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高血圧と認知症の関係|中年期の血圧管理が将来を左右する

2026 9/02
臨床医学
2026年9月2日
高血圧と認知症の関係|中年期の血圧管理が将来を左右する
目次

高血圧と認知症には関係があるのでしょうか

健診で血圧が高いと言われたとき、まず心配になるのは脳卒中や心臓の病気だという方が多いと思います。ただ近年は、高血圧が将来の記憶力や判断力にも関わることが、数多くの研究で報告されるようになりました。脳は全身のなかでもとくに血流に依存している臓器です。重さは体重のわずか2%ほどにすぎませんが、心臓から送り出される血液の多くを受け取り、細い血管が網の目のように張りめぐらされています。そのため血圧の高い状態が長く続くと、その細い血管から先に傷んでいきます。

血管の壁が厚く硬くなると内側の通り道が狭くなり、脳の深い部分へ届く血流が少しずつ減っていきます。この状態が長く続くと、脳の白質と呼ばれる部分に小さな変化が積み重なったり、症状として現れないごく小さな脳の詰まりが増えたりします。ひとつひとつは自覚できないほどの変化ですが、数と範囲が広がるにつれて、物事を段取りよく進める力、注意を配る力、歩く速さといった日常の働きに影響が及ぶと考えられています。

日本高血圧学会のワーキンググループは2026年、血圧管理と認知症予防に関するこれまでの研究を整理した総説を学会誌に発表しました。そこでは血圧管理を「早い時期に始める」「中年期はより低く保つ」「長期にわたって安定させる」という3つの視点で捉えることが示されています(出典:Ishida S, ほか「Epidemiological and clinical evidence on blood pressure management for the prevention of dementia」Hypertension Research 2026年49巻1825-1838頁)。

認知症の種類によって血圧との関わり方は違います

認知症とひとことで言っても、原因はいくつかに分かれます。代表的なのは、脳にアミロイドβやタウというたんぱく質が溜まっていくアルツハイマー病と、脳の血管が詰まったり出血したりすることで起こる血管性認知症です。実際には両方の変化が重なっている方も少なくなく、混合型と呼ばれます。

血圧との関係がとくにはっきりしているのは、このうち血管性認知症です。血管が傷むという経路がそのまま病気の成り立ちにつながるためで、後述する日本人を対象とした研究でも、血圧のレベルと血管性認知症の関連は明確に示されています。一方でアルツハイマー病については、血圧との関連が研究によって一致していません。ただし、血管の傷みが脳内のアミロイドβの排出を妨げる可能性を指摘する研究や、遺伝的な体質を持つ方では血圧の影響が現れやすいことを示した研究もあり、アルツハイマー病とも無関係と言い切れる段階ではありません。前述の学会総説も、血管性認知症とアルツハイマー病の両方の予防という観点から中年期の血圧管理が重要だとまとめています。

日本人のデータが示す「中年期の血圧」の重み

血圧と認知症の関係を長い年月にわたって調べた研究として、福岡県久山町の住民を対象とした久山町研究があります。認知症のない65〜79歳の住民668人を17年間追跡した調査では、この間に76人が血管性認知症を、123人がアルツハイマー病を発症しました(出典:Ninomiya T, ほか「Midlife and late-life blood pressure and dementia in Japanese elderly: the Hisayama study」Hypertension 2011年58巻22-28頁)。

高齢期の血圧レベル別に見た血管性認知症の発症率(年齢と性別で調整、1,000人年あたりの人数)は、次のように報告されています。

  • 正常血圧:2.3
  • 正常高値血圧:8.4
  • ステージ1高血圧:12.6
  • ステージ2高血圧:18.9

血圧が高いほど発症率が上がるという傾向は統計的にも明確でした(傾向性の検定でP<0.001)。他の要因を調整した解析では、正常血圧の方と比べて、正常高値血圧の方は3.0倍、ステージ1高血圧の方は4.5倍、ステージ2高血圧の方は5.6倍、血管性認知症を発症しやすいという結果でした。一方、アルツハイマー病については同じような傾向は認められませんでした(P=0.88)。

