医療法人が開設する病院・診療所の経営情報は、令和5年8月から都道府県への報告が義務づけられている。集まったデータは医療法人経営情報データベース(MCDB)に蓄積され、分析結果はすでに公開されている。令和8年4月には第三者提供制度も施行された。つまり自院の数字を外部の基準と突き合わせる材料は、コンサルティング会社に依頼しなくても手に入る。無料で使える公的データを一次情報で整理する。

なぜ経営コンサルに依頼する前に公的データを見るのか?

自院の経営数値は、すでに国のデータベースへ集約され、分析結果が公表されているからである。依頼前に自院の立ち位置を把握しておけば、外部への発注内容を「現状分析」から「打ち手の設計」へ寄せられる。現状分析だけで契約期間の相当部分を使うのは、費用の使い方として効率が良くない。

自院の経営情報は、どこへ報告されているのか?

医療法第69条の2第2項により、医療法人は開設する病院・診療所ごとに、収益および費用その他の事項を都道府県知事へ報告する義務を負う。都道府県知事が調査・分析して厚生労働大臣に報告し、厚生労働大臣がデータベースを整備して分析結果を公表する、という流れである。報告制度と分析結果の公表は令和5年8月1日に施行された(出典:e-Gov法令検索「医療法(昭和23年法律第205号)」)。

報告項目は細かい。医業収益は入院診療収益・室料差額収益・外来診療収益等に、費用は材料費・給与費・委記費・設備関係費・研究研修費・経費等に分かれ、任意項目として医師・薬剤師・看護職員・事務職員などの職種別の給与と人数がある(出典:厚生労働省「医療法人の経営情報のデータベース(MCDB)に係る第三者提供制度について」令和7年9月4日 第117回社会保障審議会医療部会 資料2)。

令和8年4月に何が変わったのか?

研究者等への第三者提供制度が施行された。医療法第69条の3のオーダーメード集計と、第69条の4の医療法人情報の提供の2本立てで、いずれも「相当の公益性」を要件とする。施行日は令和8年4月1日である(同資料)。

医療機関の経営者・事務長の立場で押さえるべき点は3つある。

  • 営業目的での利用は制度上除外されている。医療法第69条の4第1項は提供先を「相当の公益性を有する調査、学術研究又は分析」を行う者に限り、「特定の商品又は役務の広告又は宣伝に利用するために行うもの」を明示的に除いている。
  • 提供には社会保障審議会の審査が入る。第69条の4第2項は、あらかじめ社会保障審議会の意見を聴くことを義務づけている。
  • 不適切利用には罰則がある。提供を受けた者等が医療法人情報をみだりに他人に知らせ、または不当な目的に利用した場合、1年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金、またはその併科とされる(医療法第85条の2)。

無料で使える公的ベンチマークにはどんなものがあるか?

大きく4種類ある。①MCDBの分析結果、②福祉医療機構(WAM)の経営分析参考指標ダイジェスト版、③厚生労働省の病院経営管理指標、④中央社会保険医療協議会の医療経済実態調査である。集計単位・母集団・更新頻度が異なるため、見たい論点に応じて選ぶ必要がある。

① MCDBの分析結果は何が分かるのか?

医療法人「単位」の財務指標が分かる。個々の法人は特定されない形で、属性ごとにグルーピングした集計が公表されている。分析は厚生労働省から福祉医療機構に委託され、WAM NET上で公開されている(出典:厚生労働省「医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)を活用した分析結果について」令和8年7月更新独立行政法人福祉医療機構「医療法人経営情報データベースを活用した分析等」)。

2024年度決算分の速報版(2025年7月時点収集分)では、有効データ32,129法人が集計されている。内訳は病院のみを実施する法人が967法人(3.0%)、診療所のみが30,088法人(93.6%)である(出典:厚生労働省「WAM NET公表用集計データまとめ 法人 2024(R6)年度速報版」令和7年10月27日 第120回社会保障審議会医療部会 参考資料1)。

