糖尿病の足病変は、神経障害で痛みを感じにくくなった足や、血流が落ちた足に、靴ずれ・低温やけど・深爪などの小さな傷が加わって起こり、気づかないうちに潰瘍(深い傷)や壊疽に進むことがあります。防ぐ方法として日本糖尿病学会が強く推奨しているのが、毎日の足の観察と、少なくとも年1回の診察での足のチェックを含む「フットケア」です。足の傷・赤み・腫れに気づいたら、痛みがなくても早めに受診してください。
「靴下を脱いだら、かかとに血がにじんでいた。でも、まったく痛くなかった」——糖尿病の外来では、こうした話を聞くことがあります。痛みは本来、足を守るための警報です。その警報が鳴りにくくなるのが、糖尿病の足の怖さです。
糖尿病の足病変とは
日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドライン2024は、糖尿病性足病変を「神経障害や末梢動脈疾患と関連して糖尿病患者の下肢に生じる感染、潰瘍、足組織の破壊性病変」と定義しています。水虫(足白癬)や爪の変形、たこ・うおのめといった身近なトラブルも、潰瘍の入り口になるため、フットケアの対象に含まれます。
足病変は、いくつかの条件が重なって起こります。
| 下地になる変化 | 足に起きること |
|---|---|
| 神経障害(感覚) | 痛み・熱さを感じにくく、傷ややけどに気づかない |
| 神経障害(運動・自律神経) | 指の変形やたこができ、足の裏の一部に圧が集中する。汗が減って皮膚が乾き、ひび割れる |
| 末梢動脈疾患(足の血流低下) | 傷に酸素や栄養が届かず、治りにくい |
| 高血糖 | 細菌への抵抗力が落ち、傷が化膿しやすい |
この下地に、靴ずれ・低温やけど・深爪・素足でのけがといった「きっかけ」が加わると潰瘍ができます。ガイドラインによると、糖尿病の足潰瘍の90%に神経障害が合併しています。
小さな傷が、なぜ切断にまでつながるのか
ガイドラインは、足潰瘍は再発が多く治りにくく、7〜20%が下肢切断にいたり、糖尿病の方の足の切断の80〜85%は足潰瘍が先に起きているとしています。日本では、2007年度の国民健康・栄養調査で糖尿病の方の0.7%に足潰瘍があると報告されています。
米国の総説(JAMA 2023)では、足潰瘍の5〜6割に感染が起こり、治ったあとの再発は1年で約4割、5年で約6割半と見積もられています。一度潰瘍ができた足は、治ったあとも「再発しやすい足」として守り続ける必要があるということです。
また、足病変は足だけの問題ではありません。ガイドラインは、足病変のある方は死亡、心筋梗塞、脳梗塞のリスクが高いという解析を紹介しています。足の血管が細くなっている方は、心臓や脳の血管にも動脈硬化が進んでいることが多いためです。
足病変が起こりやすい人
ガイドラインや糖尿病情報センターが、とくに注意が必要な人として挙げているのは次のような方です。
- 足潰瘍や壊疽になったことがある
- 神経障害がある(しびれ、感覚の鈍さ)
- 末梢動脈疾患がある(歩くとふくらはぎが痛み、休むと治まる)
- 足の変形、たこ・うおのめがある
- 血糖のコントロールがよくない
- 透析を受けている、視力が落ちて足が見えにくい、一人で足に手が届かない
足潰瘍の発生は、HbA1cが1%高いごとに約1.1倍になったという報告もあります。
診察室では何を確かめるか
ガイドラインは、すべての糖尿病の方に少なくとも年1回、足の状態を総合的に評価すること、そして足の変形・潰瘍の既往・神経障害・末梢動脈疾患のある方では、より頻繁に診ることを勧めています。
| 確かめること | 主な方法 |
|---|---|
| 皮膚と爪 | 傷、たこ・うおのめ、水虫、乾燥やひび割れ、巻き爪・厚い爪・爪の色 |
| 足の形 | 指の変形、外反母趾、足の甲や裏の盛り上がり |
| 神経 | アキレス腱反射、音叉で振動を感じる時間、細いナイロン糸(モノフィラメント)での感覚 |
| 血流 | 足の甲・くるぶしの脈の触れ方、ABI(足首と腕の血圧の比) |
| 靴と靴下 | 大きさが合っているか、中敷きのすり減り方 |
