いびきがひどい、日中に強い眠気がある、といった悩みの背景に、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が隠れていることがあります。SASは高血圧と深く関係しており、しかも薬だけではコントロールが難しい「治りにくい高血圧」の原因になっていることが少なくありません。SASと高血圧の関係、そして治療によって血圧がどこまで改善するのかを詳しく見ていきます。
SASとは何か、なぜ高血圧と関係するのか
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、眠っている間に気道が塞がったり狭くなったりして、呼吸が繰り返し止まる、あるいは弱くなる病気です。多くは喉の周りの脂肪や、あごの形など解剖学的な要因によって、寝ている間に気道が閉じやすくなることで起こります(閉塞性睡眠時無呼吸)。日本高血圧学会は、SASを二次性高血圧の原因の一つとして位置づけています。通常、睡眠中は血圧が日中より下がるのが自然な状態ですが、SASがあると呼吸が止まるたびに体が「酸欠」の警報を発し、血圧を下げるどころか、かえって上げてしまう仕組みが働きます。
無呼吸が繰り返されるたびに血圧が上がる仕組み
呼吸が止まると血液中の酸素濃度が下がり、体はこれを察知して交感神経を強く働かせます。交感神経が刺激されると血管が収縮し、心拍数も上がるため、血圧が急上昇します。この反応は無呼吸が起こるたびに一晩に何十回、重症の場合は何百回も繰り返されます。さらに、呼吸をしようとして胸郭に力を入れる動作は、胸腔内の圧力を大きく変動させ、心臓にも負担をかけます。断続的な覚醒によって深い睡眠がとれず、本来は夜間に休まるはずの血圧調節機能そのものが乱れていくことも、日中も含めた血圧の底上げにつながります。健康な人であれば、睡眠中は日中に比べて血圧が10〜20%程度下がるのが自然な変化ですが、SASのある人ではこの夜間の血圧低下が乏しくなる、あるいはまったく見られなくなることがあります。夜間に血圧が十分に下がらない状態は、心臓や血管に休む時間を与えないまま働かせ続けることを意味し、長期的には心肥大や腎機能の低下といった臓器への負担にもつながっていきます。
SASによる高血圧の特徴
SASが関係する高血圧には、いくつか特徴的なパターンがあります。夜間や早朝に血圧が高くなりやすく、診察室で測る日中の血圧だけでは異常に気づきにくいことがあります。診察室では正常なのに、実際には夜間や早朝の血圧が高い状態は仮面高血圧の一種といえ、健康診断の血圧だけで「正常」と安心してしまうと、SASによる血圧上昇を見逃す可能性があります。また、複数の降圧薬を使ってもなかなか目標の血圧まで下がらない治療抵抗性高血圧の背景に、未診断のSASが隠れているケースも報告されています。いびきが大きい、日中の強い眠気がある、起床時に頭痛がある、といった症状に心当たりがあれば、血圧の問題と合わせて検討する価値があります。国内外の報告では、高血圧の患者のうちおよそ3割から7割程度がSASを合併しているとされ、逆にSASのある人の多くが高血圧を伴うことも知られています。降圧薬を増やしても血圧が下がりにくいと感じている場合、原因の一つとしてSASの存在を疑ってみる意味は小さくありません。
SASの重症度と診断の流れ
SASの診断では、睡眠中の呼吸状態を調べる検査を行います。自宅でセンサーを装着して行う簡易検査と、医療機関に泊まって脳波なども含めて詳しく調べる精密検査(ポリソムノグラフィー)があり、1時間あたりに呼吸が止まる・弱くなる回数(無呼吸低呼吸指数:AHI)によって軽症・中等症・重症に分類されます。AHIの数値が高いほど、夜間の血圧上昇や心血管疾患のリスクも高くなる傾向があるとされています。一般に、AHIが5未満は正常、5〜15未満は軽症、15〜30未満は中等症、30以上は重症の目安とされ、中等症以上では治療の対象として検討されます。健康診断の問診票にある「いびきの有無」「日中の眠気」といった項目は、こうした重症度をおおまかに推定する手がかりとしても使われています。いびきや眠気を自覚している場合は、まず内科や呼吸器内科、SASを専門とするクリニックで相談し、必要に応じて検査を受けることが第一歩になります。
CPAP療法で血圧はどこまで改善するのか
中等症以上のSASに対する標準的な治療は、CPAP(持続的陽圧呼吸療法)です。寝ている間に鼻や口にマスクを装着し、機械から送られる空気の圧力で気道が塞がるのを防ぐ治療法で、無呼吸そのものを減らすことができます。CPAPが血圧に与える効果については複数の研究がまとめられており、収縮期血圧でおおむね2〜3mmHg、拡張期血圧で1〜2mmHg程度の低下が報告されています。数値だけ見ると降圧薬ほど劇的ではありませんが、CPAPを毎晩しっかり使うほど血圧の低下幅も大きくなる相関があることが示されており、使用時間の確保が効果を左右する重要な要素です。降圧薬でコントロールが難しかった治療抵抗性高血圧の患者でも、SASの治療を追加することで血圧が改善する例が報告されています(出典:複数のランダム化比較試験を統合したメタ解析、CareNet「CPAPによって睡眠時無呼吸症候群の24時間血圧が低下/JAMA」ほか)。
CPAP以外の選択肢と生活習慣の見直し
