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医療廃棄物の委託契約はどう引き継ぐ?承継で見直すマニフェストと管理責任者
承継・M&A 2026.09.17

クリニック承継で医療廃棄物の委託契約はどう引き継ぐ?感染性廃棄物のマニフェスト・管理責任者・帳簿【2026年版】

クリニックを引き継いでも、注射針やガーゼの捨て方までそのまま引き継げるわけではありません。感染性廃棄物は廃棄物処理法上の特別管理廃棄物にあたり(法第2条第3項・第5項、施行令第1条第1項第8号・第2条の4第4号)、処理責任は建物や機械ではなく「排出事業者」に紐づきます。同法は廃棄物処理施設の設置許可について地位の承継を定めた規定(第9条の5〜第9条の7)を置いていますが、排出事業者の義務についての承継規定は置いていません。承継の形によっては、委託契約もマニフェストも管理責任者も買い手の名前でやり直すことになります。

この記事の要点

  • 感染性廃棄物は「感染性一般廃棄物」と「感染性産業廃棄物」に分かれ許可権者も違うが、感染性産業廃棄物の許可業者は感染性一般廃棄物も扱えるため委託契約は1本で足りる(法第14条の4第17項、規則第10条の20第2項)
  • 排出事業者の地位承継の規定はない。開設者が入れ替わる承継では、委託契約・マニフェストの交付者名義・管理責任者をすべて買い手側で作り直す
  • マニフェストの写しは交付の日から60日(特別管理産業廃棄物)以内に返送を受ける必要があり、来なければ30日以内に都道府県知事へ報告する(規則第8条の28・第8条の29)。承継直前に交付した分の義務は売り手に残る

クリニックの医療廃棄物は法律上どう分類される?

廃棄物処理法は「医療廃棄物」という語を使いません。条文上の入口は施行令別表第一の四の項で、ここに掲げた施設から生じた感染性廃棄物が規制対象です。現行の同項は、イ 病院、ロ 診療所、ハ オンライン診療受診施設(医療法第2条の2第2項)、ニ 衛生検査所、ホ 介護老人保健施設、ヘ 介護医療院、ト 環境省令で定める施設を挙げています。ハのオンライン診療受診施設は令和8年4月1日施行の改正で追加された項目で、令和5年12月時点の同表にはありませんでした。環境省の「感染性廃棄物処理マニュアル」も令和8年4月改定でこの1点だけを反映しています。

感染性廃棄物は2つに分かれます。汚泥・廃油・廃酸・廃アルカリ・廃プラスチック類・ゴムくず等にあたるものが感染性産業廃棄物(施行令第2条の4第4号・別表第二)、それ以外が感染性一般廃棄物(同令第1条第1項第8号)で、同じ診療行為から両方が出ます。

区分クリニックで出る主なもの許可権者
感染性産業廃棄物注射針(金属くず)、アンプル(ガラスくず)、手袋(ゴムくず)、血液(汚泥・廃アルカリ)、レントゲン定着液(廃酸)都道府県知事(政令市は市長)
感染性一般廃棄物ガーゼ、脱脂綿、包帯、リネン類(繊維くず)、紙くず市町村長(特別区は区長)

該当するかどうかは環境省マニュアルの3つの観点、①形状(血液等、病理廃棄物、血液等が付着した鋭利なもの)、②排出場所(感染症病床・手術室・集中治療室・検査室等)、③感染症の種類で判断します。加えて鋭利なものは未使用でも血液が付着していなくても同等に扱うとされています。

承継すると医療廃棄物の委託契約はそのまま使えるのか?

承継の形で変わります。法第11条第1項は「事業者は、その産業廃棄物を自ら処理しなければならない」と定め、責任の主体はその事業活動を行っている者、クリニックでは開設者です。冒頭のとおり同法が地位の承継を定めているのは廃棄物処理施設の設置許可(第9条の5〜第9条の7、第15条の3の2)についてで、排出事業者の義務を後継者が承継する条文はありません

承継の形排出事業者委託契約管理責任者
事業譲渡/個人から個人買い手に入れ替わる買い手が新規に締結。売り手は旧契約を終了させる買い手側で置き直す
持分譲渡(医療法人が存続)医療法人のまま変わらない契約は継続。代表者名の変更を委託先に通知院長が変われば実質的に交代。表示を差し替える

新規に締結するとき忘れやすいのが委託前の文書通知です。特別管理産業廃棄物の運搬・処分を委託するときは、あらかじめ種類・数量・性状・荷姿と取り扱う際に注意すべき事項を文書で通知しなければなりません(施行令第6条の6第1号、規則第8条の16)。売り手が過去に出した通知は買い手の通知ではないため、改めて出します。

