
クリニックの承継では、レントゲン室の機械はそのまま残ります。ところが届出は残りません。医療法第15条第3項は診療用エックス線装置を「備えたとき」の届出を管理者に義務づけ、医療法施行規則第24条の2がその期限を10日以内と定めています。機械が1ミリも動かなくても、開設者が入れ替われば「備えた」のは買い手です。2020年4月からは、エックス線装置を1台でも置く診療所に医療放射線安全管理責任者の配置も義務づけられました。
規則第24条の2がいう「エックス線装置」は、定格出力の管電圧が10キロボルト以上、エネルギーが1メガ電子ボルト未満のものです。厚生労働省の通知は、直接撮影用・CT・口内法撮影用・歯科用パノラマ断層撮影・骨塩定量分析・透視用・治療用の各装置を例示しています。一般的な胸部レントゲンも骨密度測定装置も、この枠の中です。
引き継がれないのは装置ではなく、装置にひも付いた行政上の地位です。医療法第15条第3項の義務は「病院又は診療所の管理者」に課されています。売り手側には規則第24条第12号の「エックス線装置を備えなくなつた場合」が、買い手側には第24条の2の「備えたとき」が、それぞれ別に発生します。同じ機械が同じ場所にあり続けるのに、廃止と新設が同時に立つのが承継の特徴です。
契約形態で分かれます。事業譲渡は開設者が入れ替わるため、売り手が廃止し買い手が新規に開設します。届出も一式やり直しです。医療法人の持分を譲り渡す持分譲渡なら、開設者である法人が存続するので備付届は残ります。ただし「何も要らない」わけではありません。
規則第24条の2は届出事項を5つ定めています。①名称・所在地、②製作者名・型式・台数、③エックス線高電圧発生装置の定格出力、④構造設備・予防措置の概要、⑤エックス線診療に従事する医師、歯科医師、診療放射線技師または診療エックス線技師の氏名および経歴です。第5号に注目してください。承継では院長が交代し、技師が入れ替わることも珍しくありません。通知は、第2号から第5号までを変更した場合は規則第24条第10号に基づき第29条第1項の方法(10日以内)で届け出るとしています。
| 場面 | 届出 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 買い手が装置を備えた(事業譲渡) | 備付届 | 備えてから10日以内 | 規則第24条の2 |
| 売り手が装置を備えなくなった | 廃止の届出 | 10日以内 | 規則第24条第12号・第29条第1項 |
| 従事者の氏名や型式等が変わった | 変更の届出 | 10日以内 | 規則第24条第10号・第29条第1項 |
| 構造設備・予防措置の概要を変えようとするとき | 変更の届出 | あらかじめ | 規則第24条第11号・第29条第2項 |
4行目だけ事前である点に注意してください。防護壁に手を入れる、装置を別室へ移すといった改装が承継後の計画にあるなら、工事前に届出が要ります。なお通知は同一規格のエックス線管の交換は届出不要とも書いており、要否は「防護基準に関する規格の変更を伴うか」で決まります。提出先は所在地の都道府県知事(保健所設置市・特別区にある診療所はその市長・区長)です。手続き全体の順序は承継時の行政手続きの記事にあります。
規則第1条の11第2項の柱書のただし書は、第3号の2について「エックス線装置又は第24条第1号から第8号の2までのいずれかに掲げるものを備えている病院又は診療所」に適用すると限定しています。読み替えると、胸部レントゲンが1台あるだけの無床診療所も対象です。CTを持っていないから関係ない、という理解は条文上正しくありません。
責任者の要件は平成31年3月12日の医政発0312第7号が示しています。安全管理に関する十分な知識を有する常勤職員であって、原則として医師または歯科医師の資格を有すること。ただし、常勤の医師・歯科医師が「正当化」を、常勤の診療放射線技師が「最適化」を担保し、医師から技師へ適切な指示を行う体制がある場合に限り、技師を責任者としても差し支えないとされています。
「常勤職員」と明記されている以上、外部には委託できません。院長1人のクリニックなら実質的に院長が責任者で、前院長が務めていたなら承継と同時に買い手側の常勤者へ移ります。委託できる業務との切り分けは院長業務の切り分けの記事で扱っていますが、医薬品・医療機器の2つと並ぶ3つ目の常勤職員要件だと押さえてください。
責任者が行うことは第3号の2に3つ書かれています。イ「安全利用のための指針の策定」、ロ「従事者への研修の実施」、ハ「放射線診療を受ける者の被ばく線量の管理および記録」です。このうちハだけ対象機器が絞られています。対象は平成31年厚生労働省告示第61号が定める8種類(移動型・据置型の循環器用X線透視診断装置、全身用X線CT診断装置、PET/SPECTとの組合せ型など)に、2種類の放射性同位元素を加えた10種です。一般撮影装置・歯科用パノラマ・骨密度測定装置は入っていません。
3つ目は承継の実務に直結します。線量記録の実体が診療録や照射録なら、その引き継ぎはカルテの引き継ぎと同じ問題になります。保存義務の所在やデータ移行の可否はカルテとシステムの移行の記事で整理しています。照射録が別システムにある例もあるので、買う前の調査で所在を確かめてください。
