降圧薬の配合剤とは、働き方の異なる2〜3種類の降圧薬を、あらかじめ1錠にまとめた薬のことです。飲む錠数が減って飲み忘れを防ぎやすくなるため、日本高血圧学会のガイドラインでも服薬を簡単にする方法として位置づけられています。一方で、1錠に入る各成分の量が決まっているため細かな調整がしにくく、日本では治療の最初から配合剤を使うことは保険で認められていません(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」Hypertension Research)。
降圧薬の配合剤とは?
高血圧の薬には、血管を広げるもの、体の余分な塩分と水分を尿に出すもの、血管を縮める物質のはたらきを抑えるものなど、いくつかの種類があります(くわしくは降圧薬の種類と選び方で解説しています)。配合剤は、こうした異なる種類の薬の成分を、1つの錠剤にあらかじめ組み合わせたものです。薬局で自分で組み合わせて買う市販薬とは違い、医師が血圧の状態や持病、腎臓の働きなどを確かめたうえで処方します。
日本高血圧学会のガイドラインによると、日本で使える配合剤は、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)とカルシウム拮抗薬を組み合わせたもの、ARBと利尿薬を組み合わせたもの、そしてARB・カルシウム拮抗薬・利尿薬の3成分を1錠にまとめたものです。2成分の配合剤には、成分の量が「標準量の半分」から「標準量の2倍」までさまざまな組み合わせが用意されており、血圧の高さや体の状態に合わせて選べるようになっています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」Hypertension Research)。
なぜ、複数の薬を組み合わせるのか
1つの薬の量を増やすよりも、種類の違う薬を少しずつ組み合わせたほうが効率よく血圧が下がり、副作用も抑えやすいことが、これまでの研究で示されています。英国の研究グループは、降圧薬の354件のランダム化比較試験をまとめて分析しました(出典:Law MR, et al. BMJ 2003;326:1427(PubMed))。その結果、1種類の薬を標準量で使ったときの下がり幅は、上の血圧(収縮期血圧)で約9.1mmHg、下の血圧(拡張期血圧)で約5.5mmHgでした。量を半分にしても、下がり幅は約2割小さくなるだけで、7.1/4.4mmHgでした。つまり、量を倍にしても効果は倍にならず、副作用だけが増えやすくなります。
一方、薬の種類を増やすと、効果はおおむね足し算で積み上がります。この分析では、3種類の薬を半量ずつ使うと、血圧が150/90mmHgの人で約19.9/10.7mmHg下がると推計されました。ただし、3種類を同時に試した臨床試験があったわけではなく、2種類の試験から効果が足し算になると仮定した推計値です。副作用については、チアジド系利尿薬で標準量では症状が出た人が薬を飲まなかった人より9.9%多かったのに対し、半量では2.0%でした。2種類の薬を組み合わせた場合の症状は7.5%で、副作用も足し算になると仮定したときの10.4%を下回りました。日本高血圧学会のガイドラインも、異なる種類の薬の半量ずつの併用は、単剤の標準量と比べて降圧効果が約1.6倍になり、副作用は抑えられると説明しています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」Hypertension Research)。
配合剤のメリット:飲み忘れが減り、血圧が安定しやすい
配合剤のいちばんの利点は、飲む薬の数が減ることです。血圧の薬は、症状がなくても長く続ける必要があるため、錠数が多いほど飲み忘れが増えやすくなります。2〜3種類の薬を別々に飲んでいる人が、配合剤に切り替えて1日1錠になれば、朝の習慣に組み込みやすくなります(飲む時間帯の考え方は降圧薬は朝と夜どちらに飲む?で解説しています)。
この効果を調べた研究を、欧州の研究者らが2013〜2019年に発表された29件の研究(ランダム化比較試験4件と観察研究25件)にまとめています(出典:Tsioufis K, et al. J Hypertens 2020;38:1016-1028(PubMed))。服薬の状況を直接比べた15件の研究では、おおむね配合剤のほうが薬をきちんと飲めていました。たとえば、処方された薬の8割以上を飲めていた人の割合は、ある研究では配合剤で52.1%、別々の薬で32.9%、別の研究では配合剤で55.1%、別々の薬で15.9%でした。薬を飲み続けている期間を比べた4件の研究は、すべて配合剤のほうが有意に長いという結果でした。
血圧そのものの下がり方については、研究によって結果が分かれています。3件の研究が配合剤と別々の薬を直接比べており、そのうち1件のランダム化比較試験では収縮期血圧が配合剤で29.3mmHg、別々の薬で20.6mmHg下がりましたが、別の研究では9.1mmHgと8.7mmHgでほぼ差がありませんでした。心臓病や脳卒中といった病気の発生をランダム化比較試験で調べた研究は、この分析の対象にはありませんでした。ですから、配合剤が「薬を続けやすくする」ことは多くの研究で一致している一方、病気を減らす効果が配合剤ならではのものかどうかは、まだはっきりしていません。
