降圧薬を朝に飲んでも夜(就寝前)に飲んでも、脳卒中や心筋梗塞などの起こりやすさに大きな差は出ない、というのが現在までの大規模な臨床試験の結論です。英国で約2万1千人を対象にした TIME 試験でも、カナダで約3,400人を対象にした BedMed 試験でも、朝と夜で結果はほぼ同じでした。医師や薬剤師から時間の指定がなければ、毎日いちばん続けやすい時間を決めて、飲み忘れないことが最優先です。
この記事では、「夜に飲んだほうが効く」と話題になった背景、それを確かめた2つの大規模試験の結果、研究結果の読み方と限界、そして飲み忘れたときの考え方や家庭血圧での確かめ方を、一次文献とガイドラインをもとに解説します。
なぜ降圧薬の「飲む時間」が気になるのか?
血圧は一日中同じ値ではなく、活動する昼間は高く、眠っている夜間は下がり、明け方から朝にかけて再び上がっていくという波を描きます。夜になっても血圧が十分に下がらない人や、早朝に急に上がる人は、心臓や脳の病気を起こしやすいことが知られており、これが夜間高血圧や早朝高血圧への関心につながっています。
また、朝に1回飲む降圧薬は、次の日の朝の服用直前にいちばん効果が弱くなります。日本高血圧学会のガイドラインでも、治療中の人は診察室の血圧が良好でも、薬の効果が弱まる早朝に血圧が高くなりやすいことが指摘されています(出典:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」)。そこで「夜に飲めば、夜間から早朝の血圧をしっかり抑えられるのではないか」という発想が生まれました。
もう一つ、ガイドラインは効果が長く続く降圧薬を使うと、1日を通して血圧のコントロールが望ましい形になると期待できるとしています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」)。つまり、服用時間を工夫するか、1日を通して効く薬を選ぶかは、どちらも「24時間の血圧を安定させる」ための方法だといえます。
「就寝前に飲むと大きく効く」とした研究と、その後の評価
就寝前の服用が注目を集めるきっかけになったのが、スペインで行われた Hygia 研究です。1万9千人以上を約6年追跡し、就寝前の服用で心血管病による死亡などが45%も減ったと報告されました。ただし、この結果には疑問の声が多く上がりました。割り付けの方法が明確でなく、群ごとの背景に差があったこと、予想される降圧薬の効果(2割程度)に比べて効果が大きすぎることなどが指摘され、掲載した学術誌は「懸念の表明」を出しています(出典:DynaMed「The Antihypertensive Dosing Saga」)。
このように、片方の研究だけでは結論を出しにくかったため、より厳密な方法で確かめる大規模な試験が行われることになりました。
TIME 試験:英国で約2万1千人を比較
その代表が、英国で行われた TIME 試験です。高血圧の治療中の成人21,104人を、普段の降圧薬を朝(6〜10時)に飲むグループと夜(20〜24時)に飲むグループにくじ引きで分け、中央値で5.2年追跡しました。調べたのは、心血管病による死亡、または心筋梗塞や脳卒中による入院の合計です。
結果は、夜のグループで362人(3.4%)、朝のグループで390人(3.7%)に起こり、ハザード比は0.95(95%信頼区間0.83〜1.10)で、統計的な差はありませんでした。安全面でも大きな問題は見つかっていません(出典:Mackenzie ら「TIME 試験」Lancet 2022)。「夜に飲むと有利」という期待は、この試験では確かめられなかったことになります。
BedMed 試験と、高齢者を対象にした BedMed-Frail 試験
2025年には、カナダの診療所を中心に行われた BedMed 試験の結果が JAMA 誌で報告されました。高血圧のある成人3,357人を就寝前の服用と朝の服用に分け、中央値4.6年追跡したところ、死亡や脳卒中・急性冠症候群・心不全による入院などの合計は、100人年あたり2.3件と2.4件(調整ハザード比0.96、95%信頼区間0.77〜1.19)でほぼ同じでした。転倒や骨折、認知機能の低下にも差はありませんでした(出典:BedMed 試験の概要(米国心臓病学会 Journal Scan))。
同じ年に、介護施設で暮らす平均年齢88歳の高齢者776人を対象にした BedMed-Frail 試験も報告されています。主な評価項目に差はありませんでしたが(調整ハザード比0.88、95%信頼区間0.71〜1.11)、予定外の入院や救急受診は就寝前の服用のほうが少ない傾向でした(調整ハザード比0.74)。ただし、主な評価項目に差がない中での副次的な結果なので、「夜のほうが良い」と結論づけるのではなく、時間による大きな差はないという全体の流れの中で受け止めるのが妥当です(出典:BedMed-Frail 試験の概要(HCPLive))。
研究結果をどう読めばよいのか
これらの試験が示したのは、「多くの人を平均すると、朝と夜で病気の起こりやすさに差はない」ということです。どちらの試験も、参加者が朝か夜かを知ったうえで服用する方法で行われ、また比較的状態の安定した人が中心でした。そのため、夜間の血圧が特に高いことがわかっている人や、腎臓の病気がある人など、個別の事情があるときに、医師が時間を指定する余地まで否定するものではありません。
ガイドラインでも、薬の効果は特定の服用時間ではなく、一日の血圧のパターンや家庭血圧で評価することが重視されています。服用時間の「正解」を探すより、自分の血圧の波に合っているかを家庭血圧で確かめ、主治医と相談するほうが現実的です。
