生活習慣の改善のなかでも、有酸素運動は薬に頼らずに血圧を下げる効果が比較的しっかりとしたデータで裏付けられている方法のひとつです。この記事では、有酸素運動がどのくらい血圧を下げるのか、どのような運動を、どのくらいの強度・頻度で行えばよいのかを、複数のメタ解析の結果をもとに解説します。
有酸素運動でどのくらい血圧が下がるのか
有酸素運動の降圧効果を検討した代表的なメタ解析のひとつに、RCT54件・参加者2,419人を対象としたWheltonらの研究があります。20〜30分程度の有酸素運動を週数回行うことで、収縮期血圧が平均3.84mmHg、拡張期血圧が平均2.58mmHg低下したことが示されています。この効果は、もともと高血圧があるかどうか、肥満があるかどうかにかかわらず一貫してみられた点が特徴で、幅広い人にとって有酸素運動が有効な選択肢であることを示しています(出典:日経メディカル「有酸素運動の降圧効果は3〜4mmHg」)。より新しい研究では、RCT34件・1,787人を対象に運動量と降圧効果の関係(用量反応関係)が検討され、運動時間が週30分増えるごとに収縮期血圧が1.78mmHg、拡張期血圧が1.23mmHgずつ低下し、週150分の運動で収縮期7.23mmHg、拡張期5.58mmHgという最大の効果が得られたと報告されています(出典:Ganjeh S, et al. Hypertension Research. 2023)。
なぜ運動で血圧が下がるのか
有酸素運動が血圧を下げる仕組みのひとつとして、血管の内側を覆う血管内皮の機能改善が挙げられます。運動を継続的に行うことで、血管内皮から分泌される一酸化窒素(NO)の産生が増え、血管が拡張しやすくなることが、小規模な研究で確認されています。実際に、NO合成酵素を阻害する薬剤を投与すると運動による血管拡張効果が消失することが示されており、NOを介した経路が重要な役割を果たしていると考えられています(出典:J-STAGE「理学療法科学」2002)。
どのくらいの強度・頻度で行えばよいか
厚生労働省が公表している運動プログラムの資料では、定期的な有酸素運動によって高血圧患者の収縮期血圧が3〜5mmHg、拡張期血圧が2〜3mmHg低下することが期待できるとされ、具体的な目安として、中強度(最大心拍数の50〜60%程度)の有酸素運動を1回30分、週3〜5回、ストレッチなどを含めて合計60〜90分程度行うことが推奨されています。運動中の血圧が収縮期200mmHg・拡張期105mmHgを超える場合は運動を中止する目安も示されています(出典:厚生労働省「高血圧の人を対象にした運動プログラム」)。
- ウォーキング、水中歩行、軽いジョギング、サイクリングなど、無理なく続けられる種目を選ぶ
- 「ややきつい」と感じる程度(会話はできるが息が弾む程度)の強度を目安にする
- 運動前後に十分な水分補給を行う
- 血圧が非常に高い状態(Ⅲ度高血圧など)や体調不良時は、運動前に医師に相談する
効果を維持するには継続が鍵
有酸素運動による降圧効果は、運動をやめてしまうと徐々に失われていくことも報告されています。Wheltonらのメタ解析では、追跡期間が6か月を超えると効果がやや弱まる傾向が示されており、一時的に運動量を増やすだけでなく、無理のない範囲で長期的に運動習慣を継続することが重要です。忙しくてまとまった時間が取れない場合は、日常の歩数を増やす工夫から始めるなど、生活のなかに運動を組み込む形で継続しやすくする工夫も有効です。
レジスタンス運動との組み合わせ
有酸素運動が血圧管理の中心とされる一方で、軽い負荷でのレジスタンス運動(筋力トレーニング)を組み合わせることも有効とされています。厚生労働省の運動プログラムでも、有酸素運動を主体としつつ、低〜中強度のレジスタンス運動を併用することが勧められています。ただし、息を止めて強くいきむような高強度の筋力トレーニングは、動作中に血圧が急激に上昇することがあるため、高血圧のある方は重いウエイトを使う種目や、呼吸を止めて力むような動作は避け、軽めの負荷で回数を重ねる形が安全とされています。
運動を始める前に確認しておきたいこと
普段あまり運動をしていない方や、血圧が高い状態が続いている方が新しく運動を始める場合は、まず主治医に相談し、心臓や血管の状態に問題がないかを確認しておくと安心です。特に、狭心症や不整脈の既往がある方、ここ最近血圧が大きく変動している方は、運動の種類や強度について具体的な指示を受けてから始めることが望ましいです。運動中に胸の痛みや息切れ、めまいなどの症状が出た場合は、無理をせずすぐに中止してください。
暑い季節・寒い季節の運動の注意点
有酸素運動は継続することが何より大切ですが、季節によって注意すべき点も異なります。夏場は発汗による脱水や熱中症のリスクが高まるため、気温による血圧の変動も踏まえ、こまめな水分補給と、気温の高い時間帯を避けた運動時間の設定が大切です。冬場は寒さで血管が収縮し、急に体を動かすと血圧が急上昇しやすいため、屋外で運動する前には室内で軽く体を温めてから始める、厚着をして急激な寒暖差を避けるといった工夫が推奨されます。季節を問わず、運動前後の血圧を時々測定しておくと、その日の体調や環境に応じた運動量の目安を把握しやすくなります。
参考文献
- 日経メディカル「有酸素運動の降圧効果は3〜4mmHg、無作為化試験のメタ分析で示唆」2002
- Ganjeh S, et al. “Dose-response meta-analysis of aerobic exercise and blood pressure.” Hypertension Research. 2023
- 厚生労働省「高血圧の人を対象にした運動プログラム」
- 「有酸素運動による血管内皮機能への影響」理学療法科学. 2002
監修
監修:鎌形博展 株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
専門科目 救急・地域医療
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
SNSメディア
- Youtube Dr.鎌形の正しい医療ナビ https://www.youtube.com/@Dr.kamagata
- X(twitter) https://x.com/Hiro_MD_MBA
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