契約書の要件も政令に列挙されています(施行令第6条の6第2号→第6条の2第4号)。書面によることのほか、種類と数量・運搬の最終目的地・処分の場所と方法と施設の処理能力・中間処理後の最終処分・有効期間・料金・事業の範囲・積替保管の場所と上限・性状情報とその変更時の伝達方法・解除時の未処理廃棄物の取扱いという条項が必要で、許可証の写しの添付も要件です。発注書だけでは委託基準を満たしません。

保存義務は売り手に残ります。委託契約書と添付書面は契約終了の日から5年間保存が必要で(規則第8条の16の4が第8条の4の3を準用)、買い手が代わりに果たせません。売り手が個人に戻る場合ほど、誰が保管するかを譲渡の類型に応じて決めておく価値があります。

委託先の許可はどこまで確認すればいい?

委託できる相手は限定されています。特別管理産業廃棄物の運搬は特別管理産業廃棄物収集運搬業者、処分は同処分業者など法第12条の2第5項に定める者に限られ、感染性一般廃棄物も市町村長の許可を受けた業者などに委託しなければなりません(法第6条の2第8項)。

では二重に契約が必要かというと、不要です。法第14条の4第17項と規則第10条の20第2項により、感染性産業廃棄物の収集運搬を行える業者は市町村長の許可を受けずに感染性一般廃棄物の収集運搬も行えます。環境省マニュアルも両者は区分せず収集運搬でき、混合して委託できるとしています。1社・1契約で回っているのはこの規定が根拠で、買い手が確認すべきはその1社の許可の内容です。

  • 取り扱える種類に「感染性産業廃棄物」が含まれているか(特別管理産業廃棄物の許可でも品目に入っていなければ委託できません)
  • 許可の期限(特別管理産業廃棄物処理業は5年、優良認定業者は7年)と許可の条件
  • 積込み地と積卸し地のそれぞれの都道府県知事の許可があるか(マニュアルは、A県のクリニックがB県の処分業者に委託するなら運搬業者は両県知事の許可が必要と例示)
  • 積替え・保管の場所と保管上限/処分の委託なら処理施設の種類と処理能力
  • 過去に出した再委託の承諾が生きていないか(業者は原則再委託できませんが排出事業者の書面による承諾があれば可能で、承諾書面の写しは5年保存=規則第8条の4の4)

確認を省く代償は小さくありません。許可のない相手への委託5年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金(法第25条第1項第6号)、書面契約や事前通知を欠く委託基準違反3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金(法第26条第1号)で、いずれも併科があります。法第12条の2第7項は委託後も最終処分まで適正処理を確保する努力義務を課しており、名義だけ整えて中身を見ない引き継ぎはリスクをそのまま引き受けることになります。許可や契約の点検はデューデリジェンス(買う前に対象の内容を調べる調査)の項目に入れておくのが確実です。

マニフェストは承継日をまたぐとどう扱う?

産業廃棄物管理票(マニフェスト)は廃棄物を引き渡すのと同時に交付します(法第12条の3第1項)。交付義務を負うのは排出事業者で、法律はこれを「管理票交付者」と呼びます。承継日以降に引き渡す分は買い手が自分の名義で交付し、売り手名義の伝票を使い続けることはできません。厄介なのは、交付した後に写しが返ってくるまでの時間差です。

場面期限根拠
写しの返送を受けるべき期間交付の日から90日。特別管理産業廃棄物は60日規則第8条の28第1号
最終処分終了の写しを受けるべき期間交付の日から180日規則第8条の28第2号
返送がないときの都道府県知事への報告期間が経過した日から30日以内(様式第4号)法第12条の3第8項・規則第8条の29
交付した写し・返送された写しの保存いずれも5年間規則第8条の21の2・第8条の26

つまり承継日の直前に交付した伝票は、承継後2か月近くたってから売り手のところへ返ってきます。売り手が開設者でなくなっていても、交付者としての確認義務と報告義務は売り手に残ります。承継直前は引き渡しの本数を絞り、承継日をまたぐ伝票の受け取りと照合を誰が行うか引き継ぎメモに書いておくのが確実です。

年に1回の報告もあります。管理票交付者は毎年6月30日までに、その年の3月31日以前の1年間に交付した管理票の状況を様式第3号で都道府県知事に提出します(法第12条の3第7項、規則第8条の27)。義務は交付者ごとに生じるため、年度途中の承継では売り手と買い手がそれぞれ自分の交付分を報告する形になります。なお電子マニフェストの義務対象は前々年度の対象廃棄物の発生量が50トン以上の事業場(規則第8条の31の3)で、診療所が達することは通常ありません。帳簿は規模に関係なく義務で、毎月末までに前月分を記載し1年ごとに閉鎖して閉鎖後5年間保存します(法第12条の2第14項、規則第8条の18)。誰がいつ何を出すかは承継時の行政手続きと並べて確認してください。

特別管理産業廃棄物管理責任者は誰を置けばいい?

