「血圧の薬は、一度飲み始めたら一生やめられないのですか?」。これは外来でとても多く寄せられる質問の一つです。毎日薬を飲むことへの抵抗感、副作用への不安、通院や薬代の負担など、背景にある思いは人によってさまざまです。治療がうまくいって血圧が安定してくると、「もう飲まなくても大丈夫なのでは」と感じるのも自然なことでしょう。
結論からお伝えすると、降圧薬は「絶対に一生やめられない薬」ではありません。生活習慣の改善が進んだり、体の状態が変わったりして、薬を減らしたり中止したりできる人は実際にいます。一方で、多くの人にとって高血圧は長く付き合っていく体質であり、薬をやめたあとに血圧が再び上がってくることも少なくありません。大切なのは、減らせるかどうかを医師と一緒に、家庭血圧を確かめながら判断することです。この記事では、降圧薬を飲み続ける意味、減薬や中止が検討される状況、研究でわかっていること、そして自己判断で中断しないほうがよい理由を順に整理します。
降圧薬は「治す薬」ではなく「守る薬」
降圧薬の役割を理解するうえで大事なのは、薬そのものが高血圧を根本から治すわけではない、という点です。日本人の高血圧の大部分を占める本態性高血圧は、遺伝的な体質、塩分の多い食事、体重の増加、加齢による血管の硬さなど、複数の要因が重なって起こります。降圧薬は、血管を広げたり、体内の余分な塩分と水分を排出したりすることで、飲んでいる間の血圧を下げる働きをしますが、背景にある要因そのものを取り除くわけではありません。そのため、薬をやめると血圧は時間をかけて元の水準へ戻っていくのが一般的です。
それでも降圧薬を続ける理由は、血圧を下げること自体が将来の病気を防ぐからです。日本高血圧学会は、上の血圧(収縮期血圧)を10mmHg下げると脳卒中や心臓病が約2割減ること、そして血圧を下げる薬は安価・安全で効果があり、副作用よりも血圧を下げる利益のほうが大きいことがほとんどであることを、国民向けの提言として示しています(出典:日本高血圧学会「高血圧の10のファクト~国民の皆さんへ~」)。降圧薬は、血管や心臓、脳、腎臓を長い年月にわたって守るための「予防の薬」と考えると理解しやすいでしょう。
2025年に発行された最新の『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では、年齢にかかわらず、診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満を原則的な降圧目標としています。同時に、一律に下げるのではなく、副作用や有害事象に注意しながら一人ひとりの状況を考慮して下げることも強調されています(出典:ケアネット「全年齢で130/80mmHg未満を目標に、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊/日本高血圧学会」)。また、目標の血圧に達するために、多くの患者さんでは2種類以上の薬が必要であることも学会の提言に明記されています。薬の数が多いこと自体は、決して珍しいことではないのです。
薬を減らしたり、やめたりできるのはどんなとき?
では、どのような場合に減薬や中止が検討されるのでしょうか。大きく分けると、「血圧を押し上げていた原因が小さくなった場合」と、「薬が体にとって負担になっている場合」の二つがあります。どちらの場合も、判断の土台になるのは日々の家庭血圧の記録と、医師による全身の状態の評価です。
生活習慣の改善で血圧が下がった
もっとも前向きなケースは、生活習慣の改善によって血圧そのものが下がった場合です。減塩、減量、節酒、運動習慣は、いずれも血圧を下げることが確かめられている方法です。薬を飲みながらこうした取り組みを続けた結果、家庭血圧が目標よりも十分に低い値で安定するようになれば、薬の量を見直す余地が出てきます。生活習慣で取り組める工夫については、薬に頼らない血圧管理の方法の記事でも詳しく紹介しています。
体重や体調、季節による変化
大幅な減量に成功したときはもちろん、病気や手術、食欲の低下などで体重が落ちたときにも、以前と同じ量の薬では血圧が下がりすぎることがあります。また、夏は汗で体の水分と塩分が失われ、暑さで血管も広がりやすいため、一年のなかで血圧が下がりやすい季節です。立ちくらみやふらつきが出るようであれば、季節や体調に合わせて薬の量を調整することがあります。
高齢になり、副作用や飲み合わせが心配になった
年齢を重ねると、腎臓の働きの低下や、ほかの病気の薬が増えることによって、降圧薬の副作用が出やすくなることがあります。とくに立ち上がったときのめまいや転倒は、骨折や寝たきりにつながるおそれがあるため注意が必要です。ガイドライン2025でも、フレイル(加齢による心身の衰え)や要介護の状態にある高齢の方については、特別な配慮を要するケースとして個別の降圧の指針が示されています(出典:ケアネット「『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊」)。また、診察室でだけ血圧が高くなる「白衣高血圧」が隠れていて、実際の家庭血圧は低かったと後からわかることもあり、その場合も家庭血圧に基づいて治療を見直すことになります。
研究でわかっている「減薬」と「中止」の実際
降圧薬を減らしたりやめたりしたらどうなるのかについては、海外でいくつもの臨床研究が行われてきました。ここでは代表的な研究をいくつか紹介します。いずれも、医師が対象者を慎重に選び、血圧を定期的に確認しながら行われたものである点を念頭に置いて読んでください。
