「寝不足が続くと血圧が上がる」という話を聞いたことがある方は多いでしょう。実際、睡眠の時間や質と高血圧の発症リスクとの関係は、複数のコホート研究やメタ解析によって裏付けられています。この記事では、睡眠時間・睡眠の質が血圧にどう影響するのかを整理します。なお、いびきや呼吸停止を伴う睡眠時無呼吸症候群(SAS)と血圧の関係についてはSASと高血圧で詳しく解説していますので、そちらもあわせてご覧ください。
睡眠不足は高血圧発症リスクを高める
11件の前向きコホート研究を統合したメタ解析では、短時間睡眠の人は、十分な睡眠をとっている人に比べて高血圧を発症するリスクが約1.21倍(相対リスク1.21、95%信頼区間1.05〜1.40)高いことが示されています。入眠困難だけでなく、中途覚醒や早朝覚醒といった不眠症状がある場合も、同様にリスクが上昇していました(出典:Hypertension Research, 2013)。より大規模な2024年のメタ解析(16研究、104万人以上)では、睡眠時間が7時間未満の場合のハザード比は1.07、5時間未満ではさらに高い1.11となり、睡眠時間が短いほどリスクが高まる用量反応関係が確認されています。この傾向は女性でより顕著だったと報告されています(出典:PLOS ONE, 2024)。
「寝すぎ」にも注意が必要な場合がある
睡眠は短ければ短いほど悪いというわけではなく、長すぎる睡眠も高血圧リスクと関連することを示す研究もあります。イラン南部で行われたコホート研究では、7〜8時間睡眠の人と比較して、7時間未満・8時間超のいずれの群でも高血圧のリスクが約1.91倍高く、特に50歳以上では女性で2.68倍、男性で2.35倍とリスクが加齢とともに増強する結果が報告されています(出典:BMC Public Health, イラン南部コホート研究)。適切な睡眠時間には個人差がありますが、極端に短い・長いいずれの睡眠パターンも、血圧の観点からは注意が必要と言えます。長時間睡眠と高血圧の関連については、睡眠時間そのものよりも、背景にある別の疾患(睡眠時無呼吸症候群やうつ状態、その他の身体疾患)が影響している可能性も指摘されており、単純に睡眠時間を減らせばよいというわけではない点にも注意が必要です。
夜間血圧が下がらない「ノンディッパー」現象
健康な人では、夜間の睡眠中は日中に比べて血圧が10〜20%程度下がるのが通常のパターンです。しかし睡眠の質が乱れていると、この夜間の血圧低下が十分に起こらない「ノンディッパー」と呼ばれる状態になることがあります。24時間の活動量を記録する研究では、ノンディッパーの人は睡眠効率(就床時間のうち実際に眠れていた割合)が平均76%と、通常のパターンを示す人(87%)より有意に低く、夜間の活動量の多さがノンディッパーになりやすいことと関連していました(出典:Journal of Human Hypertension, 2002)。ノンディッパーは、夜間も血圧が下がりきらないぶん、24時間を通じた血管への負担が大きくなると考えられています。
睡眠を改善すると血圧は下がるのか
睡眠時間を延ばす介入や、不眠に対する認知行動療法(CBT-I)・睡眠衛生指導を行った複数の研究をまとめたメタ解析では、睡眠を延長する介入によって収縮期血圧が平均7.59mmHg、拡張期血圧が4.83mmHg低下したことが報告されています。CBT-Iや睡眠衛生指導でも収縮期血圧が平均3.44mmHg低下しており、こうした効果は、もともとの血圧がⅠ度〜Ⅱ度高血圧の範囲にある人で特に大きく現れる傾向がありました(出典:睡眠介入に関するメタ解析, 2025)。
- 就寝・起床時刻をできるだけ一定に保つ
- 寝る前のスマートフォンやカフェイン摂取を控える
- 寝室の温度・明るさ・音を整え、眠りやすい環境をつくる
- 日中に体を動かし、適度な疲労感を持って就寝する
なぜ睡眠不足が血圧を上げるのか
睡眠不足が血圧に影響する仕組みとしては、いくつかの経路が考えられています。第一に、睡眠時間が短いと交感神経が優位な状態が長く続き、本来夜間に休むはずの心臓や血管が十分に休息できません。第二に、慢性的な睡眠不足はコルチゾールなどのストレスホルモンの分泌を増やし、体を興奮状態に保ちやすくします。第三に、睡眠不足は食欲を調整するホルモンのバランスを乱し、過食や体重増加を招きやすくすることも指摘されており、これが間接的に血圧上昇につながる場合もあります。米国心臓協会(AHA)が心血管の健康を評価する指標「Life’s Essential 8」に睡眠時間を新たに加えたことも、睡眠が血圧をはじめとする心血管の健康に独立した影響を持つと考えられていることの表れといえます(出典:e-ヘルスネット)。
交代勤務・不規則な生活と血圧
夜勤や交代勤務など、睡眠のリズムが不規則になりやすい働き方をしている方は、体内時計と実際の睡眠時間帯がずれることで、睡眠の質が低下しやすい傾向があります。厚生労働省が2023年に公表した「健康づくりのための睡眠ガイド」でも、睡眠の量だけでなく、規則正しい生活リズムを保つことの重要性が強調されています。交代勤務そのものをすぐに変えることが難しい場合でも、勤務明けの休息時間を十分に確保する、遮光カーテンなどで昼間でも眠りやすい環境を整えるといった工夫により、睡眠の質をできる範囲で改善することが、血圧管理の観点からも役立ちます。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
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- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
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- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
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研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
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- メディカルジャパン など多数
