厚生労働省の「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」は、令和8年10月19日の第6回で、看護職員の資質向上を正面から議題にしました。看護基礎教育のカリキュラム、新人看護職員研修、新人期以後の研修を一続きで見直す方向が資料に書かれています。本記事は、その資料1だけを原典で読み、決まっていることと検討段階のことを分けて整理します。(公開日:2026年10月26日)

第6回検討会の資料1は、何を示したのか?

資料1は、看護職員の養成と研修を見直すために議論する「論点」と、現行制度の枠組み、2040年に向けた環境変化の整理を並べた資料です。制度改正の決定を示したものではありません。

資料の末尾には、検討会での議論を踏まえて取り組むこととして「看護基礎教育のカリキュラムの改定」「新人看護職員研修ガイドラインの見直し」「新人期以後の研修の充実」の3項目が挙げられています。ただし、改定の時期や具体的な内容は資料1には書かれていません。第6回の議事録は、確認した時点では開催回一覧に掲載されておらず、会議での発言は本記事では扱いません。(出典:厚生労働省「看護職員の資質向上に向けた取り組み」第6回検討会 資料1、令和8年10月19日、同検討会 開催回一覧(令和8年10月26日確認))

資料1が掲げた5つの検討論点とは何か?

論点スライドは、次の5項目を並べています。(1)2040年に向けて看護師に求められる実践能力、(2)看護基礎教育修了時点で獲得が求められる能力(実習開始時の能力もあわせて議論)、(3)それを踏まえた基礎教育の見直しの方向性、(4)新人看護職員研修の見直しの方向性、(5)新人期以後の資質向上の在り方です。

実践能力については、これまでの意見を踏まえた整理が示され、その妥当性を問う形になっています。資料の別のスライドでは、検討事項として、整理の妥当性、現行の指導ガイドラインのⅠ〜Ⅴ群を踏まえて新たに整理すべき観点の有無、基礎教育修了時の看護師像の3点が挙がっています。つまり第6回は結論を出す回ではなく、基礎教育の出口で何を求めるかの議論を進めるための材料を示した回です。

これまでの意見の整理として資料に載っているのは、たとえば次のような観点です。観察力とアセスメント力、倫理的感受性、「治す医療」から「治し支える医療」への対応、多職種連携と調整、AI・ICT・医療DXの活用、複合課題を持つ対象者への対応、ハラスメントを含む課題への対応とマネジメント、主体的な学習です。(出典:厚生労働省 第6回検討会 資料1、令和8年10月19日)

現行の看護基礎教育は、どのように設計されているのか?

資料1によれば、看護師等養成所の教育は、保健師助産師看護師法とその施行令、指定規則に基づいて指定基準が定められ、都道府県が指導・監督しています。運営の細目は、平成27年3月31日付の厚生労働省医政局長通知「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」に示されています。このガイドラインは、学士課程でのコンピテンシー基盤型教育を踏まえ、資質・能力を4階層で整理しています。最上位の第1階層には11の能力(対象を総合的・全人的に捉える能力、プロフェッショナリズム、生涯学習能力、地域社会における健康支援、ケアの質と安全の管理、多職種連携能力、科学的探究能力、患者ケアのための臨床スキル、コミュニケーション能力、情報・科学技術を活かす能力、専門知識に基づいた問題解決能力)が置かれています。第2〜第4階層の名称は、今回読んだ範囲では確認できませんでした。

単位構成は、資料1の表では総計102単位です。次のとおり読み取れました。

区分 単位数 備考
基礎分野 14
専門基礎分野 22 人体の構造と機能16、健康支援と社会保障制度6
専門分野 43 基礎看護学11、地域・在宅看護論6、成人看護学6、老年看護学4、小児看護学4、母性看護学4、精神看護学4、看護の実践と統合4
臨地実習 23 うち6単位は、学校・養成所が教育内容を問わず定めることができる
合計 102 14+22+43+23

出典は第6回検討会 資料1です。なお、昭和26年からの教育内容の変遷や令和元年の第5次改正の中身は、資料の図からどの改正にどの項目が対応するかを確定できなかったため、本記事では取り上げません。

卒業時に求められる実践能力Ⅰ〜Ⅴ群とは何か?