感染性産業廃棄物を生ずる事業場を設置している事業者は、事業場ごとに特別管理産業廃棄物管理責任者を置かなければなりません(法第12条の2第8項)。同項のただし書により自ら管理責任者となる事業場はこの限りでないため、院長自身が務めるなら別に任命する必要はありません。資格は規則第8条の17第1号に定められ、感染性産業廃棄物の事業場では医師、歯科医師、薬剤師、獣医師、保健師、助産師、看護師、臨床検査技師、衛生検査技師、歯科衛生士のいずれか(イ)などです。看護師が該当するため院長が兼務しない選択もでき、講習の受講は要件になっていません

置き直すときに漏れやすいのが表示の差し替えです。保管場所には囲いを設け、見やすい箇所に縦横それぞれ60cm以上の掲示をして、感染性廃棄物の保管場所であること・関係者以外立入禁止・管理責任者と連絡先を表示します(法第12条の2第2項、規則第8条の13第1号)。前院長の名前が残った掲示は立入検査で指摘され得る箇所です。保管そのものは「極力短期間」とされ、腐敗のおそれがあるものを長期保管するときは密閉や冷蔵などの措置が必要です(同条第5号)。なお環境省マニュアルは診療所等では処理計画・管理規程を定める必要はないとしています(体制の徹底は求められます)。院内に残す業務と外に出せる業務の切り分けは院長業務の切り分けとあわせて整理してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 承継後も売り手名義のマニフェストを使い続けていいですか?

できません。交付義務は排出事業者に生じるため(法第12条の3第1項)、開設者が入れ替わった後に引き渡す分は買い手の名義で交付します。持分譲渡で医療法人が存続する場合は法人名義を続けられますが、代表者と管理責任者の変更は委託先に伝えてください。

Q. 感染性一般廃棄物のために市町村の許可業者と別に契約が必要ですか?

通常は不要です。法第14条の4第17項と規則第10条の20第2項により、感染性産業廃棄物の収集運搬を行える業者は市町村長の許可なしに感染性一般廃棄物の収集運搬も行えます。許可品目を確認してください。

Q. 売り手が保管していたマニフェストの写しや帳簿は引き継ぐべきですか?

保存義務は交付者・記載者に残るため、売り手のものは売り手が5年間保存します。買い手が預かっても売り手の義務は消えません。過去の排出量や委託先の履歴は有用なので、写しの提供を受けるかは譲渡契約で決めます。

Q. 管理責任者は院長でなければいけませんか?

いいえ。規則第8条の17第1号イは医師のほか看護師、薬剤師、臨床検査技師、歯科衛生士などを挙げており、看護師などを置くこともできます。院長が自ら務める場合は別に任命する必要はありません(法第12条の2第8項ただし書)。

Q. 承継した年のマニフェスト交付等状況報告書は誰が出しますか?

報告義務は管理票交付者に生じるため、年度途中で開設者が変わった場合は売り手と買い手がそれぞれ自分の交付分を報告します。期限は毎年6月30日まで、対象はその年の3月31日以前の1年間です。合算の可否は管轄窓口に確認してください。

今すべきこと(チェックリスト)

  • 承継の形を確定させる。 開設者が入れ替わるのか、医療法人が存続するのかで契約を作り直すかが決まります
  • 委託先の許可証の写しをもらう。 品目・許可の期限・積込み地と積卸し地の許可を確認します
  • 契約書の条項が政令の要件を満たしているか点検する。
  • 承継日をまたぐマニフェストの受け取りと照合の担当を決める。 特別管理産業廃棄物は60日、来なければ30日以内の報告が必要
  • 6月30日の交付等状況報告書の分担を確認する。
  • 管理責任者を決め、保管場所の掲示とラベルを差し替える。
  • 売り手側の5年保存分(契約書・マニフェストの写し・帳簿)の所在を確認する。

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参考・出典

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の届出や委託契約の要否・適否を保証するものではありません。実際の委託契約の締結、特別管理産業廃棄物管理責任者の設置、マニフェストに関する各種報告にあたっては、管轄の都道府県・政令市の産業廃棄物担当窓口および行政書士等の専門家に必ずご確認ください。数値・制度は2026年9月時点の情報に基づきます。

公開日:2026年9月17日/最終更新日:2026年9月17日

執筆者

鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身

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