令和8年度診療報酬改定で、看護職員の配置基準に2つの「柔軟化」が入った。突発的な欠員が出たときに最長3か月間、届出の変更をしなくてよいという一時的な猶予と、ICT機器を導入した病棟で配置数を1割以内の範囲で下回っても入院料を算定できるという恒常的な緩和である。どちらも条件が細かく、片方には「どの経路で求人したか」まで入っている。厚生労働省の通知と疑義解釈をもとに、確定していることだけを整理する。

令和8年度改定で、看護職員の配置基準は何が変わったのか?

配置基準の数値そのものは変わっていない。変わったのは「基準を下回ったときにどう扱うか」で、性質の異なる2つの経路が用意された。①やむを得ない事情による届出猶予(最長3か月・1年に1回)と、②ICT機器等の活用による配置基準の柔軟化(1割以内の減少を許容)である。

いずれも今回の改定の柱のひとつに位置づけられている。改定の基本方針は、医療分野が公定価格ゆえに経済情勢の変化へ機動的に対応しにくく「サービス提供や人材確保に大きな影響を受けている」とし、具体的方向性に「業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用の推進」と「診療報酬上求める基準の柔軟化」を並べて挙げた(出典:社会保障審議会医療保険部会・医療部会「令和8年度診療報酬改定の基本方針」令和7年12月9日)。

関係する通知は令和8年3月5日付(保医発0305第6号ほか)で発出され、実施は令和8年6月1日からである(出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(関係法令・通知等))。以下、①②の順に見る。

「やむを得ない事情」による届出猶予は、どういう制度なのか?

従来から、看護要員の数などが「暦月で1か月を超えない期間の1割以内の一時的な変動」であれば変更の届出は不要だった。令和8年度改定はこれに加えて、突発的で想定が困難な事象によりやむを得ない事情が生じた場合には、1か月を超える期間の1割以内の変動でも、3か月を超えない期間に限り届出をしなくてよいこととした。ただし1年に1回に限られ、4つの条件が付く(出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要 6.入院(共通事項)」)。

厚生労働省の概要資料は、8月から10月までの3か月間に看護要員数が1割以内減少した例を示している。11月に変動から回復すれば引き続き元の入院料を算定でき、11月も継続した場合は12月中に届出内容を変更し、翌1月から変更後の入院料を算定する。図中では、期間中の9月に有効な求人票を添付した報告が置かれている。

何が「突発的で想定が困難な事象」に当たるのか?

疑義解釈は3つの例を挙げている。いずれも「看護職員が一時的に不足する状況」を指す。

  • 感染症の拡大により患者を受け入れて入院患者が一時的に急増した場合、または感染して出勤できない看護職員が増加した場合
  • 看護職員や家族の突発的な体調不良等により、1か月を超える不在が見込まれる場合
  • 看護職員の自己都合による急な離職等が複数重なった場合

3つ目が入っている点は実務上大きい。定年退職のように予見できる欠員は対象になりにくいが、突発的な離職が重なった場合は対象になり得る、という切り分けである。なお2つ目については、求人の申込みにあたって「職員の短期的な不在を補うためだけでなく、長期的に安定的な人材確保を図る観点から求人内容を検討すべきである」と付記されている(出典:厚生労働省保険局医療課「疑義解釈資料の送付について(その1)」令和8年3月23日・別添1 問9)。

なぜ求人経路が条件になっているのか?

この猶予を使うには、公共職業安定所(ハローワーク)または都道府県ナースセンター等の無料職業紹介事業を活用した看護職員確保の取組を行っていることが求められる。民間の職業紹介事業者を利用する場合は、医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者認定制度の適正認定事業者を含むこととされている。

ハローワークとナースセンターが並んでいるのは偶然ではない。看護師等の人材確保の促進に関する法律は、第10条で公共職業安定所に就業希望者の就職促進のための措置を求め、第14条・第15条第5号で都道府県ナースセンターを無料職業紹介事業を行う法人として位置づけている(出典:e-Gov法令検索「看護師等の人材確保の促進に関する法律」(平成4年法律第86号))。すでに存在する無料の経路を、診療報酬の要件側から使わせる設計である。

適正認定事業者の認定制度は、紹介手数料額や採用後の早期離職などへの対応として厚生労働省が創設したものである(出典:厚生労働省報道発表「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者として新たに5社(医療分野5社、介護分野2社)認定しました」令和5年3月3日)。紹介手数料の水準や令和7年4月からの開示義務化については、看護師・医師の紹介手数料は何%かで整理している。

このほか、自ら採用情報をウェブサイトで公表する等の取組を積極的に行っていることが「望ましい」とされる(自ら管理するホームページ等を有しない場合はこの限りではない。同 問11)。一時的に確保ができない場合に、一部の看護要員へ過度な業務負担とならないよう適正な労働時間管理を行い体制整備に努めることも、条件に含まれている。

「1年に1回」はいつから数えるのか?