資料1は、現行の指導ガイドラインにある「看護師の実践能力と卒業時の到達目標」を、5つの群・計48項目で示しています。検討会の議論は、この枠組みを土台にして、2040年に向けて何を足すか、どこを見直すかという形で進んでいます。

群 名称 到達目標の番号 項目数
Ⅰ群 ヒューマンケアの基本的な能力 1〜11 11
Ⅱ群 根拠に基づき、看護を計画的に実践する能力 12〜19 8
Ⅲ群 健康の保持増進、疾病の予防、健康の回復にかかわる実践能力 20〜34 15
Ⅳ群 ケア環境とチーム体制を理解し活用する能力 35〜45 11
Ⅴ群 専門職者として研鑽し続ける基本能力 46〜48 3

検討会の意見整理では、Ⅲ群に関連して「先を見据えた予防支援」や「切れ目ない支援」、Ⅳ群に関連して「制度・社会資源の調整」や「キーパーソンとしての多職種連携」といった観点が挙がっています。(出典:厚生労働省 第6回検討会 資料1、令和8年10月19日)

資料1は、2040年に向けた環境変化をどう整理したのか?

資料1は、実践能力の議論の前提として、人口・医療需要・医療DX・タスク・シフト/シェアの変化を並べています。数値は、資料1がほかの統計や推計から引いたものです。以下の数値は資料1の記載を典拠としており、各調査・推計の原報告書そのものは参照していません。

要介護認定率は、2022年9月末の認定者数(介護保険事業状況報告)と同年10月1日の人口から作成されたもので、65歳以上全体で18.9%、75歳以上で31.5%、85歳以上で57.7%です。年齢階級別では、80〜84歳が25.4%、85〜89歳が47.4%、90歳以上が73.2%と、高齢になるほど急に高まります。

人口については、国立社会保障・人口問題研究所の令和5年推計に基づく数値が示されています。65歳以上人口は2025年の3,653万人から2040年に3,928万人となり、ピークは2043年の3,953万人とされています。2025年から2040年の変化は地域類型で大きく異なり、生産年齢人口は大都市型でマイナス11.9%、地方都市型でマイナス19.1%、過疎地域型でマイナス28.4%、高齢人口は大都市型でプラス17.2%、地方都市型でプラス2.4%、過疎地域型でマイナス12.2%です。いずれも類型ごとの平均値です。

認知症高齢者数は、令和5年度の研究(九州大学の二宮利治教授の研究を基に厚生労働省が作成)として、2025年に471.6万人、2040年に584.2万人と推計されています。軽度認知障害(MCI)は2040年に612.8万人とされています。

タスク・シフト/シェアについては、特定行為が38行為21区分と記載されています。これは令和2年12月23日の「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」の整理を引いたものです。特定行為研修の修了者数や指定研修機関数は「年々増加」とのみ書かれ、資料1に具体的な数値はありません。修了者数の実数は、特定行為研修を扱った本メディアの記事を参照してください。(出典:厚生労働省 第6回検討会 資料1、令和8年10月19日)

養成の現場と就業の場の数字から、何が読み取れるのか?

資料1には、養成の現場に関する数字も載っています。看護師学校養成所(3年課程)の定員充足率は、令和7年度が79.5%、令和6年度が82.0%で、平成20年度の96.7%から低下傾向にあります。この数値は令和8年4月10日の第1回検討会資料3から引かれたものです。都道府県内就業率は58.2%と80.1%の2つの数値が載っていますが、どの課程の平均値かを資料から特定できなかったため、本記事では使いません。

臨地実習については、看護師が配置されていない施設での実習は実習全体の3割以内とすること、基礎看護学と成人看護学の実習は学生1人につき1か所以上の病院で行うこと、原則として養成所の所在する都道府県内の施設で行うことといった要件が示されています。病院側の要件として、看護職員の半数以上が看護師であることや、実習指導者が2人以上配置されていることも挙げられています。

就業場所別の看護職員数は、厚生労働省の医療施設(静態)調査や衛生行政報告例などを基にした集計として、訪問看護ステーションが2002年の2.4万人から2023年の8.7万人へ、介護保険施設等が6.8万人から16.8万人へ増えています。看護職員の総数の最新値は、資料のグラフの表示が途中で切れており確認できませんでした。看護職員の就業先が病院から在宅・介護へ広がっていることは、基礎教育に地域・在宅の視点が求められる理由として読める数字です。ただし、そのように資料が結論づけているわけではありません。(出典:厚生労働省 第6回検討会 資料1、令和8年10月19日)

確定していることと、検討段階のことは、どう分けて読むべきか?

