健診の結果に「空腹時血糖 92 mg/dL」「HbA1c 5.4%」と並んでいて、どちらも基準値の内側。それなのに、昼食のあとに強い眠気が出る、夕方に体がだるくなる——そんな自覚があって「血糖値スパイク」という言葉を調べに来た方は少なくないと思います。健診で正常と言われた人にも起こりうる状態で、しかも健診の採血では見つけにくい。そこがこの話のややこしいところです。
「血糖値スパイク」は食後高血糖のことです
「血糖値スパイク」はテレビや雑誌で広まった言い方で、医学の教科書に載っている用語ではありません。指しているのは食後高血糖、つまり食事のあとに血糖値が急に上がり、しばらくして下がってくる動きのことです。
健康な人でも食事をすれば血糖値は上がります。問題になるのは、上がり方が急で、上がった高さが大きい場合です。国際糖尿病連合(IDF)のガイドラインでは、食後1〜2時間の血糖値が140 mg/dLを超える状態を食後高血糖として扱っています。
| 検査 | 見ているもの | 食後の山 |
|---|---|---|
| 空腹時血糖値 | 10時間以上絶食した朝の、一日でいちばん低い時間帯の値 | 映らない |
| HbA1c | 過去1〜2か月の血糖の平均 | ならされて薄まる |
| 食後(随時)血糖値・75gOGTT | 食後の上がり方そのもの | 映る |
健診で見つからないのには理由があります
健診の採血は、前日の夜から10時間以上何も食べていない状態で行います。つまり測っているのは、一日の血糖の「底」の値です。食後にどこまで上がっているかは、この一点からは分かりません。
HbA1cも同じ事情を抱えています。HbA1cは過去1〜2か月の平均を映す検査なので、1日3回の食後に山があっても、それ以外の時間帯が低ければ、平均としては基準の内側に収まることがあります。
このため食後高血糖は「隠れ糖尿病」と呼ばれることがあります。健診で拾えていないだけで、体の中では食事のたびに血糖が大きく動いている、という状態です。
放っておくとどうなるのか
境界型(耐糖能異常)の入口にあたります
食後の血糖の上がり方は、75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で判定します。日本糖尿病学会の基準では次のように分かれます。
| 75gOGTT 2時間値 | 判定 |
|---|---|
| 140 mg/dL未満(かつ空腹時110 mg/dL未満) | 正常型 |
| 140〜199 mg/dL | 境界型(耐糖能異常・IGT) |
| 200 mg/dL以上 | 糖尿病型 |
空腹時血糖が110〜125 mg/dLの場合も境界型に含まれます。境界型はまだ糖尿病ではありませんが、2型糖尿病へ進む人が一定の割合でいて、この段階で生活を見直すと進行を抑えられる可能性が高いことが分かっています。
血管への負担という側面があります
食後高血糖が続くと血管に負担がかかり、動脈硬化が進みやすくなると考えられています。山形県舟形町の住民を追跡した研究(舟形町研究)では、75gOGTTで耐糖能異常と判定された群で心血管疾患による死亡が多く、一方で空腹時血糖だけが高い群ではその関連がはっきりしなかったと報告されています。食後の値を見ないと拾えないリスクがある、という根拠のひとつです。
ただし、食後の山を薬で削れば心血管の病気が確実に減る、というところまで証明されているわけではありません。現在の診療で目標として掲げられているのはHbA1cで、食後の血糖値は「合併症を防ぐための目安のひとつ」という位置づけです。治療中の方では、HbA1c 7.0%未満という目標に対応する血糖値として、空腹時130 mg/dL未満・食後2時間180 mg/dL未満がおおよその目安として示されています。
確かめる方法
食後高血糖を確かめる検査にはいくつか段階があります。
| 検査 | 何をするか | 分かること |
|---|---|---|
| 食後(随時)血糖値 | 食後1〜2時間のタイミングで採血する | その日の山の高さの一端 |
| 75gOGTT | 空腹で採血したあとブドウ糖75gの液を飲み、30分・1時間・2時間後に採血する | 正常型・境界型・糖尿病型の判定 |
| 血糖自己測定(SMBG) | 指先から1滴の血で自分で測る | 食前と食後の差 |
| 持続血糖測定(CGM) | 腕などにセンサーを貼り、数日〜2週間の血糖の動きを記録する | 一日の血糖の波の形 |
いちばん手軽なのは、食後1〜2時間の時間帯に受診して採血してもらうことです。「朝食を何時に食べて、いま何分後か」を医師に伝えると、値の読み方が変わります。空腹時血糖とHbA1cが基準の内側でも食後の値が高ければ、そこから75gOGTTに進むかを相談します。
SMBGとCGMは、保険が使えるのは条件を満たす場合に限られます。糖尿病と診断されていない段階で何をどこまで調べるかは、費用の面も含めて主治医と相談してください。
食後の血糖を穏やかにする工夫
日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドライン2024で、血糖のコントロールに有効とされている食事・運動の要素を、食後の血糖という観点から整理します。
