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高血圧と脳卒中の関係|脳梗塞・脳出血を防ぐ血圧管理

2026 9/08
臨床医学
2026年9月8日
高血圧と脳卒中の関係|脳梗塞・脳出血を防ぐ血圧管理

健康診断で血圧が高いと指摘されたとき、多くの方が真っ先に思い浮かべるのは「脳卒中が怖い」という漠然とした不安ではないでしょうか。実際、高血圧と脳卒中の結びつきは、生活習慣と病気の関係の中でも特にはっきりしたものです。しかし、「なぜ血圧が高いと脳の血管が傷むのか」「どこまで下げれば目標に届いたと言えるのか」までを説明できる方は多くありません。この記事では、脳卒中という病気の全体像から、血圧との関係を裏づける日本人のデータ、そして日々の血圧管理で何を目標にすればよいのかまでを、順を追って整理していきます。

目次

脳卒中とは?「詰まる」病気と「破れる」病気

脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、脳の一部が急に働かなくなる病気の総称です。大きく分けると、血管が詰まって血流が途絶える「脳梗塞」、脳の内部の血管が破れる「脳出血」、脳の表面を走る動脈のこぶ(脳動脈瘤)が破れる「くも膜下出血」の三つがあります。このうち脳梗塞が全体の過半を占め、脳出血は現在も全脳卒中の約2割を占めています(出典:国立循環器病研究センター「脳卒中」)。

同センターの解説によれば、脳卒中は2021年の厚生労働省人口動態統計で日本人の死因の第4位にあたり、さらに寝たきりになる原因としては第1位の病気です。命に関わるだけでなく、その後の生活の質を大きく左右する点が、脳卒中という病気の重さを物語っています。脳梗塞はさらに、脳の細い血管が詰まる「ラクナ梗塞」、太い血管の動脈硬化が原因の「アテローム血栓性脳梗塞」、心臓にできた血栓が脳に飛ぶ「心原性脳塞栓」などに分けられ、それぞれ原因も予防の考え方も異なります。血圧が特に深く関わるのは、このうち前の二つと、脳出血です。

なぜ高血圧が脳卒中の引き金になるのか

血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の内壁を押す力のことです。この力が高い状態が何年も続くと、血管の壁は絶えず張力にさらされ、内側を覆う内皮細胞が傷つきます。傷ついた壁には脂質や炎症細胞が入り込み、壁が厚く硬くなっていく——これが動脈硬化です。動脈硬化が進んだ血管は内腔が狭くなるうえ、表面にできたプラークが破れると血の塊(血栓)ができ、そこで血流が止まってしまいます。脳の太い血管や頸動脈でこれが起きたものが、アテローム血栓性脳梗塞です。血管が硬く狭くなっていく過程については動脈硬化と高血圧の関係を解説した記事でも詳しく扱っています。

一方、脳の深い場所には、太い動脈から直角に枝分かれした「穿通枝(せんつうし)」と呼ばれる細い血管が走っています。この血管は、太い血管の圧力をほとんど和らげずに受け止める構造になっているため、高い血圧の影響を最も強く受けます。長年の高血圧で穿通枝の壁が変性すると、詰まればラクナ梗塞に、破れれば脳出血になります。国立循環器病研究センターは、脳出血の最大の危険因子は高血圧であり、高血圧の予防・治療が脳出血の予防に極めて重要だと明記しています。同センターは脳卒中全体の危険因子についても、加齢と高血圧を最大のものとして挙げ、血圧が高いほど脳卒中の発症率が直線的に高まることを示しています。

つまり高血圧は、「血管を詰まらせる方向」と「血管を破る方向」の両方から脳卒中に関わっているということです。降圧薬をはじめとする治療の進歩によって、20世紀後半に脳出血の発症頻度は大きく減りました。ただし近年は減少が下げ止まっており、日本を含む東アジアでは欧米より脳出血が多いことも知られています。日本人にとって血圧管理の優先度が高いのは、こうした背景があるためです。

日本人7万人のデータが示す、血圧と脳卒中の近さ

血圧と脳卒中の関係は、日本国内の大規模なデータでも確かめられています。全国の複数のコホート研究を統合したEPOCH-JAPAN研究では、約7万人(平均年齢59.1歳)を平均9.9年間追跡し、血圧の分類が上がるにつれて脳心血管疾患による死亡リスクが段階的に高くなることが示されました。この傾向は、65歳未満の非高齢者でより明瞭でした(出典:東邦大学「高血圧予防・管理で脳心血管疾患死亡を4割抑制できると試算」/論文はHypertension Research誌に掲載)。

