健康診断で「血圧が高めです」と言われても、痛みもだるさもないため、多くの方は深刻に受け止めにくいものです。高血圧そのものには、自覚症状がほとんどありません。けれども血圧が高い状態が何年も続くとき、その負担をいちばん長く受け止め続けているのは心臓です。
高血圧の合併症というと、脳卒中や心筋梗塞を思い浮かべる方が多いかもしれません。日本高血圧学会がまとめた「高血圧の10のファクト」でも、高血圧は将来の脳卒中・心臓病・腎臓病・認知症の発症リスクを高める病気だと示されています(出典:日本高血圧学会「高血圧の10のファクト~国民の皆さんへ~」)。この「心臓病」のなかで、高齢化が進む日本でいま増え続けているのが心不全です。
この記事では、高血圧がどのような道すじで心不全につながるのか、そのあいだ心臓には何が起きているのか、そして早めに気づくためのサインと、今日から取り組める血圧管理について解説します。
心不全とは?心臓が「急に止まる」病気ではありません
心不全という言葉から、心臓が突然止まってしまう場面を思い浮かべる方は少なくありません。しかし医学でいう心不全は、そうした一瞬の出来事ではなく、心臓のポンプとしてのはたらきが少しずつ追いつかなくなっていく状態を指します。日本循環器学会と日本心不全学会の合同ガイドラインでは、心臓に構造上あるいは機能上の異常が生じてポンプ機能を補いきれなくなった結果、呼吸困難・倦怠感・むくみが現れ、体を動かせる能力が落ちていく臨床症候群と定義されています(出典:日本循環器学会/日本心不全学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」)。
ここで押さえておきたいのは、心不全がひとつの病名ではなく、さまざまな心臓の病気が行きつく先だという点です。心筋梗塞、弁膜症、不整脈、心筋症など、原因になる病気はいくつもあります。そのなかで高血圧は、多くの人がもっとも長い年月にわたってさらされている原因といえます。同ガイドラインによると、日本で心不全のために入院した患者さんの原因疾患を調べた複数の登録研究では、虚血性心疾患に次いで高血圧が2番目に多いことが報告されています。
さらに日本の急性心不全には、欧米と比べて虚血性心疾患が原因である割合が低く、高血圧性心疾患の割合が高いという特徴も指摘されています。心不全の患者数そのものも増えており、日本では2005年の時点で約100万人、2020年には約120万人に達すると推計されていました。血圧の管理が心不全の予防に占める比重は、日本では相対的に大きいと考えられます。
高血圧は心不全のリスクをどのくらい高めるのか
「血圧が高いと心臓に悪い」とは何となく知っていても、それがどの程度のことなのかは実感しにくいものです。この点については、世界中のコホート研究をまとめた系統的レビュー・メタ解析が2024年にヨーロッパ予防循環器学会誌に発表されています。それによると、高血圧がある人は、ない人と比べて心不全を発症するリスクが約71%高いという結果でした(出典:Baffour PK, et al. Blood pressure, hypertension, and the risk of heart failure: a systematic review and meta-analysis of cohort studies. European Journal of Preventive Cardiology, 2024)。
この解析で興味深いのは、「高血圧かどうか」という線引きだけでなく、血圧の数値そのものとリスクが連続的に関係していた点です。収縮期血圧(上の血圧)が20mmHg高くなるごとに心不全のリスクは約28%、拡張期血圧(下の血圧)が10mmHg高くなるごとに約12%高くなると報告されています。つまり、基準値を少し超えたかどうかで急に危険が生じるのではなく、血圧が高いほど心臓への負担が積み重なっていくという関係です。
裏を返せば、血圧を下げた分だけリスクを減らせる余地があるということでもあります。日本高血圧学会は「上の血圧を10mmHg下げると脳卒中・心臓病が約2割減少する」という事実を、国民向けのファクトの一つとして掲げています。10mmHgという幅は、減塩や減量、適切な薬物治療によって十分に届きうる範囲です。
血圧が高いと心臓に何が起きているのか
心臓は、全身に血液を送り出すポンプです。血圧が高いということは、送り出す先の圧力が高いということですから、心臓は毎回の拍動でより強い力を出さなければなりません。1日およそ10万回、それが何年も続きます。
心臓の壁が厚くなる「左室肥大」
