令和8年度の診療報酬改定で、医療機関の賃上げの仕組みである「ベースアップ評価料」は、対象職員・点数・目標のすべてが組み替えられました。対象に事務職員と40歳未満の医師が加わった一方で、賃上げの目標は算定要件ではありません。本記事は、厚生労働省が公表した概要資料、施設基準の届出通知、疑義解釈資料だけを原典として、人事・採用・給与設計を担う院長や事務長が押さえるべき点を整理します。(公開日:2026年10月27日)

令和8年度改定で、ベースアップ評価料の何が変わったのか?

変わったのは、対象職員の範囲、点数の水準、賃上げの目標、そして「継続的に賃上げを実施している医療機関」の区別の4点です。対象は医療機関だけでなく保険薬局にも広がりました。

厚生労働省の概要資料では、対象施設は「保険医療機関、保険薬局、訪問看護ステーション」と整理され、賃上げの目標は改定前の令和6年度2.5%・令和7年度2.0%(計4.5%)から、令和8年度3.2%・令和9年度にさらに3.2%へ置き換わっています。(出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要(医科・賃上げ・物価対応)」、版・日付の記載なし、令和8年10月27日確認)なお、算定の可否は告示・通知で決まります。以下は、概要資料の数値を、届出通知(保医発0305第8号)の記載と突き合わせて書いています。

対象職員は誰か?事務職員や若手医師は含まれるのか?

含まれます。概要資料では、対象職員は「当該保険医療機関に勤務する職員」とされ、従来の職種に加えて事務職員と、40歳未満の医師・歯科医師・薬局薬剤師が追加されました。

一方で、40歳以上の医師・歯科医師・薬局薬剤師、業務委託により勤務する者、経営者、法人役員は対象に含まれません。届出通知でも、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の対象職員は「40歳以上の医師及び歯科医師並びに業務委託により勤務する者を除く」職員と書かれています。事務職員や40歳未満の医師を明示した問答は、確認した疑義解釈資料の抜粋には見当たりませんでした。したがって、個別の職員が対象になるかどうかは、通知・疑義解釈の最新版で確認する必要があります。(出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要(医科・賃上げ・物価対応)」、厚生労働省「特掲診療料の施設基準等に係る届出の取扱い(令和8年3月5日保医発0305第8号)」抜粋)

採用や処遇設計の観点では、これまでベースアップ評価料の恩恵が及びにくかった事務職員が、看護補助者と同じ5.7%の目標水準の対象に入った点が実務上の変化です。ただし、これは目標であって、事務職員の昇給を義務づけるものではありません(後述)。

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の点数はいくつか?

令和8年6月から令和9年5月までは、新たに賃上げを行う医療機関で初診17点・再診4点、継続的に賃上げを実施している医療機関で初診23点・再診6点です。令和9年6月からは、それぞれ倍の水準に変わります。

区分 令和8年6月〜令和9年5月 令和9年6月〜
新たに賃上げを行う医療機関:初診/再診 17点/4点 34点/8点
継続的に賃上げを実施している医療機関:初診/再診 23点/6点 40点/10点

表1:外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の初診・再診の点数(概要資料の記載。訪問診療時の点数は省略)

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)は区分が、令和9年6月以降は24区分まで広がります。入院ベースアップ評価料も、改定前の165区分(1点〜165点)から250区分へ拡大され、令和9年6月以降は500区分まで拡大されると書かれています。(出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要(医科・賃上げ・物価対応)」)

点数は診療報酬の告示で定められます。実際に算定する際は、告示(令和8年厚生労働省告示第69号)の医科点数表と留意事項通知で、最新の点数と算定要件を確認してください。

賃上げの目標は何%で、達しないと算定できないのか?

目標は令和8年度に3.2%(看護補助者・事務職員は5.7%)、令和9年度にさらに3.2%(同5.7%)です。ただし、目標に届かなくても評価料は算定できます。

疑義解釈資料(ベースアップ評価料関連・その2)の問7は、目標に届かない場合でも算定は可能としたうえで、評価料の収入は、対象職員の基本給や毎月支払われる手当の引上げ、およびそれに伴う賞与・時間外手当・法定福利費等の増加分に全額を充てる必要があるとしています。(出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(ベースアップ評価料関連・その2)」令和8年4月1日)つまり、算定の条件は「目標の達成」ではなく「収入の使い道」です。この区別を、院内の説明資料でも混同しないことが、職員との対話では重要です。

「継続的に賃上げを実施している医療機関」とは何を指すのか?

令和8年3月31日時点でベースアップ評価料を届け出ている医療機関などが該当し、より高い点数(表1の「継続」の列)が適用されます。

届出通知では、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の注5の対象は、次のいずれかです。第一に、令和8年3月31日時点で届出済みであること。第二に、令和8年度に対象職員の基本給等を令和6年3月時点と比べて「5分5厘(看護補助者、事務職員については、8分)」相当以上引き上げること。第三に、令和9年度に「8分7厘(看護補助者、事務職員については、1割3分7厘)」相当以上引き上げることです。概要資料でも、令和8年度は5.5%(看護補助者・事務職員は8%)以上、令和9年度は8.7%(同13.7%)以上と整理されています。(出典:厚生労働省 保医発0305第8号 抜粋、令和8年3月5日、同 概要資料)

この比率は、令和6年3月を起点とした累積の水準です。令和8年度に新しく届け出る医療機関が、自院の過去の昇給を含めて水準を満たしているかどうかは、基本給等の総額で確認することになります。

評価料の収入は、どのように職員の賃金に充てるのか?

