健診でHbA1cを指摘され、「食事に気をつけて、歩きましょう」と言われた。けれど、睡眠の話は出なかった——という方は少なくありません。実際には、睡眠は食事や運動と並んで血糖に関わる生活習慣です。「毎晩5時間しか眠れていない」「家族にいびきを指摘された」という人は、食事と運動だけを見直しても数字が思うように動かないことがあります。
眠りが短いと、同じ食事でも血糖が上がりやすくなります
睡眠が足りない状態が続くと、体の中で二つのことが起こります。
ひとつは食欲の変化です。食欲を抑えるレプチンというホルモンが減り、食欲を増すグレリンが増えるため、同じ生活をしていても食べる量が増えやすくなります。夜更かしをした翌日に甘いものや脂っこいものが欲しくなるのは、意志の弱さというより、この変化の影響が大きいと考えられています。
もうひとつは、インスリンの効きにくさ(インスリン抵抗性)です。睡眠不足では交感神経の緊張やストレスホルモンの分泌が続き、インスリンが出ていても筋肉や肝臓でブドウ糖がうまく取り込まれなくなります。その結果、食事の量が変わらなくても血糖は上がりやすくなります。
こうした変化は、長期的な発症リスクとしても観察されています。10件の追跡研究(約10万7千人)をまとめた解析では、睡眠の量だけでなく質の問題も2型糖尿病の発症と関係していました。
| 睡眠の状態 | 2型糖尿病を発症するリスク(睡眠が適正な人と比べて) |
|---|---|
| 睡眠時間が短い(5〜6時間以下) | 約1.3倍 |
| 睡眠時間が長い(8〜9時間より長い) | 約1.5倍 |
| 寝つきが悪い(入眠困難) | 約1.6倍 |
| 夜中に目が覚める(中途覚醒) | 約1.8倍 |
不眠の症状がある人では、眠りが良好な人に比べて糖尿病の発症リスクが1.5〜2倍になると整理されています。「眠れていない」という自覚は、血糖の面でも軽く見ないほうがよいサインです。
なお、長く眠っている人のリスクが高いのは「長く眠ると悪い」という意味ではありません。眠っても休めていない状態(睡眠時無呼吸など)や、ほかの病気が背景にあることを映している可能性が考えられています。
「何時間眠ればいいか」には幅があります
必要な睡眠時間は人によって違い、年齢によっても変わります。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人はおおむね6時間以上を目安に、自分に必要な睡眠時間を確保することがすすめられています。健康日本21(第三次)では、睡眠時間が6〜9時間(60歳以上は6〜8時間)の人の割合を増やすことが目標に置かれています。
同時に重視されているのが睡眠休養感、つまり「朝起きたときに休めた感じがあるか」です。時間を確保していても休養感が低い状態は、健康状態の悪化と関係することが分かっています。「7時間寝ているのに、朝すっきりしない」という感覚は、時間の数字と同じくらい大事な手がかりです。
いびき・日中の眠気があるときは、睡眠時無呼吸を考えます
眠っているつもりでも休めていない代表が、睡眠時無呼吸です。眠っている間に気道がふさがって呼吸が止まり、そのたびに脳が短く目覚めるため、本人には自覚がないまま睡眠が分断されます。2型糖尿病の方では睡眠時無呼吸の頻度が高いことが知られており、血糖の管理がうまくいかない背景として見落とされやすい問題です。
呼吸が止まると、なぜ血糖が動くのか
呼吸が止まっている間、血液中の酸素は一時的に下がり、そのたびに体は「危険な状態」と受け取って交感神経を働かせます。これが一晩に何十回も繰り返されると、夜のあいだ血圧も血糖も上がりやすい状態が続きます。さらに、睡眠が細かく分断されることで深い睡眠が取れず、日中もインスリンが効きにくくなります。つまり睡眠時無呼吸は、「睡眠不足」と「夜間のストレス反応」の両方を通じて血糖に関わってきます。
肥満があると気道が狭くなりやすく、一方で睡眠が乱れると体重が増えやすくなるため、体重と睡眠は互いに影響し合います。どちらか一方だけを目標にすると行き詰まりやすいのは、この関係があるためです。
次のような点が重なるときは、一度相談してみてください。
| 気づきのサイン | 具体例 |
|---|---|
| 家族からの指摘 | 大きないびき、いびきが途切れて静かになる、息が止まっていた |
| 日中の症状 | 会議や運転中の強い眠気、いくら寝ても眠い、集中が続かない |
| 夜間・起床時の症状 | 夜中に何度もトイレに起きる、朝の頭痛、口の渇き |
| 体格・血圧 | 体重が増えてきた、首まわりが太い、血圧の薬が増えてきた |
確かめ方は、まず自宅でできる簡易検査(指や鼻にセンサーを付けて一晩測る)から始めるのが一般的です。必要に応じて、より詳しい検査(終夜睡眠ポリグラフ検査)に進みます。程度に応じて、CPAP(シーパップ/鼻に当てたマスクから空気を送り、気道が閉じないようにする治療)やマウスピース、体重や睡眠姿勢の調整などが保険診療の中で選ばれます。いずれも診断の結果によって適応が決まるため、自己判断せず検査を受けることが出発点です。
治療中の方は、夜間の低血糖も一度点検してください
インスリンやSU薬(スルホニル尿素薬)を使っている方では、眠っている間に血糖が下がりすぎていることがあります。本人が気づかないまま起こるため、次のような形で表に出ます。
- 寝汗をひどくかく、悪夢を見る、目が覚めたときに動悸がする
- 朝、理由がわからないまま血糖が高い(下がりすぎた反動)
- 夜中に空腹で目が覚める
思い当たるときは、薬を自分で減らす前に主治医に伝えてください。眠っている間の血糖の動きは、持続血糖測定(CGM)を使うと確認しやすくなります。薬の種類や打つ時間の調整で解決することも多く、相談する価値のある症状です。
今夜から手をつけられること
睡眠は「意識して長く寝る」よりも、リズムを整えるほうが変わりやすい部分です。
- 起きる時刻を平日も休日もそろえる:就寝時刻より起床時刻のほうが、リズムを決める力が強いです
- 朝、光を浴びる:起きて30分以内にカーテンを開ける、通勤で外を歩くだけでも構いません
