厚生労働省の「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」は、令和8年10月19日の第6回で、看護師養成所の専任教員の配置基準を取り上げました。根拠は、令和8年地方分権提案への一次回答などをまとめた資料4と、滋賀県が提出した資料5です。本記事は両資料と指定規則の条文を原典で読み、決まっていることと検討段階のことを分けて整理します。(公開日:2026年10月29日)
第6回検討会で、専任教員の配置基準は何が議論されたのか?
看護師学校養成所に求められる「専任教員8人以上」などの配置基準を弾力化できるかどうかが、地方分権提案(管理番号95)を通じて検討会に示されました。基準を変えると決まったわけではなく、資料4には弾力適用の手順が「議論の素材として提供する一例」として載っている段階です。
資料4によると、提案団体は和歌山県、滋賀県、京都市、兵庫県、鳥取県、全国知事会で、求める措置は保健師助産師看護師学校養成所指定規則(省令)の改正です。これに対する厚生労働省の一次回答は、指定規則が各教育内容を教授するのに適当な8名以上の専任教員等の配置を求めており、引き続き維持する必要があるというものでした。一方で、養成所の統廃合やサテライト化を進めるにあたっての課題への対応と体制整備については、検討を始めたところとも書かれています。
地方分権改革有識者会議の提案募集検討専門部会からは、配置基準を「参酌すべき基準」とする検討を求める再検討の視点が示されています。「参酌すべき基準」とは、国の基準を十分に踏まえたうえで、自治体が地域の実情に応じて異なる定めをすることも許される基準を指す、というのが一般的な整理です(この説明は編集部の補足です)。(出典:厚生労働省 第6回検討会 資料4「令和8年地方分権提案について」、令和8年10月19日)
現行の配置基準は、条文ではどう書かれているのか?
指定規則第4条は、看護師学校養成所の指定基準として、教育内容を教授するのに適当な教員を有し、そのうち一定数以上を看護師の資格を持つ専任教員とすること、そのうち1人を教務に関する主任者とすることを定めています。同じ条に、1つの授業科目で同時に授業を行う学生数は40人以下とする規定もあります。ただし、教育効果を十分に挙げられる場合は適用しないというただし書きが付いています。
| 課程 | 専任教員の人数(指定規則) |
|---|---|
| 修業年限3年以上の課程(第4条第1項) | 8人以上(うち1人は教務主任) |
| 准看護師の免許取得後の課程など、修業年限2年以上の課程(同条第2項) | 7人以上。通信制は10人以上(入学定員300人以下の場合は8人以上) |
人数の増員については、資料4が引用する「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」に目安があります。3年課程で学生総定員が120人を超える場合は、30人増えるごとに1人増やすことが望ましいとされています。省令の下限は定員に関わらず固定で、規模に応じて増やす部分はガイドラインの目安で示されている、という二層構造です。(出典:e-Gov法令検索「保健師助産師看護師学校養成所指定規則」(昭和26年文部省・厚生省令第1号)第4条、厚生労働省 第6回検討会 資料4、令和8年10月19日)
滋賀県の資料5は、養成所の何を示したのか?
資料5は、県内の看護師養成所8校の専任教員と、学生確保の状況を平成28年と令和8年で比べた表を載せています。滋賀県は、県内の看護師学校養成所の入学者定員の約6割を養成所が占め、県内就職者の半数が県内養成所の出身だと説明しています。
| 項目 | 平成28年 | 令和8年 |
|---|---|---|
| 専任教員数 | 84名 | 82名 |
| 専任教員のうち30歳代以下 | 17名(20.2%) | 3名(3.7%) |
| 専任教員のうち50歳以上 | 34名(40.5%) | 53名(64.6%) |
| 専任教員の平均年齢 | 47.3歳 | 52.0歳 |
| 入学定員充足率(7校) | 86.3% | 85.9% |
| 入学試験倍率(7校) | 2.6倍 | 1.1倍 |
| 定員割れの学校 | 50%(5/10校) | 100%(7/7校) |
| 国家試験合格率 | 96.0% | 93.5% |
資料の注記によると、専任教員は令和8年時点で存続している養成所のみの数値で、入学関連の数値は令和8年度に募集を停止した1校を除いています。また、滋賀県の集計であり、全国の傾向を示すものではありません。全国の動きとしては、資料4に、都道府県への調査で把握した令和7年度以降の廃止予定課程(2025〜2030年度)が94課程あるという記載があります。これは令和8年5月時点で回答のあった数で、確定した閉校数ではありません。(出典:滋賀県 第6回検討会 資料5、令和8年10月19日、資料4)
提案する県は、現行の基準の何に困っているのか?
