クッシング症候群は、副腎皮質ホルモンのひとつである「コルチゾール」が体のなかで長いあいだ多すぎる状態が続く病気で、患者さんの約8割に高血圧がみられるとされています。一方で、高血圧の方全体のなかでは頻度の低い「二次性高血圧」の原因のひとつです。若くして高血圧と言われた、降圧薬が効きにくい、顔が丸くなった・赤紫色の線が皮膚に出てきた、といったサインが重なるときに疑い、血液・唾液・尿などで調べます。この記事では、なぜコルチゾールが血圧を上げるのか、どんなときに疑うのか、検査と治療の流れを、一次文献と学会の資料にもとづいて解説します。
クッシング症候群とはどんな病気か
コルチゾールは副腎の皮質でつくられるホルモンで、血糖や血圧の調節、ストレスへの反応、炎症の抑制などに関わっています。このコルチゾールが必要以上に出続けたり、体に入り続けたりしている状態をまとめて、クッシング症候群と呼びます。原因は大きく分けて、脳の下垂体にできた腫瘍がACTH(副腎を刺激するホルモン)を出し続ける場合、副腎そのものにできた腫瘍がコルチゾールを出す場合、肺などほかの臓器の腫瘍がACTHをつくる場合があります。ACTHの分泌が原因となる場合のうち、下垂体の腫瘍によるものは特に「クッシング病」と呼ばれます(出典:「クッシング病の診断の手引き(平成21年度改訂)」)。
もうひとつ、診察の場面でまず確認されるのが、ステロイド薬(飲み薬・注射・長く使う塗り薬や吸入薬など)の影響です。薬として体に入ったステロイドでも、同じような状態が起こることがあります。Endocrine Societyの診断ガイドラインも、検査の前にこうした外から入るステロイドの使用を除外することを求めています(出典:Nieman LK, et al. J Clin Endocrinol Metab 2008「The Diagnosis of Cushing’s Syndrome: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline」)。ステロイド薬を飲んでいる方は、自己判断で中止すると危険な場合があるので、必ず処方した医師に相談してください。
なぜコルチゾールが血圧を上げるのか
クッシング症候群で血圧が上がる仕組みは、ひとつではありません。2025年の総説では、主に次のような経路がまとめられています(出典:De Martino MC, et al. J Endocrinol Invest 2025「Hypertension and Cushing’s syndrome: hunt for the red flag」)。
まず、コルチゾールが大量になると、本来はコルチゾールを不活性化する酵素(11β-HSD2)の処理能力を超えてしまい、あふれたコルチゾールがミネラルコルチコイド受容体という、本来はアルドステロンが結合する受容体を刺激します。その結果、体にナトリウムと水分がたまり、カリウムが失われます。これは原発性アルドステロン症(原発性アルドステロン症とは)で起こることとよく似ています。さらに、コルチゾールは血管のアンジオテンシンII 1型受容体を増やして昇圧作用を強めたり、カテコールアミン(アドレナリンなど)に対する血管の反応を高めたりします。加えて、クッシング症候群にともなう肥満・代謝異常や睡眠時無呼吸が、間接的に血圧を押し上げることもあります。
こうした複数の経路が重なるため、クッシング症候群の高血圧は、塩分を減らす・体重を落とすといった一般的な対策だけでは下がりにくいことがあります。原因となっているコルチゾールの過剰そのものをおさえることが、血圧管理の基本になります。
高血圧のなかで、どれくらい見つかるのか
クッシング症候群の方での高血圧の頻度は、性別やタイプ(下垂体性か副腎性か)を問わず約80%とされています。ヨーロッパの登録研究では、診断時に466人中78%に高血圧があり、異所性ACTH産生(肺などの腫瘍が原因)では88%に上りました。一方、高血圧の方全体のうち、二次性高血圧が占める割合は5〜15%とされており、そのなかでもクッシング症候群は頻度の低い原因です(出典:De Martino MC, et al. 2025)。
つまり「高血圧の人はみんなクッシング症候群を調べる」わけではありません。実際、同じ総説でも、検査の対象は高血圧のある方全員ではなく、コルチゾール過剰を疑わせる特徴をもつ方とされています。一方で、頻度が低いぶん見逃されやすく、典型的な顔つきや体つきの変化が目立たない軽症例では、長いあいだ「ふつうの高血圧」として治療されることもあります。原発性アルドステロン症や睡眠時無呼吸症候群など、ほかの二次性高血圧と並んで、疑う目を持つことが大切です(本態性高血圧と二次性高血圧の違いも参考にしてください)。