自分の飲む時間を決めるときの考え方
時間の指定がない場合は、生活の流れの中に組み込みやすい時間を選びます。朝食後や歯みがきの後など、毎日必ず行う習慣と結びつけると、飲み忘れが減ります。反対に、夜に飲む習慣をつくると、帰宅が遅い日や飲酒した日に忘れやすい人もいるので、自分の生活に合うかどうかを基準にしてください。
薬の種類によっては、医師が時間を決めていることがあります。たとえば、利尿薬は夜に飲むとトイレで目が覚めやすくなるため朝に飲むことが多く、薬によっては立ちくらみを避けるために就寝前に飲む指示が出ることもあります。こうした指示がある薬を自己判断で変えず、変えたいときは主治医か薬剤師に相談してください。
飲む時間を変える場合も、少しの変更なら大きな問題はありませんが、朝から夜へ変えると、しばらく血圧の波が変わることがあります。変更後の1〜2週間は、いつもより丁寧に家庭血圧を測っておくと安心です。
飲み忘れたときの考え方
降圧薬は、1回飲み忘れただけで急に危険になるものではありませんが、飲み忘れが重なると血圧が高い状態が続きます。飲み忘れに気づいたときの対応は薬の種類や1日の回数で異なるため、「気づいたら2回分をまとめて飲む」といった自己判断はしないでください。薬局でもらった説明書を確認するか、薬剤師に飲み忘れたときの対応をあらかじめ聞いておくと安心です。
「血圧が下がったから」「飲み忘れが続いても平気だったから」と自分で薬をやめてしまうのも避けたい行動です。減薬や中止を考えるときの条件は、降圧薬はやめられる?で詳しく解説しています。
- 飲み忘れが多い人は、薬を飲む場所(洗面所など)を決め、目に入る位置に置く
- お薬カレンダーや1回分ずつの小分けを使い、飲んだかどうかが一目でわかるようにする
- 複数の薬を飲んでいる場合は、1日の回数や薬の数を減らせないか主治医に相談する
家庭血圧で、いまの飲み方が合っているかを確かめる
ガイドラインは、薬の効き具合を評価するには、家庭血圧の朝と晩の測定値を7日間(少なくとも5日間)平均して見ることを勧めています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」)。JSH2019でも、服薬の前に測った家庭血圧が、薬の効果がどのくらい続いているかを知る手がかりになるとされています。
具体的な測り方は血圧の正しい測り方に、血圧計の選び方は家庭用血圧計の選び方にまとめています。測定値を手帳やアプリに記録して受診時に見せると、薬の種類や時間を調整するときの大切な情報になります。
こんなときは早めに主治医へ
服用時間を変えたあとに立ちくらみやふらつきが増えた、血圧の測定値が以前より大きく上下する、薬を飲んでいても家庭血圧が目標に届かない、といったときは、次の受診を待たずに相談してください。立ちくらみについては高血圧と起立性低血圧で、薬が効きにくい高血圧については治療抵抗性高血圧で解説しています。胸の痛み、突然の強い頭痛、ろれつが回らない、手足に力が入らないといった症状があるときは、迷わず救急の受診を考えてください。
まとめ
- 降圧薬を朝に飲んでも夜に飲んでも、心血管病の起こりやすさに大きな差はない(TIME 試験・BedMed 試験)
- 「就寝前に飲むと大きく効く」とした研究には疑問が出ており、時間を変えるだけで効果が上がるとは言えない
- 医師から時間の指定がなければ、続けやすい時間を選び、飲み忘れないことが最優先
- 飲む時間や回数を自己判断で変えず、家庭血圧の記録を持って主治医・薬剤師に相談する
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- Mackenzie IS, et al. Cardiovascular outcomes in adults with hypertension with evening versus morning dosing of usual antihypertensives in the UK (TIME study). Lancet. 2022;400(10361):1417-1425.
- Garrison SR, et al. Antihypertensive medication timing and cardiovascular events and death: the BedMed randomized clinical trial. JAMA. 2025(DOI: 10.1001/jama.2025.4390). 概要:米国心臓病学会 Journal Scan
- Garrison SR, et al. Bedtime vs morning antihypertensive medications in frail older adults: the BedMed-Frail randomized clinical trial. JAMA Netw Open. 2025;8(5):e2513812. 概要:HCPLive
- DynaMed「The Antihypertensive Dosing Saga: Not Your Average Bedtime Story」(Hygia 研究の評価)
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」Hypertension Research
- 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」Hypertension Research



