
医療法第9条は、診療所の開設者が診療所を廃止したときは、10日以内に都道府県知事へ届け出ることを求めています。ただし、閉院の手続きはこの廃止届だけでは終わりません。保険診療をしていれば地方厚生局への届出が、スタッフを雇っていれば労務の手続きが、個人事業なら税務署への届出が、それぞれ別に必要です。この記事では、法令と各窓口の公表ページにもとづいて、閉院に必要な手続きを「誰に・いつまでに」の形で整理します。
閉院の手続きは、窓口ごとに「医療法」「健康保険法」「労務」「税務」の4つに分けると、漏れを防げます。期限が短いものから順に並べると、次のとおりです。
| 手続き | 窓口 | 期限 | 根拠・出典 |
|---|---|---|---|
| 年金事務所への適用事業所全喪届(適用事業所の場合) | 事務センターまたは年金事務所 | 事実発生から5日以内 | 日本年金機構 |
| 診療所の廃止届 | 都道府県知事(窓口は管轄の保健所等) | 廃止後10日以内 | 医療法第9条第1項 |
| 雇用保険適用事業所廃止届 | 管轄のハローワーク | 廃止の日の翌日から10日以内 | 厚生労働省(ハローワーク) |
| 保険医療機関の廃止・休止・再開届 | 地方厚生局 | 提出時期の日数は案内ページに記載なし | 関東信越厚生局 |
| 保険医療機関の指定の辞退 | 地方厚生局 | 辞退希望日の1か月以上前に申出 | 健康保険法第79条第1項 |
| 従業員への解雇の予告 | 使用者から労働者へ | 少なくとも30日前(予告しない場合は30日分以上の平均賃金) | 労働基準法第20条 |
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 納税地の税務署 | 廃止した年分の確定申告期限まで | 所得税法第229条 |
承継で診療所を引き継ぐ場合は、廃止ではなく別の手続きになります。承継の場合の届出は「クリニック承継の行政手続きは何をいつ出す?」で整理しています。
医療法第9条第1項は、病院、診療所若しくは助産所の開設者が、その診療所を廃止したときは、10日以内に都道府県知事へ届け出なければならないと定めています。東京都多摩府中保健所の案内も、届出の期限を「廃止後10日以内」としています。閉院の前ではなく、廃止した後の届出である点に注意してください。
同保健所の案内(2026年6月15日更新)では、手続きは次のとおりです。
これは東京都の一つの保健所の案内です。他の自治体で、様式の番号や提出方法が同じとは限りません。閉院日が決まったら、診療所の所在地を管轄する保健所に、様式・部数・提出方法・必要書類を確認してください。
開設者が亡くなった場合は、別の定めがあります。医療法第9条第2項は、開設者が死亡し、又は失踪の宣告を受けたときは、戸籍法の規定による死亡又は失踪の届出義務者が、10日以内に、その旨を所在地の都道府県知事に届け出なければならないと定めています。東京都多摩府中保健所は、この場合は「開設者死亡(失そう)届」が別に必要だと案内しています。
保険診療をしている診療所は、医療法の廃止届とは別に、地方厚生局への手続きが必要です。関東信越厚生局のページ(2025年4月1日更新)では、事業の廃止、休止又は再開をしたときに「保険医療機関・保険薬局・生活保護法指定医療機関廃止・休止・再開届」を提出窓口へ提出するか郵送するとされています。手数料は無料で、添付書類はありません。ただし、このページには提出期限の日数が書かれていません。
一方、指定の辞退は、健康保険法第79条第1項が「一月以上の予告期間を設けて」できると定めています。同じ厚生局のページでは、辞退希望日は申出日の翌日から1か月以上経過した日を記載し、「保険医療機関・保険薬局・生活保護法指定医療機関辞退申請書」を出すと案内しています。
今回確認した2つのページは、閉院のときにどちらを使うべきか、両者の違いを説明していません。閉院日が決まったら、管轄の地方厚生局に、廃止届だけでよいのか、辞退の予告が要るのか、いつまでに出すのかを確認してください。辞退を使う場合は予告に1か月以上かかるため、閉院日の1か月以上前には確認を済ませておくのが安全です。労災保険や自立支援医療などの指定医療機関の扱いは、承継を前提にした「クリニック承継で労災保険・自立支援医療の指定医療機関はどう引き継ぐ?」の窓口一覧から確認先を探せます。
