朝の一杯のコーヒーは、多くの方にとって欠かせない習慣です。ところが健康診断や受診で血圧が高いと言われると、「コーヒーはやめたほうがいいのだろうか」と不安になる方が少なくありません。実際、コーヒーを飲んだあとに家庭で血圧を測ると、いつもより高く出ることがあります。
この記事では、コーヒーやカフェインが血圧に与える影響について、飲んだ直後の一時的な変化と飲み続けたときの長期的な影響を分けて整理します。あわせて、日本の住民を対象にした研究、血圧を測る前後の注意点、受診を考える目安をまとめます。血圧管理全体の考え方は、日本高血圧学会の最新版である「高血圧管理・治療ガイドライン2025」にまとめられています。
コーヒーを飲むと血圧は上がる?まずは「飲んだ直後」の変化
コーヒーに含まれるカフェインは、飲んだあとしばらくのあいだ血圧を押し上げる作用があります。血圧が高い人を対象にした臨床試験をまとめた解析では、200〜300mgのカフェインを一度に摂取すると、収縮期血圧(上の血圧)が平均で約8mmHg、拡張期血圧(下の血圧)が約6mmHg上がり、その上昇は摂取後1時間以内に現れて少なくとも3時間は続いたと報告されています。この反応は、降圧薬を飲んでいる人でも同じように見られました(The American Journal of Clinical Nutrition 2011年「The effect of coffee on blood pressure and cardiovascular disease in hypertensive individuals」)。
つまり、コーヒーを飲んだ直後は血圧が一時的に高めになる、というのは研究でも確かめられている現象です。診察室や家庭で「いつもより高い」と感じたとき、その直前に濃いコーヒーやエナジードリンクを飲んでいなかったかを振り返ってみる価値はあります。ただし、この上昇は一時的なものです。一時的な上昇があることと、毎日飲み続けると血圧が高い状態が固定してしまうことは、分けて考える必要があります。
毎日飲み続けると血圧は高くなる?習慣的な摂取に関する研究
同じ解析では、コーヒーを2週間ほど続けて飲んだ試験で、カフェインを含まない飲料やカフェイン抜きのコーヒーと比べても、血圧が有意に高くなるとはいえない結果が示されています。つまり、飲んだ直後の上昇がそのまま「血圧が高い状態の固定」につながるとは限らない、ということです。
一方で、結果が一様というわけではありません。健康な成人を対象にした11件のランダム化比較試験(参加者470人)をまとめた研究では、カフェインを含む飲料を4週間以内の短期間とった場合に、血圧が平均で上の血圧3.04mmHg、下の血圧2.45mmHg高くなっており、とくに24歳以下の若い層で上昇が大きい傾向がありました(Journal of Functional Foods 2021年「A short-term effect of caffeinated beverages on blood pressure」)。また、カフェインをサプリメントなどで摂取した8件の試験(参加者390人)の解析では、プラセボと比べて上の血圧が約1.9mmHg、下の血圧が約1.7mmHg高くなり、1日400mgを超える摂取や9週間を超える長期の摂取で影響が目立ったと報告されています(Clinical Nutrition ESPEN 2023年「The effects of caffeine supplementation on blood pressure in adults」)。ただし、これらはカフェインそのものやカフェイン飲料を対象にした試験であり、普段の食生活でコーヒーを飲む場合にそのまま当てはまるとは限りません。
では、コーヒーを飲む習慣がある人が、将来高血圧になりやすいかどうかはどうでしょうか。前向き観察研究をまとめたメタ解析では、コーヒーを1日1〜3杯飲む人は、ほとんど飲まない人に比べて高血圧になるリスクの比が1.09と、わずかに高い結果でした。しかし、3〜5杯で1.07、5杯を超えると1.08と差は明確ではなく、6杯と飲まない場合を比べた推定値は0.99でした。飲む量が増えるほどリスクが直線的に上がっていくという形ではなく、全体としては「大きな差は見られない、あるいはわずかな差にとどまる」というのが読み取れるところです(The American Journal of Clinical Nutrition 2011年「Habitual coffee consumption and risk of hypertension」)。観察研究は、コーヒーを飲む人と飲まない人の生活習慣の違いまでは完全に取り除けない点に注意が必要です。
すでに高血圧の人は、コーヒーをやめるべき?日本の研究から
すでに高血圧と診断されている人にとって気になるのは、コーヒーが脳卒中や心臓病のリスクに影響するかどうかでしょう。先ほどの血圧が高い人を対象にした解析では、高血圧の人を追跡した7件のコホート研究で、習慣的なコーヒー摂取と心血管病のリスク上昇との関連は認められませんでした。
日本の住民を対象にした研究では、少し注意が必要な結果も出ています。全国の45地域に住む40〜79歳の約1万8,600人を約19年間追跡した研究では、血圧が160/100mmHg以上の重症の高血圧の人に限って、1日2杯以上のコーヒーを飲む人で心血管病による死亡が約2倍になっていました。1日1杯までの人ではどの血圧の区分でもリスクの上昇はなく、緑茶についてはどの区分でも死亡リスクの上昇は見られませんでした(American Heart Association「Drinking 2 or more cups of coffee daily may double risk of heart death in people with severe hypertension」、原著はJournal of the American Heart Association 2022年)。研究者自身も、コーヒーの量は自己申告であること、血圧は1回の測定値であること、観察研究のため因果関係までは断定できないことを限界として挙げています。