強い力を出し続けると、心臓の筋肉は太くなります。重い荷物を運ぶ人の腕の筋肉が発達するのと似た現象で、とくに全身へ血液を送り出す左心室の壁が厚くなります。これを左室肥大と呼びます。健康診断の心電図で「左室高電位」「左室肥大の疑い」と指摘されたことのある方は、この変化を指しています。
筋肉が発達したのだから頼もしい、と感じるかもしれませんが、心臓の場合はそう単純ではありません。左室肥大では、心筋の細胞が大きくなるだけでなく、細胞のあいだや血管のまわりに線維(かたい組織)が増えていくことが知られています。日本高血圧学会の学会誌であるHypertension Researchの解説では、左室肥大が心血管イベントによる病気の発症や死亡の増加と関係していることが指摘され、心臓を高血圧の標的臓器としてとらえる重要性が述べられています(出典:Kawasoe S, Ohishi M. Regression of left ventricular hypertrophy. Hypertension Research, 2024)。
厚くなった心臓は「広がりにくい」心臓になる
心臓のはたらきは、血液を押し出すことだけではありません。押し出す前に、いったん血液をたっぷり受け入れる必要があります。壁が厚くかたくなった心室は、この「広がって受け入れる」動きが苦手になります。受け入れきれなかった血液は手前の肺の血管にたまり、うっ血を起こします。階段や坂道で息が切れるのは、こうした変化が背景にあることがあります。
心不全は、押し出す力が落ちるタイプ(左室駆出率の低下した心不全、HFrEF)と、押し出す力は保たれているのに広がりにくいタイプ(左室駆出率の保たれた心不全、HFpEF)に分けられます。前述の合同ガイドラインでは、このHFpEFについて、もっとも多い原因が高血圧症であると記載されています。日本の登録研究のひとつでは、HFpEFの原因疾患として高血圧が44%を占め第1位でした。高齢化に伴ってHFpEFの割合は増えており、高血圧の管理はこのタイプの心不全と直接つながっています。
なお、心臓の壁が厚くなる原因は高血圧だけではありません。ホルモンの病気や腎臓の病気など、血圧が上がる別の原因が隠れていることもあります。若いのに血圧が高い、薬を飲んでも下がりにくいといった場合には、本態性高血圧と二次性高血圧の違いについても知っておくと、医師との相談がスムーズになります。
心不全は「発症してから」ではなく段階で考える
心不全の診療では、症状が出てから対応するのではなく、その手前の段階から進み具合をとらえる考え方が定着しています。合同ガイドラインでは、心不全の進展を4つのステージに整理しています。
ステージAは、高血圧や糖尿病、動脈硬化性疾患といった危険因子はあるものの、心臓そのものにはまだ器質的な異常がなく、心不全の症状もない段階です。ステージBは、左室肥大などの器質的な変化は生じているけれど、まだ症状はない段階。ステージCは症状が現れた段階で、ステージDは治療が効きにくくなった段階とされています。
この整理を高血圧のある方に当てはめると、血圧が高いと指摘された時点で、すでにステージAに立っているということになります。そして心電図や心エコーで左室肥大を指摘されたなら、それはステージBのサインかもしれません。どちらの段階でも、自覚症状はありません。だからこそ「症状がないから大丈夫」ではなく「症状がないうちに手を打つ」という発想が意味を持ちます。ガイドラインでも、ステージAの治療目標は危険因子のコントロールと器質的心疾患の発症予防、ステージBの目標は器質的心疾患の進展予防と心不全の発症予防と明記されています。
早めに気づきたい心不全のサイン
心不全の初期の変化は、年齢や体力の衰えと区別がつきにくいことが多く、本人も家族も見過ごしがちです。合同ガイドラインの患者教育の項目では、労作時の息切れや疲れやすさの増強、安静にしていても息苦しい、下腿のむくみといった症状に加えて、食欲の低下、吐き気、おなかの張り、体重の増加、倦怠感なども心不全が悪化しているときの症状であることを、本人と家族が理解しておくことが重要だと述べられています。
とくに体重は、家庭で測れるうえに変化が数字ではっきり出るため、有用な手がかりになります。同ガイドラインでは、息切れやむくみ、3日間で2kg以上の体重増加といった悪化の徴候を認めた場合に医療機関を受診する必要があると説明されています。短期間の体重増加は脂肪が増えたのではなく、体に水分がたまってきたサインだからです。
次のような変化に心当たりがある方は、次の受診のときに医師に伝えてみてください。
- 以前は平気だった坂道や階段で、息が切れるようになった
- 夕方になると靴下のあとが深く残る、すねを押すとへこんだままになる
- 横になると息苦しく、枕を高くしたほうが眠りやすい
- 夜中に息苦しさで目が覚めることがある
- 数日で体重が2kg以上増えた