ここからは労働安全衛生法の系統です。医療法が「患者と施設」を見ているのに対し、電離放射線障害防止規則は働く人を見ています。同規則第3条は、3月間につき1.3ミリシーベルトを超えるおそれのある区域を管理区域として標識で明示するよう定めています。問題は記録です。同規則第9条第2項は、放射線業務従事者の線量を算定・記録し30年間保存するよう定めています。健康診断個人票も30年保存です(第57条)。
そして第61条の2(記録等の引渡し)です。第9条第2項の記録を作成・保存する事業者は、事業を廃止しようとするときは、当該記録を厚生労働大臣が指定する機関に引き渡すものとすると定めています。健康診断個人票も同じ扱いです。条文は「買い手に引き渡す」とは書いていません。事業譲渡で売り手が事業を廃止する場合、線量記録の行き先は指定機関であり、買い手の手元には残らないのが原則です。
これが効くのは、第9条第2項が5年ごとの実効線量の合計を記録項目に挙げているからです。前の事業場での線量がなければ、買い手は5年分を通算できません。交渉段階で線量測定の委託先と契約の扱いを確認しておくのが現実的な対応です。
健康診断のサイクルも動きます。同規則第56条は、放射線業務に常時従事し管理区域に立ち入る労働者に対し、雇入れまたは当該業務への配置替えの際、およびその後6月以内ごとに1回の健康診断を義務づけています。事業譲渡でスタッフが形式上いったん退職し再雇用される形を取るなら、「雇入れの際」の健康診断が新たに立ちます。雇用の引き継ぎ方はスタッフの雇用と労働条件の記事で整理しています。
よくある誤解から片付けます。電離放射線障害防止規則第46条は、労働安全衛生法施行令第6条第5号に掲げる作業についてエックス線作業主任者を管理区域ごとに選任せよと定めています。ところが安衛令第6条第5号は、括弧書きで「医療用又は…定格管電圧が千キロボルト以上のエツクス線を発生させる装置を使用するものを除く」としています。診療用エックス線装置を使う作業は、条文上そもそも選任義務の対象外です。ただし除外されているのは選任義務だけで、管理区域の明示、線量の測定と記録、健康診断は医療用でも外れません。
医療法側の測定義務も確認します。規則第30条の22は、放射線障害の発生するおそれのある場所について診療を開始する前に1回、開始後は1月を超えない期間ごとに1回の測定を義務づけ、記録を5年間保存するよう定めています。装置を固定して取り扱い、遮蔽物の位置が一定している場合は6月を超えない期間ごとに1回で足ります(同条第1号)。この「診療を開始する前に1回」が承継でどう当てはまるかは条文から読み切れず、一次資料で確定できなかったため、管轄の保健所に事前相談してください。
記帳義務もあります。規則第30条の23は、室ごとに装置の1週間当たりの延べ使用時間を帳簿に記載し、1年ごとに閉鎖して閉鎖後2年間保存するよう定めています。ただし画壁等の外側の実効線量率が基準以下になるよう遮蔽されている室は除かれます(治療用装置を使わないエックス線診療室なら40マイクロシーベルト毎時)。帳簿の要否は遮蔽の実態で決まります。
医療法第15条第3項の届出義務が「病院又は診療所の管理者」に課されているためです。事業譲渡では売り手が廃止し買い手が新たに開設するので、装置の位置とは無関係に、買い手にとっては「備えたとき」に当たります。期限は10日以内です。
必要です。規則第1条の11第2項の柱書のただし書は、適用対象を「エックス線装置又は第24条第1号から第8号の2までのいずれかに掲げるものを備えている病院又は診療所」としており、胸部レントゲン1台でも該当します。ただし患者の線量管理・記録が求められるのは告示第61号のCT等に限られます。
そのまま使うことを禁じる規定はありませんが、医政地発1003第5号は、放射線診療機器等の新規導入・更新の時などに見直すよう求めています。承継では責任者・研修対象者・報告体制の名前がすべて変わるため、少なくとも体制に関する記載は書き換えが必要です。
電離放射線障害防止規則第61条の2は、事業を廃止しようとするときに第9条第2項の記録を厚生労働大臣が指定する機関へ引き渡すものと定めており、買い手への引渡しを定めた規定はありません。委託先との契約や過去分の照会方法を承継前に確認し、個別の取扱いは労働基準監督署にもご確認ください。
古い装置を備えなくなった時点で規則第24条第12号・第29条第1項の届出(10日以内)、新しい装置を備えた時点で規則第24条の2の届出(10日以内)が立ちます。加えて、防護に関する構造設備や予防措置の概要を変えようとする場合は、規則第24条第11号・第29条第2項によりあらかじめの届出が必要です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の届出の要否や労働安全衛生上の措置の適否を保証するものではありません。エックス線装置に関する届出・放射線の安全管理体制の整備にあたっては、管轄の保健所・都道府県(保健所設置市・特別区)および労働基準監督署、ならびに行政書士・社会保険労務士等の専門家に必ずご確認ください。数値・制度は2026年9月時点の情報に基づきます。
公開日:2026年9月24日/最終更新日:2026年9月24日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身