高血圧の原因の多くは生活習慣や加齢が積み重なった「本態性高血圧」ですが、なかには副腎から出るホルモンが過剰になることで血圧が上がる「原発性アルドステロン症」が隠れていることがあります。治療抵抗性の高血圧の一因として近年注目されており、原因を特定して適切に治療すれば血圧が改善したり、薬を減らせたりすることも少なくありません。この記事では、原発性アルドステロン症がどのくらいの頻度で見つかるのか、カリウムとの関係、診断・治療の考え方を解説します。
原発性アルドステロン症とはどんな病気か
副腎から分泌されるアルドステロンというホルモンは、腎臓でのナトリウムの再吸収を促し、体内の水分量や血圧を調整する働きを持っています。原発性アルドステロン症では、副腎の腫瘍(腺腫)や両側副腎の過形成などによってアルドステロンが自律的に過剰分泌され、ナトリウムと水分の再吸収が過剰になることで血圧が上昇します。同時にカリウムやマグネシウムの排出が促進されるため、低カリウム血症を伴うこともあります。
高血圧患者のどのくらいに見つかるのか
原発性アルドステロン症は、以前は「まれな病気」と考えられていましたが、近年の研究では決して少なくないことがわかっています。日本内分泌学会の診療ガイドラインでは、高血圧患者における有病率はプライマリケア施設で3〜12%、専門施設では5〜29%と報告されており、施設や対象によって幅があります(出典:日本内分泌学会「原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021」)。日本人292名を対象とした研究でも、血圧の重症度が上がるほど確定診断される割合が高くなる傾向が示され、正常高値血圧で6.8%、Ⅰ度高血圧で3.3%、Ⅱ度高血圧で3.1%という結果が報告されています(出典:Takeda Y, et al. Hypertension Research. 2011)。
「カリウム低下」は必ず起こるわけではない
原発性アルドステロン症という病名から「必ず低カリウム血症を伴う」と誤解されがちですが、実際には血清カリウム値が正常範囲にとどまる患者も多く報告されています。先述のTakedaらの研究では、確定診断された患者の平均血清カリウム値は4.46±0.48 mEq/Lと、正常範囲内でした。つまり、健診でカリウム値に異常を指摘されなかったからといって原発性アルドステロン症を否定することはできず、血圧の状態や他の危険因子から総合的にスクリーニングの必要性を判断することが重要です。
スクリーニングが推奨される人
日本内分泌学会のガイドラインでは、以下のような方に対してスクリーニング検査(アルドステロン/レニン比、ARR)を行うことが推奨されています。
- 複数の降圧薬を使っても血圧が下がらない治療抵抗性高血圧
- 40歳未満で発症した高血圧
- 未治療で収縮期150mmHg以上・拡張期100mmHg以上の高血圧
- 利尿薬投与例を含む低カリウム血症を伴う高血圧
- 副腎に腫瘍(偶発腫)が見つかった高血圧患者
- 若年での脳卒中の既往、睡眠時無呼吸症候群の合併
スクリーニングでは、血漿アルドステロン濃度(PAC)とレニン活性(PRA)の比(ARR)を測定し、現行のCLEIA法ではARR≧200かつPAC≧60pg/mLで陽性、100〜200は境界域とされます(出典:日本内分泌学会ガイドライン)。陽性の場合は、生理食塩水負荷試験などの確定診断検査に進みます。
治療:手術か、薬物療法か
原発性アルドステロン症と確定診断された場合、副腎の片側だけに腫瘍がある「片側性」では、副腎摘出術(腹腔鏡下手術が主流)が第一選択とされています。手術によってアルドステロンの過剰分泌が根本的に是正されるため、血圧が正常化したり、降圧薬が不要になったりする方も少なくありません。一方、両側の副腎に異常がある「両側性」の場合や、手術を希望しない・受けられない場合には、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA、スピロノラクトンやエプレレノンなど)を中心とした薬物療法が行われます。日本内分泌学会のガイドラインでは、血圧改善効果は一般に副腎摘出術のほうがMRAによる薬物療法より優れるとされています(出典:同ガイドライン)。