治療を始めた最初の1年間の血圧の下がり方を、これまで治療を受けていなかった患者約10万7千人(10万6,621人)で比べた分析もあります(出典:Egan BM, et al. Hypertension 2012;59:1124-1131(PubMed))。最初の治療が1剤だった人と比べて、血圧が目標まで下がる速さは、配合剤で始めた人が約1.5倍(ハザード比1.53)、別々の薬2剤で始めた人が約1.3倍(同1.34)でした。ただし、これは患者の経過を後から比べた観察研究で、配合剤を使った人とそうでない人の条件が完全にそろっているわけではないため、因果関係を断定する結果ではありません。
配合剤の注意点・デメリット
配合剤には、使いにくい場面もあります。まず、1錠の中の各成分の量が決まっているため、「カルシウム拮抗薬だけ少し減らしたい」「利尿薬だけ増やしたい」といった個別の調整がしにくくなります。治療の初期段階では、まず1種類ずつ量を調整して血圧と体の反応を見て、落ち着いてから配合剤に切り替える、という順序で処方されることが多いのはそのためです。
次に、副作用が出たときに、どの成分が原因なのかを見分けにくくなります。たとえば、足のむくみ、立ちくらみ、尿の回数の増加などが出たとき、成分が別々であれば原因の見当をつけやすい一方、配合剤では複数の成分が候補になります。気になる症状があれば、自己判断で飲むのをやめずに、処方した医師や薬剤師に伝えることが大切です(症状別の考え方は降圧薬の副作用|種類別の症状と受診の目安をご覧ください)。
さらに、日本の公的医療保険では、配合剤を治療の最初の薬として処方することは認められていません。日本高血圧学会のガイドラインは、特に少量の配合剤を治療の最初の段階から使えるようにすることを、今後の課題として挙げています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」Hypertension Research)。いま日本で配合剤が使われるのは、すでに単剤などで治療を始めた人が、血圧が目標に届かないときや、薬の数を減らしたいときに切り替える場面が中心です。
どんな組み合わせが使われるのか
どの薬を組み合わせてもよいわけではありません。ガイドラインは、ARBまたはACE阻害薬とカルシウム拮抗薬の組み合わせを、もっとも勧められる組み合わせとしています。60件のランダム化比較試験を比べた分析で、腎臓を守る効果が他の組み合わせより優れ、脂質や血糖への悪影響が少なく、心臓や血管の病気による死亡を減らす効果も高かったためです。カルシウム拮抗薬と利尿薬の組み合わせは、心筋梗塞と脳卒中が他の組み合わせより少なく、むくみやすい高齢の人で特に使いやすいとされています。ARBと利尿薬の組み合わせにも効果が確かめられています。2種類で目標に届かないときは、カルシウム拮抗薬、ARBまたはACE阻害薬、利尿薬の3種類を併用する方法が勧められています(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」Hypertension Research)。
反対に、ACE阻害薬とARBの併用は、ガイドラインで勧められていません。高い心血管リスクのある患者を対象にした大規模試験(ONTARGET)では、ACE阻害薬のラミプリルとARBのテルミサルタンを一緒に使っても、心血管死・心筋梗塞・脳卒中・心不全による入院という主要な結果は、ラミプリル単独(16.5%)と併用(16.3%)でほとんど変わりませんでした。その一方で、低血圧は単独の1.7%に対して併用で4.8%と多く、腎臓の機能低下も併用で多く見られました(出典:ONTARGET Investigators. N Engl J Med 2008;358:1547-1559(DOI))。ガイドラインも、この組み合わせは益より害が大きいと述べています。配合剤を含め、降圧薬は「何を足すか」まで含めて選ぶ必要があります。
単剤から配合剤へ:切り替えの流れ
日本高血圧学会のガイドラインでは、治療は「1剤で始める」ことが基本です。1種類の薬で目標の血圧に届かなければ、すぐに2種類の併用に進み、それでも足りなければ3種類にします。ただし、診察室の血圧が160/100mmHg以上のとき、または140〜159/90〜99mmHgで心血管リスクが高いときは、治療の最初から2種類で始めることもあります。目標との差が小さいときや、血圧が急に下がることが心配なときは、半量ずつの低用量から始める選択肢もあります(出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」Hypertension Research)。目標の血圧の目安は高血圧の降圧目標はいくつ?で解説しています。
2種類を別々の錠剤で飲んで血圧が落ち着いたあと、同じ成分の組み合わせの配合剤があれば、1錠にまとめることで飲む錠数を減らせます。ガイドラインも、2剤の段階以降は、可能な限り配合剤を使って錠数を増やさないようにすることが望ましいとしています。治療の途中で薬が増えて「朝に5錠」のようになっている場合は、配合剤にまとめられないか医師に相談してみる価値があります。
