常勤医師の採用で最も使われている経路は人材紹介会社であり、看護師の採用も紹介会社経由が中心である。その手数料率は令和6年度の実績で医師が平均22.0%、看護が21.6%。一方で病院の経常利益率は令和6年度に▲2.6%まで落ち、経常赤字の病院は62.2%に達した。手数料は令和7年4月から実績の開示が義務化され、上限規制の導入を求める提言も出ている。本記事は一次情報にもとづき、確定していることと要望・検討段階にとどまることを分けて整理する。

医療機関が払っている紹介手数料は、いくらなのか?

令和6年度における常用就職1件当たりの手数料率実績は、平均で医師22.0%、看護21.6%である。金額では、病院1施設が人材紹介会社に支払った紹介手数料が平均1,469万円(福祉医療機構調査)、100床当たりでは706.6万円(日本医師会調査、令和6年度)であった。

厚生労働省は人材サービス総合サイトの開示情報から手数料率を集計している。主な取扱職種別の平均を6か月以内の離職率とあわせて並べたものが次の表である(出典:厚生労働省「職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について」)。

主な取扱職種 平均手数料率実績
(令和6年度実績)
6か月以内の平均離職率
(令和4年度実績)
医師 22.0% 3.0%
看護 21.6% 10.5%
保育 24.3% 12.2%
介護 20.2% 15.3%
法人・団体管理職員 33.9% 4.9%
経営・金融・保険の専門的職業 34.6% 2.0%
営業の職業 31.2% 5.4%

いずれも事業所ごとの数値の単純平均で、就職件数による重みづけはされていない。表が示すのは、医療分野の手数料率が他分野より高いわけではないという事実である。

なぜ「率は高くないのに苦しい」のか?

公定価格で運営しているため採用コストを価格へ転嫁できず、しかも母数そのものが増えているからである。日本医師会・四病院団体協議会の報告書は「他分野と比較して、医療分野の紹介手数料率は特段高いわけではないものの、医療機関は公定価格の中で運営しているため、採用コストを価格へ転嫁することができない特殊性がある」と整理している(出典:日本医師会・四病院団体協議会「有料職業紹介事業に関するワーキンググループ報告書」2026年3月)。

母数の増加は集計にあらわれている。有料職業紹介事業全体の手数料収入は令和5年度に約8,362億円(対前年度比8.6%増)、常用就職1件あたりの手数料は約93万円だった。看護師・准看護師の有料職業紹介による常用就職は令和4年度の65,839件から令和5年度は88,561件へ34.5%増、医師は23,553件で10.3%増である(出典:厚生労働省「令和5年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」令和7年3月31日)。率が横ばいでも件数が増えれば総額は増える。

支払う側の経営は悪化している。病院全体の経常利益率は令和5年度の▲0.6%から令和6年度は▲2.6%へ、経常利益の赤字割合は48.8%から62.2%へ拡大した。同じ2年度間で、人材紹介手数料を支払っている病院の100床当たり手数料は654.8万円から706.6万円へ7.9%増え、医療法人では令和6年度の平均が843.5万円に達している。同調査の給与費の伸びは2.5%で、手数料は3倍以上の速さで増えている(出典:日本医師会「令和7年 病院の緊急経営調査 結果」令和7年10月22日)。

手数料を多く払えば、定着するのか?

厚生労働省の分析では、そうした関係は確認されていない。同省は医師・看護・保育・介護について手数料率実績と6か月以内離職率をプロットし、「手数料率実績の高低で離職率に大きな差は見られなかった」と結論している。分布図の平均値は、医師が手数料率21.5%・離職率5.3%(n=91)、看護が21.4%・10.2%(n=319)、介護が22.3%・13.1%(n=453)である。

現場の評価も分かれている。福祉医療機構の調査では、人材紹介会社のサービスのうち「紹介手数料」に不満(やや不満+とても不満)と答えた病院が92.2%、「保証期間・返戻保証率」で87.4%だった一方、「紹介の迅速さ」には67.1%が満足と答えている(出典:独立行政法人福祉医療機構「2025年度 病院の人材確保に関する調査結果」2025年10月15日)。

令和7年4月から、何が変わったのか?

職業紹介事業者に職種別の手数料率実績の開示が義務づけられ、厚生労働省の人材サービス総合サイトで比較できるようになった。求人者は地域・職種・手数料率を指定して事業所を一覧で比べ、手数料率の多寡順に並べ替えられる。掲載対象は各事業所の常用就職が多い上位5職種で、年間件数が10件以下の場合は掲載不要とされている。詳細情報では過去5年分の就職者数・離職者数も表示される。

法令上の枠組みも押さえておきたい。有料職業紹介事業者は、省令で定める種類・額の手数料(上限制手数料)か、あらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表に基づく手数料(届出制手数料)以外を受け取れず、求職者からの徴収は原則禁止である(職業安定法第32条の3)。手数料に関する事項は求人者・求職者の双方に明示しなければならない(同法第32条の13)。厚生労働大臣は、届け出られた手数料表が著しく不当と認められる場合などに変更を命じることができる(同法第32条の3第4項。出典:e-Gov法令検索「職業安定法」昭和22年法律第141号)。

事業者と契約する前に、何を確認すべきか?