軽症のSASや、CPAPが体質的に合わない場合には、下あごを前方に固定して気道を広げるマウスピース(口腔内装置)が選択肢になることもあります。また、肥満はSASの大きな危険因子であるため、減量によって症状そのものが軽くなる場合もあります。就寝前の飲酒は喉の筋肉を緩めて気道を塞がりやすくするため、SASがある人にとっては飲酒の量やタイミングを見直すことも意味があります。横向きで眠る、枕の高さを調整するといった工夫も、軽症例では症状の軽減に役立つことがあります。扁桃腺やアデノイドの肥大が原因として明らかな場合には、耳鼻咽喉科での手術が検討されることもありますが、成人のSASでは肥満や骨格など複数の要因が絡んでいることが多く、手術だけで根本的に解決するとは限りません。治療法の選択は、重症度や原因、生活スタイルによって異なるため、担当医と相談しながら決めていくことになります。
SASが引き起こす血圧以外の健康リスク
SASは高血圧だけでなく、全身のさまざまな健康リスクと関わっています。低酸素状態が繰り返されることは血管の炎症や動脈硬化を進める要因になり、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中のリスクを高めるとされています。また、SASのある人は心房細動などの不整脈を合併しやすいことも知られています。代謝面では、交感神経の慢性的な興奮やホルモンバランスの乱れを通じて、血糖値やインスリンの働きに影響し、糖尿病のリスクを高める可能性も指摘されています。さらに、肥満はSASの原因になると同時に、SASによる睡眠の質の低下がホルモンバランスを乱して体重増加を招くという悪循環を作ることもあります。高血圧と肥満の関係でも触れているように、体重管理は血圧そのものにも直接影響するため、SASと肥満、高血圧の三者は互いに絡み合いながら進行しやすい組み合わせといえます。血圧だけでなく、こうした合併症の予防という観点からも、SASの早期発見・治療には意味があります。
治療を継続することの重要性
CPAP治療の効果は、使用を続けている間は維持されますが、装着をやめると無呼吸も血圧上昇もすぐに元の状態に戻ってしまいます。マスクの違和感や乾燥、旅行時の持ち運びの煩わしさなどを理由に、治療を自己中断してしまう人も少なくありません。マスクのサイズや圧力設定が体に合っていないと不快感が強くなるため、違和感がある場合は我慢せず、医療機関で調整してもらうことが継続のポイントです。加湿器付きの機器を使う、就寝前に鼻の通りをよくしておくといった工夫も、快適に使い続けるうえで役立ちます。
どんな人がSASになりやすいか
肥満は最もよく知られた危険因子で、首まわりに脂肪がつくことで気道が狭くなりやすくなります。ただし、日本人を含むアジア人は欧米人に比べて骨格上あごが小さい傾向があり、体重がそれほど重くなくてもSASを発症することがあります。扁桃腺やアデノイドが大きい、舌が大きい、鼻づまりが慢性的にあるといった要因も気道を狭める原因になります。女性は閉経前はホルモンの影響でSASになりにくいとされますが、閉経後は男性との差が小さくなり、発症率が上がることも報告されています。加齢そのものも、喉まわりの筋力低下を通じてSASのリスクを高めます。
何科を受診すればよいか
いびきや眠気が気になる場合、まずは内科やSAS外来を掲げるクリニック、呼吸器内科などで相談するのが一般的です。多くの医療機関では、自宅で行える簡易検査から始め、結果によって精密検査や治療の要否を判断します。血圧の薬を処方されているのに数値が思うように下がらない場合は、かかりつけ医にいびきや睡眠の状態も伝えておくと、SASの可能性を含めた評価につながりやすくなります。
こんな症状があればSASを疑ってみる
自分ではいびきや呼吸の状態に気づきにくいため、家族やパートナーからの指摘が発見のきっかけになることがよくあります。次のような項目に複数当てはまる場合は、一度検査を検討してみる価値があります。
- 大きないびきをかく、あるいは家族に呼吸が止まっていると言われたことがある
- 朝起きたときに熟睡感がなく、頭痛や口の渇きを感じることが多い
- 日中、会議中や運転中などに強い眠気に襲われることがある
- 血圧の薬を飲んでいても、朝や夜の血圧が下がりにくい
- 首まわりが太い、あるいは体重が増えてきたと感じる
気になる症状があれば早めに相談を
SASは自分では気づきにくく、家族やパートナーからいびきや呼吸の止まりを指摘されて初めて発覚することも多い病気です。家庭血圧を測っても数値が思うように下がらない、あるいは早朝だけ血圧が高いといった場合は、SASの可能性も含めて医師に相談してみましょう。
まとめ
SASは無呼吸のたびに交感神経を刺激し、夜間・早朝を中心に血圧を押し上げます。CPAP治療によって無呼吸そのものを減らすことで、血圧にも改善が期待できるほか、治療抵抗性高血圧の背景にSASが隠れているケースもあります。いびきや日中の眠気に心当たりがある方は、睡眠と高血圧の関係も参考にしながら、血圧管理の一環としてSASの検査を検討してみてください。治療によってSASそのものが改善すれば、血圧だけでなく、日中の眠気や集中力の低下といった生活の質にも良い変化が期待できます。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
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- 社会医学系専門医指導医
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研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
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