetically predicted hypertension, antihypertensive drugs, and risk of erectile dysfunction: a Mendelian randomization study」 Front Cardiovasc Med 2023
- American College of Cardiology「Erectile Dysfunction as an ASCVD Risk-Enhancing Factor: Highlights From the Princeton IV Consensus Guidelines」2024
- バイアグラ錠 添付文書(JAPIC 医療用医薬品情報)
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「患者向医薬品ガイド バイアグラ錠」



