医業経営コンサルタントに相談したいが費用感が読めない。労務の相談先は社会保険労務士でよいのか、経営の相談は誰にするのか。院内で決めきれないまま先送りになりやすい論点です。

その手前に、医療法が根拠を置いた相談窓口が各都道府県に用意されています。医療勤務環境改善支援センターです。ただし「何でも頼める窓口」ではなく、法律が定めた事務の範囲があります。本記事では、条文と国の指針、厚生労働省が運営する「いきいき働く医療機関サポートWeb(いきサポ)」の掲載内容だけを典拠に、この窓口に何を頼めて何を頼めないのか、相談前に自院で何を用意しておくべきかを整理します。

医療機関の勤務環境改善は、法律上どこまで義務なのか?

結論から書くと、医療法上は努力義務です。医療法第30条の19は「病院又は診療所の管理者は、当該病院又は診療所に勤務する医療従事者の勤務環境の改善その他の医療従事者の確保に資する措置を講ずるよう努めなければならない」と定めています(出典:e-Gov法令検索「医療法」(昭和23年法律第205号)第30条の19)。厚生労働省自身も、この仕組みを「各医療機関のそれぞれの実態に合った形で、自主的に行われる任意の仕組みです」と説明しています(出典:厚生労働省「医療従事者の勤務環境の改善について」)。

その努力義務を具体化するための指針を定める根拠が、続く第30条の20です。「厚生労働大臣は、前条の規定に基づき病院又は診療所の管理者が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るための指針となるべき事項を定め、これを公表するものとする」とあり、これを受けて定められたのが医療勤務環境改善マネジメントシステムに関する指針(平成26年9月26日厚生労働省告示第376号、平成26年10月1日から適用、平成27年厚生労働省告示第195号で一部改正)です(出典:厚生労働省法令等データベース「医療勤務環境改善マネジメントシステムに関する指針」)。

ここで切り分けておくべき点があります。36協定の締結・届出や労働時間の管理は労働基準法上の義務であり、この指針とは別建てです。指針に沿った取り組みをしているかどうかと、労働基準法上の義務を満たしているかどうかは、別の話として扱う必要があります。労働基準監督署側の運用については、労基署の時間外労働指導の見直しと36協定の健康福祉確保措置で扱っています。

医療勤務環境改善支援センターは、何を頼める組織なのか?

センターの業務範囲は、医療法第30条の21第1項が3号にわたって定めています。相談への対応と情報提供・助言、調査と啓発活動、その他必要な支援の3つです。条文は都道府県に「実施するよう努めるものとする」と書き、事務の「全部又は一部を厚生労働省令で定める者に委託することができる」(同条第2項)としています。

医療法第30条の21第1項の号 条文が定める事務 相談する側から見た読み方
第1号 勤務環境の改善に関する相談に応じ、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うこと 個別の相談窓口。進め方・制度の解釈・使える資料の案内までがここに入る
第2号 勤務環境の改善に関する調査及び啓発活動を行うこと 研修会・セミナー・実態調査。自院1件のための調査ではない
第3号 前二号に掲げるもののほか、勤務環境の改善のために必要な支援を行うこと 訪問支援など。中身は都道府県ごとの事業設計に委ねられている

対応するのは誰か。厚生労働省は「医療労務管理アドバイザー(社会保険労務士等)や医業経営アドバイザー(医業経営コンサルタント等)が専門的・総合的な支援を行っています」と説明しています(出典:厚生労働省「医療従事者の勤務環境の改善について」)。労務と経営に別々の専門職が置かれている設計です。

相談内容の扱いについても条文に定めがあります。同条第5項は「第二項の規定による委託を受けた者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であつた者は、正当な理由がなく、当該委託に係る事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない」と規定しています。委託先の職員が退職した後まで対象に含む書き方です。なお同条第4項は、地域医療支援事務(同法第30条の25第3項)を担う者との相互連携を義務づけています。

どの都道府県に、どんな窓口があるのか?

