厚生労働省は令和8年4月から「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」を開催しており、令和8年7月23日の第4回で「看護職員の確保策」を扱った。本記事は、その提出資料を原典に当たって整理したものである。
2040年に向けた看護職員の確保策は、いま何が議論されているのか?
結論から言えば、議論はまだ「施策メニューの整理」の段階にある。開催要綱の目的は、国や都道府県等が看護職員の養成・確保のために講ずることが考えられる施策のメニューを整理し、あわせてこれまで8回にわたり策定してきた看護職員の需給見通しの在り方を検討することとされている(出典:厚生労働省「第1回2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 議事録」令和8年4月10日)。制度改正が決まったわけではない。
検討事項は3本柱で、(1) 今後の看護職員に求められる資質、(2) 2040年に向けた看護職員の養成・確保への対応、(3) 2040年に向けた看護職員の需給見通し、である。第4回資料2のスケジュール表では、養成の在り方(臨地実習・卒後教育・基礎教育等)を第2回〜第4回、地域の看護職員の確保策を第4回、勤務環境改善を第5回、需給見通しは全回を通じて扱う配置になっている(出典:厚生労働省「第4回検討会 資料2 今後の検討スケジュールについて」令和8年7月23日)。
第1回の事務局説明では、開催は月1回程度のペース、令和8年の冬頃にかけて取りまとめに向けた議論を進めるとされた。取りまとめた内容は運用の改善や予算事業につなげ、医療部会などへの報告も検討する、という説明にとどまっている。つまり本記事で扱う数字は「決まった制度」ではなく「これから施策を組み立てるための現状認識」である。開催実績は検討会の一覧ページで確認でき、本記事執筆時点で公表されているのは第4回(令和8年7月23日)までである。
どの領域で看護職員が足りていないのか?
最も差が大きいのは領域間である。都道府県ナースセンターの登録データに基づく領域別求人倍率では、訪問看護ステーションが4.54倍で突出し、次いで病院(20〜199床)3.00倍、病院(200〜499床)2.49倍と続く。病床規模が大きいほど倍率は下がる(出典:厚生労働省「第4回検討会 資料3 看護職員の確保策について」令和8年7月23日。同資料の出所は日本看護協会「2024年度 ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」)。
| 領域(2024年度) | 求人倍率 |
|---|---|
| 訪問看護ステーション | 4.54倍 |
| 病院(20〜199床) | 3.00倍 |
| 病院(200〜499床) | 2.49倍 |
| 病院(500床以上) | 1.93倍 |
| ケアハウス・グループホーム・有料老人ホーム | 1.78倍 |
| 介護老人福祉施設(特養) | 1.38倍 |
| 介護老人保健施設 | 1.04倍 |
| 診療所(無床) | 1.03倍 |
需給の側から見ても同じ傾向が出る。2023年の就業看護職員数を第8次需要推計(2025年対象)で割った比率は、病院・有床診療所等が全体0.978、訪問看護領域が全体0.895、介護保険サービス等領域が全体0.777で、1.0を下回るほど推計上の需要に届いていないことを意味する(出典:同 資料3)。数字が小さいのは介護保険サービス等の領域である。
訪問看護の就業者数は増えているのに、なぜ足りないのか?
訪問看護に従事する看護職員は2017年5.0万人、2020年6.8万人、2023年8.7万人と着実に増えている。それでも2025年の需要推計値11.3万人には届いていない。伸びているが、需要の伸びの方が速いという構図である(出典:同 資料3)。
ただしこの比較には重要な留保がある。資料3自身が、2025年に向けた需要推計は2019年の作成当時の受療率が一貫して変わらないと仮定して行われたもので、地域医療構想の推進やコロナ後の受診行動の変化による受療率の低下傾向、DX等による業務効率化の進展といった効果が反映されておらず、足元の就業者数と2025年の需要推計値を単純に比較することは困難だと明記している。倍率や需給比は「不足の方向」を示す指標として読むべきで、不足数を確定させる数字ではない。
看護職の年齢構成はどう変わったのか?
結論として、看護職の中心層は明確に高齢化している。55歳以上の就業看護職員は2008年の17.1万人から2024年には41.3万人へと2倍以上に増えた(出典:同 資料3。原資料は厚生労働省「衛生行政報告例(隔年報)」)。就業看護職員の年齢階級別構成でも45歳以上の増加が続いている。
就業場所は年齢によってはっきり分かれる。2024年(令和6年)のデータでは、25歳未満の看護職員は92.7%が病院で就業しているのに対し、65歳以上では病院が28.8%まで下がり、介護保険施設等が31.2%と逆転する。年齢階級が上がるほど病院以外の比率が高まる構造である(出典:同 資料3。原資料は厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例(隔年報)」)。
この層の就業意欲は低くない。50代の就業者への調査では、58.9%が「看護職として働き続けたい」と回答している(出典:同 資料3。原資料は日本看護協会「看護職員実態調査」2017年。調査年が古い点は割り引いて読む必要がある)。
潜在看護職員はどれくらいいて、どこまで戻ってくるのか?
平成30年の推計で、潜在看護職員は793,884人とされている。年齢構成は30代以降が多く、40代以降で全体の約6割を占める(出典:同 資料3。原資料は厚生労働科学研究費補助金「新たな看護職員の働き方等に対応した看護職員需給推計への影響要因とエビデンスの検証についての研究」令和2年度、研究代表者 小林美亜)。
より実務的に効くのは、令和7年度に潜在看護師306名を対象に実施された質問紙調査の結果である。ブランク期間が長いほど再就職意向は下がり、ブランク2年未満では45.0%が「再就職したい」と答えるのに対し、2年以上5年未満で34.4%、5年以上では22.2%まで低下する(出典:同 資料3。原資料は厚生労働科学研究費補助金「看護職員の需給推計方法検討のための研究」令和7年度、研究代表者 小林美亜)。
復職支援を「いつ届けるか」が結果を左右することを示す数字である。第1回では、令和8年度に医療・福祉分野を全ハローワークでの最重点事項として通年で実施することを決定し、ハローワーク職員がアウトリーチ型で医療機関・施設を訪問して急募求人を把握する運用を進めること、ナースセンター側もこれに歩調を合わせて業務要領の改正を行ったことが事務局から報告されている(出典:第1回検討会 議事録)。
求人と求職はどこですれ違っているのか?
ミスマッチは「人数」ではなく「条件」で起きている。ナースセンターの令和6年度求職者の希望勤務形態を見ると、「日勤のみ」が全体の40.4%を占める一方、2交代制は2.7%、3交代制は0.2%にとどまる(「不明」が47.1%あるため、回答が得られた範囲での分布として読む必要がある。出典:同 資料3)。夜勤を含むシフトを前提とした病棟求人と、日勤を希望する求職者との間にずれがある。
求職者が転職先に何を求めているかも整理されている。日本看護協会の2025年看護職員実態調査(調査対象4,430名)では、看護職として働き続けるために重要視することの上位は「業務や役割、責任に見合った賃金額である」53.6%、「休みがとりやすい」49.6%、「職場の人間関係が良い」48.5%、「希望する働き方ができる」38.9%であった。希望する働き方(複数回答)では「異動がない/希望どおりの部署で働ける」35.3%、「希望の専門領域・部署で働ける」33.7%、「日勤のみ」33.3%、「週休三日制」31.2%が並ぶ(出典:同 資料3)。
離職理由の側から見ると、全体では「子育て」10.9%、「結婚」10.5%、「転居」9.5%が上位で、ライフイベントと強く結びついている。ただし年代で中身が変わり、20代では「自分の健康(主に精神的理由)」が14.5%で1位、50〜60代では「親族の健康・介護」や「自分の健康(主に身体的理由)」が上位に来る(出典:同 資料3。原資料は日本看護協会 中央ナースセンター「2024(令和6)年度ナースセンター登録データに基づく看護職の求人・求職・就職に関する分析報告書」、n=34,197)。
領域をまたぐ移動も一定量ある。ナースセンターの登録データでは、同じ分野や関連分野を経験した場合に同分野への就業希望が高くなる一方、訪問看護や介護施設等への希望も幅広い経験層から一定数見られる(出典:同 資料3)。
この記事の数字は、どこまで確定したものなのか?
