福祉医療機構(WAM)が2026年10月2日に、「病院経営動向調査(2026年9月調査)」の結果を公表しました。病院の現場の実感を四半期ごとに尋ねる調査で、今回は一般病院の医業収益DIが6月調査の△3から51へ大きく動いた一方、医業収支DIは△2にとどまりました。本記事は、この報告書で確認できた数値だけを整理し、経営判断にどう読むかを、資料の記載と編集部の見方を分けて解説します。

病院経営動向調査(WAM短観)とは何で、2026年9月調査の概要は?

病院と医療法人の経営者に「最近」と「3か月後の先行き」の実感を尋ね、DI(ディフュージョン・インデックス)で示す四半期調査です。DIは割合そのものではなく、第1選択肢の回答割合から第3選択肢の回答割合を引いた値で、たとえば医業収益なら「増加-減少」、医業収支なら「黒字-赤字」です。

2026年9月調査の実施期間は2026年8月24日〜9月14日、方法はWeb、WAMの登録モニターが対象です。有効回答は病院240施設(回答率66.1%)、医療法人152法人(同63.3%)で、病院の内訳は一般142・療養型55・精神科43です(出典:福祉医療機構「病院経営動向調査(2026年9月調査)」令和8年10月2日)。調査の位置づけは同機構の病院経営動向調査のページに、四半期ごと(6月・9月・12月・3月)の実施と記されています。

資料には留保も明記されています。数値は四捨五入であること、5%未満の増減は「横ばい」として扱うこと、一部の区分は回答数が少なく解釈に留意が必要なことです。モニター調査であり、全病院を代表する統計ではない点も前提になります。

一般病院の医業収益DIは、6月から9月でどう変わったのか?

一般病院の医業収益DIは、6月調査の△3から9月調査で51へ、54ポイント上昇しました。療養型は6から35、精神科は△8から26で、いずれも上昇しています。医療法人の事業収益DIも1から36でした(出典:福祉医療機構「病院経営動向調査(2026年9月調査)」令和8年10月2日、6月値は同「2026年6月調査」令和8年7月3日で一致を確認)。

資料は、この上昇幅を示すのみで、原因を本文で説明していません。理由に近い回答は、2026年度上半期(4〜9月)の医業収益が前年度同期より増加する見込みと答えた病院(全体でn=90)が挙げた理由です。入院単価の増加が52.2%、入院患者数の増加が37.8%でした。「診療報酬改定」という語が出るのはこの設問の「その他」の自由記述1か所だけで、「診療報酬改定による算定項目増加」と記載されています。したがって、今回のDI上昇を診療報酬改定の影響と断定できる材料は、この資料にはありません。

収益が増えても、一般病院の医業収支DIが△2にとどまるのはなぜか?

一般病院の医業収支DI(黒字-赤字)は、6月の△38から9月は△2へ改善しましたが、なお「赤字がやや多い」側にあります。同じ調査で医業費用DIは69から73、人件費DIは77から80へ上がっており、医業利益DI(増加-減少)は△37から21に転じています(同資料)。

ここは混同しやすいので整理します。医業利益DIは「利益が増えたか減ったか」の変化を、医業収支DIは「黒字か赤字か」の水準を尋ねており、別の問いです。利益が増えたと答える病院が多くなっても、もともと赤字の病院が黒字に届くとは限りません。また、DIはいずれも回答割合の差であり、収益や費用の金額の大きさを示すものではないため、収益DIと費用DIの大小を金額の比較として読むことはできません。

上半期の見込みでは、病院全体で医業費用が増加見込みの病院が41.0%、減少が4.2%でした。費用が増える主な理由は、従業員1人当たり人件費の増加が41.8%、従業員数の増加が28.6%です(n=98。出典は同資料)。人件費の動きは賃上げ関連の診療報酬とも接点があり、この点はベースアップ評価料の令和8年度改定の解説で扱っています。

病院の種別や法人の規模で、どこが違って見えるのか?