いきサポの「勤務環境改善支援センター」一覧には、北海道から沖縄県までの47件が掲載されています(出典:厚生労働省「いきいき働く医療機関サポートWeb」勤務環境改善支援センター一覧)。ただし所在地欄を見ると、運営の形は一律ではありません。

掲載されている所在地からは、少なくとも3つの型が読み取れます。都道府県庁の担当課内に置かれている型(岩手県・千葉県・長野県・広島県など)、都道府県医師会の会館内に置かれている型(福島県・栃木県・三重県・岡山県・熊本県など)、独立した事務所とウェブサイトを構えている型(青森県・富山県・静岡県・愛知県・大阪府・佐賀県・沖縄県など)です。鹿児島県は公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会鹿児島県支部の所在地が記載されています。

実務上いちばん効くのは、同ページの注記です。「医業経営に関する相談窓口と労務管理に関する相談窓口が異なる場合がありますので、それぞれのホームページ等にてご確認ください」とあります。労務の話をしたい相手と経営の話をしたい相手が、同じ電話番号の向こうにいるとは限りません。「労務管理の相談か、医業経営の相談か」を自分の側で決めてから架けるほうが早い、ということになります。

なお、相談の費用負担について、本記事で確認した厚生労働省側の資料には記載がありません。都道府県ごとに事業の組み方が違う以上、費用の有無は所在地の窓口に直接確認するのが確実です。

民間の医業経営コンサルタントとは、どう使い分けるのか?

指針の条文構造を読むと、境目がはっきりします。方針の表明から評価・見直しまで、指針が主語に置いているのは一貫して「病院又は診療所の管理者」です。第4条(改善方針の表明)から第11条(見直し)までの8か条は、いずれも行為主体が管理者になっています。

他方、センターについて指針が触れているのは第13条だけです。「病院又は診療所の管理者は、……医療法第三十条の二十一第一項に規定する医療従事者の勤務環境の改善に関する都道府県による支援を活用するとともに、手引書等を参考として、当該病院又は診療所の状況に応じた適切な措置を講ずるよう努めなければならない」という条文です。支援は「活用する」ものとして書かれており、実行を代替するものとしては書かれていません

したがって使い分けの軸は、費用ではなく作業の性質に置くのが実態に合います。制度の解釈、進め方の設計、参照すべき資料や様式の特定はセンターの第1号事務に収まります。一方、現状分析の集計作業、部門ヒアリングの実施、賃金制度や人員配置の設計といった院内の工数がまとまって必要になる部分は、自院で抱えるか有償で外注するかの選択になります。自院の数字の把握そのものは、外注の前に公的データで一定水準まで進められます。あわせて経営コンサルに頼む前に自院を診断できる公的データ4種もご覧ください。

相談の前に、自院で用意しておくものは何か?

指針が定める順序が、そのまま準備リストになります。①改善方針の表明と体制の整備、②現状分析、③改善目標の設定、④改善計画の作成という4段です。このうちどこで詰まっているかを言えれば、相談は具体的な話から始められます。

体制については、指針第5条が「多様な部門及び職種の構成員により構成される協議組織」の設置を求めていますが、同時に「当該病院又は診療所における安全衛生委員会等の既存の組織を活用することを含む」と明記しています。新しい会議体をゼロから立てる必要はない、という読み方ができます。加えて第12条は、目標設定・計画作成・評価と見直しに当たり「協議組織の議を経るほか、あらかじめ……医療従事者の意見を聴くこと等により」参画を図るものとしています。

現状分析について第6条は「定量的及び定性的に把握し、客観的に分析するもの」とし、その結果を踏まえて「優先的に実施する措置を決定する」と続けます。改善計画に盛り込む項目は第8条第2項が5つ挙げており、働き方の改善/健康の支援/働きやすさの確保のための環境の整備/働きがいの向上/その他です。すべてを埋める必要はなく「状況に応じて必要な事項を定める」とされています。

様式は用意されています。いきサポのダウンロードページには、支援ツール(Excel)として推進体制整備シート・現状分析シート・現状診断・対策立案シート・アクションプラン・シート・PDCA運営シートが、別に労務管理チェックリスト(PDF)が置かれています(出典:厚生労働省「いきいき働く医療機関サポートWeb」医療勤務環境改善マネジメントシステム関係(資料ダウンロード))。相談前にこのシートの空欄が特定できていれば、それ自体が論点の整理になります。

手引きはいつの版で、どこに注意して読むべきか?