ABIは横になって腕と足首の血圧を同時に測る検査で、数分で終わります。ふつうは足首の血圧のほうが腕より少し高く、比が低いときは足の動脈の狭まりが疑われるため、さらに詳しい検査を受けます。ガイドラインは、症状のない方にもこの検査を勧めています。
受診のときは、靴下を脱いで足を見せてください。ふだんはいている靴をそのまま持っていくと、当たっている場所が分かりやすくなります。
毎日の足の守り方
ガイドラインは、足病変の発症と重症化を防ぐために、医療者による定期的な観察と、本人・家族への繰り返しの教育を組み合わせた「集学的フットケア」を推奨しています(推奨グレードA)。教育は1回きりでは効果が薄く、続けて繰り返すことが大切だとされています。ここでは家でできることをまとめます。
1. 毎日、足を見る
- 入浴のあとなど、明るい場所で、足の裏・指の間・かかと・爪のまわりを見る
- 見えにくいところは鏡を使うか、家族に見てもらう
- 傷、水ぶくれ、赤み、腫れ、色の変化、うみ、においがないかを確かめる
- 両足を手で触って、片方だけ熱い・冷たいところがないかも確かめる
米国の総説では、左右の足の皮膚温度に2℃を超える差がある「熱い場所」を見つけて負担を減らす方法で、潰瘍の発生が減ったという研究が紹介されています。
2. 洗って、乾かして、保湿する
足はぬるめのお湯でやさしく洗い、指の間までよく拭いて乾かします。乾燥してひび割れやすいかかとには保湿クリームを塗りますが、指の間はじめじめすると水虫の原因になるので塗りません。
3. 爪はまっすぐ切る
- 爪は四角いイメージでまっすぐに切り、角を深く切り落とさない(巻き爪や傷の原因になる)
- 白い部分を少し残し、深爪をしない。角は爪やすりで整える
- 厚い爪や巻き爪、見えにくくて切れないときは、自分で無理をせず医療機関で相談する
4. たこ・うおのめは自分で削らない
カミソリやはさみで削ったり、市販の貼り薬で取ったりすると、傷から感染することがあります。たこやうおのめは「そこに圧がかかっている」というサインでもあるため、医療機関で処置を受け、靴や中敷きを見直します。
5. 靴と靴下を選ぶ
- 素足で歩かない。家の中でも室内ばきをはく
- 靴は、つま先に1cmほどの余裕があり、幅や甲が締めつけないものを選ぶ。足がむくみやすい夕方に試しばきする
- はく前に、靴の中に小石などが入っていないかを手で確かめる
- 靴下は縫い目が当たりにくいものを選び、毎日はき替える
足に変形がある方や潰瘍の既往がある方は、足の形に合わせた靴や中敷き(足底板)を医療機関で作ることがあります。
6. 低温やけどを防ぐ
湯船に入る前に、手や温度計でお湯の温度を確かめます。湯たんぽ・電気あんか・カイロを直接肌に当てず、寝るときには使わないようにします。こたつやストーブに足を近づけすぎないことも大切です。
7. 血糖を整え、たばこをやめる
ガイドラインは、足潰瘍の発症予防と治療に血糖コントロールを推奨しています(推奨グレードA)。喫煙は足の血流を悪くするため、禁煙も欠かせません。
足に傷ができたら
小さな傷でも、清潔にして様子を見るだけで済ませず、早めに主治医に見せてください。潰瘍の治療は、傷の処置に加えて、感染の治療、傷に体重がかからないようにする工夫(免荷)、血流が悪い場合は血管を広げる治療などを組み合わせます。ガイドラインは、内科・皮膚科・形成外科・血管外科などの医師と看護師などのチームで治療することを推奨しています(推奨グレードA)。
神経障害のある方で、足が急に赤く腫れて熱をもったときは、骨や関節が壊れていく「シャルコー足」の可能性もあります。痛みが少なくても、早く診断して足を固定し、体重をかけないことが必要です。
受診の目安
次のようなときは、次の予約を待たずに、その日のうちか翌日までに受診してください。
- 足に傷・水ぶくれ・靴ずれができ、数日たっても治らない
- 足の一部が赤い、腫れている、熱をもっている、うみやにおいがある
- 足の指や皮膚の色が紫・黒っぽく変わってきた
- 足が急に赤く腫れた(痛みが少なくても)
- 傷に加えて、発熱や血糖の急な上昇がある
次のようなときは、ふだんの通院のときに相談してください。
- 糖尿病と言われてから、足を診てもらったことがない
- しびれや感覚の鈍さがある、歩くとふくらはぎが痛む
- たこ・うおのめ・水虫・巻き爪・厚い爪がある
