厚生労働省は2026年9月4日、令和8年度の地域医療介護総合確保基金(医療分)について、各都道府県への第1回内示を行ったと公表した。内示額の合計は1,008.4億円で、5つの事業区分に分かれている(出典:厚生労働省「令和8年度地域医療介護総合確保基金(医療分)の第1回内示について」令和8年9月4日)。

この基金は、病床の再編や在宅医療の体制づくり、医療従事者の確保、勤務医の労働時間短縮といった取組に対して、都道府県を経由して補助が出る仕組みである。医療機関から見ると「使える可能性があるのに、どこから手を付ければよいか分からない」典型例でもある。本稿では、公表された内示額と根拠法令から、自院がどの事業区分に当たるのか、そして9月というこの時期に何をすべきかを整理する。

令和8年度の第1回内示で、医療分にはいくら配分されたのか?

結論から言えば、令和8年度の第1回内示の総額は1,008.4億円である。内訳は5つの事業区分に分かれており、最も大きいのは「医療従事者の確保に関する事業」(事業区分Ⅳ)の526.1億円で、全体の半分強を占める。次いで施設・設備の整備(区分Ⅰ-1)が193.3億円、勤務医の労働時間短縮(区分Ⅵ)が188.4億円と続く。

事業区分 第1回内示分(基金規模) 国庫負担分
Ⅰ-1 地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設又は設備の整備 193.3億円 基金規模の2/3
Ⅰ-2 地域医療構想の達成に向けた病床の機能又は病床数の変更 41.8億円 基金規模の10/10
Ⅱ 居宅等における医療の提供 58.7億円 基金規模の2/3
Ⅳ 医療従事者の確保 526.1億円 基金規模の2/3
Ⅵ 勤務医の労働時間短縮に向けた体制の整備 188.4億円 基金規模の2/3
合計 1,008.4億円
出典:厚生労働省「令和8年度 地域医療介護総合確保基金(医療分)内示額一覧」(別添1〜6)より作成。国庫負担割合は同資料の各別添の注記による。

読むうえで押さえておきたい前提が2つある。ひとつは、表の金額が「基金規模」であって国費額ではないこと。資料の注記が「国庫負担分は基金規模の2/3」(区分Ⅰ-2のみ10/10)と明示しているとおり、区分Ⅰ-2以外は残りを都道府県が負担する構造になっている。

もうひとつは端数である。区分別の5つの数字を足すと1,008.3億円になり、総括表の1,008.4億円と0.1億円ずれる。これは各欄が0.1億円単位に丸められているためで、どちらかが誤っているわけではない。自院の資料に転記するときは、総括表の値と区分別の値を混ぜて計算しないほうが安全である。

なお、都道府県別の内示額も同じ資料に載っている。第1回内示分が最も大きいのは神奈川県の74.2億円、次いで宮城県の74.1億円、東京都の65.2億円で、人口規模とは一致しない並びになっている。配分は各都道府県が作成した計画の中身で決まるため、内示額の大小をそのまま地域の手厚さと読むことはできない。

なぜ事業区分Ⅰ-2だけ国庫負担が10割なのか?

区分Ⅰ-2だけ国が全額を負担するのは、法律がそう書いているからである。根拠は地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律(平成元年法律第64号)第6条で、都道府県が基金を設ける場合に国は「必要な資金の三分の二(第四条第二項第二号ロに掲げる事業に要する経費に係るものについては、その全額)を負担する」と定めている(出典:e-Gov法令検索「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」第6条)。

では「第四条第二項第二号ロ」とは何か。同法第4条第2項第2号は、都道府県計画に定める事業をイからトまで列挙しており、ロは「地域医療構想の達成に向けた医療機関(地域における病床の機能の分化及び連携を推進するために当該地域における病床数の変更を伴う取組を行うものに限る。)の運営の支援に関する事業」である。病床数の変更を伴う取組に限って、国が全額を持つ建て付けになっている。内示資料で区分Ⅰ-2のみ「10/10」と注記されているのは、この条文と符合する。

財源も条文に書かれている。同法第7条は、国が負担する費用について「消費税法の一部を改正する等の法律……の施行により増加する消費税の収入をもって充てる」と定める。基金が毎年度の裁量的な予算ではなく消費税財源に紐づいていることは、事業の継続性を見積もるうえで意味がある。ただし条文は財源の性格を定めているだけで、毎年度いくら配分されるかを保証するものではない点は区別しておきたい。

自院の取組はどの事業区分に当たるのか?