医師法第24条第2項は、病院又は診療所に勤務する医師がした診療に関する診療録を、その病院又は診療所の管理者が5年間保存しなければならないと定めています。保険診療については、保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条が、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録を完結の日から3年間、患者の診療録は完結の日から5年間保存するよう定めています。
今回確認した条文(医師法第24条第1項・第2項、療担規則第9条)には、閉院した場合の例外は書かれていません。一方で、閉院後に誰が・どこで保管するのか、患者から診療情報を求められたときの窓口はどこか、といった点を定めた資料は、確認できた範囲では見つかりませんでした。この点は記載を見送り、管轄の保健所へ事前に確認することをおすすめします。
電子カルテを使っている場合は、事業者との契約を終了する前に、保存期間が終わるまでデータを読み出せる形で残す方法を確認してください。保存義務とデータ移行の実務は、「クリニック承継でカルテとシステムはどう移行する?」でも整理しています。
スタッフを雇っている診療所では、閉院日から逆算して動く手続きが複数あります。
ここまでは個人開設の診療所を主に想定しています。医療法人が閉院する場合は、解散や清算の手続きが別に必要です。本稿では扱わないため、税理士や司法書士などの専門家に確認してください。
診療所には、閉院のときに終了や整理が必要な許可・届出・契約がほかにもあります。麻薬、向精神薬、覚醒剤原料は、在庫の取扱いに法律上の期限があり、その長さは薬の種類によって異なります。ほかにも、エックス線装置、医療廃棄物の委託契約、不動産の賃貸借、借入金と院長の個人保証があります。
当サイトでは、これらを承継を前提に整理しています。閉院は「引き継ぐ」のではなく「終える」手続きなので、必要な届出は同じとは限りません。ただし、どの法令を確認すべきかを洗い出す出発点にはなります。
後継者がいないクリニックの選択肢は、親族内承継、院内承継、第三者承継(M&A)、認定医療法人化、閉院に整理できます。閉院は最後の選択肢で、この記事の手続きに加えて、退職金・原状回復・リース残債の清算といった支出が発生します。選択肢の比較は「後継者不在のクリニックはどうする?5つの選択肢」、承継の進め方は「医院承継の流れを6ステップで解説」をご覧ください。
医療法第9条第1項は、診療所を廃止したときは10日以内に届け出ると定めており、東京都多摩府中保健所の案内も「廃止後10日以内」としています。廃止の前に受け付けてもらえるかどうかは、今回確認した資料からは分かりません。管轄の保健所に確認してください。
東京都多摩府中保健所の案内では、廃止届は郵送不可で、原則として開設者本人(法人の場合は開設法人の代表者)が来所して届け出ます。本人が来所できないときは、委任状と受任者の身分証明書が必要です。自治体によって取扱いが異なる可能性があるため、管轄の保健所で確認してください。
健康保険法第79条第1項は、保険医療機関は一月以上の予告期間を設けて指定を辞退できると定めています。関東信越厚生局のページでも、辞退希望日は申出日の翌日から1か月以上経過した日を記載するとされています。閉院で辞退と廃止届のどちらが必要かは、管轄の地方厚生局に確認してください。
医師法第24条第2項は、診療所に勤務する医師がした診療に関する診療録を、診療所の管理者が5年間保存すると定めています。今回確認した条文には、閉院した場合の例外は書かれていません。閉院後の保管場所と保管者については、確認できた資料がないため、管轄の保健所へ事前に確認してください。
医療法第9条第2項は、開設者が死亡し、又は失踪の宣告を受けたときは、戸籍法の規定による届出義務者が、10日以内に、都道府県知事へ届け出なければならないと定めています。東京都多摩府中保健所は、この場合は「開設者死亡(失そう)届」が別に必要だと案内しています。具体的な手続きは、管轄の保健所に相談してください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の手続きの要否や期限を保証するものではありません。実際の閉院にあたっては、管轄の保健所・地方厚生局、および行政書士・社会保険労務士・税理士・弁護士等の専門家に必ずご確認ください。数値・制度は2026年10月時点の情報に基づきます。
公開日:2026年10月14日/最終更新日:2026年10月14日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身