高血圧の治療は生活習慣の改善が基本ですが、それだけで目標の血圧まで下がらない場合は薬(降圧剤)を使った治療が行われます。降圧剤にはいくつかの種類があり、血圧を下げる仕組みも副作用の出方も異なります。
この記事では、日本高血圧学会の最新ガイドラインで示されている主な降圧剤の種類、それぞれの特徴、そして薬を安全に続けるための注意点を解説します。
降圧剤はどう選ばれる?|JSH2025の基本方針
日本高血圧学会は2025年8月、6年ぶりに「高血圧管理・治療ガイドライン2025」を発行しました。このガイドラインでは、最初に使う薬(第一選択薬)として、長時間作用型のジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、ACE阻害薬、少量のサイアザイド系利尿薬、β遮断薬が位置づけられています。1種類で効果が不十分な場合は、早めに2剤・3剤の組み合わせに進むことが推奨されており、糖尿病や腎臓病など持病がある場合はより早い段階からの併用療法が勧められています(出典:公益社団法人日本栄養士会「【日本高血圧学会】高血圧管理・治療ガイドライン2025を発表」2025年9月2日、日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」)。
どの薬を選ぶかは、血圧の高さだけでなく、年齢、持病(糖尿病・腎臓病・心臓病など)、副作用の出やすさを踏まえて医師が判断します。同じ「高血圧」でも、人によって処方される薬は異なります。
主な降圧剤の種類と特徴
カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)
血管の筋肉にカルシウムが入るのを防ぎ、血管を広げて血圧を下げます。効果が比較的安定しており、日本で広く使われている薬の一つです。代表的な副作用は足のむくみ、顔のほてり、動悸などです。
ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
血圧を上げるホルモン(アンジオテンシンII)の働きをブロックして血圧を下げます。腎臓を保護する作用も報告されており、糖尿病や腎臓病を合併する人に選ばれることが多い薬です。空咳などの副作用は少ないとされています。
ACE阻害薬
ARBと似た仕組みで、アンジオテンシンIIが作られる過程を阻害します。心臓や腎臓を保護する効果が期待できる一方、空咳が出やすいという特徴があります。空咳が気になる場合はARBへの変更が検討されます。
利尿薬(サイアザイド系など)
尿として塩分と水分の排出を促し、体内の血液量を減らすことで血圧を下げます。少量から使うことで効果と副作用のバランスを取りやすく、他の薬との組み合わせでもよく使われます。電解質(カリウムなど)のバランスに影響することがあるため、定期的な血液検査が行われます。
β遮断薬
心臓の働き(心拍数や収縮力)を抑えることで血圧を下げます。狭心症や不整脈、心不全など心臓の病気を合併する場合に選ばれることが多い薬です。
その他の薬(MR拮抗薬・ARNIなど)
原発性アルドステロン症など特定の病態や、治療が難しい高血圧に対しては、MR拮抗薬(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)やARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)など、より専門的な薬が使われることがあります。原発性アルドステロン症については原発性アルドステロン症と高血圧|カリウム低下に注意!で詳しく解説しています。
降圧剤の副作用とその対策
薬でBPを下げる効果が大きいほど、副作用で治療を中断するリスクも上がる傾向があります。降圧薬全般を対象にしたメタ解析では、プラセボと比較して、利尿薬・β遮断薬・カルシウム拮抗薬・ACE阻害薬のいずれも副作用による治療中止のリスクが約2〜3倍高くなる一方、ARBだけはプラセボと比べて有意な差が見られなかったと報告されています(出典:Thomopoulos C, Parati G, Zanchetti A. Discontinuations for adverse events attributed to different classes of antihypertensive drugs: meta-analyses of randomized trials. J Hypertens. 2016;34(10):1921-1932.)。これは「ARBが優れている」という単純な話ではなく、薬の選び方には副作用の出やすさも判断材料の一つになる、という点が重要です。
- むくみ・ほてり(カルシウム拮抗薬) 量の調整や薬の変更で軽減できることがあります