生活習慣の改善と組み合わせた中止の試み(TONE研究)
1990年代に米国で行われたTONE研究では、60〜80歳で、1種類の降圧薬(または利尿薬を含む1つの組み合わせ)によって血圧が安定していた975人を対象に、減塩や減量の指導を行ったうえで薬の中止を試みました。減塩の目標は1日のナトリウム摂取量1,800mg以下(食塩に換算すると約4.6g)、減量の目標は4.5kg以上とされました。
その結果、肥満のある参加者では、減量の指導を受けたグループの39%が、薬をやめてから30か月後まで、血圧の再上昇や薬の再開、心血管の病気を経験せずに過ごせたのに対し、減量の指導を受けなかったグループでは26%にとどまりました。減塩の指導でも同じ傾向がみられ(37.8%対24.4%)、生活習慣の改善が薬から離れられる可能性を高めることが示されました(出典:Whelton PK, et al. TONE Collaborative Research Group. JAMA 1998(American College of Cardiologyによる試験概要))。
ただし、この数字を裏返してみると、生活習慣の改善に取り組んだグループでも、6割前後の人は30か月のあいだに血圧が再び上がるなどして、薬の再開が必要になったり目標から外れたりしたことになります。薬をやめられる人がいるのは事実ですが、「やめたら終わり」ではなく、その後も長く見守る必要があることがよくわかる結果です。
薬をやめると血圧はどのくらい上がる?(コクランレビュー)
高齢の方を対象に、降圧薬を中止したグループと続けたグループを比べた6つのランダム化比較試験(合計1,073人)をまとめたコクラン・システマティックレビュー(2025年更新版)では、中止したグループのほうが収縮期血圧が平均で約9.8mmHg、拡張期血圧が約3.5mmHg高くなっていました。死亡や脳卒中、心筋梗塞については明らかな差は確認されませんでしたが、研究の規模が小さく、追跡期間も4週間から最長56週間と短いため、確実性の低いエビデンスと位置づけられています(出典:Gnjidic D, et al. Withdrawal of antihypertensive drugs in older people. Cochrane Database of Systematic Reviews 2025)。
「約10mmHgの上昇」という数字は、先ほど紹介した「上の血圧を10mmHg下げると脳卒中や心臓病が約2割減る」という関係を思い出すと、決して小さな差とはいえません。短い期間では目立った問題が起きなかったとしても、長い年月の積み重ねで差が出てくる可能性は否定できないのです。
80歳以上で薬を1種類減らした試験(OPTIMISE試験)
英国で行われたOPTIMISE試験では、80歳以上で2種類以上の降圧薬を飲み、収縮期血圧が150mmHg未満に保たれていた569人を、薬を1種類減らすグループと、そのまま続けるグループに分けて12週間観察しました。12週後に収縮期血圧150mmHg未満を保てていた人の割合は、減薬グループで86.4%、継続グループで87.7%と、ほぼ同じでした。一方で、減薬グループの収縮期血圧は継続グループより平均3.4mmHg高く、12週後の時点で減らした状態を続けられていたのは減薬グループの66.3%でした(出典:Sheppard JP, et al. JAMA 2020;323(20):2039-2051(OPTIMISE試験))。
この結果からは、高齢で複数の薬を飲んでいる方では、医師の管理のもとで慎重に1種類減らすことが短期的には安全に行える可能性がある一方で、およそ3人に1人は元に戻す必要があったことが読み取れます。なお、この試験の基準(150mmHg未満)は、日本のガイドラインの降圧目標とは異なる点にも注意が必要です。
どんな人がやめやすいのか
オーストラリアで行われた研究では、65〜84歳ですべての降圧薬を中止した503人を1年間追跡し、どのような人が正常な血圧を保ちやすいかを調べました。その結果、比較的若い(65〜74歳)、治療中の収縮期血圧が低い、1種類の薬で血圧が保たれていた、といった特徴のある人ほど、正常な血圧を保ちやすいことがわかりました。そのうえで研究者らは、中止後も血圧が再び上がる人が一定の割合で出続けることから、薬を中止した人はすべて、期限を設けずに経過を見守るべきだと結論づけています(出典:Nelson MR, et al. BMJ 2002;325:815)。
自己判断で薬をやめてはいけない理由
ここまで紹介した研究では、医師が対象者を選び、血圧を定期的に確認し、上がってきたらすぐに薬を再開できる体制が整えられていました。自己判断で薬をやめる場合には、こうした安全の仕組みがありません。
まず、高血圧はほとんどの場合、自覚症状がありません。薬をやめて血圧が上がっても本人はまったく気づかないことが多く、数か月から数年たってから、脳卒中や心臓病といった形で初めて表に出ることがあります。「やめても体調は変わらないから大丈夫」という感覚は、血圧の状態を正しく反映しているとは限らないのです。
次に、降圧薬は血圧を下げる以外の目的でも処方されていることがあります。心不全や狭心症、腎臓病、糖尿病などの持病がある方では、心臓や腎臓を守る目的も兼ねて薬が選ばれている場合があり、血圧の数字だけを見てやめてよいかどうかは判断できません。また、薬の種類によっては急にやめることで体に負担がかかるものもあり、複数の薬を飲んでいる場合に、どの薬から、どのくらいのペースで減らすのが安全かは、医師でなければ判断が難しいところです。