事業区分の中身は、厚生労働省医政局の予算資料に区分ごとの説明がある。以下は令和8年度概算要求の概要(令和7年8月時点の資料)に記載された説明で、概算要求段階のものであり確定予算の内訳ではないが、各区分が何を対象にしているかを知るには足りる(出典:厚生労働省「令和8年度 概算要求の概要(厚生労働省医政局)」)。

区分Ⅰ-1は「急性期病床から回復期病床への転換等、地域医療構想の達成に向けた病床の機能の分化及び連携等について実効性のあるものとするため、医療機関が実施する施設・設備整備に対する助成」とされている。建物や機器そのものが対象になる区分で、金額も大きくなりやすい。

区分Ⅰ-2は「地域医療構想調整会議等の意見を踏まえ、自主的に行われる病床減少を伴う病床機能再編や、病床減少を伴う医療機関の統合等の取組に対する助成」である。前述のとおり国庫10割だが、対象が病床減少を伴う取組に限られるため、そもそも該当する医療機関は多くない。

区分Ⅱは「在宅医療の実施に係る拠点の整備や連携体制を確保するための支援等」、区分Ⅳは「医師等の偏在の解消、医療機関の勤務環境の改善、チーム医療の推進等の事業」とされ、同資料では病院内保育所の運営費や施設整備への支援も区分Ⅳの枠組みで説明されている。看護師の特定行為研修の推進も、都道府県によってはこの区分の事業メニューとして立てられている。特定行為研修そのものの位置づけは看護師の特定行為研修とキャリアの記事で扱った。

区分Ⅵは「地域医療において特別な役割があり、かつ過酷な勤務環境となっていると都道府県知事が認める医療機関等を対象とし、医師の労働時間短縮に向けた総合的な取組に対して助成を行う」とされている。対象が知事の認定にかかる点が他の区分と異なる。医師の労働時間短縮をめぐる制度側の議論は時間外労働の短縮目標ラインの記事で整理している。

整理すると、ハコと機器なら区分Ⅰ-1、病床を減らす再編なら区分Ⅰ-2、在宅の拠点づくりなら区分Ⅱ、人の確保と勤務環境なら区分Ⅳ、医師の労働時間短縮なら区分Ⅵという対応になる。自院の計画がどれに当たるかが決まらないうちは、都道府県への相談も空回りしやすい。

内示が出ても、医療機関に直接お金が来るわけではない?

ここが最も誤解されやすい点である。内示は国から都道府県への配分の通知であって、個々の医療機関への交付決定ではない。 法第6条が想定しているのは、都道府県が地方自治法第241条の基金を設け、都道府県計画に掲載された事業の経費を支弁する構造であり、医療機関は都道府県が行う公募や希望調査に応募して初めて対象になる。

そして実務上重要なのは、都道府県の手挙げ受付は、対象年度の前年度の秋に行われることが多いことである。たとえば福井県は、令和9年度の基金事業について「活用希望調査」を行っており、締切を令和8年9月30日としている。提出書類として事業計画書(設備整備)、所要額調べ、事業計画書(施設整備)のほか、地域包括ケア病院等整備支援事業、リハビリテーション人材資格取得支援事業、勤務環境改善支援事業、医師不足地域における診療体制強化支援事業、看護師の特定行為研修推進事業、病床機能再編支援事業といったメニュー別の様式が用意されている(出典:福井県「令和9年度地域医療介護総合確保基金(医療分)補助事業の活用希望調査について」最終更新2026年9月8日)。

つまり、令和8年度の第1回内示が公表された今この時期は、医療機関にとっては令和9年度分の手を挙げる時期にあたる。令和8年度分の話だと思って資料を眺めているうちに、翌年度の締切が過ぎてしまうという順序の取り違えが起こりやすい。

なお、福井県の例はあくまで一県の運用であり、受付の名称・時期・様式は都道府県ごとに異なる。自院の所在する都道府県の医療政策担当課のページを確認するところから始めるほかない。

外部の支援を使うなら、どこを任せるのが現実的か?