この研究で特に注目したいのが、集団寄与危険割合という指標です。これは「もし集団からその危険因子がなくなったら、どれだけの死亡が減る計算になるか」を示すもので、解析の結果、脳心血管疾患による死亡の41.1%が高血圧に起因すると推定されました。年代別では40〜64歳で51.3%、65〜89歳で29.5%です。さらに疾患別に見ると、高血圧の影響が最も顕著だったのが脳出血で、脳出血による死亡の57.1%が高血圧に起因すると推定されています。日本人の脳出血のかなりの部分は、血圧という一点に集約されうる、と言い換えることもできます。

もう一つ重要なのは、未治療の方に限って解析したとき、脳心血管疾患死亡数の増加に最も寄与していたのが、血圧が飛び抜けて高い層ではなくI度高血圧という比較的軽い層だったという点です。血圧が極端に高い人は数が少ないのに対し、「少し高いだけ」の人は数が圧倒的に多いため、集団全体で見ると後者の積み重ねのほうが大きくなります。ご自身の血圧がどの分類にあたるのかを確認したい方は、正常血圧の範囲と高血圧の基準値をまとめた記事もあわせてご覧ください。「140を少し超えた程度だから様子を見よう」という判断が、実は集団としては最も重い意味を持っている——この研究はそのことを示しています。

血圧を下げると脳卒中はどれくらい減るのか

では、血圧を下げることでどの程度の変化が期待できるのでしょうか。国立循環器病研究センターは、これまでの研究から、降圧療法によって脳卒中の発症率が30〜40%減少することが明らかになっていると解説しています。同センターは、血圧を下げることが脳卒中予防において効果的な方法であるとし、一般的な目標として130/80mmHg未満を挙げています。加えて、血圧が大きく変動すること自体も悪影響であるため、値を下げるだけでなく安定させることが望ましいとされています。

この「変動を抑える」という視点は、日々の生活の中では見落とされがちです。急な寒暖差や強い痛み、極度の緊張などで血圧が一時的に跳ね上がる場面は、誰の生活の中にもあります。そうした瞬間に何が起きているのか、どう備えればよいのかは血圧の急上昇を防ぐ方法を扱った記事で整理していますので、冬場の入浴や早朝の外出が気になる方は参考にしてください。

目標はどこか——「130/80mmHg未満」という基準

日本高血圧学会は、2025年8月29日に『高血圧管理・治療ガイドライン2025』を発行しました。名称が従来の「高血圧治療ガイドライン」から「高血圧管理・治療ガイドライン」へ改められたことからも分かるように、治療だけでなく予防や生活習慣の改善を含めた、より広い枠組みで血圧を捉える内容になっています。構成は「国民の血圧管理」「高血圧患者の管理・治療」「特殊な病態および二次性高血圧の管理・治療」の三部からなり、高血圧性臓器障害の診断と治療を扱う章の中で、脳血管障害を含む臓器の障害が整理されています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン」)。

このガイドラインで大きく変わったのが降圧目標です。従来は年齢や合併症によって目標値が分かれていましたが、2025年版では原則として年齢を問わず診察室血圧130/80mmHg未満を基本目標とする形に整理されました。診察室で測る値だけでなく、家庭で測った血圧を重視する方向性も引き継がれています。家庭血圧は測り方によって数値が変わりやすいため、腕の高さやカフの巻き方、測定前の安静時間といった基本を押さえておくことが前提になります。具体的な手順は高血圧の診断基準と正しい血圧の測り方を解説した記事にまとめています。

なお、生活習慣を見直しても血圧がなかなか下がらない場合や、若い年代で急に血圧が高くなった場合には、ホルモンや腎臓の病気が背景にある二次性高血圧の可能性も考えられます。原因のある高血圧はその原因への治療が中心になるため、脳卒中予防という観点からも早く見分けることに意味があります。詳しくは本態性高血圧と二次性高血圧の違いを解説した記事をご覧ください。