海外では、4種類の少量を1錠にした試験もあります
海外では、治療の最初から少量の配合剤を使う方法の研究も進んでいます。オーストラリアなどで行われたQUARTET試験は、ビソプロロール2.5mg、イルベサルタン37.5mg、アムロジピン1.25mg、インダパミド0.625mgという、4種類の薬を標準量の4分の1ずつ含む1錠と、イルベサルタン150mgの単剤とを、591人の成人で比べました(出典:Chow CK, et al. Lancet 2021;398:1043-1052(PubMed))。12週後の診察室の収縮期血圧は、4種類の少量配合剤で121mmHg、単剤で127mmHgで、差は6.9mmHgでした。血圧が140/90mmHg未満になった人の割合は、76%と58%でした。副作用の全体的な頻度は同程度でした。日本高血圧学会のガイドラインもこの試験に触れていますが、日本では、治療の最初から配合剤を処方することが保険の対象になっていません。
配合剤を飲むときのポイント
配合剤を処方されたら、まず、どの成分が入っているのかを薬剤師に確認してお薬手帳に残しておくことをおすすめします。成分の名前がわかっていれば、ほかの診療科や救急で薬を説明するときにも役立ちます。市販の痛み止めやかぜ薬、サプリメントを足すときの注意も、配合剤に含まれる成分によって変わるため、降圧薬の飲み合わせの記事も参考にしてください。
効果の確認には、家庭血圧の記録が役立ちます。配合剤に切り替えた後は、朝と夜の血圧を決まった条件で測り、受診のときに見せてください(測り方は血圧の正しい測り方で紹介しています)。逆に、血圧が下がったからといって自己判断で配合剤をやめると、血圧が再び上がるおそれがあります。やめたい、減らしたいと思ったときの考え方は血圧の薬は一生飲み続けるのかにまとめています。また、3種類の薬を使っても血圧が目標に届かない場合は、背景に別の原因が隠れていることもあります(治療抵抗性高血圧を参照)。
まとめ
- 配合剤は、種類の違う降圧薬を1錠にまとめた薬で、日本では「ARB+カルシウム拮抗薬」「ARB+利尿薬」と、この3成分を1錠にした薬があります。
- 半量ずつの組み合わせは、単剤の標準量より血圧が下がりやすく、副作用も抑えやすいと考えられています。
- 錠数が減るため、薬を飲み続けやすくなることが多くの研究で一致して報告されています。ただし、病気を減らす効果が配合剤ならではのものかは、まだはっきりしていません。
- 用量の細かな調整がしにくい、副作用の原因を見分けにくい、日本では最初の薬としては保険で使えない、といった注意点もあります。
- 自己判断で飲む薬を変えたりやめたりせず、気になることは処方した医師や薬剤師に相談しましょう。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- 日本高血圧学会「The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025)」Hypertension Research
- Law MR, Wald NJ, Morris JK, Jordan RE.「Value of low dose combination treatment with blood pressure lowering drugs: analysis of 354 randomised trials」BMJ 2003;326:1427
- Tsioufis K, et al.「Impact of single-pill combination therapy on adherence, blood pressure control, and clinical outcomes: a rapid evidence assessment of recent literature」J Hypertens 2020;38:1016-1028
- Egan BM, et al.「Initial monotherapy and combination therapy and hypertension control the first year」Hypertension 2012;59:1124-1131
- ONTARGET Investigators.「Telmisartan, ramipril, or both in patients at high risk for vascular events」N Engl J Med 2008;358:1547-1559
- Chow CK, et al.「Initial treatment with a single pill containing quadruple combination of quarter doses of blood pressure medicines versus standard dose monotherapy in patients with hypertension (QUARTET)」Lancet 2021;398:1043-1052