基金の申請で外部の手を借りる場合、任せられる範囲と任せられない範囲がはっきり分かれる。任せにくいのは、自院の事業が都道府県計画にどう位置づくかという部分である。厚生労働省は「地域医療介護総合確保基金(医療分)の活用に当たっての地域医療構想調整会議への協議について」(平成30年5月31日)をはじめとする通知を出しており、基金の活用が調整会議での協議を前提とする場面があることを示している(出典:厚生労働省「地域医療介護総合確保基金に関する通知」)。調整会議での説明は自院の院長・事務長が担う性質のもので、外注では代替しにくい。

一方で外に出しやすいのは、所要額調べや見積の整合、施設整備の図面・仕様と補助対象経費の突き合わせ、複数年度にまたがる資金計画といった、手数がかかり様式に依存する作業である。これらは設計事務所・会計事務所・医業経営のコンサルティング会社のいずれが担うにせよ、様式と締切が決まっている以上、着手が早いほど品質が上がる。

費用対効果を考えるなら、支援を依頼する前に自院の数字を揃えておきたい。公的に入手できるベンチマークの使い方はコンサルタントに相談する前の公的データの記事で、国の直接補助の評価基準の読み方は業務効率化・職場環境改善支援事業の記事で扱っている。基金と国の直接補助は申請先も審査の仕組みも別物なので、混同せずに並行して検討するのが現実的である。

よくある質問

「第1回内示」ということは、追加の内示があるのか?

資料の表題が「第1回内示」である以上、年度内に別の回の内示が想定されていることになる。ただし第2回以降の時期や規模について、今回公表された資料には記載がない。追加の配分を前提に計画を組むのではなく、都道府県の公表を待って判断するのが安全である。

診療所でも基金は使えるのか?

法律上の対象は「医療機関」であり、病院に限定する規定は置かれていない。実際に福井県の事業メニューにはリハビリテーション人材の資格取得支援や勤務環境改善支援など、病床を持たない施設でも関係しうるものが並んでいる。ただしどのメニューを立てるかは都道府県が決めるため、診療所が応募できるかどうかは所在地の都道府県の公募内容次第である。

令和8年度の内示分に、今から申請して間に合うのか?

今回内示されたのは都道府県への配分であり、それを原資とする都道府県の公募は多くの場合すでに前年度に受付を終えている。今から動くなら令和9年度分が対象と考えるほうが実態に合う。ただし年度途中の追加公募を行う都道府県もあるため、断定はできない。所管課への確認が要る。

国の「業務効率化・職場環境改善支援事業」とは何が違うのか?

基金は都道府県が計画を作り、都道府県が公募し、都道府県が交付する仕組みである。これに対し、医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業のような国の補助事業は、要件と評価基準が国の実施要綱で定められ、申請の流れも別建てになっている。財源も窓口も審査も別なので、どちらか一方を調べただけで「自院は対象外」と結論づけないほうがよい。

9月に内示のニュースを見たときに確認すべきは、令和8年度分の金額そのものではなく、自院の所在する都道府県が令和9年度分の希望調査をいつ締め切るかである。

参考資料

本記事の事業区分ごとの事業内容の説明は、厚生労働省医政局「令和8年度 概算要求の概要」(令和7年8月)の記載を典拠としており、確定した令和8年度予算の内訳資料そのものは参照していない。また、都道府県の公募の運用については福井県の公表資料のみを確認しており、他の46都道府県の実際の受付時期・様式は確認していない。

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