規定を利用することとなった月の初日から起算する。その月とは、やむを得ない事情が生じた日の属する月の翌月である(同 問10)。事情の発生月ではなく翌月起算であることに注意したい。

ICT機器を導入すると、配置基準はどう変わるのか?

こちらは一時的な猶予ではなく、基準の側を恒常的に緩める仕組みである。見守り・記録・医療従事者間の情報共有の3領域でICT機器等を導入し、看護業務を軽減したうえで適切に患者の看護を行える体制がある場合、看護要員の数・入院患者との比率・看護師比率が基準に対して1割以内の減少であっても、入院料の所定点数を算定できる。

どの機器を入れる必要があるのか?

3領域の機器等を「全て導入」しており、当該病棟の看護職員等が広く使用していることが要件である。概要資料は各領域について次のように説明している。

領域 求められる機能 概要資料が挙げる例
見守り 病室のカメラや病床のセンサー等から、看護職員が遠隔で複数の患者の行動・体動・日常生活の状況等を総合的かつ効率的に把握できる 見守りカメラ、スマートグラス
記録 音声入力による看護記録の作成や、電子カルテの情報からの自動的なサマリー生成等、記録作成の効率化に大きく資する スマートフォン、音声入力システム
医療従事者間の情報共有 手に持たずに複数人と同時に通話できる機器や、看護職員と医師がリアルタイムに情報を共有できる端末等 インターコミュニケーションシステム、モバイル端末のチャット機能

電子カルテ等と連動して医療情報を扱うものは、いわゆる3省2ガイドラインに準拠していることが求められる。導入前後の看護要員の業務内容・業務量・業務時間や事務作業時間、業務負担等について年1回程度の評価(定量的または定性的)を行い、結果を院内に周知するとともに、労働安全衛生法第18条に規定する衛生委員会その他これに準ずる会議体で確認して必要な対策を講じることも要件である。厚生労働大臣が実施する随時調査への参加も求められる。

超過勤務時間の要件はどう計算するのか?

ICT機器等を導入した病棟の看護要員(常勤職員に限る)について、1人1月当たりの超過勤務時間が平均10時間以下であり、かつ非常勤職員を含めて導入前と比較して増加する傾向にないことが要件である。届出時の算出方法は疑義解釈で示された。

直近3月の月平均超過勤務時間数の計を3で除す。厚生労働省の例では、8月に届出をする場合、5月10時間・6月3時間・7月5時間なら(10+3+5)÷3=6時間となる(出典:「疑義解釈資料の送付について(その1)」令和8年3月23日・別添1 問6)。様式は別添7の様式60である。

つまり、この仕組みは「人を減らせる基準」ではなく「残業を増やさずに人が減った状態を維持できているか」を測る基準として組まれている。配置を1割下げた結果として超過勤務が増えれば、要件を満たさなくなる構造である。

対象となる入院料はどれか?

概要資料は対象病棟を次のように列挙している。急性期一般入院料1〜6、急性期病院一般入院料AB、7対1入院基本料、10対1入院基本料、地域包括医療病棟入院料1・2、小児入院医療管理料1〜4、特殊疾患病棟入院料1・2、緩和ケア病棟入院料1・2。療養病棟や回復期リハビリテーション病棟は挙げられていない。

2つの柔軟化は、どこが違うのか?

使う場面がまったく違う。前者は欠員が出てから使う事後的な猶予、後者は体制を整えてから届け出る事前の設計である。混同すると「ICTを入れれば欠員が出ても大丈夫」という誤解になる。

やむを得ない事情による届出猶予 ICT機器等の活用による柔軟化
性質 一時的(届出の変更をしなくてよい期間) 恒常的(基準を満たすものとして算定できる)
期間 3か月を超えない期間・1年に1回 要件を満たす限り継続
許容される幅 1割以内の一時的な変動 1割以内の減少
前提 突発的で想定が困難な事象 3領域のICT機器等をすべて導入
求人経路の要件 あり(ハローワーク・ナースセンター等/適正認定事業者) 規定なし
労働時間の要件 適正な労働時間管理に努める 超過勤務が月平均10時間以下・導入前より増加傾向にない

様式9の数え方も変わったのか?

変わった。看護要員の必要数・配置数を算出する様式9について、病棟の勤務時間数に算入できる内容が見直された。院内で生じた緊急対応等の不測の事象に対応するため、病棟内の看護要員が当該病棟の入院患者以外の患者に対して日常の診療の延長として必要な対応を短時間行った場合は、病棟内としての勤務時間に算入してよい。この「短時間」は30分程度を指す(同 問7)。

この場合、緊急対応等の状況・病棟を離れた時間・病棟内で十分に看護に当たれていた状況を記録して管理することが求められる。あわせて、入院中の患者に付き添って病棟外で一時的に看護を行った時間も算入可能となり、院内で実施される研修への参加時間は職員1名につき月1時間までが算入対象として別紙5に挙げられた。なお常勤医師の定義については、所定労働時間の下限が週31時間以上から週32時間以上に見直されている。

看護師本人のキャリアには、どう関わるのか?

