降圧薬に抵抗があったり、のぼせや動悸といった随伴症状に悩んでいたりする人の中には、漢方薬に関心を持つ方も少なくありません。漢方薬が高血圧にどこまで役立つのか、実際の臨床試験の結果をもとに整理します。
漢方医学における高血圧の考え方
漢方医学では、心身の状態を「証(しょう)」と呼ばれるタイプで捉えます。体力があり便秘がちで肩がこりやすい「実証」、体力がなく疲れやすい「虚証」など、同じ高血圧でも証によって選ばれる漢方薬が異なるのが特徴です。西洋医学のように血圧の数値だけを見て一律に薬を選ぶのではなく、のぼせ、顔面紅潮、耳鳴り、動悸といった随伴症状も含めて処方を考える点が、漢方治療の大きな特徴です。
漢方薬の効果を調べた臨床試験
漢方薬と高血圧に関する報告の中には、実際にランダム化比較試験(ランダムに分けたグループを比較する方法)で効果が検討されたものもあります。のぼせや顔面紅潮、動悸などの随伴症状を訴える本態性高血圧の患者265例を対象にした二重盲検試験では、黄連解毒湯を8週間投与したグループで、のぼせや顔面紅潮などの随伴症状に有意な改善がみられました。ただし、収縮期血圧・拡張期血圧そのものについては、投与群と非投与群のあいだに有意差は認められませんでした。また、軽症高血圧の患者94例を「虚証」「実証」に分けて行った試験では、虚証の患者に釣藤散を投与したグループで収縮期血圧・拡張期血圧が有意に低下し、約29%の患者に降圧効果がみられました。実証の患者に大柴胡湯を投与したグループでも、拡張期血圧に有意な差が確認されています(出典:日本医事新報社「高血圧における漢方治療のエビデンス」)。
過度な期待は禁物:位置づけを正しく理解する
これらの試験結果は、いずれも数十人規模の限られた臨床試験によるものであり、降圧薬のように大規模な試験で心筋梗塞や脳卒中の予防効果まで確認されているわけではありません。日本高血圧学会のガイドラインにおいても、漢方薬は標準的な降圧治療の第一選択としては位置づけられていません。のぼせや動悸といった随伴症状のコントロールや、軽症高血圧における生活習慣改善の補助として検討される位置づけと考えるのが実情に近いといえます。
漢方薬を試すときに知っておきたいこと
漢方薬を検討する場合は、次の点に気をつけましょう。
- 自己判断で降圧薬を漢方薬に置き換えない。血圧が高い状態を放置すると合併症のリスクが上がる
- 体質(証)に合わない漢方薬を使うと、効果が出にくいだけでなく体調を崩すこともある
- 漢方薬にも副作用や、西洋薬との相互作用があり得るため、服用中の薬はすべて医師・薬剤師に伝える
- 「証」の見立ては専門知識が必要なため、市販薬の自己判断より漢方に詳しい医師・薬剤師に相談するほうが安全
まとめ
漢方薬は、のぼせや動悸といった高血圧の随伴症状に対して一定の効果が報告されている一方、血圧そのものを下げる力は降圧薬に比べて限定的です。本態性高血圧と二次性高血圧の違いや生活習慣の見直しとあわせて、あくまで補助的な選択肢として、医師に相談しながら取り入れるのが現実的な付き合い方です。
保険診療で処方される漢方薬
日本では、医療用漢方製剤の多くが健康保険の適用対象となっており、医師の判断のもとで処方を受けることができます。市販の漢方薬やサプリメントを自己判断で購入して試すよりも、医師や薬剤師に相談したうえで、自分の証や随伴症状に合った製剤を選んでもらうほうが、期待できる効果や副作用のリスクを踏まえた適切な選択につながります。漢方薬にも副作用がないわけではなく、たとえば甘草を含む製剤の長期服用によって血圧上昇やむくみ、低カリウム血症(偽アルドステロン症)が起こることがあるため、複数の漢方薬を自己判断で併用することは避けるべきとされています。
降圧薬との併用について
漢方薬は、降圧薬による治療の代わりではなく、あくまで併用する補助的な選択肢として検討されるのが一般的です。すでに降圧薬による治療を受けている方が漢方薬を試したい場合は、自己判断で薬を追加するのではなく、必ず主治医に相談してください。高血圧の基本的な治療方針にあるとおり、降圧薬による治療は脳卒中や心筋梗塞などの重大な合併症を防ぐことが大規模試験で示されている、現時点で最も確実な手段です。漢方薬に関心がある場合も、この土台を維持したうえで、随伴症状の緩和や生活の質の改善を目的とした補助的な位置づけとして取り入れることが現実的です。
証(体質)はどう判断されるのか
漢方医学における「証」の判断は、体格や体力、便通、発汗の傾向、舌や脈の状態など、複数の情報を総合して行われます。同じ「高血圧でのぼせがある」という訴えでも、体力が充実している実証タイプの方と、疲れやすく冷えを感じやすい虚証タイプの方とでは、選ばれる漢方薬が異なります。このように個々の体質を細かく見極めたうえで処方を決めるプロセスは、西洋医学の血圧値中心のアプローチとは異なる視点であり、漢方外来や漢方に詳しい医師による問診を通じて行われるのが一般的です。自己判断で「高血圧に効く」とされる漢方薬を選ぶのではなく、専門家による証の見立てを受けたうえで検討することが、効果を得るためにも安全のためにも重要です。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・糖尿病・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
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研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
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