この結果から言えるのは、「高血圧の人はコーヒーを全面的にやめなければならない」ではなく、血圧が高い状態が続いている人ほど、飲む量や飲み方を主治医と相談しながら見直す意味があるということです。血圧が十分にコントロールされていない段階で、コーヒーを何杯も重ねる習慣がある方は、まず自分の量を数えてみることから始めるとよいでしょう。
血圧を測る前後のコーヒーに注意
コーヒーが一時的に血圧を押し上げることは、血圧の測定結果にも影響します。とくに家庭血圧は、診断や治療方針を決める大切な材料です。日本高血圧学会の啓発資料では、家庭血圧は起床後1時間以内、朝食の前、服薬の前に、排尿をすませ、椅子に座って1〜2分安静にしてから測るよう案内されています(日本高血圧学会「家庭で血圧を測定しましょう」)。この条件で測れば、朝のコーヒーが結果を左右する場面は自然と少なくなります。
- 朝は、コーヒーや紅茶、緑茶などを飲む前に測ります。
- 測る前に、トイレをすませて椅子に座り、1〜2分は静かに休みます。
- 夜や日中に測る場合は、コーヒーを飲んだ直後を避けます。カフェインの反応は1時間以内に現れ、3時間ほど続くことがあるためです。
- コーヒーを飲んだ日は、手帳に「飲んだ時刻」も一言書いておくと、受診時に説明しやすくなります。
診察室で血圧が高く出るかどうかにも、直前の飲み物が関わることがあります。診察室でだけ血圧が高い状態については、白衣高血圧とは?診察室でだけ血圧が上がる理由と対処法で詳しく解説しています。また、測り方そのものは高血圧の診断基準と測定方法|正しい血圧の測り方でも確認できます。
カフェインはコーヒーだけではありません
カフェインは、コーヒーのほかに紅茶や緑茶、ウーロン茶、コーラ、エナジードリンク、一部の眠気覚まし用の飲料や市販薬にも含まれています。「コーヒーは控えているのに、エナジードリンクや眠気覚ましの飲料を毎日飲んでいる」という場合、カフェインの総量はかえって多くなっていることがあります。1日のカフェインの合計を意識するためには、飲み物のラベルの表示を確認するのが確実です。
市販のかぜ薬や鎮痛薬など、飲み物以外のものが血圧に影響する場合もあります。この点は痛み止めや市販薬で血圧が上がる?薬剤誘発性高血圧の原因と対策で扱っています。ほかの飲み物との選び方は血圧を下げる飲み物とは?おすすめの飲み物7選、お酒との付き合い方は高血圧とアルコールの関係|お酒の飲み方と注意点も参考にしてください。
コーヒーとの付き合い方と、受診を考える目安
ここまでの研究を踏まえると、コーヒーの影響は人によって差が大きく、一律の「正解の杯数」を決めることはできません。そのうえで、血圧との付き合いという面では、次のような考え方が現実的です。まず、コーヒーを飲む時間帯と量を把握します。そのうえで、家庭血圧を決まった条件で測り、コーヒーを飲んだ日と飲まなかった日で数値に違いが出るかを自分の記録で確かめます。睡眠不足は血圧に影響するため、夜遅い時間のコーヒーが眠りの妨げになっていないかも振り返ってみましょう(睡眠と高血圧の関係|寝不足は血圧を上げる?)。
次のような場合は、コーヒーの量を自分だけで判断せず、医療機関に相談してください。家庭血圧が繰り返し高めに出る場合、健康診断で血圧が高いと指摘されたのに受診していない場合、動悸や強い頭痛、胸の違和感を伴う場合です。とくに動悸や胸の痛みが強いときは、コーヒーのせいと決めつけず、早めに受診することが大切です。降圧薬を飲んでいる方が、自己判断で薬を減らしたり中止したりすることは避けてください。
まとめ
- コーヒーを飲むと、血圧は1時間以内に上がり数時間続くことがあります。ただし一時的な変化です。
- 毎日飲む習慣が血圧を高くするかどうかについては、研究の結果に幅があり、大きな差は見られないとする報告が多い一方、カフェイン摂取で数mmHgの上昇を示す報告もあります。
- 日本の研究では、血圧が160/100mmHg以上の人で1日2杯以上のコーヒーと心血管病死亡との関連が示されました。ただし観察研究で、因果関係は断定できません。
- 家庭血圧は、起床後1時間以内・朝食と服薬の前に、コーヒーを飲む前に測るのが基本です。
- エナジードリンクや市販薬などのカフェイン源も含め、1日の量を把握し、気になるときは主治医に相談しましょう。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(Mindsガイドラインライブラリ掲載情報)
- 日本高血圧学会「家庭で血圧を測定しましょう」パンフレット
- Mesas AE, et al. The effect of coffee on blood pressure and cardiovascular disease in hypertensive individuals: a systematic review and meta-analysis. Am J Clin Nutr. 2011
- Zhang Z, et al. Habitual coffee consumption and risk of hypertension: a systematic review and meta-analysis of prospective observational studies. Am J Clin Nutr. 2011
- A short-term effect of caffeinated beverages on blood pressure: A meta-analysis of randomized controlled trials. J Funct Foods. 2021
- The effects of caffeine supplementation on blood pressure in adults: A systematic review and dose-response meta-analysis. Clin Nutr ESPEN. 2023
- American Heart Association newsroom「Drinking 2 or more cups of coffee daily may double risk of heart death in people with severe hypertension」(JAHA 2022掲載研究の紹介)