報告書は、まず人材サービス総合サイトで各事業所の実績を確認すべきだとしている。同サイトでは手数料実績、紹介者数、6か月以内の離職者数、そして「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」の認定事業者かどうかも確認できる。

ただし認定制度の認知は進んでいない。福祉医療機構の調査では「よく知っている」12.3%、「やや知っている」37.7%の合計50.0%にとどまる。なお認定基準に紹介手数料の水準そのもの(多寡)は含まれない。認定は法令遵守と返戻金制度などの体制を見るもので、価格の保証ではない。

契約書のどこで揉めているのか?

手数料の率ではなく、「いつ手数料が発生するか」と「契約の適用範囲」で揉めている。報告書が挙げる典型は、紹介を受けた求職者を採用しなかった場合の扱い(一定期間内に他社サービスやハローワーク経由、直接応募で同じ人を採用すると違約金を請求される条項)と、契約主体の範囲(求人事業所だけに適用される契約か法人全体に及ぶ契約か)である。求人サイトで無料掲載期間内に契約を終了しようとしたところ有料契約へ移行し、一括で高額な利用料を請求された事例も挙げられている。

これを受けて職業安定法に基づく指針が改正された。2025年4月から、有料職業紹介事業と募集情報等提供事業のいずれについても、利用料金や違約金の発生条件・内容を求人者に対して書面または電子メール等であらかじめ明示することが義務づけられている。契約前に特定すべき項目は、早期離職時の返戻金の有無、不採用後に別ルートで採用した場合の取扱い、契約が及ぶ範囲(事業所単位か法人単位か)である。

返戻金制度は、どこまで守ってくれるのか?

期待されているほどは守らない。返戻金制度は職業安定法に基づく指針では「設けることが望ましい」とされるにとどまり、法的な拘束力がない。認定制度は返戻金制度を必須要件とし2024年度に基準を「6か月以内の離職」へ引き上げたが、返戻率は期間の経過とともに逓減するため、6か月で離職した場合はほとんど返金されないのが一般的である。

手数料表の例 返戻期間と返戻率
例1 就職後1週間以内100%/1か月以内50%/2か月以内30%/3か月以内10%/6か月以内5%
例2 入職後14日未満90%/1か月未満50%/2か月未満30%/4か月未満20%/6か月未満10%/12か月未満5%

基準日にも注意が必要で、入職日ではなく「契約締結日」を起点とする手数料表もある。また報告書は、返戻保証期間を過ぎた直後の離職が多いとの声を挙げ、「6か月以上1年以内の離職者数」の報告も義務づけるべきだとしている。現在の開示情報は6か月までしかカバーしないため、7か月目の離職は統計に出てこない。

紹介手数料に上限は設けられるのか?

現時点では要望段階であり、決まっていない。日本医師会と四病院団体協議会は5回にわたるワーキンググループの協議を経て、2026年3月に紹介手数料率の上限規制の導入を「緊急措置」として求める提言をまとめた。あわせて、返戻金制度の義務化と返戻水準の標準化、定着期間に応じて手数料を段階的に確定させる成果型報酬体系の導入も挙げている。

ただし報告書自身が副作用を指摘している。上限を高く設定すれば「高い水準に収れん・固定化するリスク」があり、過度に低く設定すれば「現場の体制維持が困難となる可能性」がある。一方、価格ではなく行為に対する規制は先に動いている。2025年1月から「お祝い金等の提供の禁止」と「転職勧奨の禁止」が職業紹介事業の許可条件に加えられた。2023年から2024年にかけての厚生労働省の集中指導監督では、約6割の事業者で違反が指摘されている。

無料の経路は、どこまで使えるのか?

医療分野では民間経由の就職が公的経路の約2.3倍で実績に差があるが、令和8年度から公的側の体制が変わる。2023年度の就職実績は、医療分野でハローワーク48,686人に対し民間職業紹介事業所112,114人。都道府県ナースセンターは2024年度に9,128人を就職に結びつけている。

令和8年度からは、ハローワークが「医療・福祉ささえる求人充足プロジェクト」として、医療機関・介護施設・保育所へのアウトリーチ支援を全ハローワーク544所の最重点事項として通年で実施する。報告書は、特定分野を対象とした取組を全所の最重点事項とするのは初の試みだと記している。ただし実務は置き換えではなく併用になる。福祉医療機構の調査では、医師以外の正規職員の採用に結び付く効果が高かった媒体は人材紹介会社73.6%・ハローワーク52.3%・病院ホームページ39.9%の順だった。

事務長が明日から着手できることは何か?