収入は、対象職員の基本給等の引上げ(ベースアップ等)と、それに伴う賞与・時間外手当・法定福利費等の増加分に充てます。収入を院内の別の目的に回すことはできません。

届出通知には、次の定めがあります。ベースアップ等の実施後に患者数の変動などで追加の引上げが難しい場合に限り、賞与等の手当による改善も認められます。賃金改善を実施する項目以外の賃金項目の水準を下げてはいけません。事業継続のために評価料分を除く職員の賃金水準を引き下げる場合は、収支状況や引下げ内容を記載した特別事情届出書(様式94)を提出します。補助金による部分は、賃金改善の算定から除外されます。また、6月から翌年5月に算定した収入を、当年4月から翌年3月の賃金改善に充てることもできます。(出典:厚生労働省 保医発0305第8号 抜粋、令和8年3月5日)

夜勤については、概要資料に、看護職員処遇改善評価料とベースアップ評価料による収入を夜勤手当の増額に用いることを可能とする旨の記載があります。恒常的に夜間を含む交代制勤務をとる職場の夜勤手当は、毎月支払われる手当に準じて基本給等に含めてよいと整理されています。(出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要(医科・賃上げ・物価対応)」)

届出と、毎年8月の報告では何が必要か?

施設基準の届出は外来・在宅Ⅰで様式95(注5に該当する場合は様式98を追加)、同Ⅱで様式96です。算定を始めたあとは、毎年8月に前年度の賃金改善実績報告書と当年度の賃金改善中間報告書を地方厚生(支)局長へ報告します。

届出通知には、書類を算定年度の終了後3年間保管することも定められています。届出前には、対象職員への給与支払いの実績も必要で、疑義解釈資料(その2)の問3では、外来・在宅Ⅰは届出前1月、外来・在宅Ⅱや入院は届出前3月とされています。(出典:厚生労働省 保医発0305第8号 抜粋、同 疑義解釈資料(その2)、令和8年4月1日)様式や記載例、スケジュール表は、厚生労働省の専用ページ(令和8年9月2日更新)にまとめて掲載されています。(出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定におけるベースアップ評価料等について」、令和8年10月27日確認)

院長・事務長は、何から確認すればよいのか?

編集部の整理として、制度の枠組みから導かれる順に3点を挙げます。これは原典の記載ではなく、編集部の見解です。

1つ目は、自院が「継続」と「新規」のどちらの列に入るかの確認です。令和8年3月31日時点の届出の有無が、点数の水準を分けます。2つ目は、対象職員の台帳づくりです。40歳以上の医師、業務委託者、役員は対象外なので、給与台帳と職種・年齢・雇用形態を突き合わせておくと、翌年8月の報告で慌てずに済みます。3つ目は、収入の使途の記録です。収入額と賃金改善の対応関係を月次で残しておくと、報告書の作成が容易になります。人件費の上昇に関する他の論点は、最低賃金の実務の記事や、社会保険適用拡大の記事もあわせてお読みください。

この記事で扱わなかったこと、原典で確認できなかったことは何か?

入院ベースアップ評価料の個別の点数、賃上げ未実施の医療機関に対する入院基本料の取扱い、歯科・訪問看護・調剤の詳細は、字数の都合と原典の再確認が済んでいないため扱いません。概要資料の版・作成日は資料上に記載がなく、確認できませんでした。また、概要資料や届出通知が示す点数・要件は、その後の疑義解釈で補足・変更されることがあり、本記事は令和8年10月27日時点で開けた資料の範囲です。事務職員や40歳未満の医師の取扱いを個別に示した疑義解釈は、確認した抜粋では見つかりませんでした。

よくある質問

Q1. 賃上げの目標に届かないと、ベースアップ評価料は算定できなくなりますか?

いいえ。疑義解釈資料(その2)の問7は、目標に届かなくても算定は可能としています。ただし、評価料の収入は対象職員の賃金改善に全額を充てる必要があります。

Q2. 事務職員も対象になりますか?

概要資料では、対象職員に事務職員が追加されたと整理されています。経営者・法人役員や業務委託の者は対象外です。個別の職員の取扱いは通知・疑義解釈で確認してください。

Q3. 令和8年度の目標値は何%ですか?

対象職員全般が3.2%、看護補助者・事務職員が5.7%です。令和9年度にさらに同じ率を目指すとされています。

Q4. 「継続的に賃上げを実施している」医療機関の条件は?

令和8年3月31日時点で届出済みであるか、令和6年3月比で令和8年度に5.5%(看護補助者・事務職員は8%)以上などの水準を満たす場合です。

Q5. 毎年の報告はいつ、何を出しますか?

毎年8月に、前年度の賃金改善実績報告書と当年度の賃金改善中間報告書を、地方厚生(支)局長へ提出します。

参考資料

確認日はいずれも令和8年10月27日です。概要資料の記載のうち、スライド番号は資料テキストからの判断であり、原資料でご確認ください。

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