滋賀県は、定員を減らす場面、増やす場面、課程を廃止する場面のそれぞれで、現行基準が学校の選択肢を狭めていると整理しています。
定員を減らしても、専任教員は8名以上が必要なため、縮小して存続するという選択が取りにくくなります。定員を増やす場合は、教員の増員や1学年2クラスの運営が難しく、増員に踏み切れません。課程を廃止する場合は、学年が減っても最後まで8名以上が必要で、高齢の教員で移行期間を支えることになり、閉校の判断も遅れやすいとしています。専任教員養成講習会の受講中は専任教員が1名減ることや、閉校予定の学校でも基準を満たすために高齢の教員を新たに採用している例も挙げています。
県の要望は5点です。(1)規模に応じた配置基準にする、(2)課程廃止や募集停止の期間は在籍学年・学生数に応じた配置を認める、(3)欠員時に一定期間は非常勤教員等で補う運用を設ける、(4)統合やサテライト化を前提としない対応にする、(5)国が統一基準で講義を作成・配信するなど遠隔授業環境を整備する、です。いずれも、教員1人当たりの学生数や実習指導体制などの教育の質を担保する条件を付けたうえでの弾力化を求めています。(出典:滋賀県 第6回検討会 資料5、令和8年10月19日)
資料4には、専任教員のうち入職後5年未満の退職者が約半数を占めるという記載もあります。出典は日本看護学校協議会の令和7年度実態調査(回答368)とされていますが、本記事ではこの調査の原報告書は開いていません。
資料4の方策案は、どんな手順なのか?(検討段階)
資料4が「議論の素材として提供する一例」として示した手順は、次の4段階です。第一に、遠隔授業の活用、統廃合、サテライト化、養成所間の連携に合わせて弾力化を求める養成所が、都道府県に申請します。第二に、都道府県が「プラットフォーム」で、看護職員の需給を踏まえて養成体制を確保する必要があるかを協議し、あわせて教育の質、教員の負担、養成所の経営状況を確認します。第三に、都道府県が厚生労働省に弾力適用の申請をします。第四に、厚生労働省がそれらを基に可否を判断します。
つまり案の骨格は、基準を一律に下げるのではなく、都道府県の協議を経た個別の申請で例外を認める形です。これが採用されるかどうかも、基準そのものを変えるかどうかも、資料の時点では決まっていません。
関連する予算として、資料4には、遠隔授業推進支援事業の令和8年度当初予算87百万円、医療従事者の安定的な養成・確保支援事業の令和9年度概算要求29億円が記載されています。後者は概算要求の額であり、決定額ではありません。(出典:厚生労働省 第6回検討会 資料4、令和8年10月19日)
現時点で確定していることと、していないことは何か?
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 確定している(現行制度) | 指定規則第4条の専任教員の人数と、同時授業40人以下の規定。厚生労働省の一次回答は、8名以上の配置は引き続き維持する必要があるというもの |
| 検討段階 | 配置基準を「参酌すべき基準」とするかどうか。都道府県の申請・協議を経て弾力適用を認める手順案。遠隔授業やサテライト化に合わせた見直し |
| 未掲載 | 第6回の議事録(確認した令和8年10月29日時点で開催回一覧に無し)。会議での発言は本記事では扱わない |
病院や看護管理者は、この議論の何を見ておけばよいのか?
ここからは編集部の整理です。看護職員の採用側にとって、地域の養成所の存続は新卒の供給に直結します。資料5は、県内就職者の半数が県内養成所の出身だとしており、養成所の縮小や閉校は地域の採用計画に影響しうると読めます。母体病院が養成所を運営している場合は、定員、募集停止の見込み、専任教員の年齢構成を、自院の人員計画とあわせて確認しておく価値があります。
実習の受け入れや、看護基礎教育の見直しとの関係は別の記事で扱っています。看護基礎教育の見直しの論点(資料1)や、看護職員確保策(資料2)とあわせて読むと、養成から確保までの流れを一続きで確認できます。今後は、都道府県の協議の場の設計や、第6回議事録での議論が焦点になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 看護師養成所の専任教員は、法令上は何人必要ですか?
指定規則第4条第1項は、修業年限3年以上の課程で、専任教員を8人以上(うち1人は教務主任)と定めています。2年課程は7人以上で、通信制は10人以上(入学定員300人以下は8人以上)です。
Q2. 専任教員8人以上の要件は緩和されることが決まったのですか?
決まっていません。第6回の資料4で、厚生労働省は8名以上の配置を引き続き維持する必要があるとしつつ、統廃合やサテライト化に伴う課題への対応を検討し始めたところと回答しています。弾力適用の手順は議論の素材として示された一例です。
Q3. 「参酌すべき基準」とは何ですか?
一般には、国の基準を十分に踏まえたうえで、自治体が地域の実情に応じて異なる内容を定めることも認められる基準を指します。資料4では、提案募集検討専門部会がこの扱いを検討するよう求めています。
Q4. 滋賀県の数値は全国の状況ですか?
違います。資料5は滋賀県内の養成所8校(入学関連は7校)の集計です。全国の廃止予定課程の数は資料4に別途94課程と記載がありますが、都道府県の回答を集計した数です。
Q5. 第6回の議事録はいつ読めますか?
確認した令和8年10月29日時点では、開催回一覧に第6回の議事録は載っていません。掲載後に会議での発言を確認できます。
参考資料
確認日はいずれも令和8年10月29日です。資料4が引用する各調査(日本看護学校協議会の令和7年度実態調査、都道府県への廃止予定課程の調査ほか)と、資料5の滋賀県の集計の原データは開いていません。数値は両資料の記載を典拠としています。
- 厚生労働省/第6回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 資料ページ/令和8年10月19日/https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76494.html/確認日 2026年10月29日
- 厚生労働省/資料4 令和8年地方分権提案について/令和8年10月19日/https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001760411.pdf/確認日 2026年10月29日
- 滋賀県/資料5 滋賀県からの提供資料/令和8年10月19日/https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001760412.pdf/確認日 2026年10月29日
- 文部省・厚生省/保健師助産師看護師学校養成所指定規則(昭和26年文部省・厚生省令第1号)/e-Gov法令検索/https://laws.e-gov.go.jp/law/326M50000180001/確認日 2026年10月29日
- 厚生労働省/2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 開催回一覧/-/https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/youseikakuho_72181.html/確認日 2026年10月29日