- 食欲が落ちた、おなかが張る、なんとなく疲れが抜けない
これらはいずれも心不全に特有の症状というわけではなく、ほかの原因で起こることもあります。ただ、高血圧を長く指摘されている方でこうした変化が重なる場合は、自己判断で様子を見るよりも、早めに内科で相談したほうが確認の手間は少なくて済みます。息切れや胸の圧迫感が強いとき、冷や汗を伴うときは、心筋梗塞と高血圧の関係で解説しているような緊急性の高い状態のこともあるため、ためらわず救急要請を検討してください。
血圧を下げることで心不全は防げるのか
ここまで読むと、では血圧を下げれば心不全は防げるのか、という疑問が浮かぶと思います。この問いに正面から取り組んだのが、アメリカ国立心肺血液研究所(NHLBI)が支援したSPRINTという大規模臨床試験です。
SPRINTでは、50歳以上で収縮期血圧が130mmHg以上あり、心血管の危険因子を少なくとも1つ持つ9,361人が参加しました(糖尿病のある方と脳卒中の既往がある方は対象外です)。参加者は、収縮期血圧を140mmHg未満に下げる群と、120mmHg未満まで下げる群に分けられました。その結果、より低い目標で治療した群では、心筋梗塞・心不全・脳卒中といった高血圧の合併症が25%少なく、死亡のリスクも27%低いことが示されました(出典:NHLBI「Systolic Blood Pressure Intervention Trial (SPRINT) Study」)。この差が明らかになった時点で、試験は予定より約1年早く終了しています。
ただし、下げれば下げるほどよいという単純な話ではありません。同じ試験では、低い目標の群で失神などの低血圧による症状や、急性腎障害のエピソードが増えたことも報告されています(多くは軽度で腎機能は回復しました)。日本高血圧学会も、降圧目標を年齢によらず診察室血圧130/80mmHg未満としたうえで、やみくもに下げるのではなく個別の状況を考慮し、有害事象や副作用に注意しながら降圧するという方針を示しています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」)。どこまで下げるかは、年齢や併存する病気を含めて主治医と決めていく事柄です。
厚くなった心臓は元に戻るのか
左室肥大は、かつては一度生じたら戻らない変化だと考えられていました。しかし現在では、降圧治療によって軽くなりうることがわかっています。前述のHypertension Researchの解説では、主要な降圧薬はいずれも左室の重さを減らす方向にはたらくことが報告されており、左室肥大が軽くなることは心血管の病気の発症や予後の改善を示す指標になりうると述べられています。
同時に、時間の要素も指摘されています。同解説が紹介した研究では、降圧治療による左室肥大の改善は65歳未満で36.5%、65歳以上で27.5%にみられ、若い患者さんほど改善が起こりやすいという結果でした。高血圧にさらされた期間が短ければ心臓の変化は戻りやすく、長期にわたると線維化が進んで戻りにくくなる可能性がある、という説明がなされています。これは、早い段階で高血圧を見つけて治療を始めることの意味を示すものです。年齢が上がってからでも治療の利益はありますが、始めるのが早いほど選べる余地は広がります。
心臓を守るために今日からできること
心不全の予防という言葉は大がかりに聞こえますが、実際に取り組む内容は、高血圧の管理そのものと大きく重なります。合同ガイドラインにも「心不全予防」という章が置かれ、その最初に挙げられているのが高血圧です。特別なことを追加するというより、いま行っている血圧管理を続けること、そして続けやすい形に整えることが中心になります。
家庭で血圧を測り、記録する
診察室で測る血圧は、その日その瞬間の一点にすぎません。日本高血圧学会は10のファクトのなかで、日本は家庭血圧計が普及しており、家庭での血圧測定が高血圧の診断と治療に役立つことを挙げています。心臓への負担は、日々の血圧の積み重ねで決まります。家庭で測った記録があれば、薬の効き方や、季節・時間帯による変動も含めて医師が判断できるようになります。
測るときは、次の手順を守ると数値が安定します。
- 朝は起床後1時間以内、排尿を済ませ、朝食と服薬の前に測る
- 夜は就寝前に測る
- 背もたれのある椅子に座り、1〜2分静かに待ってから測定を始める
- カフ(腕帯)の位置が心臓の高さに来るようにする
- 測った値は、朝と夜を分けて記録しておく
カフの巻き方や測る回数など、より詳しい注意点は高血圧の診断基準と測定方法|正しい血圧の測り方で解説しています。体重計に乗る習慣も一緒につくっておくと、むくみの変化に気づきやすくなります。