さらに注目されたのは、中年期の血圧の影響です。この研究では約15年前の健診データもたどれるため、中年期に高血圧があったかどうかで比べることができます。その結果、中年期に高血圧があった方は、その後の高齢期の血圧レベルにかかわらず、血管性認知症の発症リスクが約5倍高いと報告されました。高齢になってから血圧が落ち着いていたとしても、中年期に高い状態が続いていたこと自体が後々まで影響していた、という読み方になります。

なぜ中年期の血圧が後になって現れるのでしょうか

脳の細い血管の変化は、数か月や数年ではなく、十年単位の時間をかけて進みます。40代・50代のうちは自覚症状がまったくなく、健診で「少し高め」と言われるだけで済むことも多いのですが、その時期の血圧が血管の壁の厚みや硬さを決め、その後の血流の余力を左右していきます。前述の学会総説でも、予防のために働きかける意味が大きい時期として、中年期から前期高齢期にあたる年代が挙げられています。米国の大規模コホート研究をもとにした解析では、80歳より前に発症する認知症について、65〜74歳の時点での高血圧が寄与する割合は20.2%(95%信頼区間8.4〜32.0%)と推計されており、この年代の血圧管理が持つ意味の大きさがうかがえます。

もっとも、これは「中年期を過ぎたら手遅れ」という話ではありません。血圧の管理は脳だけでなく心臓・腎臓・血管全体を守ることにつながりますし、後述するように、日々の血圧の安定という面では年齢を問わず取り組む価値があります。

血圧を下げると認知症は防げるのでしょうか

観察研究で関連が見えても、それだけで「血圧を下げれば認知症が減る」と言えるわけではありません。実際に降圧治療の効果を検証した代表的な研究が、米国とプエルトリコの102施設で行われたSPRINT試験の認知機能に関する解析(SPRINT MIND)です。糖尿病と脳卒中の既往がない50歳以上の高血圧の方9,361人を、収縮期血圧120mmHg未満を目指す群と140mmHg未満を目指す群に無作為に分け、追跡期間の中央値5.11年で認知症の発症を比べました(出典:The SPRINT MIND Investigators「Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Probable Dementia: A Randomized Clinical Trial」JAMA 2019年321巻553-561頁)。

結果は、認知症の発症率が1,000人年あたり7.2と8.6、ハザード比0.83(95%信頼区間0.67〜1.04)でした。数字の上では厳しく下げた群のほうが少なかったものの、統計学的に意味のある差とは言えませんでした。一方、認知症の前段階とされる軽度認知障害は1,000人年あたり14.6と18.3でハザード比0.81(0.69〜0.95)、軽度認知障害または認知症をまとめた指標は20.2と24.1でハザード比0.85(0.74〜0.97)となり、いずれも厳しく下げた群で少ないという結果でした。

論文自身が限界として挙げているのは、この試験が心血管イベントについて結論が出た段階で早期に中止されたため、認知症の症例数が想定より少なく、差を検出しきれなかった可能性です。同時に見落としたくないのは、厳しく血圧を下げたことで認知機能が悪化するという所見は認められなかった点です。「血圧を下げすぎると脳への血流が減って頭の働きに悪いのではないか」という懸念はよく聞かれますが、この試験の範囲ではそうした影響は確認されなかったと著者らは述べています。

その後、より大規模な試験の結果も加わりました。前述の日本高血圧学会の総説では、認知症の発症を評価した2つの無作為化比較試験を統合した解析で、降圧により認知症の発症リスクが相対危険度0.87(0.79〜0.96)と低くなることが示されています。そのうえで同総説は、認知症や認知機能障害の予防という観点からは収縮期血圧130mmHg未満の達成が望ましいとしています。ただしこれは集団全体を見たときの傾向であり、お一人ごとの目標値は年齢や併存する病気、ふらつきの有無などをふまえて主治医が判断するものです。