疑うきっかけになるサイン
日本の診断の手引きでは、クッシング症候群に特異性が高い症候として、満月様顔貌、中心性肥満または水牛様脂肪沈着、幅1cm以上の赤紫色の皮膚線条、皮膚が薄くなり出血斑ができやすいこと、近位筋の萎縮による筋力低下、小児では肥満を伴う成長の遅れが挙げられています。高血圧は、月経異常、にきび、多毛、むくみ、耐糖能異常、骨粗鬆症、色素沈着、精神症状などとともに「非特異的症候」に分類されています(出典:「クッシング病の診断の手引き(平成21年度改訂)」)。高血圧は単独ではクッシング症候群に特有ではなく、ほかの症候と組み合わさって初めて疑いが強まる、という位置づけです。
2025年の総説では、高血圧のある方で「赤信号(レッドフラッグ)」になる特徴が整理されています。
- 年齢が若い(40歳未満)、または小児期から高血圧がある
- 降圧薬を3種類以上(最大用量)使っても下がらない(治療抵抗性高血圧)、または安定していた血圧が急に悪化した
- 夜間に血圧が下がらない、または心臓・腎臓・血管などの臓器障害が強く出ている
- 健診などで副腎や下垂体に偶然、腫瘍が見つかった
- あざができやすい、顔が赤く丸い、皮膚線条、中心性肥満、筋力低下、低カリウム血症、若いうちの糖尿病や骨粗鬆症・骨折がある
これらが複数あてはまる場合は、内科や内分泌内科で相談してみる価値があります。治療抵抗性高血圧の全体像は治療抵抗性高血圧の記事、薬の影響で血圧が上がる場合は薬剤誘発性高血圧の記事も参考にしてください。
検査の流れ:まず「本当にコルチゾールが多いか」を調べる
クッシング症候群の検査は、段階を踏んで進みます。最初のステップは、コルチゾールが過剰かどうかを確かめるスクリーニングです。Endocrine Societyのガイドラインでは、次のような検査が最初の検査として挙げられています(出典:Nieman LK, et al. 2008)。
- 尿中のコルチゾール(24時間蓄尿、少なくとも2回)
- 深夜の唾液中コルチゾール(2回)
- 1mgデキサメタゾン抑制試験(夜に少量のステロイド薬を飲み、翌朝のコルチゾールを測る)
- やや長い少量デキサメタゾン抑制試験(2mg/日を48時間)
正常であれば、夜に少量のステロイド薬を飲むと、翌朝のコルチゾールは十分に下がります。クッシング症候群があると、下がりきりません。2025年の総説では、1mgデキサメタゾン抑制試験の判定基準として翌朝のコルチゾール1.8µg/dLが示され、深夜唾液コルチゾールが最も区別力が高い可能性があるとされています。最初の検査が異常だった場合は、ほかの検査のうち少なくとも1つも陽性であることを確認するという考え方が紹介されています(出典:De Martino MC, et al. 2025)。ただし、判定基準や使える検査は施設によって異なるため、実際の判断は担当医に任せてください。
コルチゾール過剰が確認されたら、その原因が下垂体・副腎・それ以外のどこにあるのかを調べる次のステップに進みます。血中ACTH、下垂体のMRI、副腎のCT、必要に応じてより高用量のデキサメタゾン抑制試験や、静脈洞血サンプリングといった専門的な検査です(出典:「クッシング病の診断の手引き」)。これらは専門の医療機関で行われるのが一般的です。
なお、健診などで副腎に偶然、腫瘤が見つかった場合には、ホルモンを出していないか確認するために1mgデキサメタゾン抑制試験が勧められています。見つかった腫瘤が、自覚症状は乏しいのにコルチゾールを出していることもあるためです。
治療と、血圧のゆくえ
クッシング症候群の治療の基本は、コルチゾール過剰の原因そのものを取り除くことです。Endocrine Societyの治療ガイドラインでは、クッシング病や副腎性、異所性の原因病変がある場合、手術などが不可能または効果が乏しいと見込まれる場合を除き、まず原因となる病変の切除を行うことが強く推奨されています。あわせて、高血圧、糖尿病、低カリウム血症、脂質異常症、骨粗鬆症などの合併症について、全員で経過観察と補助的な治療を行うことも推奨されています(出典:Nieman LK, et al. J Clin Endocrinol Metab 2015「Treatment of Cushing’s Syndrome: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline」)。