指針は手引書を前提に組まれています。第2条第2号は手引書を「厚生労働省医政局長が定める手引書」と定義し、第6条(現状分析)、第7条(改善目標)、第8条第3項(改善計画)、第10条(評価)が、それぞれ手引書の参照を求めています。指針を運用する実務の中核は手引書側にあるという構造です。

そこで版を確認しておく必要があります。いきサポのダウンロードページに掲載されている手引きは、「医療分野の『雇用の質』向上のための勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引き(改訂版)」が平成30年3月、「医師の『働き方改革』へ向けた医療勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引き」の詳細説明版・簡易版がいずれも平成31年3月です。同ページには、これより新しい版の手引きは掲載されていません(同ページの掲載物のうち、参考資料は平成28年2月末日、働き方改革に関するリーフレットは令和4年度のものです)。

この時点差は読み方に影響します。医師の時間外労働の上限規制は2024年4月から適用されており、平成31年3月時点の手引き本体には、適用後の運用そのものは織り込まれていません。手引きは分析と計画づくりの枠組みとして使い、規制の運用は別の資料で補う前提で扱うのが安全です。いきサポ自体も「医師の働き方改革の制度解説・最新情報」を手引きとは別ページで持っています。

よくある質問

センターに相談すると、その内容が監督官庁に伝わりますか?

医療法第30条の21第5項は、都道府県から事務を委託された者とその役員・職員、およびそれらであった者に対して、正当な理由なく「当該委託に係る事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない」と定めています。制度上の守秘義務は条文に置かれています。ただし、個別の情報の取り扱い方法は各センターの運営に委ねられているため、気になる場合は相談時に確認するのが確実です。

相談は無料ですか?

本記事で確認した厚生労働省の資料(前掲の「医療従事者の勤務環境の改善について」およびいきサポの一覧ページ)には、費用に関する記載がありません。都道府県ごとに事業の組み方が異なるため、所在地のセンターに直接確認してください。

病院ではなく診療所でも対象になりますか?

なります。医療法第30条の19・第30条の21はいずれも「病院又は診療所」と書いており、指針第3条も「病院又は診療所を一の単位とし、組織全体の取組として実施することを基本とする」としています。規模による対象外規定は、本記事が確認した条文の範囲では置かれていません。

マネジメントシステムを導入すると、診療報酬上の評価がありますか?

本記事で確認した原典(医療法の条文、平成26年厚生労働省告示第376号、厚生労働省の解説ページ、いきサポの掲載資料)には、診療報酬上の取り扱いについての記載はありません。厚生労働省は指針の仕組みを「自主的に行われる任意の仕組み」と説明しています。診療報酬上の評価の有無は本記事では扱っていないため、該当する施設基準等は改定年の告示・通知で個別に確認してください。

まとめ

医療勤務環境改善支援センターは、医療法第30条の21が都道府県の事務として置いた相談・情報提供・助言、調査・啓発、その他の支援を担う窓口で、いきサポの一覧上は47都道府県すべてに掲載されています。ただし法定事務は「援助」までで、方針の表明から評価・見直しまでを行う主体は指針上あくまで管理者です。相談の効き方は、指針が定める4段(方針表明と体制整備/現状分析/改善目標/改善計画)のどこで詰まっているかを自院で言えるかどうかで変わります。

参考資料

本記事の都道府県別の窓口の所在地・運営形態は、上記いきサポ「勤務環境改善支援センター」一覧ページの記載を典拠としており、各都道府県が定める事業要綱そのものは参照していません。また、医療法第30条の21第2項の「厚生労働省令で定める者」の具体的な範囲(医療法施行規則の該当条文)は本記事では確認していないため、委託先の要件については触れていません。相談の費用負担についても、厚生労働省側の資料に記載が見当たらなかったため記載していません。

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