指標(中央値) 医療法人全体
32,129法人
病院のみ運営
967法人
一般無床診療所のみ
20,939法人
事業収益額 約1.3億円 約12.3億円 約1.3億円
事業収益対事業利益率 1.3% △1.3% 1.9%
経常収益対経常利益率 2.8% 0.1% 3.3%
自己資本比率 68.2% 53.4% 76.4%
経常赤字割合(構成比) 33.8% 47.3% 33.4%
債務超過割合(構成比) 6.4% 7.9% 4.6%

目を引くのは平均値と中央値の差である。医療法人全体の事業収益は平均約2.99億円に対し中央値は約1.31億円で、平均が大きく上振れしている。規模別分布では2億円未満に大半が集中する一方、100億円以上が38法人ある。自院を比べる際に平均値だけを見ると位置を読み違える。

② WAMの経営分析参考指標ダイジェスト版は何が分かるのか?

「施設」単位の経営指標が分かる。福祉医療機構が福祉貸付・医療貸付の利用先の決算書をもとに作成しているもので、有料頒布版は1種類3,300円(税込・CD-ROM)だが、種別ごとの概要をまとめたダイジェスト版はPDFで無償公開されている(出典:独立行政法人福祉医療機構「経営分析参考指標」)。

2024年度決算分では、一般病院1,433施設の医業収益対医業利益率は△1.9%、経常収益対経常利益率は△1.3%、赤字施設(経常利益が0未満)の割合は58.3%で、前年度の51.0%から7.2ポイント上昇している。人件費率53.2%、労働分配率103.8%、病床利用率80.7%、在院日数17.7日。療養型病院631施設の赤字施設割合は44.1%(前年度38.1%)、精神科病院327施設は56.9%(同41.9%)である(出典:独立行政法人福祉医療機構「≪経営分析参考指標≫2024年度決算分-病院の概要-」)。

法人単位のダイジェストもある。医療法人2,524法人の赤字法人割合は46.2%(前年度38.3%)で、1法人当たりの採用者数38.8人に対し離職者数36.2人とほぼ拮抗している(出典:独立行政法人福祉医療機構「≪経営分析参考指標≫2024年度決算分-医療法人の概要-」)。なお同資料の注記により、医育機関附属病院・医師会立病院および開設後1年未満の病院は母集団に含まれない。

③ 厚生労働省の病院経営管理指標は何が分かるのか?

開設者別・病床規模別・機能別に細かく割った病院単位の指標が分かる。対象は医療法人が開設する病院、医療法第31条に規定する公的医療機関、社会保険関係団体病院である(出典:厚生労働省「病院経営管理指標」)。

最新版は令和4年度病院経営管理指標(令和6年3月、医政局委託の医療施設経営安定化推進事業)である。医療法人の一般病院241施設では医業利益率△2.3%、経常利益率2.7%、人件費比率55.7%、材料費比率18.2%、病床利用率71.7%、平均在院日数33.1日、自己資本比率34.9%、償還期間8.3年。同じ一般病院でも自治体立214施設は医業利益率△22.9%、人件費比率64.5%であり、開設主体を揃えずに比較すると意味を失う(出典:厚生労働省「令和5年度 医療施設経営安定化推進事業 令和4年度 病院経営管理指標【別冊】」令和6年3月)。

強みは切り口の細かさにある。一般病院を20〜49床から400床以上まで6段階に割り、地域医療支援病院の承認有無、DPC適用区分、入院基本料別、黒字・赤字別などでも比較できる。一方、公表時点が直近の決算から遅れる点は割り引いて読む必要がある。

④ 医療経済実態調査は何に使うのか?

診療報酬改定の議論がどの数字を土台にしているかを確認するために使う。中央社会保険医療協議会が病院・一般診療所・歯科診療所・保険薬局の医業経営の実態を明らかにし、社会保険診療報酬の基礎資料を得るために実施している調査で、第25回調査(令和7年実施)の報告が公表されている(出典:厚生労働省「第25回医療経済実態調査の報告(令和7年実施)」令和7年11月)。自院のベンチマークというより、改定の前提を読む資料と位置づけたほうが実務に合う。

4つのデータはどう使い分けるのか?