さらに、「血圧が下がったから薬をやめる」という考え方には落とし穴があります。薬を飲んでいるから血圧が下がっているのであって、薬が不要になったとは限らないからです。薬で血圧が良好に保たれている状態は、治療がうまくいっている証拠であり、それだけでやめどきのサインとはいえません。
副作用がつらい、費用が負担になっている、飲み忘れが多いといった悩みがある場合は、それ自体が治療を見直す大事なきっかけになります。薬の種類を変える、1日1回で済む配合剤にまとめるなど、医師に相談することで解決できることも少なくありません。降圧薬の種類とそれぞれの特徴については、降圧剤の種類と効果の記事で解説しています。
減薬や中止を相談するときの進め方
薬を減らしたいと思ったら、まずは主治医にその気持ちを率直に伝えてみてください。医師にとっても、患者さんがどのような思いで薬を飲んでいるかを知ることは、治療方針を考えるうえで大切な情報です。一般的には、次のような流れで検討が進みます。
- ✔ 家庭血圧を朝と夜に測り、数週間分の記録をそろえて受診する
- ✔ 医師が血圧の推移、持病、飲んでいる薬の種類をふまえて、減らせる状況かどうかを判断する
- ✔ 減らす場合は一度にすべてやめるのではなく、1種類ずつ、あるいは量を少しずつ減らす
- ✔ 減らしたあとも家庭血圧の測定を続け、定期的に受診して確認する
- ✔ 血圧が再び目標を超えてきたら、ためらわずに元の治療に戻す
家庭血圧は、減薬を判断するうえでも、減薬後の経過を見守るうえでも、もっとも頼りになる情報です。測る時間帯や姿勢によって値は変わるため、正しい方法で続けることが大切です。測り方のポイントは高血圧の診断基準と正しい血圧の測り方を参考にしてください。
薬を減らしたあとに血圧が上がり、元の量に戻すことになったとしても、それは失敗ではありません。「今の自分にはこの量の薬が必要だ」とわかったこと自体が、これからの治療を続けていくうえで意味のある情報になります。
減薬や中止のあとに、家庭血圧が目標を超える日が続く、頭痛や動悸が気になるといった変化があれば、次の予約を待たずに早めに受診しましょう。突然の激しい頭痛、片側の手足に力が入らない、ろれつが回らない、胸の痛みや強い息苦しさといった症状は、脳卒中や心臓の病気のサインである可能性があるため、ためらわずに救急車を呼んでください。
まとめ
- ✔ 降圧薬は高血圧を根本から治す薬ではなく、飲んでいる間の血圧を下げて脳・心臓・腎臓を守る薬です
- ✔ 生活習慣の改善や体重・体調の変化、高齢に伴う副作用の心配などから、医師の判断で減薬や中止を検討できる場合があります
- ✔ 研究では、中止後に血圧が再び上がる人が多く、中止したあとも長く経過を見守る必要があることが示されています
- ✔ 自己判断での中断は避け、家庭血圧の記録を持って主治医に相談しましょう
「薬を減らしたい」という気持ちは、ご自身の健康や治療に前向きに向き合っているからこそ生まれるものです。その思いを医師と共有し、今の自分に合った治療のかたちを一緒に探していきましょう。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(2025年8月29日発行)
- 日本高血圧学会「高血圧の10のファクト~国民の皆さんへ~」
- ケアネット「全年齢で130/80mmHg未満を目標に、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊/日本高血圧学会」(2025年9月8日)
- Gnjidic D, et al.「Withdrawal of antihypertensive drugs in older people」Cochrane Database of Systematic Reviews 2025 (CD012572.pub3)
- Sheppard JP, et al.「Effect of Antihypertensive Medication Reduction vs Usual Care on Short-term Blood Pressure Control in Patients With Hypertension Aged 80 Years and Older: The OPTIMISE Randomized Clinical Trial」JAMA 2020;323(20):2039-2051
- Whelton PK, et al.「Sodium reduction and weight loss in the treatment of hypertension in older persons (TONE)」JAMA 1998;279:839-846(American College of Cardiology 試験概要)
- Nelson MR, et al.「Predictors of normotension on withdrawal of antihypertensive drugs in elderly patients: prospective study in second Australian national blood pressure study cohort」BMJ 2002;325:815