- 空咳(ACE阻害薬) 続く場合はARBへの変更を相談します
- だるさ・脈が遅くなる(β遮断薬) 自己判断で中止せず医師に相談します
- 電解質異常(利尿薬) 定期的な血液検査で確認します
気になる症状が出た場合は、自己判断で薬をやめたり量を変えたりせず、まず医師や薬剤師に相談してください。
自己判断で薬をやめてはいけない理由
降圧剤は「血圧が下がったから」「体調が良いから」といって自己判断でやめると、血圧が急に元の高さに戻ったり、それ以上に上がったりすることがあります。とくに複数の薬を使っている場合、急な中止は体への負担が大きくなることがあります。
薬を減らす・やめるという判断も治療の一部です。生活習慣の改善で血圧が安定してきた場合は、医師と相談しながら段階的に見直すのが基本です。
薬物治療と生活習慣改善は両輪
大規模臨床試験のSPRINT試験では、心血管リスクの高い成人9,361人を対象に、収縮期血圧の目標を120mmHg未満まで下げるグループと140mmHg未満にとどめるグループを比較したところ、より厳格に下げたグループで心血管イベントと死亡率が有意に低下しました(出典:SPRINT Research Group. A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2015;373(22):2103-2116.)。この結果は、薬による降圧が心血管イベントの予防につながることを示す代表的なエビデンスの一つです。
ただし薬だけに頼るのではなく、減塩や運動などの生活習慣改善を並行することで、より少ない薬の量で血圧をコントロールできる可能性があります。生活習慣の見直し方は高血圧と生活習慣の関係|どの要因が影響する?、家庭血圧の測り方は正しい血圧の測り方をご覧ください。
まとめ
- JSH2025では、Ca拮抗薬・ARB・ACE阻害薬・少量の利尿薬・β遮断薬が第一選択薬として位置づけられています
- 1種類で効果が不十分な場合、早めに2〜3剤の併用に進むことが推奨されています
- 副作用の出方は薬の種類ごとに異なり、気になる症状は自己判断せず医師に相談することが大切です
- 薬を自己判断でやめると血圧が急に戻ることがあるため、減量・中止も医師と相談しながら進めます
- 薬物治療と生活習慣改善は両輪で、併用することでより安定した血圧管理につながります
配合剤(1錠に複数の薬を含む薬)という選択肢
複数の種類の降圧薬を併用する場合、それぞれを別々の錠剤で服用すると、1日に飲む錠剤の数が増えて飲み忘れにつながりやすくなります。こうした負担を減らすために、2〜3種類の降圧薬をあらかじめ1錠にまとめた「配合剤」が広く使われています。配合剤は服薬の手間を減らせるだけでなく、飲み忘れが減ることで血圧のコントロールが安定しやすくなるという利点もあります。一方で、配合剤は用量の微調整がしにくいという側面もあるため、治療の初期段階では単剤で少しずつ量を調整し、安定してから配合剤に切り替える、という順序で処方されることも多くあります。ジェネリック医薬品(後発医薬品)も先発品と同じ有効成分・同等の効果が確認されたうえで承認されており、費用を抑えたい場合の選択肢になります。薬の種類や組み合わせについて疑問がある場合は、自己判断せず、処方した医師や薬局の薬剤師に相談してください。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- 日本高血圧学会. 高血圧管理・治療ガイドライン2025(2025年8月29日発行). https://www.jpnsh.jp/guideline.html
- 公益社団法人日本栄養士会. 「【日本高血圧学会】高血圧管理・治療ガイドライン2025を発表」2025年9月2日. https://www.dietitian.or.jp/trends/2025/447.html
- Thomopoulos C, Parati G, Zanchetti A. Effects of blood-pressure-lowering treatment in hypertension: 9. Discontinuations for adverse events attributed to different classes of antihypertensive drugs: meta-analyses of randomized trials. J Hypertens. 2016;34(10):1921-1932. PubMed
- SPRINT Research Group. A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2015;373(22):2103-2116. PubMed



