厚生労働省の「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」は、2026年9月14日の第5回で看護職員の勤務環境改善を取り上げました。同じ日に、医療分野のカスタマーハラスメント対策も報告されています。本記事は、その配布資料(資料1・資料4)と、10月1日に施行された措置義務の原典を読み、確定している制度と検討段階の論点を分けて整理します。
第5回検討会は看護職員の勤務環境で何を示したのか?
資料1「看護職員の勤務環境改善について」は、就業実態、ICT等による業務効率化、看護管理能力の3部構成です。資料4はカスタマーハラスメント(以下カスハラ)の法改正と支援策の説明です。資料は現状認識と事例の提示であり、新しい制度の決定ではありません。(出典:厚生労働省「第5回2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」資料ページ(令和8年9月14日開催))
同検討会の全体像は看護職員確保策の記事を参照してください。
看護職員の就業実態は数字でどうなっているのか?
資料1によると、2023年の看護職員の就業者数は174.6万人で、内訳は看護師137.3万人、准看護師25.7万人、保健師7.3万人、助産師4.2万人です。年齢階級別では45歳以上の就業者が増えています。数値は医政局看護課が複数の統計から集計・推計したもので、調査年以外は推計値です。(出典:厚生労働省「看護職員の勤務環境改善について」第5回検討会資料1、令和8年9月14日)
勤務形態は、病院看護実態調査(日本看護協会、2025年10月1日時点、全国の病院8,022施設の看護部長が対象)で、最も多くの看護職員に適用されている形態を尋ねた結果が示されています。
| 勤務形態 | 割合 |
|---|---|
| 二交代制(夜勤1回あたり16時間以上) | 66.0% |
| 三交代制(変則含む) | 16.6% |
| 二交代制(夜勤1回あたり16時間未満) | 14.3% |
| その他/無回答・不明 | 0.4%/2.8% |
(出典:同上 資料1。原調査は日本看護協会「病院看護実態調査」)これは「病院ごとに最も多い形態」の集計で、1人ひとりの勤務形態の内訳ではない点に注意が必要です。
夜勤をしない理由や希望する働き方は年代で違うのか?
資料1は、日本看護協会「2025年 看護職員実態調査」(有効回答4,430名)から、夜勤をしていない理由を年代別に示しています。2025年9月の1か月間に夜勤をしていない日勤のみの回答者1,275名のうち、20〜40代では「子どもの世話」、50〜60代では「看護管理者の職位にあるため」が目立ち、次いで健康上の理由が挙がっています。希望する働き方も、短時間勤務、日勤のみ、夜勤の回数・時間・曜日の選択など、年代で分かれます。
退職理由は、ナースセンター登録の求職者(看護経験があり未就業または看護職以外で働く人、n=34,197、複数回答)で、子育て10.9%、結婚10.5%、転居9.5%、自分の健康9.5%、親族の健康・介護8.4%の順です。「勤務時間が長い・超過勤務が多い」は5.7%で10位でした。これは求職登録した人の回答であり、離職した看護職員全体の理由とは限りません。(出典:同上 資料1。原調査は日本看護協会 中央ナースセンター「2024(令和6)年度ナースセンター登録データに基づく看護職の求人・求職・就職に関する分析報告書」)
看護職員の超過勤務は減っているのか?
1人あたり月平均の超過勤務時間は、2022年の5.4時間から2025年の4.8時間へ減っています。病床規模が大きいほど長い傾向は変わっていません。
| 病床規模 | 2022年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| 計 | 5.4 | 5.1 | 4.8 |
| 99床以下 | 4.3 | 4.1 | 3.8 |
| 200〜299床 | 5.0 | 4.8 | 4.3 |
| 400〜499床 | 7.8 | 7.0 | 6.5 |
| 500床以上 | 9.0 | 8.6 | 8.3 |
(出典:同上 資料1。原調査は日本看護協会の病院看護実態調査各年版。2023年と一部の病床区分は省略)資料の表から、各年が同じ病院の追跡かどうかは読み取れません。年ごとの増減は、傾向の目安として読むのが安全です。
ICT活用とタスク・シフトはどこまで進んでいるのか?
資料1には、病棟看護業務の実測が載っています。43病棟(41病院)768名のデータで2018年と2024年を比べると、1日あたりの実施時間は、排泄介助が25.5分、バイタルサイン測定が23.3分、食事の世話が14.6分、看護師間の申し送りが13.8分それぞれ減りました。一方、観察は20.1分、患者等からの情報収集は19.0分、体位交換は13.2分増えています。(出典:同上 資料1。原典は令和7年度厚生労働科学研究費補助金「効率的な看護業務推進の評価に係る実態把握のための研究」)
タスク・シフト/シェアの課題としては、「受ける側の医療関係職種の余力(人員確保等)」が75.7%で最多、次いで意識改革・啓発が63.0%でした(日本看護協会「2025年病院看護実態調査」)。
制度面で資料1が示しているのは、令和8年度診療報酬改定で、ICT機器等を組織的に活用した病棟は看護職員・看護補助者の配置が1割以内の減少でも算定できること、その施設基準にICT導入病棟の常勤看護要員の超過勤務が平均10時間以下であることなどが含まれること、地域医療介護総合確保基金に「業務効率化・勤務環境改善に関する事業」の新区分が設けられることです。配置基準の柔軟化の詳細は看護配置基準の記事で扱っています。診療報酬の個別の施設基準は告示・通知で確認する必要があり、本記事は資料1の記載を紹介するにとどめます。
カスハラ対策は2026年10月1日から何が義務になったのか?
