糖尿病と高血圧は、どちらも自覚症状の乏しい生活習慣病でありながら、実際には非常に高い頻度で合併します。片方だけを見ていては見えてこない、この2つの病気の関係と、両方を同時に管理していくうえでのポイントを整理します。
糖尿病と高血圧はなぜセットで起こりやすいのか
糖尿病患者における高血圧の合併率は、糖尿病のない人と比べておよそ2倍とされ、逆に高血圧患者における糖尿病の合併率も高いことが、国内外の疫学研究で報告されています(出典:福井智康「エビデンスに基づく糖尿病患者の高血圧管理」昭和医学会雑誌70巻1号(2010))。背景には、肥満や運動不足、食塩・糖質の多い食生活といった共通のリスク要因があるほか、糖尿病の中心的な病態であるインスリン抵抗性そのものが、血圧を上げる方向にも働くという生理学的なつながりがあります。片方の生活習慣病を指摘された人は、もう片方についても注意しておく必要があるということです。
インスリン抵抗性が血圧を押し上げる仕組み
インスリン抵抗性とは、インスリンの働きが弱まり、血糖値を下げにくくなった状態を指します。この状態が続くと、体はより多くのインスリンを分泌して血糖値を保とうとしますが、過剰なインスリンには腎臓でのナトリウム再吸収を促す作用や、交感神経を刺激する作用があり、結果として血圧を上昇させる方向に働きます。また、インスリン抵抗性は血管の内側を覆う内皮細胞の働きにも影響し、血管を広げる物質の産生が低下することで、血管が収縮しやすい状態になることも指摘されています。動脈硬化と高血圧の関係で解説している血管の変化は、糖尿病がある場合にはより進みやすい状態にあるといえます。
両方が合併すると何が起こるのか
糖尿病による高血糖と、高血圧による血管への負担は、それぞれ単独でも動脈硬化を進める要因ですが、両方が重なるとその影響は掛け算的に大きくなるとされています。血管が傷みやすくなることで、心筋梗塞や脳卒中といった大血管の合併症のリスクが高まるほか、腎臓の細い血管にもダメージが蓄積し、糖尿病性腎症と高血圧性の腎障害が重なって腎機能が急速に悪化することがあります。日本人の2型糖尿病患者を対象にした調査では、心血管・腎臓に関わる合併症の中でも心不全の発症頻度が高いことが報告されており、糖尿病と高血圧の合併は、脳や心臓の血管だけでなく、心臓そのもののポンプ機能にも影響を及ぼしうることがうかがえます。また、目の網膜の血管も影響を受けやすく、拡張期血圧が10〜40mmHg程度上昇すると、糖尿病網膜症の発症リスクが大きく高まることを示した疫学研究も複数報告されています。網膜症は自覚症状がないまま進行し、気づいたときには視力に影響が出ていることも少なくないため、定期的な眼底検査が重要とされています。糖尿病だけ、高血圧だけを気にするのではなく、両方を同時にコントロールする視点が欠かせない理由はここにあります。
糖尿病がある人の薬の選び方も見直されている
糖尿病を合併する高血圧の治療では、これまで腎臓を保護する効果を期待してARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)やACE阻害薬を優先的に使う考え方が広く採用されてきました。しかし、2025年に改訂されたガイドライン(JSH2025)では、尿にたんぱく(アルブミン)が出ていない糖尿病患者に限っては、これらの薬を優先する根拠が以前ほど強くないとする研究結果を踏まえ、優先的な推奨が見直されています(出典:日本高血圧学会「Key highlights of the Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025(JSH2025)」Hypertension Research誌)。どの薬が絶対的に優れているというより、腎機能や尿たんぱくの有無など、一人ひとりの状態に応じて薬を選ぶ個別化の考え方が、ガイドラインのレベルでも重視されるようになっています。降圧薬の種類そのものについては降圧剤の種類と効果で詳しく解説しています。
糖尿病がある人の血圧には特有のパターンがある