確定した事項として読めるのは、現行の枠組みの部分です。指導ガイドライン(平成27年通知)の構造、102単位の構成、臨地実習の要件、卒業時のⅠ〜Ⅴ群48項目は、現在の制度の説明です。

検討段階にあるのは、2040年に向けて求められる実践能力の整理、基礎教育修了時に獲得すべき能力、基礎教育・新人研修・新人期以後の研修の見直しの方向性です。意見整理に挙がった観点は検討会の委員の意見の整理であり、制度上の要件になったものではありません。資料1が「今後の取組」として挙げた3項目も、取り組むという方向性の表明にとどまり、時期・内容・対象は示されていません。したがって、「Ⅰ〜Ⅴ群が変わる」「単位数が増える」といった記述は、現時点の原典からは言えません。

なお、本検討会の別の回の資料は、本メディアの他の記事で扱っています。第5回の勤務環境(看護職員の勤務環境改善とカスタマーハラスメント)と、第6回資料2の確保策(看護職員確保策で国は何を示したか)です。あわせて読むと、養成・確保・定着の3つの論点がどうつながっているかが見えます。

医療機関の管理者と看護師は、今から何を意識できるのか?

ここからは原典の記載ではなく、編集部の読み方です。制度の見直し内容が決まっていない以上、先回りして何かを変える必要はありませんが、資料1の論点は、教育・研修の設計を点検する際の観点になります。

医療機関の側では、新人看護職員研修の運用が、ガイドラインの見直しを待たずに現場の実態と合っているかを確認しておく余地があります。検討会の意見整理には、複合課題を持つ対象者への対応、多職種連携、ハラスメントを含む課題への対応が挙がっています。入職後の研修が、基礎教育の出口で身につく能力の変化を受け止められる設計かどうかは、見直し後に調整が必要になる点です。実習の受け入れ施設であれば、実習指導者の配置などの要件が現行のとおり示されていることも確認できます。

看護師個人の側では、Ⅴ群が求める「専門職者として研鑽し続ける基本能力」が、新人期以後の研修の充実という方向性とつながっています。認定資格や特定行為研修の制度は別途動いており、たとえば認定看護師の更新審査の見直しも参考になります。キャリア形成を考える場合は、制度の確定を待つ項目と、今から選べる研修を分けて考えると整理しやすくなります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 看護基礎教育のカリキュラム改定は決まったのですか?

資料1には「看護基礎教育のカリキュラムの改定」に取り組むと書かれていますが、時期や内容は示されていません。具体的な改定内容は、今後の検討会や制度改正の公表を待つ必要があります。

Q2. 現在の看護基礎教育は何単位ですか?

資料1の表では、基礎分野14、専門基礎分野22、専門分野43、臨地実習23の合計102単位です。臨地実習のうち6単位は、学校・養成所が教育内容を問わず定められます。

Q3. 卒業時の実践能力の項目は増えるのですか?

現行はⅠ〜Ⅴ群の計48項目です。検討会では新たに整理すべき観点の有無が論点とされていますが、項目が増えるかどうかは決まっていません。

Q4. 看護師等養成所の定員充足率はどのくらいですか?

資料1によると、3年課程は令和7年度79.5%、令和6年度82.0%で、平成20年度の96.7%から低下傾向にあります。

Q5. 第6回の議事録はいつ読めますか?

確認した令和8年10月26日時点では、開催回一覧に第6回の議事録は掲載されていません。掲載後は、会議での発言を確認できるようになります。

参考資料

確認日はいずれも令和8年10月26日です。資料1が引用している個別の統計・推計(介護保険事業状況報告、日本の将来推計人口 令和5年推計、認知症の将来推計研究、医療施設(静態)調査ほか)の原報告書は開いていません。

参考・一次出典