運動が血糖によいことは誰もが知っていますが、「なぜ効くのか」「どのくらいやればよいのか」「いつやるのが効果的か」を知っている人は多くありません。仕組みを知ると、忙しい中でも効率よく取り入れる方法が見えてきます。この記事では、運動が血糖を下げる2つの仕組みと、続けられる現実的な組み立て方を説明します。
運動が血糖を下げる2つの仕組み
その場で効く:筋肉がブドウ糖を使う
運動をすると、筋肉は血液中のブドウ糖をエネルギーとして取り込みます。この取り込みは、運動中はインスリンを介さずに起こります。つまり、インスリンの効きが悪い人でも、体を動かせば筋肉が直接ブドウ糖を消費してくれるということです。この効果は運動中から運動後数時間続きます。
食後30分〜1時間に歩くと、食後の血糖の上昇を直接抑えられるのはこのためです。1回15〜20分の歩行でも、食後血糖のピークが下がることが示されています。
続けて効く:インスリンの効きがよくなる
運動を習慣にすると、筋肉の量が増え、筋肉がブドウ糖を取り込む能力(インスリン感受性)が高まります。内臓脂肪が減ることも、インスリンの効きを妨げる物質を減らす方向に働きます。こちらの効果は、運動をやめると数日で薄れていきます。「週末にまとめて」より「少しずつ毎日」のほうが効くのは、この性質のためです。
どのくらいやればよいのか:目安は週150分
日本糖尿病学会と米国糖尿病学会はともに、中等度の有酸素運動を週150分以上、それに加えて筋力トレーニングを週2〜3回行うことを推奨しています。
「中等度」とは、少し息が弾むが会話はできる程度の強さです。速歩、自転車、水泳、軽いジョギングなどが該当します。
週150分の分け方は自由です。
- 1日30分を週5日
- 1日20分強を毎日
- 1日50分を週3日
- 10分の歩行を1日3回、週5日
まとめて行う必要はなく、10分単位の積み重ねでも効果があります。通勤で一駅分歩く、昼休みに10分歩く、買い物を歩いて行く、といった形で日常に組み込むほうが続きます。
筋力トレーニングを加える理由
有酸素運動だけでも効果はありますが、筋力トレーニングを組み合わせるとHbA1cの改善幅が大きくなることが分かっています。筋肉はブドウ糖の最大の貯蔵庫であり、筋肉量が多いほど血糖を受け入れる「容量」が増えるためです。とくに年齢とともに筋肉が減っていく50代以降では、筋トレの意味が大きくなります。
ジムに通う必要はありません。自宅でできるスクワット、かかと上げ、壁を使った腕立て伏せ、椅子からの立ち上がりなどを、1種目10〜15回を2〜3セット、週2〜3回行うことから始められます。太ももとお尻の大きな筋肉を使う運動が効率的です。
「食後に歩く」は最も費用対効果が高い習慣です
食後の血糖上昇を抑えるという点で、食後30分〜1時間の歩行はもっとも直接的な方法です。3食後に10分ずつ歩くだけで、1日1回30分まとめて歩くより食後血糖の管理がよかったという研究もあります。夕食後にテレビを見ながら座っている時間を、10〜15分の歩行に置き換えるだけで違いが出ます。
座っている時間を減らすことも、それ自体に効果があります。30分に一度立ち上がって数分動くだけで、長時間座り続けるより食後の血糖が低くなることが示されています。
運動を始める前に確認しておきたいこと
運動は基本的に安全ですが、次に当てはまる方は、運動を始める前に主治医に相談してください。
- 網膜症があると言われている(激しい運動で眼底出血が起こることがある)
- 腎症が進んでいる(強い運動が腎臓に負担になることがある)
- 足に神経障害があり、感覚が鈍い(靴ずれや傷に気づかず悪化することがある)
- 狭心症・心筋梗塞の既往がある、または胸の痛み・動悸がある
- 血糖が非常に高い(空腹時250 mg/dL以上など)
- インスリンや一部の飲み薬を使っている(運動中・運動後の低血糖に注意が必要)
インスリンやスルホニル尿素薬(SU薬)を使っている方は、運動によって低血糖を起こすことがあります。空腹時の激しい運動は避け、ブドウ糖やジュースを携帯してください。
足に神経障害がある方は、運動の前後に足を確認し、靴は足に合ったものを選んでください。糖尿病の足の傷は、小さなものでも見過ごすと重症化することがあります。
続けるためのコツ
運動でもっとも多い失敗は、「張り切りすぎて続かない」ことです。
- 最初は「週150分」ではなく「今より1日10分多く歩く」から
- 万歩計やスマートフォンで歩数を見える化する(1日8,000歩前後を目安に、今の歩数から2,000歩増やすところから)
- 予定に組み込む。「時間があったら」では続きません
- 天気や体調で休んだ日を「失敗」と考えない。翌日に戻ればよい
- 一緒にやる人がいると続きやすい
血糖の改善は、運動を始めて2〜3か月後のHbA1cに表れます。すぐに数字が動かなくても、体の中では変化が始まっています。
まとめ
- 運動は「筋肉がブドウ糖を使う」「インスリンの効きがよくなる」の2つの仕組みで血糖を下げます
- 目安は中等度の有酸素運動を週150分と、筋力トレーニングを週2〜3回
- 10分単位の積み重ねで構いません。食後の歩行がもっとも直接的に効きます
- 座りっぱなしを30分ごとに区切るだけでも効果があります
- 網膜症・腎症・神経障害・心臓病がある方、インスリンやSU薬を使う方は事前に相談を
完璧な運動計画より、今日の夕食後に10分歩くことのほうが確実に前進です。
糖尿病の相談ができるクリニック
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、糖尿病・高血圧・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。法人内には糖尿病専門医が院長を務める巣鴨クリニックがあり、日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」(運動療法) https://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
- American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes—2025. Diabetes Care. 2025;48(Suppl 1). https://diabetesjournals.org/care/issue/48/Supplement_1
- Colberg SR, et al. Physical Activity/Exercise and Diabetes: A Position Statement of the American Diabetes Association. Diabetes Care. 2016;39:2065-2079. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27926890/
- Reynolds AN, et al. Advice to walk after meals is more effective for lowering postprandial glycaemia in type 2 diabetes mellitus than advice that does not specify timing: a randomised crossover study. Diabetologia. 2016;59:2572-2578. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27747394/
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」 https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf



