高血圧と腎臓病は、どちらか一方が悪化するともう一方も進行しやすくなる「悪循環」の関係にあります。慢性腎臓病(CKD)は初期にはほとんど自覚症状がなく、気づかないうちに進行して腎不全や透析治療が必要になることもある病気です。日本腎臓学会の公式情報によると、日本の成人の約5人に1人がCKDに該当し、80歳代では2人に1人にのぼるとされています(出典:日本腎臓学会「急性腎障害と慢性腎臓病」)。この記事では、高血圧と腎臓病の関係、CKDの進行を防ぐための降圧目標や生活習慣について解説します。
高血圧と腎臓病はなぜ悪循環になるのか
腎臓は、体内の水分やナトリウムの排出量を調整することで血圧をコントロールする重要な臓器です。しかし高血圧が続くと、腎臓の細い血管に負担がかかり続け、血管が硬く狭くなる「腎硬化症」という状態が進行します。腎硬化症は日本において末期腎不全(透析導入)の原因の第2位を占めるとされています。腎臓の機能が低下すると、今度は水分・ナトリウムの排出調整がうまくいかなくなり、体内の水分量が増えて血圧がさらに上昇します。この「高血圧が腎臓を傷め、腎臓が傷むと血圧が上がる」という悪循環が、CKDを進行させる大きな要因になっています(出典:同学会)。
CKD患者の降圧目標
2025年に改訂された日本高血圧学会のJSH2025と、日本腎臓学会のCKD診療ガイドラインは、CKD患者の降圧目標について統一した方針を示しています。基本的な降圧目標は診察室血圧130/80mmHg未満(家庭血圧では125/75mmHg未満)とされていますが、糖尿病を合併しておらず、尿蛋白が陰性のCKDでは、まず140/90mmHg未満を中間的な目標として慎重に降圧を進めることが推奨されています(出典:日本腎臓学会「CKD患者の血圧管理に関するステートメント」日腎会誌68(5):253-258)。この方針は、AASK試験、SPRINT試験、STEP試験、BPROAD試験など、複数の大規模臨床試験の結果を踏まえてまとめられたものです。
薬物療法:尿蛋白の有無で選択が変わる
CKD患者に対する降圧薬の選択は、尿蛋白(アルブミン尿)の有無によって異なります。尿蛋白が陽性の場合は、腎臓の糸球体にかかる圧力を下げて腎保護効果が期待できるRAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)が第一選択とされています。一方、尿蛋白が陰性の場合は、RAS阻害薬に加えてカルシウム拮抗薬や利尿薬のいずれかも選択肢となり、患者の状態に応じて使い分けられます(出典:日本腎臓学会ステートメント)。RAS阻害薬は腎機能を保護する一方で、導入初期に腎機能の数値が一時的に変動したり、カリウム値が上昇したりすることがあるため、開始後は定期的な採血によるモニタリングが欠かせません。
生活習慣でできること
CKDの進行を抑えるためには、薬物療法とあわせて生活習慣の見直しが重要です。
- 減塩:1日6g未満を目標に、食塩摂取量を見直す
- 適正体重の維持と、無理のない範囲での有酸素運動
- 禁煙:喫煙は腎臓の血管障害を進行させる独立した危険因子
- 定期的な採血・尿検査で腎機能(eGFR)と尿蛋白の推移を確認する
また、CKD患者では診察室では正常なのに家庭血圧が高い「仮面高血圧」の頻度が高いことが指摘されており、医療機関での測定だけに頼らず、自宅での朝晩の血圧測定を習慣にすることが、血圧管理の精度を高めるうえで重要です(出典:日本腎臓学会)。
定期検査の重要性
CKDは初期にはほとんど自覚症状が出ないため、健診で指摘されたeGFR(推算糸球体濾過量)や尿蛋白の異常を放置しないことが早期発見の鍵になります。糖尿病を合併している方や、高血圧の罹病期間が長い方は特に腎機能低下のリスクが高いため、年に1回以上は腎機能検査を受けることが勧められます。腎臓専門医への紹介が必要となる目安としては、eGFRの急激な低下、高度の尿蛋白、原因不明の腎機能悪化などが挙げられ、こうした場合は高血圧専門医と腎臓専門医が連携して治療にあたることもあります。
腎臓の血圧調節メカニズムをもう少し詳しく
腎臓は、毎日大量の血液をろ過して尿をつくる過程で、体内のナトリウムと水分の量を精密に調整しています。ナトリウムが体内に多く残ると水分も一緒に留まりやすくなり、血液量が増えることで血圧が上がります。また腎臓は、血圧や腎血流量が低下したと感知すると、レニンというホルモンを分泌し、アンジオテンシンIIやアルドステロンの産生を促す「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)」を活性化させます。この仕組みは本来、血圧が下がりすぎないようにするための防御反応ですが、腎機能が低下した状態ではこの調節が過剰に働きやすくなり、かえって血圧を押し上げてしまうことがあります。RAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)が腎保護と降圧の両方に有効とされているのは、まさにこのRAASの働きを抑えることで、悪循環を断ち切る効果が期待できるためです。
CKDのステージと治療方針の変化
CKDはeGFR(推算糸球体濾過量)と尿蛋白の程度によって重症度が分類され、ステージが進むにつれて治療方針も変化します。早期のステージでは主に生活習慣の改善と降圧薬による腎保護が中心ですが、腎機能がさらに低下すると、カリウムやリンといった電解質の管理、貧血治療、たんぱく質摂取量の調整など、より専門的な管理が必要になります。腎機能の低下が進行し、末期腎不全に近づいた場合には、透析療法や腎移植についての情報提供や準備も含めて、腎臓専門医による計画的な診療が重要になります。高血圧の段階から腎機能を定期的にチェックしておくことは、こうした将来の治療選択の幅を広げることにもつながります。
食事療法のポイント
CKDの食事療法は、減塩に加えて、病期に応じたたんぱく質・カリウム・リンの摂取量の調整が必要になることがあります。ただし、これらの制限は自己判断で厳しく行うと栄養不足や体力低下を招く危険があるため、必ず主治医や管理栄養士の指導のもとで行うことが大切です。特にたんぱく質制限は、腎機能のステージや栄養状態によって推奨される量が大きく異なるため、画一的な情報だけを参考にせず、定期的な採血データをもとに個別に調整していく必要があります。水分摂取についても、脱水は腎血流量を低下させて腎機能を悪化させる一方、心不全を合併している場合は過剰摂取が症状を悪化させることがあり、体調や検査値に応じたバランスが求められます。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
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- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
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研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
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