- 視力が落ちたり、体が固くなったりして、自分で足を見る・爪を切るのが難しい
足のチェックは、糖尿病の診療の一部です。足のことを相談する場所に迷ったら、まずは通院中の内科で「足も診てほしい」と伝えてください。看護師によるフットケアを行っている医療機関もあります。
糖尿病の相談ができるクリニック
監修医が理事長を務める医療法人社団季邦会の関連クリニックでは、糖尿病を含む内科診療に対応しています。健診で血糖値や HbA1c を指摘された方、予備群と言われた方もご相談ください。
- 糖尿病専門医が院長巣鴨クリニック豊島区/巣鴨駅 徒歩1分糖尿病専門医が院長。糖尿病内科・甲状腺内科(内分泌内科)。女性医師が診療。平日夜19:30まで、土曜も診療。予約・詳細を見る
- 栄養指導・土日診療街のクリニック 立川・村山立川市/玉川上水駅 徒歩1分糖尿病内科・甲状腺内科。管理栄養士による栄養指導あり。土日診療。オンライン診療にも対応。予約・詳細を見る
- 生活習慣病・いびき神保町駅前内科クリニック千代田区/神保町駅A3出口 徒歩1分生活習慣病の外来として糖尿病を診療。平日19時30分まで。原則予約制。予約・詳細を見る
- 糖尿病内科街のクリニック 大島駅前江東区/大島駅A5出口 徒歩1分糖尿病内科・循環器内科など。土日は午前診療。予約・詳細を見る
- 土日診療・オンライン街のクリニック 日野・八王子日野市/北八王子駅 徒歩15分糖尿病内科・呼吸器内科など。土日診療。オンライン診療にも対応。予約・詳細を見る
※ 本サイトは株式会社ENが運営しています。掲載のクリニックは当社の関連法人である医療法人社団季邦会が運営する診療所です。お近くにお住まいでない方は、立川・村山/日野・八王子でオンライン診療をご利用いただけます。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、糖尿病・高血圧・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。法人内には糖尿病専門医が院長を務める巣鴨クリニックがあり、日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第11章 糖尿病性足病変 https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/11_1.pdf
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第10章 糖尿病性神経障害 https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/10.pdf
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第12章 糖尿病性大血管症 https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/12.pdf
- 糖尿病情報センター「糖尿病足病変」 https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/060/040/01.html
- 糖尿病情報センター「糖尿病フットケアノート」(2023年12月改訂) https://dmic.jihs.go.jp/content/footcare_notes_2023.pdf
- Armstrong DG, Tan TW, Boulton AJM, Bus SA. Diabetic Foot Ulcers: A Review. JAMA 330: 62-75, 2023 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37395769/
- Armstrong DG, Boulton AJM, Bus SA. Diabetic Foot Ulcers and Their Recurrence. N Engl J Med 376: 2367-2375, 2017 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28614678/