すでに脳卒中を起こした方の血圧管理

一度脳卒中を起こした方にとって、次の一回を防ぐことは何よりの課題です。日本国内で行われたRESPECT試験は、過去3年以内に脳卒中の既往がある1,280人を、140/90mmHg未満を目指す標準治療群と、120/80mmHg未満を目指す厳格治療群に無作為に割り付けて比較した臨床試験です。試験単独では、厳格治療群の再発は標準治療群より少ない傾向にとどまり、統計学的にはっきりした差は示されませんでした。しかし、過去の三つの類似試験と合わせてメタ解析を行うと、厳格な降圧のほうが再発が少ないという結果になり(相対危険0.78、95%信頼区間0.64〜0.96)、130/80mmHg未満という目標を支持する根拠として位置づけられています(出典:Kitagawa K, et al. JAMA Neurol. 2019;76(11):1309-1318.)。

この方向性は、国際的にも共通の見解になりつつあります。国立循環器病研究センターの古賀政利部長は、日本高血圧学会JSH2025、米国心臓協会AHA2025、欧州心臓病学会ESC2024、欧州高血圧学会ESH2023という日米欧の主要ガイドラインを比較検討し、慢性期の再発予防については「脳梗塞や脳出血など脳卒中の種類を問わず、収縮期血圧130mmHg未満への厳格な管理」が世界標準として一致していることを整理しました(出典:国立循環器病研究センター「国循が脳卒中患者の血圧管理における世界標準の共通見解を明確化」)。

ただし、ここには重要な注意点があります。同じレビューでは、脳梗塞で両側の頸動脈に強い狭窄がある方や、脳の主幹動脈が詰まっている方では血圧を下げすぎないよう注意が必要で、めまいやふらつきが出たり悪化したりする場合には降圧薬の減量や変更が必要になると指摘されています。また、発症直後の急性期は慢性期とはまったく考え方が異なり、血栓溶解療法や血栓回収療法を行わない急性期脳梗塞では原則として降圧を行わない、急性期脳出血では収縮期血圧140mmHg程度を目指しつつ下げすぎは避ける、といった具合に、状況ごとに方針が細かく分かれます。だからこそ、脳卒中の既往がある方の血圧は自己判断で薬を増減せず、必ず主治医と相談しながら調整していく必要があります。

脳卒中を疑うサイン——「FAST」を覚えておく

血圧を管理していても、脳卒中の可能性がゼロになるわけではありません。だからこそ、万一のときに気づけるよう、代表的なサインを知っておくことが大切です。脳卒中の症状は「突然」始まるのが特徴で、日本脳卒中協会や米国の脳卒中キャンペーンでは、次の3項目の頭文字を取った「FAST」という覚え方が使われています。

  • F(Face・顔):顔の片側がゆがむ、笑顔を作ると左右が対称にならない
  • A(Arm・腕):両腕を前に上げて保てない、片方だけ下がってくる
  • S(Speech・言葉):呂律が回らない、言葉が出ない、相手の言うことが理解できない
  • T(Time・時間):上のいずれかがあれば発症時刻を確認し、ただちに救急車を呼ぶ

このほか、力はあるのに立てない・歩けない、片方の目が見えない、視野の半分が欠ける、経験したことのない激しい頭痛といった症状も、脳卒中を疑うきっかけになります。国立循環器病研究センターは、脳梗塞では発症から4.5時間以内の方だけに行えるt-PA静注療法という治療があり、太い血管が詰まっている場合にはカテーテルで血栓を取り除く治療も行われると説明しています。いずれも早いほど有効性が高く、「Time is brain(時間は脳である)」という言葉があるほど、時間との勝負になります。夜中に症状が出た場合も、朝まで様子を見るのではなく、迷わず救急車を呼ぶことが勧められています。

脳卒中を遠ざけるために、家庭でできること

脳卒中予防としての血圧管理は、特別なことをするというより、日常の中に測定と記録の習慣を組み込むことから始まります。診察室で年に数回測るだけでは、朝だけ血圧が高い、あるいは診察室でだけ高くなるといった変化を捉えきれません。家庭血圧を続けて記録しておくと、主治医が薬の調整を判断する材料としても役立ちます。測定は次のような流れで行います。

  • 朝は起床後1時間以内、排尿を済ませ、朝食と服薬の前に測る
  • 夜は就寝前、入浴や飲酒の直後を避けて測る
  • 背もたれのある椅子に座り、1〜2分安静にしてから測定を始める
  • カフは心臓の高さに合わせ、上腕に直接巻く(厚手の衣類の上からは巻かない)
  • 測定値は高い日も低い日もそのまま記録し、都合のよい値だけを残さない

