令和8年度の「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」は、1施設あたり上限8,000万円・補助率4/5という規模の一方で、申請時に提出する「業務効率化計画」が国の採点表で評価され、補助を受けた後も目標達成の評価を受け、成果が認められなければ返還を求められる場合がある、という条件が付いています。国のスケジュール(予定)では2026年8月26日頃に補助対象病院が選定され、8月末から9月初頭に内示が伝達されます。現在は、内示を受けた病院が3年計画の1年目を走り始める時期です。
本記事では、実施要綱・国による評価基準・「業務効率化計画」作成に関する主なご質問という厚生労働省の一次資料から、何が確定していてどこが病院側の裁量なのかを整理します。
令和8年度の業務効率化・職場環境改善支援事業は、病院に何を求めているのか?
求めているのは「機器を買うこと」ではなく、管理者が委員長を務める推進委員会を置き、定量的な目標を立て、その達成度を国の評価にさらすことです。対象は病院に限られ、診療所は対象外。補助率は4/5(国2/3・都道府県1/3)、1施設あたりの補助上限額は80,000千円です。
実施要綱が挙げる対象要件は5点です。①最大3年間を対象とする「業務効率化計画」の作成、②1年目の計画終了時・2・3年目の計画途中・3年目の計画終了時に、都道府県知事を通じて厚生労働大臣へ報告書を提出して評価を受けること、③それとは別に厚生労働大臣が別途定めるデータの提出に応じること、④令和8年4月1日時点でベースアップ評価料(5種のいずれか)を届け出ていること、⑤都道府県において、地域医療への一定の貢献と、地域医療構想調整会議への参加および取組が地域医療構想に沿っていることが確認されていること(出典:厚生労働省医政局長「令和8年度(令和7年度からの繰越分)医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業の実施について」(医政発0213第22号)令和8年2月13日)。
計画に盛り込む項目も要綱が指定しています。組織(院長・副院長等の管理者が委員長となる「業務効率化推進委員会」を設け、経営者層がPDCAを主導する。評価と見直しの仕組みは必ず設ける。既存委員会の活用も可)、対象部門(医師・調剤・看護・その他コメディカル・事務・その他のバックアップの6区分のいずれか又は全て)、具体的かつ定量的な効率化目標、業務手順の見直しとタスク・シフト/シェアの具体的内容、ランニングコストの確保方針の5つです。
最後のランニングコストは見落とされやすい項目です。要綱は「ICT機器等の運用・保守費用等のランニングコストは補助対象外であり、当該ランニングコストは業務効率化によって賄われるべきである」としており、補助が切れた後の維持費を業務効率化の効果で回収する筋道を申請の段階で示させます。なお、補助を受けた病院の取組の内容とその成果は厚生労働省から公表されます(出典:厚生労働省「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業について」)。
「業務効率化計画」はどう採点されるのか?
国は評価基準として15項目を公表しており、各項目をA〜Dの4段階で評価します。配点は取組内容に関する3項目が20点、定量目標に関する1項目が30点、その他が10点で、合計180点とする予定です。最も重いのは「意欲的であり、かつ、達成可能とするだけの合理的な根拠」がある定量目標です。
15項目の内訳は次のとおりです(項目の文言は厚生労働省「国による評価基準」、配点は同省「『業務効率化計画』作成に関する主なご質問」令和8年7月17日より)。
| 区分 | 評価項目 | 配点(A評価) |
|---|---|---|
| 基本的事項 | ①本事業の背景・目的等を適切に理解しているか | 10点 |
| ②業務効率化に取り組むのに十分な体制を有していると認められるか | 10点 | |
| ③これまで独自に院内の業務効率化・勤務環境改善に取り組んできた実績があるか | 10点 | |
| ④本年4月1日時点でベースアップ評価料を届け出ているか | 必須 | |
| ⑤都道府県において、地域医療への貢献・地域医療構想の推進への協力が確認されているか | 必須 | |
