急に血圧が跳ね上がって激しい頭痛や動悸、大量の発汗を伴う――こうした発作を繰り返す場合、その原因が副腎にできた「褐色細胞腫」という腫瘍であることがあります。頻度としては高血圧全体のごく一部にとどまるまれな病気ですが、原因を特定して治療すれば血圧のコントロールが劇的に改善する可能性があり、見逃せない二次性高血圧の原因のひとつです。この記事では、褐色細胞腫の頻度・症状・診断・治療について解説します。
褐色細胞腫とはどんな病気か
褐色細胞腫は、副腎の内側にある髄質という部分にできる腫瘍で、アドレナリンやノルアドレナリンといったカテコラミンを過剰に分泌します。カテコラミンは血管を収縮させ、心拍数と心収縮力を高めるホルモンで、通常は運動やストレス時に一時的に分泌されますが、褐色細胞腫ではこれが腫瘍から自律的かつ過剰に放出されるため、急激な血圧上昇や動悸などの症状を引き起こします。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでも、二次性高血圧の鑑別が必要な原因のひとつとして表に明記されています(出典:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」二次性高血圧の鑑別表)。
頻度:まれだが見逃せない病気
褐色細胞腫は、高血圧患者全体に占める割合でみると1%未満とされる、非常にまれな病気です。人口10万人あたり6例未満とする報告もあり、希少疾患に分類されています(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「褐色細胞腫」)。厚生労働省の調査に基づく推計では、国内の患者数は約3,000人、平均年齢54歳で男女差はないとされています。副腎に偶然見つかった腫瘍(副腎偶発腫)のなかでは約10%を占めることから、健診の画像検査で副腎に腫瘍が見つかった際には、褐色細胞腫の可能性も念頭に置いた精査が行われます(出典:日本内分泌学会「褐色細胞腫」患者向け情報)。
特徴的な症状:発作型と持続型
褐色細胞腫による症状は、分泌されるホルモンの種類や分泌のパターンによって、大きく2つのタイプに分かれます。アドレナリンを主に分泌するタイプでは、発作的に血圧が急上昇し、頭痛・動悸・発汗過多を伴う「発作型」の症状が典型的で、これがいわゆる褐色細胞腫の「三徴」として知られています。一方、ノルアドレナリンを主に分泌するタイプでは、持続的に血圧が高い状態が続く「持続型」を示すこともあります。
- 突然始まる激しい頭痛
- 動悸、脈が速くなる感覚
- 全身の発汗過多
- 顔面蒼白、不安感、体重減少
これらの症状が発作的に繰り返し起こる場合や、通常の降圧薬治療で血圧が安定しない場合には、褐色細胞腫を含めた二次性高血圧の精査が検討されます。
診断の流れ
診断では、血中・尿中のカテコラミンおよびその代謝産物(メタネフリン、ノルメタネフリン)を測定します。なかでも尿中メタネフリン分画の測定は特異性が高い検査とされています。ホルモン検査で異常が確認された場合は、CTやMRIで腫瘍の位置を確認し、さらに123I-MIBGシンチグラフィーという、腫瘍に集まる性質を持つ薬剤を用いた核医学検査で、腫瘍の性質や転移の有無を評価します(出典:日本内分泌学会)。
治療:手術前の準備が重要
褐色細胞腫の根本的な治療は手術による腫瘍の摘出です。ただし、腫瘍を摘出する手術中は、腫瘍が刺激されてカテコラミンが大量に放出され、血圧が急激に変動する危険があるため、手術前にα遮断薬を少量から時間をかけて増量し、血圧と体液量を十分に管理してから手術に臨むことが必須とされています。動悸が強い場合はβ遮断薬を併用しますが、α遮断薬より先にβ遮断薬だけを使うと、血管収縮作用が抑えられずにかえって血圧が上昇する危険があるため、必ずα遮断薬を先行させます。褐色細胞腫の約1割は悪性であり、約30〜40%は遺伝性(RET、VHL、SDH関連遺伝子など)とされることから、手術後も再発や関連腫瘍の有無について長期的なフォローアップが行われます(出典:国立がん研究センター、日本内分泌学会)。
二次性高血圧としての位置づけ
褐色細胞腫は頻度こそまれですが、他の二次性高血圧の原因(原発性アルドステロン症や腎血管性高血圧など)と同様、原因を特定して治療すれば血圧が大きく改善する可能性がある病気です。急激な血圧の乱高下や、発作的な頭痛・動悸・発汗を繰り返す場合は、二次性高血圧の可能性を念頭に、早めに医療機関へ相談することが勧められます。
なぜ「発作」のように症状が現れるのか
褐色細胞腫の発作は、体位の変化、腹部を圧迫する動作(前かがみになる、排便でいきむなど)、精神的なストレス、特定の薬剤(一部の麻酔薬や造影剤、抗うつ薬など)といったきっかけで誘発されることがあります。腫瘍から間欠的にカテコラミンが放出されることで、数分から数十分にわたり血圧が急上昇し、発作がおさまると血圧も元に戻るという特徴的な経過をたどります。この「発作性」という特徴は、じわじわと進行する本態性高血圧とは大きく異なる点であり、診察の際に発作の起こり方やきっかけを具体的に医師へ伝えることが診断の手がかりになります。
治療後の経過と生活上の注意
手術によって腫瘍を摘出した後は、多くの場合、血圧が正常化したり、それまで使っていた降圧薬が不要になったりします。手術直後は、それまで腫瘍から過剰に分泌されていたカテコラミンが急になくなることで、逆に血圧が下がりすぎたり血糖値が変動したりすることがあるため、術後しばらくは集中的な循環管理が行われます。ただし、長期間にわたり高い血圧にさらされてきた血管や心臓へのダメージが残っている場合は、手術後も血圧を定期的に確認し、必要に応じて降圧薬による管理を続けることがあります。遺伝性が疑われる場合には、血縁者への影響も考慮し、遺伝カウンセリングや遺伝子検査が提案されることもあります。悪性の場合や再発のリスクがある場合は、術後も画像検査やホルモン検査による定期的な経過観察が必要です。
健診で副腎に腫瘍が見つかったら
近年はCTやMRIを受ける機会が増え、他の目的で撮影した画像検査で偶然、副腎に腫瘍が見つかる「副腎偶発腫」が珍しくなくなっています。副腎偶発腫の多くはホルモンを産生しない良性の腫瘍ですが、そのうち約1割が褐色細胞腫であるとされているため、副腎に腫瘍が見つかった場合は、血圧の値にかかわらず、血中・尿中のカテコラミンやメタネフリンを測定してホルモン産生の有無を確認することが推奨されます。無症状のまま経過している褐色細胞腫も存在するため、たとえ発作性の症状に心当たりがなくても、副腎腫瘍を指摘された際には自己判断で経過観察とせず、内分泌代謝内科など専門の医療機関を受診することが大切です。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
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- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
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研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
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