直接に資格や業務範囲を変える改定ではない。ただし転職や異動を考えるときに、勤務先の体制を読む材料が2つ増える。

ひとつは、ICT機器等を活用した柔軟化を届け出ている病棟かどうかである。届け出ているなら、超過勤務が月平均10時間以下という要件を、少なくとも届出時点では満たしていたことになる。年1回程度の業務量評価とその院内周知、衛生委員会等での確認も要件に含まれるため、業務負担の議論が制度上の手続きとして回っている職場かを確認する手がかりになる。

もうひとつは、欠員時の求人経路である。届出猶予を使う病院は、ハローワークまたはナースセンター、あるいは適正認定事業者を通じた求人を行っていることになる。求職側から見れば、これらの経路に出る求人が制度的に増える方向の変更である。

なお、看護補助者に係る加算の名称が「看護補助体制充実加算」から「看護補助・患者ケア体制充実加算」へ改められた。直接患者に対し療養生活上の世話を行う看護補助者の評価であることを名称に反映させたもので、点数(1が80点、2が65点、3が55点)は据え置かれている。資格・研修側の動きについては、特定行為研修は看護師のキャリアをどう変えるのかを参照されたい。

まだ確定していないことは何か?

制度の内容は告示・通知として確定している。確定していないのは運用の結果である。ICT機器等の活用による柔軟化には、厚生労働大臣が実施する随時調査への参加が要件として組み込まれており、活用状況や看護業務の改善に係る継続的な取組状況が調査対象とされている。この結果が次期改定の議論に使われることになるが、現時点で公表された集計はない。どの機器の組み合わせが有効と評価されるか、1割という幅が維持されるかは今後の論点である。

やむを得ない事情による猶予についても、「1年に1回」の制限のもとで実際にどれだけ使われるかは分からない。3か月で回復しなければ届出変更に進むため、猶予が最終的な解決になるわけではない。

よくある質問

令和8年度改定で看護配置基準の数値そのものは緩和されたのですか?

いいえ。7対1や10対1といった配置区分の数値は変わっていません。変わったのは、基準を下回ったときの届出の取扱い(最長3か月の猶予)と、ICT機器等を導入した病棟で1割以内の減少を許容する仕組みの新設です。

やむを得ない事情による届出猶予は、いつでも使えますか?

使えません。突発的で想定が困難な事象によるやむを得ない事情が生じた場合に限られ、1年に1回までです。加えて、ハローワークまたは都道府県ナースセンター等の無料職業紹介事業を活用した確保の取組(民間紹介事業者を使う場合は適正認定事業者を含むこと)が条件となります。

ICT機器は1種類だけ導入すればよいのですか?

いいえ。見守り・記録・医療従事者間の情報共有の3領域の機器等をすべて導入し、当該病棟の看護職員等が広く使用していることが要件です。加えて超過勤務時間の要件、年1回程度の業務量評価と院内周知、衛生委員会等での確認、厚生労働大臣が実施する随時調査への参加などが求められます。

超過勤務時間の「月平均10時間以下」は誰を数えるのですか?

当該病棟の看護要員のうち常勤職員です。届出時は直近3月の月平均超過勤務時間数の計を3で除して算出します。ただし「導入前と比較して増加する傾向にないこと」の判断には、非常勤職員も含めます。

参考資料

  • 厚生労働省/「令和8年度診療報酬改定について」(関係法令・通知等の一覧。令和8年厚生労働省告示第69号〜第71号、令和8年3月5日保医発0305第6号〜第8号等の所在)/https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html/確認日:2026年8月25日
  • 厚生労働省/「令和8年度診療報酬改定の概要 6.入院(共通事項)」(説明資料06。ICT等の活用による看護業務効率化の推進/やむを得ない事情における施設基準等に関する取扱いの見直し/常勤職員の常勤要件に係る勤務時間数の見直し/様式9の見直し/看護補助者に係る加算の名称の見直し)/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001703849.pdf/確認日:2026年8月25日
  • 厚生労働省保険局医療課/「疑義解釈資料の送付について(その1)」(令和8年3月23日事務連絡)別添1 問6・問7・問9・問10・問11/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001678310.pdf/確認日:2026年8月25日
  • 厚生労働省/「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(令和8年3月5日保医発0305第7号・0730訂正後)別添2 第2の19、第3の3/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001732097.pdf/確認日:2026年8月25日
  • 社会保障審議会医療保険部会・社会保障審議会医療部会/「令和8年度診療報酬改定の基本方針」/令和7年12月9日/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001618046.pdf/確認日:2026年8月25日
  • e-Gov法令検索/「看護師等の人材確保の促進に関する法律」(平成4年法律第86号)第10条・第14条・第15条・第16条の3/https://laws.e-gov.go.jp/law/404AC0000000086/確認日:2026年8月25日
  • 厚生労働省/報道発表「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者として新たに5社(医療分野5社、介護分野2社)認定しました」(認定制度が厚生労働省の創設であることの確認)/令和5年3月3日/https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31496.html/確認日:2026年8月25日

参考・一次出典