| 課題把握 | ⑥業務遂行上の課題や非効率になっている点を具体的かつ定量的に把握できているか | 10点 |
| 取組内容 | ⑦課題を解決するのに的確かつ十分な効果がある取組内容となっているか | 20点 |
| ⑧取組を今後定着させ、拡大・発展させていく具体的方針や内容が定められているか | 20点 | |
| ⑨取組内容が病院全体に与える波及効果が相当程度あると認められるか | 20点 | |
| 業務効率化委員会 | ⑩組織体制や運営方法等が、病院全体でPDCAにより取り組むと認められる具体的かつ妥当な内容か | 10点 |
| 効率化目標 | ⑪定量的な効率化目標が、意欲的であり、かつ、達成可能とするだけの合理的な根拠があるか | 30点 |
| 業務手順の見直し | ⑫業務手順の見直し内容が、具体的かつ効果的なものとなっているか | 10点 |
| タスク・シフト/シェア | ⑬取組内容が具体的かつICT機器等の導入と関連づけて総合的に推進される内容か | 10点 |
| その他 | ⑭ICT機器等のランニングコストの確保策が具体的かつ妥当なものとなっているか | 10点 |
| ⑮データ提出を行うのに十分な体制を有していると認められるか | 10点 |
B・C・D評価の点数も示されています。20点の項目はB:10点・C:5点、30点の項目はB:20点・C:10点、10点の項目はB:6点・C:4点で、いずれもD評価は0点です。記載が薄い項目があると単に減点されるのではなく、その項目の配点がまるごと失われます。
なお、④と⑤は評価基準の「必須」欄に○が付いています。この2項目を外して残る13項目で計算すると、20点×3+30点×1+10点×9=180点となり、公表された合計点と一致します。ただし「④⑤が配点対象外である」ことは原典に明記されていません。上記は本記事の計算による推測です。
点の重心が「機器の性能」ではなく「課題の把握から目標設定・定着までの筋道」に置かれていることが分かります。⑥と⑪は対になっており、現状の数値を持っていない病院は⑪で高い評価を取りにくい構造です(院内の数値を先に押さえる作業は別記事で整理)。
定量的な効率化目標は、どう立てて、どう測るのか?
要綱は「対前年同月比●%以上など、定量的に測定及び評価できるもの」を求めています。測定方法については、質問集が「導入前の連続5日間と、導入後6か月・1年経過後のそれぞれ連続5日間で計測」という考え方を示しており、その5日間の時期は病院の任意で設定できます。例えば導入前の特定の週の月曜日から金曜日で超過勤務時間や業務に要する時間を計測し、導入後にどれだけ減少するかを目標にする形です。
要綱が挙げる目標例は、病院の実情に応じて設定するものでこの範囲に限られないと明記されています。医師部門なら退院時サマリ等の文書作成時間の減や医師事務作業補助者の効率的配置、看護部門なら看護記録の作成や指示待ちに要する時間の減・夜勤帯の患者訪室頻度の減、事務部門ならレセプト点検業務の時間や外来患者の待ち時間の減。その他コメディカル部門では入院後早期リハ介入率の増やME機器の中央管理割合の増も挙がっており、削減だけでなく「増やす」方向の指標も例示されています。各部門に共通して超過勤務時間の減が並んでいる点も特徴です。
「連続5日間」で計測させる理由も質問集に書かれています。曜日ごとに患者数や業務内容が異なることが想定されるため、その影響をなるべく少なくする狙いです。計測対象職員数の目安は示されておらず、対象部門の実態を的確に表せるのであれば、職員や診療科等の範囲を柔軟に設定して差し支えないとされています。超過勤務時間の削減を掲げる場合は、労働時間の実態把握そのものが別の論点として立ち上がります(労働基準監督署の監督指導の見直しは別記事で整理)。
計画に記載する基礎数値の定義も確認が必要です。「職員数(職種別人数)」は常勤換算人数、「病床数」は使用許可病床数で、いずれも令和8年4月1日時点の値です。常勤換算は病床機能報告の計算方法を引用しており、病院で定めた1週間の勤務時間が32時間未満の場合は32時間以上勤務している者を常勤として計上します。歯科医師数は「医師数」に含め、歯科部門の取組も「医師部門」に記載できます。
補助の対象にならない費用と、内示前の調達はどう扱われるのか?