- 食物繊維をとる:2型糖尿病の血糖コントロールに積極的な食物繊維の摂取が有効とされています(推奨グレードB)。水溶性食物繊維で1日7.6〜8.3gが目安として示されています
- 低GI食を選ぶ:低GI食は有効とされていますが(推奨グレードB)、研究によって結果にばらつきがあります
- 炭水化物の量を見直す:6〜12か月以内の短期であれば炭水化物の制限が有効とされています(推奨グレードB)。ただし極端な制限を自己判断で始めるのは避け、とくに薬を使っている方は必ず主治医に相談してください
- 食後に体を動かす:ガイドラインは週150分以上の中等度〜強度の有酸素運動をすすめており、「食後であれば食後高血糖の改善が期待できる」と明記しています。週30〜100分程度でも時間に応じた血糖の改善が示されているので、食後の15分の散歩から始めても意味があります
- 早食いを避ける:同じ食事でも短時間でかき込むほど血糖は急に上がりやすくなります
なお「野菜やたんぱく質を先に食べる」という食べ方は小規模な研究での報告が中心で、ガイドラインの推奨として扱われているわけではありません。食物繊維や運動のほうが根拠のはっきりした手立てです。
受診を考える目安
次のような場合は、症状がなくても一度内科で相談してください。
- 健診でHbA1cが5.6%以上、または空腹時血糖が100 mg/dL以上だった
- 空腹時血糖とHbA1cは基準内だが、健診の尿糖が陽性だった
- 親や兄弟に糖尿病の人がいる
- 妊娠糖尿病と言われたことがある
- 体重がこの数年で増えてきた
- 食後の強い眠気、のどの渇き、尿の回数の増加が続く
受診のときは、健診結果の用紙を持っていくと話が早く進みます。食後の血糖を確かめたい場合は、朝食をとってから1〜2時間の時間帯に受診する、という段取りも伝えておくとよいでしょう。
まとめ
- 「血糖値スパイク」はメディアの言い方で、医学的には食後高血糖。食後1〜2時間で140 mg/dLを超える状態が目安です
- 健診の空腹時血糖は一日の「底」、HbA1cは1〜2か月の平均なので、食後の山は見えにくい
- 75gOGTTの2時間値が140〜199 mg/dLなら境界型。まだ糖尿病ではありませんが、進行を抑えられる段階です
- 舟形町研究では、耐糖能異常の群で心血管疾患による死亡が多いと報告されています
- 手立てとしては食物繊維・炭水化物の量・食後の運動が根拠のはっきりした部分です
食後の眠気やだるさは食後高血糖以外の原因でも起こります。気になる自覚があるなら、思い当たる原因を絞り込むためにも、健診結果を持って一度受診して確かめておくのが確実です。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、糖尿病・高血圧・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。法人内には糖尿病専門医が院長を務める巣鴨クリニックがあり、日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- 日本糖尿病学会 糖尿病診断基準に関する調査検討委員会「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版)」糖尿病 55(7): 485-504, 2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/55/7/55_485/_article/-char/ja/
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」3章 食事療法 https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/03_1.pdf
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」4章 運動療法 https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/04_1.pdf
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「食後高血糖」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/metabolic/ym-086.html
- Tominaga M, et al. Impaired glucose tolerance is a risk factor for cardiovascular disease, but not impaired fasting glucose. The Funagata Diabetes Study. Diabetes Care. 1999;22(6):920-924. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10372242/
- 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター https://dmic.jihs.go.jp/