- 寝る直前の食事を避ける:就寝2〜3時間前までに食事を終えると、夜間の血糖も落ち着きやすくなります
- 寝酒にしない:飲酒は寝つきを助けるように感じても、眠りを浅くし、いびきや無呼吸を悪化させます
- カフェインは夕方以降を控える:作用は数時間続きます
- 夜勤・シフト勤務の方:勤務の形は変えられないことが多いので、仮眠の取り方や勤務明けの光の浴び方を主治医・産業医と具体的に相談するのが現実的です
交代勤務や夜勤のある方は、体内時計が勤務に合わせて何度もずれるため、睡眠の問題を「生活の乱れ」として片づけないことが大切です。勤務表を持って受診し、いつ眠り、いつ食事をとり、いつ薬を使うかを一緒に組み立てるほうが、現実に続けられる形に落ち着きます。
受診の目安
- 家族からいびきや呼吸の止まりを指摘された、日中に強い眠気がある
- 食事と運動を見直しているのに、HbA1cが下がってこない
- 睡眠時間が毎晩6時間を下回っている、または眠っても休めた感じがない
- 治療中で、寝汗・悪夢・朝の高血糖など夜間低血糖を思わせる症状がある
まとめ
- 睡眠不足は食欲のホルモンを変え、インスリンを効きにくくするため、同じ食事でも血糖が上がりやすくなります
- 睡眠が短い人・寝つきが悪い人・夜中に目が覚める人では、2型糖尿病の発症リスクが高いことが示されています
- 成人はおおむね6時間以上を目安に。時間と同じくらい「朝、休めた感じがあるか」が大切です
- いびき・日中の眠気・夜間頻尿が重なるときは睡眠時無呼吸を考え、簡易検査から確かめます
- 治療中の方は、寝汗や朝の高血糖から夜間低血糖に気づけることがあります
食事と運動を頑張っているのに数字が動かないとき、残っている一手が睡眠であることは珍しくありません。眠りの時間と朝の感覚を1週間書き出して、次の受診のときに持っていくところから始めてみてください。
この記事のテーマで相談できるクリニック
監修医が理事長を務める医療法人社団季邦会の関連クリニックでは、糖尿病を含む内科診療に対応しています。健診で血糖値や HbA1c を指摘された方、予備群と言われた方もご相談ください。
- 糖尿病専門医が院長巣鴨クリニック豊島区/巣鴨駅 徒歩1分糖尿病専門医が院長。糖尿病内科・甲状腺内科(内分泌内科)。女性医師が診療。平日夜19:30まで、土曜も診療。予約・詳細を見る
- 栄養指導・土日診療街のクリニック 立川・村山立川市/玉川上水駅 徒歩1分糖尿病内科・甲状腺内科。管理栄養士による栄養指導あり。土日診療。オンライン診療にも対応。予約・詳細を見る
- 生活習慣病・いびき神保町駅前内科クリニック千代田区/神保町駅A3出口 徒歩1分生活習慣病の外来として糖尿病を診療。平日19時30分まで。原則予約制。予約・詳細を見る
- 糖尿病内科街のクリニック 大島駅前江東区/大島駅A5出口 徒歩1分糖尿病内科・循環器内科など。土日は午前診療。予約・詳細を見る
- 土日診療・オンライン街のクリニック 日野・八王子日野市/北八王子駅 徒歩15分糖尿病内科・呼吸器内科など。土日診療。オンライン診療にも対応。予約・詳細を見る
※ 本サイトは株式会社ENが運営しています。掲載のクリニックは当社の関連法人である医療法人社団季邦会が運営する診療所です。お近くにお住まいでない方は、立川・村山/日野・八王子でオンライン診療をご利用いただけます。
お近くの医療機関を地域や診療科から探したい方へ他のクリニックを探す
この記事が含まれるガイド
あわせて読みたい
この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、糖尿病・高血圧・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。法人内には糖尿病専門医が院長を務める巣鴨クリニックがあり、日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(令和6年2月) https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
- 厚生労働省「睡眠対策」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html
- 厚生労働省「健康日本21(第三次)推進の方向性」(休養・睡眠領域の目標) https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001313740.pdf
- 生活習慣病などの情報(e-ヘルスネット)「睡眠と生活習慣病との深い関係」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart/k-02-008.html
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」 https://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
- 日本呼吸器学会「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」 https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20200730145402.html
- Cappuccio FP, D'Elia L, Strazzullo P, Miller MA. Quantity and quality of sleep and incidence of type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis. Diabetes Care. 2010;33(2):414-420. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19910503/
- 糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター) https://dmic.jihs.go.jp/