生活習慣の面では、食塩の摂取量を減らすことが血圧管理の基本になります。国立循環器病研究センターも、塩分を多く摂るほど血圧は高くなるとして、食事の塩分を少なくすることの重要性を挙げています。あわせて、同センターは脳卒中の危険因子として糖尿病、脂質異常症、心房細動、喫煙、大量飲酒を挙げており、血圧だけを見ていればよいわけではないことも押さえておきたい点です。特に喫煙は血圧を上げるだけでなく動脈硬化を進め、脳梗塞やくも膜下出血の危険因子になります。禁煙後5〜10年で脳卒中のリスクが低下することも示されています。減塩の進め方については高血圧と食事の関係を扱った記事で具体的に紹介しています。

また、脳卒中は起こした後の後遺症も生活に大きく影響します。脳卒中をきっかけに認知機能が低下する脳血管性認知症は、認知症全体の約20〜30%を占めるとされ、中年期からの血圧管理はこの面でも意味を持ちます。血圧と認知機能の関係については高血圧と認知症の関係を解説した記事もあわせてご覧ください。

まとめ

高血圧と脳卒中の関係を、要点として整理します。

  • ✔ 脳卒中には「詰まる」脳梗塞と「破れる」脳出血・くも膜下出血があり、高血圧は両方に関わる
  • ✔ 日本人7万人のデータでは、脳心血管疾患死亡の41.1%、脳出血死亡の57.1%が高血圧に起因すると推定された
  • ✔ 死亡数の増加に最も寄与していたのは、血圧が極端に高い層ではなくI度高血圧の層だった
  • ✔ 『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では、原則として診察室血圧130/80mmHg未満が基本目標とされた
  • ✔ 脳卒中の既往がある方の慢性期も収縮期130mmHg未満が世界標準だが、下げすぎへの注意が必要で、調整は必ず主治医と行う
  • ✔ 突然の顔・腕・言葉の異常(FAST)に気づいたら、時刻を確認してすぐ救急車を呼ぶ

血圧の数値は、毎日測っていても大きな変化がないように見えることがほとんどです。それでも、その積み重ねが十年後、二十年後の脳の血管の状態を決めていきます。健康診断で指摘されたまま受診していない方、家庭血圧を測り始めたものの目標がはっきりしないままの方は、この機会に一度かかりつけ医に相談してみてください。

参考文献

  • 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(2025年8月29日発行)
  • 国立循環器病研究センター「脳卒中」(患者の皆様へ・循環器病について知る)
  • 国立循環器病研究センター「国循が脳卒中患者の血圧管理における世界標準の共通見解を明確化」(2026年1月22日)
  • Koga M. Blood Pressure Management in Stroke: Comparative Review of the 2025 AHA/ACC, 2024 ESC, 2023 ESH, and 2025 JSH Guidelines. Hypertension Research.
  • 東邦大学「高血圧予防・管理で脳心血管疾患死亡を4割抑制できると試算~日本人7万人の10年追跡データで明らかに~」(2025年2月20日)
  • Satoh M, et al. Long-term risk of cardiovascular mortality according to age group and blood pressure categories of the latest guideline. Hypertension Research. 2025.
  • Kitagawa K, et al. Effect of Standard vs Intensive Blood Pressure Control on the Risk of Recurrent Stroke: A Randomized Clinical Trial and Meta-analysis. JAMA Neurol. 2019;76(11):1309-1318.

監修

監修:鎌形博展 株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長

専門科目 救急・地域医療

所属・資格

  • 日本救急医学会
  • 日本災害医学会所属
  • 社会医学系専門医
  • 日本医師会認定健康スポーツ医
  • 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
  • ICLSプロバイダー(救命救急対応)
  • ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
  • Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
  • FCCSプロバイダー(集中治療対応)
  • MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)

研究実績

  • 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
  • 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016

メディア出演

  • フジテレビ 『イット』『めざまし8』
  • 共同通信
  • メディカルジャパン など多数

SNSメディア

  • Youtube Dr.鎌形の正しい医療ナビ https://www.youtube.com/@Dr.kamagata
  • X(twitter) https://x.com/Hiro_MD_MBA

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血圧の学校編集部は、医師・医学生・看護師・臨床工学技士・理学療法士・医療事務によって構成されています。すべての記事は鎌形博展医師(株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長)の監修のもとに制作しています。

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