減塩と体重の管理を続ける
塩分は、体に水分を抱え込ませることで血圧を上げ、心臓の負担を増やします。日本高血圧学会によれば、日本人の食塩摂取量は1日およそ10gと世界のなかでも多く、高血圧のある方には1日6g未満がすすめられています。合同ガイドラインでも、慢性心不全の患者さんの減塩目標を1日6g未満としており、目安が一致していることがわかります。
ただし、いきなり6gを目指して食事が味気なくなると長続きしません。汁物を1日1杯までにする、麺類の汁を残す、しょうゆを小皿に取ってつけて食べる、といった置き換えから始めるほうが現実的です。具体的な工夫は高血圧と食事の関係|減塩のコツにまとめています。なお高齢の方では、行きすぎた減塩が食欲を落として栄養状態の悪化につながることがあるため、調整が必要だとガイドラインでも注意が促されています。
体重、運動習慣、飲酒、喫煙、睡眠も、それぞれ血圧と心臓に影響します。合同ガイドラインの心不全予防の章でも、高血圧に続いて冠動脈疾患、肥満・糖尿病、喫煙、アルコール、身体活動が並べられています。どれも一度に完璧にする必要はなく、いま一番変えやすいものから手をつけるほうが結果的に続きます。
治療を自己判断で中断しない
血圧が下がってきたので薬をやめた、という話はしばしば聞かれます。しかし血圧が下がっているのは薬が効いているからであることが多く、中断すれば元の水準に戻ります。合同ガイドラインでは、服薬をはじめとする治療の中断が心不全悪化の誘因のひとつであり、死亡や再入院のリスクを高めることが指摘されています。日本高血圧学会も、血圧を下げる薬は安価で安全性が確認されており、副作用よりも血圧を下げる利益のほうが大きいことがほとんどだとしています。副作用が気になるときは、やめる前に主治医へ相談すると、種類や量を調整できる場合があります。
まとめ
高血圧と心不全は、遠い場所にある別々の話ではなく、ひとつづきの時間の上にあります。血圧が高い状態が続くと心臓の壁は厚くかたくなり、広がりにくくなり、やがて息切れやむくみとして表に出てきます。その途中の長い期間、自覚症状はほとんどありません。
- 高血圧がある人は、心不全を発症するリスクが約71%高いと報告されている
- 血圧が高いほどリスクは連続的に上がるため、少し下げることにも意味がある
- 心臓の壁が厚くなる左室肥大は、症状が出る前の重要なサインになる
- 降圧治療によって左室肥大は軽くなりうるが、早い段階ほど改善が起こりやすい
- 息切れ、むくみ、3日間で2kg以上の体重増加は、早めに受診する目安になる
- 家庭血圧の記録、減塩、体重管理、治療の継続が、そのまま心不全の予防につながる
健康診断で血圧を指摘されている方、心電図で左室肥大の疑いと書かれたことがある方は、まだ症状がない今こそ手を打ちやすい時期にいます。気になる変化があれば、次の受診を待たずに内科で相談してみてください。
参考文献
- 日本高血圧学会「高血圧の10のファクト~国民の皆さんへ~」
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」
- 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」
- Baffour PK, Jahangiry L, Jain S, Sen A, Aune D.「Blood pressure, hypertension, and the risk of heart failure: a systematic review and meta-analysis of cohort studies」European Journal of Preventive Cardiology, 2024;31(5):529-556
- Kawasoe S, Ohishi M.「Regression of left ventricular hypertrophy」Hypertension Research, 2024;47:1225-1226
- National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI)「Systolic Blood Pressure Intervention Trial (SPRINT) Study」
監修
監修:鎌形博展 株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
専門科目 救急・地域医療
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
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