放置するとどうなるか
原発性アルドステロン症による高血圧は、同じ血圧の値であっても、通常の本態性高血圧に比べて脳卒中や冠動脈疾患などの心血管合併症のリスクが高いことが指摘されています。アルドステロンそのものが血管や心臓に直接的な障害作用を持つためと考えられており、血圧の数値だけでなく、背景にある原因を突き止めて根本的に治療することの意義が大きい病気です。多くが未診断のまま経過しているとも指摘されており、本態性高血圧と二次性高血圧の違いに当てはまる方は、一度スクリーニングを検討する価値があります。
確定診断までの流れ
スクリーニング検査でARRが陽性となっても、それだけで原発性アルドステロン症と確定するわけではありません。塩分摂取量や体位、服用中の降圧薬(特にMRAやβ遮断薬はホルモン値に影響するため一時的に中止・変更することがあります)によって数値が変動するため、確定診断には生理食塩水負荷試験、カプトプリル負荷試験、フロセミド立位試験などの負荷試験のいずれかを行い、アルドステロンの自律的な過剰分泌を証明する必要があります。さらに片側性か両側性かを見極めるために、副腎CTに加えて副腎静脈サンプリング(AVS)という、左右の副腎静脈から直接採血してホルモン値を比較する専門的な検査が行われることもあります。
日常生活での注意点
原発性アルドステロン症の診断や経過観察中は、血圧だけでなく血清カリウム値の推移にも注意が必要です。低カリウム血症がある場合は、脱力感、筋肉のけいれん、不整脈などの症状が出ることがあるため、自覚症状がなくても定期的な採血でカリウム値を確認します。減塩は原発性アルドステロン症においても血圧管理の基本ですが、ナトリウム摂取量を減らすとアルドステロンの分泌がさらに刺激される場合があるため、治療方針は主治医と相談しながら進めることが大切です。手術やMRAによる治療を開始した後も、血圧やカリウム値が安定するまでは定期的な通院と検査が推奨されます。
なぜ見逃されやすいのか
原発性アルドステロン症が見逃されやすい理由の一つは、症状のほとんどが「血圧が高い」という一般的な高血圧と変わらず、低カリウム血症のようなわかりやすい手がかりが必ずしも現れないことにあります。健診で血圧が高いと指摘されても、多くの医療機関ではまず生活習慣の改善や一般的な降圧薬による治療から始めるため、背景に原発性アルドステロン症が隠れていても、スクリーニング検査を行わなければ気づかれないまま経過することになります。特に若くして高血圧と診断された方、家族に高血圧や脳卒中の既往が多い方、複数の薬を使っても血圧が下がりにくいと感じている方は、一度主治医にスクリーニング検査について相談してみる価値があります。早期に見つかれば、手術によって薬を減らせたり、将来の心血管合併症のリスクを下げられたりする可能性があります。
血圧の相談ができるクリニック
本サイトを運営する株式会社ENの関連法人・医療法人社団季邦会では、首都圏5拠点で高血圧をはじめとする生活習慣病の外来を行っています。健診で血圧を指摘された方、家庭血圧が高めで迷っている段階の方もご相談いただけます。
- いびき・睡眠時無呼吸「高血圧といびきの」神保町駅前内科クリニック高血圧・いびき・睡眠時無呼吸。神保町駅A3出口 徒歩1分。オンライン診療対応。予約・詳細を見る
- 甲状腺・睡眠時無呼吸巣鴨クリニック内科・糖尿病内科・甲状腺内科。睡眠時無呼吸にも対応。Web予約・Web問診。予約・詳細を見る
- 甲状腺内科街のクリニック 大島駅前内科・糖尿病甲状腺内科・呼吸器内科。予約・詳細を見る
- 甲状腺内科・土日診療街のクリニック 立川・村山内科・糖尿病内科・甲状腺内科・呼吸器内科。土日診療、在宅医療・オンライン診療。予約・詳細を見る
- 内科・呼吸器内科街のクリニック 日野・八王子内科・呼吸器内科・糖尿病内科など。予約・詳細を見る
※ 本サイトは株式会社ENが運営しています。掲載のクリニックは当社の関連法人である医療法人社団季邦会が運営する診療所です。
お近くの医療機関を地域や診療科から探したい方へ他のクリニックを探す
この記事が含まれるガイド
あわせて読みたい
この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数