9月調査の主な指標を、区分ごとに並べます。同じ「9月」でも、療養型は黒字側、精神科は赤字側と、景況感の方向が分かれています。

区分 収益DI 収支DI 資金繰りDI 人件費DI 収支DIの6月→9月
一般病院 51 △2 △18 80 △38→△2
療養型病院 35 18 △11 71 15→18
精神科病院 26 △12 △44 72 △3→△12
医療法人(事業) 36 8 △17 82 △11→8

(出典:福祉医療機構「病院経営動向調査(2026年9月調査)」令和8年10月2日。医療法人は「事業収益・事業収支」のDIで、病院の「医業」とは項目名が異なります。収益DIは医業収益または事業収益、収支DIは医業収支または事業収支)

精神科病院は、収益DIは26と上昇した一方、収支DIは△3から△12へ悪化し、資金繰りDIも△44でした。医業費用DIは46から58に上がっています。なお、精神科の人件費DIは41から72へ大きく上昇しており、区分によって費用の動き方が異なることが読み取れます。

経営者は何を課題として挙げているのか?

経営上の課題(複数回答・最大3つ)の2026年9月の回答は、一般病院で人件費の増加が73.2%、人件費以外の経費の増加が58.5%、職員確保難が48.6%、人材紹介会社への手数料増加が38.0%でした。医療法人では人件費の増加80.3%、人件費以外の経費の増加69.7%、職員確保難62.5%です(出典:福祉医療機構「病院経営動向調査(2026年9月調査)」令和8年10月2日)。

一般病院の6月調査(n=135)と比べると、人件費の増加は68.1%から上がり、職員確保難は52.6%から、人材紹介会社への手数料増加は40.7%から、それぞれ低下しています(同「2026年6月調査」令和8年7月3日)。ただし、調査対象や回答数が3か月で異なるため、差はあくまで参考値です。人材紹介の手数料の水準や開示義務については、紹介手数料の解説記事を併せてご覧ください。

人材確保のDIを見ると、一般病院の看護師確保は9月に△63(6月は△59)、医師確保は△57(同△52)で、「厳しい」が「容易」を大きく上回る状況は続いています。

先行き(3か月後)は、どう見られているのか?

ここからは、確定した実績ではなく、回答者の見通しです。一般病院の先行きは、医業収益DIが31、医業利益DIが△2、医業収支DIが1、資金繰りDIが△30でした。9月の「最近」の値(収益51、利益21、資金繰り△18)と比べると、いずれも低い見通しです。人件費DIは80から76、看護師確保DIは△63から△67と、費用と人材確保の厳しさは続く見方でした(出典:同資料)。

精神科病院の先行きは、医業収支DIが△9、資金繰りDIが△63、看護師確保DIが△93でした。療養型は医業収益DIが35から4へ大きく下がる見通しです。見通しは回答時点の心理を映すもので、実績の予測値ではない点にご注意ください。

自院の経営判断に、このDIをどう使えばよいか?

ここからは資料の記載ではなく、編集部の整理です。このDIは「業界全体の空気」を知るための物差しで、自院の水準を示すものではありません。使い方としては、次の3点が考えられます。

第1に、自院の前年同期比(医業収益・費用・利益の増減)を、調査と同じ区分で並べてみることです。調査には上半期の見込み割合(病院全体で医業収益が増加37.5%・減少10.8%、医業利益が増加35.7%・減少23.9%)があり、自院の位置を大づかみに確認できます。

第2に、人件費の増加や職員確保難のように回答が広く集まる課題は、業界共通の逆風と、自院固有の要因とを切り分けて考えることです。共通の動きなら対応の優先順位は戦略的に決められ、固有の要因なら原因分析が必要になります。

第3に、外部の経営コンサルタントに相談する前に、公的データで自院の位置を確認しておくことです。WAMの調査をはじめ、使える公的データと使い分けは経営コンサルに頼む前に|自院を診断できる公的データ4種にまとめています。

よくある質問(FAQ)

Q1. DIが51というのは、51%の病院で収益が増えたという意味ですか?

いいえ。DIは「増加と答えた割合」から「減少と答えた割合」を引いた値です。51は増加した病院が51%という意味ではなく、増加の割合が減少の割合を51ポイント上回ったことを示します。

Q2. 赤字の病院は何割ですか?

今回の資料の本文からは、赤字病院の割合そのものは確認できませんでした。確認できるのは、黒字と赤字の割合の差である医業収支DI(一般病院で△2)です。

Q3. 次の調査はいつ公表されますか?

資料には、2026年12月調査(12月公表)、2027年3月調査(4月公表)、2027年6月調査(7月公表)、2027年9月調査(10月公表)の予定が記載されています。

参考資料

本記事の数値は、上記の調査報告書の記載によります。数値は報告書本文の要約から2回に分けて確認し、一致した項目のみを掲載しています。報告書にない診療報酬改定との因果関係や、赤字病院の割合は記載していません。

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