集計単位で選ぶのが分かりやすい。法人単位の財務体質ならMCDB、施設単位の収支構造ならWAM、病床規模や機能で条件を揃えた比較なら病院経営管理指標、改定議論の前提確認なら医療経済実態調査である。

データ 集計単位 母集団 費用
MCDB分析結果 医療法人 報告義務のある医療法人(原則すべて) 無料
WAM経営分析参考指標 施設・法人 WAMの福祉貸付・医療貸付利用先 ダイジェスト版は無料/詳細版1種類3,300円
病院経営管理指標 病院 医療法人立・公的医療機関・社会保険関係団体病院 無料
医療経済実態調査 施設 病院・診療所・歯科診療所・保険薬局 無料

複数を突き合わせると、母集団の違いから来るずれが見えてくる。同じ2024年度決算でも、MCDBは病院のみ運営法人の経常赤字割合を47.3%、WAMは一般病院の赤字施設割合を58.3%としている。前者は法人単位、後者は施設単位かつ融資先という母集団で、同じものを測っていない。一方だけを「業界の実態」として引用すると読み違える。

公的データで分かることと、分からないことは何か?

分かるのは、自院の財務指標が同種・同規模の集団の中でどのあたりに位置するかである。分からないのは、その位置になっている理由と、自院で実行可能な打ち手である。この線引きが、外部に何を依頼するかの判断軸になる。

公的データで確認できるのは、収益性(医業利益率・経常利益率)の相対水準、費用構造(人件費率・材料費率・経費率)のどの項目が集団と乖離しているか、安全性(自己資本比率・流動比率・借入金比率・現預金回転期間)の水準、機能性(病床利用率・在院日数・患者1人1日当たり収益)の水準、といった範囲である。

一方、診療科別・病棟別の採算、算定できていない加算の洗い出し、委託契約や購買条件の妥当性、人員配置の再設計といった論点は、自院の内部データと現場の観察がなければ扱えない。ここが外部の専門家の領域になる。なお前述のとおりMCDBの個票データは営業・宣伝目的での提供が制度上除外されているため、「MCDBを使った独自分析」を掲げる提案を受けた場合は、それが公表済みの集計結果に基づくものかを確認したい。

コンサルに依頼するとき、何を持ち込めば話が早いか?

自院の直近3期分の指標を、公的データの定義に合わせて算出した一覧である。定義を揃えておけば初回から差分の議論に入れる。準備は次の順で整理すると進めやすい。

  1. 比較対象を決める。開設主体、病院種別(一般・ケアミックス・療養型・精神科)、病床規模の3点を揃える。病院経営管理指標はこの3点で集計が割られている。
  2. 指標の算式を合わせる。たとえばWAMの労働分配率は「人件費÷付加価値額」で、付加価値額は「医業収益-(経費+医療材料費+給食材料費+減価償却費)」と定義されている。自院の管理会計と算式が違えば数値は一致しない。
  3. 乖離の大きい項目を3つに絞る。差が大きい順に3項目を特定し、原因仮説を書き出す。
  4. 指標に現れない制約を書き添える。建物の更新時期、借入の償還スケジュール、医師の確保状況などを先に共有する。

よくある質問

MCDBに報告した自院のデータは、他の医療機関から見られるのか?

個々の医療法人が特定される形では公開されない。厚生労働省は収集した情報を「国民に分かりやすくなるよう属性等に応じてグルーピングした分析結果の公表」を行うとしており、公表されているのは属性別の集計値である。第三者提供についても、再識別の防止措置をガイドラインおよび利用規約に定めることとされている。

経営情報の報告は、すべての医療法人が対象なのか?

原則としてすべての医療法人が対象である。医療法第69条の2第2項は「医療法人(厚生労働省令で定める者を除く。)」と規定しており、除外される者の範囲は厚生労働省令で定められている。自院が対象かどうかは、主たる事務所の所在地の都道府県が案内する報告要領で確認するのが確実である。

自院が赤字だった場合、公表データと比べる意味はあるのか?

ある。2024年度決算では、WAMの集計で一般病院の58.3%、精神科病院の56.9%が経常赤字であり、MCDBの集計でも病院のみ運営法人の47.3%が経常赤字である。赤字が広く分布している局面では「赤字かどうか」より「赤字の幅と原因が集団の傾向と一致しているか」のほうが判断材料になる。集団と同じ動きなら外部環境の影響が大きく、集団と違う動きなら自院固有の要因を探すことになる。

参考資料

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