降圧薬を何種類使っても血圧が下がりにくい「治療抵抗性高血圧」のなかには、腎臓に血液を送る動脈そのものが狭くなっていることが原因になっているケースがあります。これが腎動脈狭窄症です。腎臓への血流が減ると、腎臓は「血圧が足りない」と誤認識して血圧を上げるホルモンを分泌し、結果として全身の血圧が上昇します。この記事では、腎動脈狭窄症がなぜ高血圧を引き起こすのか、原因・診断方法・治療の考え方について、臨床試験の結果もふまえて解説します。
腎動脈狭窄症とは何か、なぜ血圧が上がるのか
腎動脈狭窄症は、腎臓に血液を送る腎動脈が狭くなり、腎臓への血流が低下する病気です。腎臓は血流の低下を感知すると、傍糸球体細胞という部分からレニンという酵素を分泌します。レニンはアンジオテンシンIIの産生を促し、アンジオテンシンIIは血管を収縮させるとともに、副腎からアルドステロンの分泌を促してナトリウムと水分の再吸収を増やします。この一連の反応(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系、RAAS)が過剰に働き続けることで、全身の血圧が上昇します。ただし、この機序が血圧上昇に明確につながるには、腎動脈の内腔面積が70%以上狭くなり、狭窄の前後で有意な圧較差が生じることが必要とされています(出典:MSDマニュアル プロフェッショナル版「腎血管性高血圧」)。
原因は2つに大別される
腎動脈狭窄症の原因は大きく2つに分かれます。約80%を占めるのが動脈硬化性のもので、50歳以上の男性に多く、腎動脈の付け根に近い部分(近位1/3)に狭窄が生じやすいのが特徴です。喫煙、糖尿病、脂質異常症など、全身の動脈硬化と共通する危険因子を持つ方に多くみられます。残る約20%は線維筋性異形成(FMD)と呼ばれるタイプで、原因は完全には解明されていないものの遺伝的な要素や喫煙が関与するとされ、40〜60歳代の女性に多く、腎動脈の末梢側(遠位2/3)や分枝に生じやすい点で動脈硬化性のものと対照的です(出典:MSDマニュアル「線維筋性異形成」)。血管造影では、FMDに特徴的な「数珠状(string of beads)」の狭窄と拡張を繰り返す像がみられ、この所見が確定診断の決め手になります。
診断の流れ
腎動脈狭窄症が疑われるのは、若いうちからの高血圧、複数の降圧薬を使っても血圧が下がらない治療抵抗性高血圧、急激な腎機能の悪化、片方の腎臓が明らかに小さいといった場合です。まず行われるのが、体への負担が少ない超音波検査(デュプレックス超音波)で、感度・特異度とも85〜90%程度とされています。より詳しい画像評価にはMRA(MR血管造影)やCTA(CT血管造影)が用いられ、これらは感度・特異度とも95%前後とさらに精度が高くなります。最終的な確定診断には、カテーテルによる腎血管造影が行われることもあります。
- 30歳未満での高血圧発症、または55歳以降の急な高血圧発症
- 3種類以上の降圧薬を使っても目標血圧に届かない
- ACE阻害薬・ARB開始後に腎機能が急に悪化する
- 片方の腎臓が明らかに萎縮している、左右の腎臓の大きさに差がある
治療は薬物療法か、血行再建術か
腎動脈狭窄症の治療をめぐっては、狭くなった血管を風船(バルーン)やステントで広げる「血行再建術」が有効かどうかが長年議論されてきました。2000年代以降、STAR試験(2009年)、ASTRAL試験(2009年、NEJM)、そして947例を対象としたCORAL試験(2014年、NEJM)という大規模な無作為化比較試験が相次いで行われましたが、いずれもステント留置が薬物療法単独と比較して、脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎機能悪化・死亡といった主要な心血管イベントを有意に減らすという結果は得られませんでした。CORAL試験ではステント群で収縮期血圧がわずかに低下したものの、その差はわずか2mmHg程度にとどまっています(出典:Renal Fellow Network「Landmark Trials in Renal Artery Stenosis」)。
こうした結果から、動脈硬化性の腎動脈狭窄症に対しては、まず降圧薬・スタチン・抗血小板薬などによる内科的治療が基本となり、血行再建術は薬物療法で血圧がコントロールできない場合や、腎機能が急速に悪化する場合などに限定して検討されるのが現在の考え方です。一方、線維筋性異形成(FMD)による狭窄では事情が異なり、血管形成術(PTA)によって治癒率90%前後、手術に伴う死亡率1%未満という良好な成績が報告されており、FMDと診断された場合は血行再建術が積極的に検討されます。
日常生活で気をつけたいこと
腎動脈狭窄症と診断された場合、降圧薬のなかでもACE阻害薬やARBは腎血流をさらに低下させる可能性があるため、特に両側性の腎動脈狭窄がある方では慎重な投与と定期的な腎機能・カリウム値のチェックが必要です。自己判断で薬を中止したり増減したりせず、必ず主治医の指示に従ってください。動脈硬化性の原因が背景にある場合は、禁煙、血糖・脂質の管理、減塩を中心とした食事療法など、全身の動脈硬化を進めない生活習慣の見直しも治療の柱になります。
なぜ大規模試験でステントの効果が示されなかったのか
CORAL試験をはじめとする臨床試験でステント留置の優位性が示されなかった背景には、いくつかの理由が指摘されています。まず、腎動脈狭窄があっても必ずしも血圧上昇や腎機能低下の主因になっているとは限らず、多くの患者ではすでに動脈硬化が全身に及んでおり、腎動脈だけを治療しても他の血管の状態や併存疾患の影響を受けて心血管イベントを防ぎきれないと考えられています。また、長年狭窄が続いた腎臓では、血流を再開しても組織の障害がすでに不可逆的になっている場合があり、血行再建の恩恵を受けにくいことも一因とされます。こうした知見から、画一的に全例へ血行再建を行うのではなく、急激な腎機能悪化や薬物治療でコントロール不能な高血圧など、恩恵が見込める患者を見極めて治療方針を個別化することの重要性が強調されるようになりました。
他の二次性高血圧との関係
腎動脈狭窄症は、治療可能な高血圧の原因(二次性高血圧)のひとつです。二次性高血圧にはこのほかにも、副腎からのホルモン過剰分泌が原因となる原発性アルドステロン症や、甲状腺の病気、睡眠時無呼吸症候群など、さまざまな原因があります。若いうちからの高血圧や、複数の薬を使っても効果が乏しい高血圧では、こうした背景疾患がないかを一度確認しておくことで、原因に応じた的確な治療につながります。
線維筋性異形成(FMD)の場合の見通し
動脈硬化性の腎動脈狭窄症と異なり、線維筋性異形成(FMD)は比較的若い女性に多く、進行の仕方も違います。FMDは血管の壁そのものの構造異常であり、全身の動脈硬化とは別のメカニズムで生じるため、腎動脈以外にも頸動脈や四肢の動脈に病変が見つかることがあります。FMDによる腎動脈狭窄は、風船(バルーン)を使った血管形成術(PTA)によって治療成績が良好であることが知られており、多くの場合、治療後は薬の量を減らせたり、なかには降圧薬が不要になったりする方もいます。ただし、FMDと診断された場合は、頸動脈や脳血管に病変がないかもあわせて確認することが勧められています。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
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