健康な人であれば、夜間は日中に比べて血圧が下がるのが自然な変化ですが、糖尿病があると、この夜間の血圧低下が乏しくなる、あるいは逆に夜間のほうが血圧が高くなることがあります。これは、糖尿病による自律神経の障害(神経障害)が血圧の日内リズムを乱すことが一因と考えられています。夜間に血圧が十分に下がらない状態が続くと、心臓や血管が休む時間を確保できないまま働き続けることになり、心血管疾患のリスクをさらに高める要因になるとされています。診察室で測る血圧だけでは、こうした夜間の変化に気づくことができないため、家庭血圧に加えて、医師の判断で24時間血圧計を使った評価が検討されることもあります。
腎臓を守るための血圧管理
糖尿病性腎症は、糖尿病の代表的な合併症の一つであり、進行すると人工透析が必要になることもあります。腎臓は血圧の影響を強く受ける臓器であり、高血圧が腎症の進行を早める一方で、腎機能が低下するとさらに血圧が上がりやすくなるという悪循環が生まれます。JSH2025でまとめられた研究では、慢性腎臓病のある患者において、より厳格な血圧管理(診察室血圧130/80mmHg未満)を行うことが、全死亡リスクの低下につながる傾向が示されています。ただし、血圧を下げすぎることで急性腎障害などの副作用が増える可能性もあるため、腎機能の状態を見ながら、主治医とともに個々人に合った降圧のペースを決めていくことが重要です。
血圧と血糖値を同時にコントロールする生活習慣
食事や運動といった生活習慣の改善は、血圧にも血糖値にも共通して良い影響を与えます。減塩を意識した食事は血圧だけでなく、血糖値の急上昇を抑える食べ方(野菜を先に食べる、精製された糖質を控えるなど)とあわせて実践しやすく、内臓脂肪の減少にもつながります。有酸素運動は血圧を下げる効果に加えて、筋肉での糖の取り込みを促してインスリンの働きを助ける効果も期待できます。減量は、血圧と血糖値の両方に対して比較的短期間で効果が表れやすい生活習慣改善の一つとされています。高血圧と肥満の関係でも触れているように、体重の3〜5%程度の減量でも血圧や血糖値の改善が期待できるとされ、極端な食事制限より、無理なく続けられるペースでの減量のほうが長期的な効果につながりやすいと考えられています。
肥満・メタボリックシンドロームとの関係
糖尿病と高血圧のどちらの背景にも、内臓脂肪の蓄積が深く関わっています。内臓脂肪が増えると、脂肪細胞から分泌される物質のバランスが崩れ、インスリンの働きが悪くなるだけでなく、血管を収縮させる物質の分泌が増えることも指摘されています。腹囲やBMIが基準値を超え、血圧・血糖値・脂質の複数が基準からはずれている状態は「メタボリックシンドローム」と呼ばれ、糖尿病と高血圧が同時に進行しやすい典型的な組み合わせといえます。健康診断でメタボリックシンドロームの該当・予備群と判定された場合は、血圧と血糖値の両方を意識した生活習慣の見直しを始める良いきっかけになります。
治療を続けるうえで気をつけたいこと
糖尿病と高血圧を両方治療している場合、飲む薬の種類が増えることで、飲み忘れや飲み間違いのリスクも高まります。
- 糖尿病の薬と降圧薬の服用タイミングを混同しないよう、お薬カレンダーなどで管理する
- 家庭血圧と血糖自己測定の記録をあわせて残し、通院時に医師と共有する
- 低血糖や血圧の下がりすぎ(立ちくらみなど)の症状が出たら自己判断で薬を止めず、速やかに相談する
- 定期的な眼科・腎機能の検査を、血圧・血糖のコントロール状況とあわせて受ける(合併症は自覚症状が出る前から進行することが多いため)
まとめ
糖尿病と高血圧は、共通のリスク要因を持ちながら、互いに悪影響を及ぼしあう関係にあります。片方だけを治療して満足するのではなく、両方の数値を同時に把握し、生活習慣の見直しと薬物治療を組み合わせて管理していくことが、心血管疾患や腎機能低下といった合併症を防ぐうえで重要です。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
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- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
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