平均だけでなく「血圧のばらつき」も関わります

血圧と脳の関係を考えるとき、平均値と並んで注目されているのが日々のばらつきです。久山町研究では、60歳以上の住民1,674人に朝の家庭血圧を1日3回、中央値28日間にわたって測ってもらい、その値のばらつき(変動係数)と5年間の認知症発症との関係を調べています。追跡期間中に194人が認知症を発症し、うち47人が血管性認知症、134人がアルツハイマー病でした(出典:Oishi E, ほか「Day-to-Day Blood Pressure Variability and Risk of Dementia in a General Japanese Elderly Population: The Hisayama Study」Circulation 2017年136巻516-525頁)。

家庭の収縮期血圧のばらつきが最も大きい四分位の群は、最も小さい群と比べて、すべての認知症でハザード比2.27(95%信頼区間1.45〜3.55)、血管性認知症で2.79(1.04〜7.51)、アルツハイマー病で2.22(1.31〜3.75)と報告されました。この関連は家庭血圧の平均値を調整しても変わらず、平均が同じくらいでもばらつきが大きい方ではリスクが高い、という結果でした。

この結果は、家庭で血圧を測ることの意味を改めて示しています。診察室で年に数回測るだけでは、平均値もばらつきも見えてきません。毎日同じ条件で測って記録を残しておけば、平均が下がっているか、日によって大きく振れていないかを主治医と一緒に確認できます。測り方の詳細は高血圧の診断基準と測定方法|正しい血圧の測り方で解説していますが、ばらつきを評価するうえで大切なのは、毎日できるだけ条件をそろえることです。時間帯、姿勢、測る腕、食事や服薬との前後関係が日によってばらばらだと、血圧そのものが振れているのか測り方が振れているのか、区別がつかなくなってしまいます。記録は手帳でもアプリでもかまいませんので、受診のときに持参できる形で残しておくとよいでしょう。

高齢になってからの血圧はどう考えればよいですか

ここまで見てきたように、中年期の血圧が高いことは将来の認知症リスクと結びついています。ところが高齢期になってからの血圧については、研究の結果が一致していません。血圧が高いほどリスクが高いという報告もありますが、はっきりした関連が見られなかった報告や、むしろ血圧が低い方のほうがリスクが高いという報告もあります。

この食い違いには、いくつかの説明が考えられています。ひとつは、血圧が低すぎることで脳への血流を保ちにくくなる可能性です。もうひとつは因果の向きが逆で、認知機能が低下すると食事の量や活動量が落ち、体重が減って血圧も下がってくる、という流れです。実際、中年期の血圧が正常だった方でも、高齢期に収縮期血圧が急に下がった方では認知症のリスクが高いという報告があります。高齢期の低い血圧は、原因ではなく結果として現れていることがある、ということです。

そのため高齢の方の降圧目標は、数字だけを一律にあてはめるものではありません。立ち上がったときのふらつきやめまい、転倒の心配、腎機能、体力の低下(フレイル)などをみながら、個別に調整していきます。ご自身やご家族の判断で薬を減らしたりやめたりすると、血圧が大きく振れてかえって負担になることがあります。気になる症状があるときは、まずは薬を続けたまま、早めに主治医に相談してください。年齢による血圧の変わり方については高血圧と年齢の関係|若年性高血圧と加齢による変化もあわせてご覧ください。

今日から取り組めること

認知症を意識した特別な血圧管理の方法があるわけではなく、基本は高血圧そのものの管理と同じです。日本高血圧学会は2025年8月に「高血圧管理・治療ガイドライン2025」を発行し、治療だけでなく予防や生活習慣の改善を含めた包括的な血圧管理を重視する方針を打ち出しました(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」)。名称が従来の「高血圧治療ガイドライン」から改められたのも、この考え方を反映したものです。

具体的な柱になるのは、食塩を控えること、体重を適正な範囲に近づけること、歩行などの有酸素運動を続けること、お酒を控えめにすること、睡眠時間を確保すること、たばこをやめることです。どれも一つずつの効果が劇的というわけではありませんが、続けることで血圧の平均値が下がり、日々のばらつきも小さくなっていきます。前の章で触れたように、平均とばらつきの両方が脳にとって意味を持つと考えられていますから、頑張って一時的に下げるよりも、毎日続けられる形に整えることのほうが結果的に大切になります。