開示情報の確認と契約条項の棚卸しは、制度改正を待たずに着手できる。

  • 人材サービス総合サイトで、取引中および候補の事業所の手数料実績率・紹介者数・6か月以内離職者数・認定の有無を確認する
  • 既存契約の返戻金条項について、起点(入職日か契約締結日か)、期間区分ごとの返戻率、支払時期を一覧化する
  • 不採用後に別ルートで採用した場合の取扱いと、契約が事業所単位か法人単位かを契約書上で特定する
  • 求職者の応募履歴と採用プロセス(使用した媒体、連絡日時・方法)を記録に残す。二重請求の防止に直結する
  • ハローワークにも求人を出し、求人条件の見直しや求人票の書き方について助言を受ける
  • トラブルが生じた場合は、都道府県労働局の「医療・介護・保育」求人者向け特別相談窓口に相談する

定着側の打ち手も外せない。福祉医療機構の調査では、把握している退職理由の最多は「他の医療機関への転職」75.6%で、看護師の退職者は1病院平均11.6人、うち勤続3年未満が6.2人だった。入職3年までの定着を扱わなければ、同じ手数料を繰り返し払うことになる。

よくある質問

看護師の紹介手数料の相場は年収の何%か?

令和6年度における常用就職1件当たりの手数料率実績の平均は、看護で21.6%である。人材サービス総合サイトの掲載情報を厚生労働省が集計した数値で、事業所ごとの率の単純平均である点に留意が必要である。

手数料率の実績はどこで確認できるのか?

厚生労働省の人材サービス総合サイトで確認できる。令和7年4月から職種別の手数料率実績の開示が義務化された。掲載対象は各事業所の常用就職が多い上位5職種で、年間件数が10件以下の場合は掲載不要である。

紹介手数料に法律上の上限はあるのか?

手数料率そのものの上限は定められていない。職業安定法第32条の3は、省令で定める上限制手数料か、届け出た手数料表に基づく届出制手数料に限って徴収を認めており、届出制では手数料表が根拠となる。率の上限規制は、日本医師会・四病院団体協議会が2026年3月に導入を要望している段階である。

紹介で採用した職員が早期に辞めた場合、手数料は戻るのか?

契約している手数料表の内容による。返戻金制度は指針上「設けることが望ましい」とされるにとどまり、法的拘束力はない。実態としては1か月以内で80〜50%、2〜3か月以内で30%程度、3〜6か月以内では5〜10%程度まで逓減する例が報告されている。

紹介会社経由で不採用にした人を、後から直接採用してもよいのか?

契約条項の確認が必要である。一定期間内に他社サービスやハローワーク経由、直接応募で採用した場合に違約金が発生する条項を設けている事業者があり、多額の請求に至るトラブルが報告されている。2025年4月から違約金の発生条件等の事前明示が義務づけられている。

参考資料

  • 厚生労働省 職業安定局需給調整事業課/「職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について」/令和7年10月末時点の人材サービス総合サイト掲載分に基づく集計/掲載ページ資料PDF/確認日:2026年8月24日
  • 厚生労働省 職業安定局需給調整事業課/「令和5年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」/令和7年3月31日/https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/R5.pdf/確認日:2026年8月24日
  • 日本医師会・四病院団体協議会/「有料職業紹介事業に関するワーキンググループ報告書 ~医療分野における人材確保と有料職業紹介事業等の適正化に向けた提言~」/2026年3月(2026年3月18日 定例記者会見)/https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20260318_1.pdf/確認日:2026年8月24日
  • 日本医師会/「令和7年 病院の緊急経営調査 結果-令和5年度、6年度実態報告-」/令和7年10月22日 定例記者会見/https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20251022_4.pdf/確認日:2026年8月24日
  • 独立行政法人福祉医療機構 経営サポートセンター リサーチグループ/「2025年度 病院の人材確保に関する調査結果」/2025年10月15日/https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/251015_No005.detail.pdf/確認日:2026年8月24日
  • e-Gov法令検索/「職業安定法」(昭和22年法律第141号)第32条の3・第32条の13/https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141/確認日:2026年8月24日
  • 厚生労働省 職業安定局/「人材サービス総合サイト」/https://jinzai.hellowork.mhlw.go.jp/JinzaiWeb//確認日:2026年8月24日
  • 厚生労働省/「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者として新たに5社(医療分野5社、介護分野2社)認定しました」(認定制度が厚生労働省の創設・委託事業であることの確認)/令和5年3月3日/https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31496.html/確認日:2026年8月24日

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