高血圧は特定の国だけの問題ではなく、世界中で最も患者数の多い生活習慣病の一つです。世界と日本、それぞれの高血圧の現状を最新のデータで確認しながら、2025年に改訂された日本のガイドラインがどのような方向を示しているのかを見ていきます。
世界における高血圧の負担
世界保健機関(WHO)が2023年に公表した初の高血圧に関する報告書によると、世界の成人の3人に1人が高血圧を有しているとされています。高血圧のある人(140/90mmHg以上、または降圧薬を服用中)の数は、1990年の6億5,000万人から2019年には13億人へと、およそ30年間で倍増しました。高血圧のある人のうち約半数は自分がそうであることに気づいておらず、患者の4分の3以上は低・中所得国に住んでいるとされています(出典:WHO「First WHO report details devastating impact of hypertension and ways to stop it」)。
治療率の低さという世界共通の課題
高血圧は安価で安全な薬によって効果的にコントロールできる病気ですが、WHOの報告書では、高血圧のある人のおよそ5人に4人が十分な治療を受けられていないと指摘されています。各国が治療率を引き上げれば、2023年から2050年までの間に7,600万人の死亡、1億2,000万件の脳卒中、7,900万件の心筋梗塞を防げる可能性があるとも試算されています。高血圧対策への投資は、かけた費用の約18倍の経済的便益を生むとも報告されており、治療率を上げること自体が医療政策上、費用対効果の高い取り組みと位置づけられています。
日本の高血圧の現状
日本国内では、高血圧の患者数は約4,300万人と推計されており、国内で最も患者数の多い生活習慣病です。そのうち、血圧が適切にコントロールされているのは1,200万人程度にとどまり、残る3,100万人は管理不良の状態にあるとされています。この3,100万人の内訳は、自分が高血圧であることに気づいていない人が1,400万人、自覚はあっても治療を受けていない人が450万人、薬物治療を受けていても目標の血圧に達していない人が1,250万人と推計されています。高血圧は自覚症状がほとんどないまま進行するため、国内でも年間10万人以上が高血圧が原因で亡くなっているとされています(出典:日本高血圧学会・日本高血圧協会「一般向け『高血圧治療ガイドライン』解説冊子」)。
JSH2025が示す新しい方向性
日本高血圧学会は2025年8月、6年ぶりとなる新しいガイドライン「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」を公表しました。名称も「治療」だけでなく「管理」を含む形に改められ、治療だけでなく予防や生活習慣改善を含めた包括的な血圧管理を重視する姿勢が明確になっています。今回の改訂では、従来は年齢や合併症の有無によって異なっていた降圧目標が、診察室血圧で130/80mmHg未満、家庭血圧で125/75mmHg未満へと、年齢や合併症の有無にかかわらず統一されました(出典:日本高血圧学会「Key highlights of the Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025(JSH2025)」Hypertension Research誌)。診断基準そのものは140/90mmHg以上(家庭血圧135/85mmHg以上)から変更されていませんが、より早い段階からの管理が推奨される方向に変わってきています。
日本でも変わらず重要な生活習慣の見直し
目標値の考え方が変わっても、食塩摂取量を1日6g未満に抑えることや、日々の生活習慣を見直すことの重要性は変わりません。JSH2025では、尿中のナトリウム・カリウム比を測定して食生活を振り返る方法や、有酸素運動と同程度の効果があるとされるレジスタンス運動なども新たに取り上げられています。
- 減塩の目標は引き続き1日6g未満
- 降圧目標は年齢によらず診察室血圧130/80mmHg未満・家庭血圧125/75mmHg未満に統一
- 家庭血圧の測定を治療方針の判断でより重視する方向
- スマートフォンアプリなどデジタル機器を活用した血圧管理も新たに位置づけられた
まとめ
世界的に見ても日本国内で見ても、高血圧という病気そのものよりも「治療につながっていない人が多い」ことが共通の課題です。正しい血圧の測り方で自分の数値を把握し、減塩のコツなどできることから取り組んでいくことが、世界共通の課題への一番身近な対策になります。
なぜ日本の管理率は伸び悩んでいるのか
日本の高血圧管理が思うように進まない背景には、いくつかの要因が指摘されています。第一に、高血圧は自覚症状がほとんどないため、健診で指摘されても「体調に問題がないから」と受診や治療を先延ばしにしてしまう人が少なくありません。第二に、いったん治療を始めても、血圧が落ち着いてくると自己判断で通院や服薬をやめてしまうケースがあります。第三に、忙しさや通院の手間から、定期受診が途切れがちになることも管理不良の一因とされています。こうした課題に対して、血圧の分類と診断基準を正しく理解し、症状の有無にかかわらず定期的に血圧を確認する習慣を持つことが、管理率を改善する第一歩になります。
日本人特有の高血圧の特徴
日本人の高血圧には、食塩摂取量の多さが深く関わっているとされています。減塩が進んでいる国々と比べると、日本の食文化は醤油や味噌、漬物など塩分を多く含む食品が多く、伝統的な食習慣そのものが高血圧のリスク要因になっている面があります。また、加齢に伴う血圧上昇や、脳卒中の中でも脳出血の頻度が欧米に比べて高い傾向があることも、日本人の高血圧対策を考えるうえで踏まえておきたい特徴です。減塩を中心とした食事の工夫は、こうした日本人特有のリスク要因に直接働きかける、優先度の高い対策といえます。
世界の潮流と日本の対策の方向性
WHOが治療率の向上を各国共通の課題として掲げているように、高血圧対策は個人の努力だけでなく、社会全体での取り組みが重要とされています。日本でも、健診での血圧測定の徹底、減塩を促す食品表示の工夫、職場や自治体での血圧測定機会の提供など、個人の行動変容を後押しする仕組みづくりが進められています。2025年8月に改訂されたJSH2025でも、デジタル技術を活用した血圧管理の推進が新たに盛り込まれており、スマートフォンやウェアラブル端末を通じて日々の血圧を可視化することが、管理率向上の一助になることが期待されています。
血圧の相談ができるクリニック
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