本記事で扱った数値はすべて、令和8年7月23日の第4回検討会に提出された行政資料に記載されたものである。確定しているのは「その資料にその数字が載っている」ことまでで、以下は検討段階にある。
- 需給推計そのもの:比較に用いられている第8次需要推計は2019年(令和元年)11月作成・2025年対象であり、2040年を見据えた新しい需給見通しは本検討会で議論中である。
- 確保策の中身:復職研修の強化、地域偏在・領域偏在への対応、ハローワークと一体となった就職支援は、いずれも第4回時点では論点として提示された段階である。
- 勤務環境改善:看護管理者の管理能力向上、多様で柔軟な働き方に対応した雇用管理、ICT活用による業務効率化、ハラスメント対策の強化は第5回で扱う予定とされている(資料2のスケジュール表)。
看護職の制度環境は、この検討会以外でも動いている。実務に直接効く変更としては、令和8年度診療報酬改定での看護職員配置基準の柔軟化があり、別記事で整理している(看護配置基準は令和8年度改定でどう柔軟化されたのか)。個人のキャリア形成の側では特定行為研修の位置づけも変わりつつある(特定行為研修は看護師のキャリアをどう変えるのか)。
よくある質問(FAQ)
訪問看護の求人倍率4.54倍とは、どういう意味の数字ですか?
都道府県ナースセンターに登録された求人・求職データから算出された、2024年度の領域別求人倍率です。ナースセンター経由の求人・求職を母集団とする指標であり、公共職業安定所の有効求人倍率や労働市場全体の需給を直接表すものではありません。領域間の相対的な逼迫度を比較する用途で読むのが適切です。
「介護保険サービス等 0.777」は、看護職員が22%不足しているという意味ですか?
そのようには読めません。この比率は2023年の就業看護職員数を第8次需要推計(2019年作成・2025年対象)で割ったものです。資料3自身が、当該推計は2019年当時の受療率が変わらないと仮定しており、受療率の低下傾向やDXによる業務効率化が反映されていないため、足元の就業者数との単純比較は困難だと注記しています。不足の方向性を示す指標として扱ってください。
潜在看護職員79万人という数字は、いつ時点のものですか?
平成30年の推計値(793,884人)です。第4回資料3に掲載されていますが、推計年は平成30年であり、直近の実測値ではありません。一方、ブランク期間別の再就職意向(2年未満45.0%/2年以上5年未満34.4%/5年以上22.2%)は令和7年度に実施された調査(潜在看護師306名対象)の結果で、時点が異なります。
この検討会の結論はいつ出ますか?
第1回の事務局説明では、月1回程度のペースで開催し、令和8年の冬頃にかけて取りまとめに向けた議論を進めるとされています。取りまとめ後の取扱いについては、運用の改善や予算事業につなげること、医療部会などへの報告を検討することが述べられるにとどまっており、法改正の予定が示されたものではありません。
今後の転職先を考えるうえで、この資料から読み取れることは何ですか?
読み取れるのは、(1) 領域によって逼迫度が大きく異なること、(2) 求職者側の希望が日勤のみ・希望部署・休みの取りやすさに集中していること、(3) ブランクが長引くほど復職意向が下がること、の3点です。いずれも統計上の傾向であり、個別の求人条件を示すものではありません。
参考資料
- 厚生労働省 / 第4回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 資料3「看護職員の確保策について」 / 令和8年7月23日 / https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001719356.pdf / 確認日:2026年9月3日
- 厚生労働省 / 第4回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 資料2「今後の検討スケジュールについて」 / 令和8年7月23日 / https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001719355.pdf / 確認日:2026年9月3日
- 厚生労働省 / 第4回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会:資料(資料一覧・事務局連絡先) / 令和8年7月23日 / https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74359.html / 確認日:2026年9月3日
- 厚生労働省 / 第1回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会:議事録 / 令和8年4月10日開催(議事録公表) / https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000161127_00103.html / 確認日:2026年9月3日
- 厚生労働省 / 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会(開催回一覧) / 令和8年(第1回〜第4回を掲載) / https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/youseikakuho_72181.html / 確認日:2026年9月3日
※本記事に掲載した個別調査(日本看護協会「2024年度ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」、同「2025年看護職員実態調査」、厚生労働科学研究費補助金による各研究、厚生労働省「衛生行政報告例(隔年報)」等)の数値は、いずれも上記1の第4回検討会 資料3に記載された内容を典拠としています。各調査の原報告書そのものは参照していないため、資料3の記載どおりに引用しています。
参考・一次出典
- 厚生労働省 / 第1回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会:議事録 / 令和8年4月10日開催(議事録公表)
- 厚生労働省 / 第4回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 資料2「今後の検討スケジュールについて」 / 令和8年7月23日
- 厚生労働省 / 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会(開催回一覧) / 令和8年(第1回〜第4回を掲載)
- 厚生労働省 / 第4回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 資料3「看護職員の確保策について」 / 令和8年7月23日
- 厚生労働省 / 第4回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会:資料(資料一覧・事務局連絡先) / 令和8年7月23日