血圧の見通しについて、同ガイドラインは、コルチゾールが正常になれば、肥満や高血圧などで臨床的・生化学的な改善が得られるとしています。一方で、一部の合併症は寛解後にも残るため、治療前後を通じてその対応を続けることが必要だとも述べています。副腎の良性腫瘍(副腎皮質腺腫)の方では、副腎摘出後に降圧薬の使用量が減ることが報告されています(出典:De Martino MC, et al. 2025)。ただし、この総説は、クッシング症候群の高血圧を対象にした治療研究が少ないことも指摘しており、どの降圧薬がもっとも適しているかについて、はっきりした結論は示されていません。降圧薬の選び方や量は、担当医が合併症も含めて判断します。
血圧の測り方と、受診までにできること
クッシング症候群では、夜間の血圧が十分に下がらない「ノン・ディッパー型」が半数を超えるとされます。このため、診察室の血圧だけでなく、家庭血圧を朝と夜に測り、記録しておくことが診断や治療の手がかりになります。測定の基本は血圧の正しい測り方にまとめています。夜間高血圧については夜間高血圧の記事も参考にしてください。同じ総説では、ノン・ディッパー型の場合、降圧薬の一部を夜に比重を置いて使うことも提案されていますが、薬の飲み方を自分で変えることはせず、必ず医師に相談してください。
また、日本高血圧学会のガイドライン(2025年版)では、家庭血圧の活用が重視され、すべての人で目標を130/80mmHg未満とすることが示されています(出典:Ohya Y, et al. Hypertens Res 2025「JSH2025」)。クッシング症候群が疑われる場合でも、まず日々の血圧を把握することから始まります。
受診の目安
次のようなときは、一度、内科または内分泌内科に相談してください。受診の際は、家庭血圧の記録、お薬手帳(ステロイド薬の使用歴を含みます)、顔や体の変化がわかる数年前の写真があると、診察の助けになります。
- 若いうちから血圧が高い、または降圧薬を複数使っても血圧が下がりにくい
- 顔が丸く赤くなった、お腹まわりに脂肪がついた一方で手足が細くなった、あざができやすい、赤紫色の線が皮膚に出てきた
- 筋力が落ちて階段や椅子から立ち上がるのがつらい、健診でカリウムが低いと言われた
- 健診で副腎や下垂体に腫瘍があると指摘された
こうした症状があるからといって、クッシング症候群と決まるわけではありません。ほかの原因や生活習慣による変化のことも多くあります。大切なのは、「治りにくい高血圧」の背景に、治療できる原因が隠れていないかを、一度確認することです。
まとめ
- クッシング症候群は、コルチゾールが長期間多すぎる状態で、約8割に高血圧を伴う。ただし高血圧の方全体では頻度の低い二次性高血圧の原因である
- 高血圧が起こるのは、コルチゾールが受容体を刺激して塩分と水分がたまることや、血管の反応が高まることなど、複数の経路による
- 若年発症、治療抵抗性、顔や皮膚の変化、低カリウム血症などが重なるときに疑い、尿・唾液・デキサメタゾン抑制試験でまずコルチゾールの過剰を確かめる
- 治療は原因病変の切除が基本で、コルチゾールが正常になると血圧が改善することが期待される。降圧薬は担当医が調整する
- ステロイド薬を使っている方は自己判断で中止せず、家庭血圧の記録とお薬手帳を持って医師に相談する
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- De Martino MC, et al.「Hypertension and Cushing’s syndrome: hunt for the red flag」J Endocrinol Invest 2025;48(8):1909–1918
- Nieman LK, et al.「The Diagnosis of Cushing’s Syndrome: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline」J Clin Endocrinol Metab 2008;93(5):1526–1540
- Nieman LK, et al.「Treatment of Cushing’s Syndrome: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline」J Clin Endocrinol Metab 2015;100(8):2807–2831
- 「クッシング病の診断の手引き(平成21年度改訂)」
- Ohya Y, et al.「Key highlights of the Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025)」Hypertens Res 2025;48(10):2500–2511