また、若い年代から血圧が高い場合や、薬を飲んでいてもなかなか下がらない場合には、ホルモンの病気や腎臓の病気などが背景にある二次性高血圧の可能性も検討します。原因がはっきりすれば、そこに手を打つことで血圧が改善することがあります。詳しくは本態性高血圧と二次性高血圧の違いとは?診断と治療法を徹底解説をご覧ください。

医療機関に相談したい目安

次のような状況にあてはまる場合は、一度かかりつけの医師に相談しておくと安心です。

  • 家庭血圧の平均が朝も晩も高めで、その状態が数か月以上続いている
  • 同じ条件で測っているのに、日によって血圧が大きく振れる
  • 降圧薬を飲んでいても、目標としている値に届かない
  • 物忘れが増えたと自分で感じる、あるいは家族から指摘された
  • 立ち上がったときのふらつきやめまいがある
  • 40〜50代で血圧が高いと言われたが、症状がないため受診していない

とくに最後の項目は見落とされやすいところです。中年期は自覚症状がなく、仕事や家庭の事情で受診が後回しになりがちですが、ここまで見てきた研究が示しているのは、まさにこの時期の血圧が後の脳の状態に関わるということです。健診で指摘された段階で一度相談しておくことが、数十年先の備えにつながります。

まとめ

  • 高血圧は脳の細い血管を傷めることを通じて、認知機能に影響しうると考えられています
  • 関連がとくに明確なのは血管性認知症で、久山町研究では中年期に高血圧があった方の血管性認知症リスクは約5倍と報告されています
  • 降圧治療の試験では、認知症そのものの減少は統計学的に確認されませんでしたが、軽度認知障害は少なく、認知機能が悪化する所見も認められませんでした
  • 平均値だけでなく日々のばらつきも関連するため、家庭血圧を同じ条件で測り続けることに意味があります
  • 高齢期の血圧は個別の調整が必要で、自己判断で薬を変えないことが大切です

血圧の管理は、心臓や腎臓を守るためだけのものではありません。数十年先の脳の働きにもつながっていると考えると、今日の一回の測定や、食塩をひとさじ減らす工夫にも、少し違った意味が見えてくるのではないでしょうか。

参考文献

  • 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(2025年8月29日発行)
  • Ishida S, Kawazoe M, ほか(日本高血圧学会 PCIHMワーキンググループ)「Epidemiological and clinical evidence on blood pressure management for the prevention of dementia: striving for a healthy 100-year life」Hypertension Research 2026年49巻1825-1838頁
  • Ninomiya T, Ohara T, ほか「Midlife and late-life blood pressure and dementia in Japanese elderly: the Hisayama study」Hypertension 2011年58巻22-28頁(PubMed)
  • Oishi E, Ohara T, ほか「Day-to-Day Blood Pressure Variability and Risk of Dementia in a General Japanese Elderly Population: The Hisayama Study」Circulation 2017年136巻516-525頁(PubMed)
  • The SPRINT MIND Investigators for the SPRINT Research Group「Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Probable Dementia: A Randomized Clinical Trial」JAMA 2019年321巻553-561頁(PMC)

監修

監修:鎌形博展 株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長

専門科目 救急・地域医療

所属・資格

  • 日本救急医学会
  • 日本災害医学会所属
  • 社会医学系専門医
  • 日本医師会認定健康スポーツ医
  • 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
  • ICLSプロバイダー(救命救急対応)
  • ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
  • Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
  • FCCSプロバイダー(集中治療対応)
  • MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)

研究実績

  • 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
  • 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016

メディア出演

  • フジテレビ 『イット』『めざまし8』
  • 共同通信
  • メディカルジャパン など多数

SNSメディア

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  • X(twitter) https://x.com/Hiro_MD_MBA

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血圧の学校編集部は、医師・医学生・看護師・臨床工学技士・理学療法士・医療事務によって構成されています。すべての記事は鎌形博展医師(株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長)の監修のもとに制作しています。

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