改正法(令和7年法律第63号、令和7年6月11日公布)により、事業主はカスハラについて雇用管理上必要な措置を講じる義務を負います。施行日は令和8年10月1日です。(出典:厚生労働省 山梨労働局「カスタマーハラスメント及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となります」、厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」)
指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、カスハラを次の3つをすべて満たすものとしています。職場において行われる顧客等の言動であること、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものであること、労働者の就業環境が害されるものであること。事業主が講ずべき措置は、方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、抑止のための措置、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止の5区分です。指針に医療機関向けの章はなく、「顧客等」の例に病院が含まれ、サービス提供義務や、サービス途絶が生命・心身に重大な影響を及ぼす場合への留意が求められています。(出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号))
資料4は、全業種を対象とした令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」を引いています。顧客等からの著しい迷惑行為の経験割合は、接客頻度が勤務日ほぼ毎日の人で17.4%、ほとんど接しない人で5.3%でした。企業が被った影響は、通常業務への悪影響63.4%、労働者の意欲・エンゲージメントの低下61.3%、休職・離職22.6%です。これは医療業に限った数値ではありません。
医療向けの支援として、資料4は、医療従事者の勤務環境改善のための研修動画(全12本、各約20分)を挙げ、この動画を使った研修の経費に地域医療介護総合確保基金を活用できるとしています。
まだ決まっていないことは何か?
ここからは、制度として決まった内容ではなく、資料が示す検討段階の事項です。
資料4によれば、令和8年度は厚生労働省が委託するモデル事業で医療業が対象になり、医師会や看護協会などの業界団体が共通の対応方針をつくるまでを支援する計画です。実態把握調査や周知コンテンツの作成も予定されていますが、方針の内容や公表時期は資料に記載がありません。第6回は2026年10月19日に開催されたものの、2026年10月20日時点で厚生労働省の一覧には開催案内ページしか確認できず、資料は確認できませんでした。
病院や事業所は何から確認すればよいのか?
以下は、原典の内容から筆者が整理した確認事項で、国が示した手順ではありません。
第1に、カスハラの方針・相談窓口・事後対応・抑止措置が、指針の5区分に沿って整っているかを確認します。第2に、自院の勤務形態と夜勤免除の理由を把握します。年代で理由が異なるため、一律の制度より、選択肢の設計が問われます。第3に、ICT導入や業務の切り出しを検討するなら、超過勤務の実測値を持っておくことです。検討会資料では、診療報酬の施設基準にも超過勤務時間が関わっています。制度の相談先として、各都道府県の医療勤務環境改善支援センターが勤務環境改善やハラスメント対策の支援を行っています(資料4)。
よくある質問
Q1. 検討会の資料に載った数値は、新しい制度の基準ですか?
いいえ。資料は現状認識と事例の紹介であり、制度の基準ではありません。診療報酬の基準は告示・通知、法的義務は法令と指針で確認します。
Q2. カスハラの措置義務は、病院にも適用されますか?
改正法は事業主一般に措置を義務付けるもので、指針は「顧客等」の例に病院を含めています。医療機関向けの別規定は指針にありません。個別の適用は、所管の労働局など公的窓口に確認してください。
Q3. 退職理由の1位は子育てですか?
資料1の数値は、ナースセンターに登録した求職者の回答で、子育てが10.9%で最多です。離職した看護職員全体の理由ではない点に注意してください。
Q4. 本記事の数値は原典で確認できますか?
第5回の資料1・資料4、改正法の施行に関する厚労省ページ、指針のPDFで確認できます。ただし、資料が引く各調査(日本看護協会、厚労科研、実態調査)の原報告書は、筆者は開いていません。
参考資料
- 厚生労働省 / 第5回2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 資料ページ / 令和8年9月14日 / https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75693.html / 確認日 2026-10-20
- 厚生労働省 / 資料1「看護職員の勤務環境改善について」 / 令和8年9月14日 / https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001749051.pdf / 確認日 2026-10-20
- 厚生労働省 / 資料4「医療分野のカスタマーハラスメント対策について」 / 令和8年9月14日 / https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001749054.pdf / 確認日 2026-10-20
- 厚生労働省 山梨労働局 / カスタマーハラスメント及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となります(令和8年10月1日施行) / https://jsite.mhlw.go.jp/yamanashi-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/houkaisei_goannai/newpage_00004.html / 確認日 2026-10-20
- 厚生労働省 / 令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について / https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html / 確認日 2026-10-20
- 厚生労働省 / 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号) / https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf / 確認日 2026-10-20
注記:本記事の個別調査の数値(日本看護協会の各調査、ナースセンター登録データ、厚生労働科学研究、令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査)は資料1・資料4の記載を典拠としており、各調査の原報告書そのものは参照していません。令和8年度診療報酬改定と基金の新区分も、資料1の記載の紹介であり、告示・予算資料の原本は確認していません。
参考・一次出典
- 厚生労働省 / 第5回2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 資料ページ / 令和8年9月14日
- 厚生労働省 / 資料1 看護職員の勤務環境改善について / 令和8年9月14日
- 厚生労働省 / 資料4 医療分野のカスタマーハラスメント対策について / 令和8年9月14日
- 厚生労働省 山梨労働局 / カスタマーハラスメント及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となります / 令和8年10月1日施行
- 厚生労働省 / 令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について
- 厚生労働省 / 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)