明確に対象外とされているのは、電子カルテの更新費用、単なるPCの入れ替え費用、導入するICT機器等の運用・保守費用等のランニングコストです。加えて、内示前に調達したICT機器等も対象外で、この「調達」は納品や契約を想定しているとされています。
質問集は、ランニングコストと「利用料」を区別しています。ランニングコストは電気代や通信料、修理代や点検費用など「当該機器等の運用において不可欠とはいえないもの」。「利用料」はその料金を支払わないとそもそも利用できない場合など「運用に不可欠といえるもの」で、こちらは対象になり得ます。ただし利用料も対象は内示後に生じる経費で、契約上令和8年4月から支払いが必須という場合に限り令和8年度中の最大12か月分が対象となり、令和9年度以降は支援できません。リース調達も購入より廉価なら可能ですが、対象期間は同じです。納品と支払いは令和9年3月31日までに終える必要があります。
他の補助事業との関係では、同一の設備に対して複数の補助事業から補助を受けることはできません。一方、既存のICT機器等への機能追加や、既存機器と既存の電子カルテを連携するシステムの導入費用は、定量的な業務効率化等の効果が出せるのであれば補助対象になり得るとされています。更新によって機能が大幅に向上する機器については、質問集は明確な対象外には含まれないとしつつ、精査が必要で個別具体的に判断していくとしており、一律に可とは書かれていません。
金額は税抜き・概算額での記載が想定され、製品名(「●●社製」)は任意記載です。同一法人で複数の病院を運営している場合は病院ごとに計画を作成し、法人本部が一括調達する費用は当該病院に生じる部分のみを按分します。また、計画を補足する参考資料の添付は「国による選定を公平に行う観点から適切ではない」とされ、補足事項は計画書の「10.補足事項」欄に記載します。書き切れなかった内容を別紙で補うことはできません。
外部の支援を使うとしたら、どの工程で効くのか?
採点と事後評価の構造から逆算すると、外部の力が効きやすいのは「現状の定量把握」「目標値の根拠づけ」「導入後の計測とデータ提出の実務」の3工程です。逆に、業務効率化推進委員会の運営とPDCAは、要綱が経営者層の主導を明示しているため外注できません。以下は原典に書かれた要件ではなく、要件から導かれる実務上の含意で、判断は各病院の状況によります。
第一に、⑥(課題の定量的な把握)と⑪(目標の合理的な根拠)は連動しており、⑥・⑦・⑧・⑨・⑪を合わせると100点=180点の過半を占めます。導入前の連続5日間の計測をどの部門・どの職種で行うかという設計が、目標値の妥当性をそのまま左右します。
第二に、⑭(ランニングコストの確保策)は財務の話です。配点上は10点ですが、削減した時間を人件費や増収に換算する筋道は、補助終了後に機器を維持できるかという実質的な論点でもあります。
第三に、⑮(データ提出体制)は導入後に効いてきます。要綱の注記では、導入前後において、対応する業務に要する時間、関係職員の総労働時間・超過勤務時間、医療安全に関する情報(インシデント件数)等のデータ提出を求めることが想定されています。導入前のデータを取り損ねると後から復元できないため、内示前の準備期間の使い方が結果に影響します。
そして事後の評価は返還と結びついています。要綱は、評価において成果が認められなかった場合には補助金の返還を求める場合があるとし、災害の発生等やむを得ないと認められる場合はその限りではないとしています。申請内容を偽り、不正の手段により給付金の支給を受けたと認める場合は、全部の返還を求めるとされています。また、計画は最大3年間を対象に作成しますが、2年目・3年目の取組に関する対象経費の補助が保証されるものではない点も明記されています(勤務環境改善の公的窓口については別記事で整理)。
よくあるご質問
診療所は令和8年度の業務効率化・職場環境改善支援事業に申請できますか?
できません。事業ページと実施要綱はいずれも対象を「病院」と定めています。加えて、保険医療機関コードが発行され、令和8年4月1日から申請時点までに診療報酬請求の実績がある施設に限られます。
「業務効率化計画」の合計点は何点で、どの項目が最も重いですか?
合計180点とする予定とされています。最も重いのは⑪「具体的かつ定量的な効率化目標が、意欲的であり、かつ、達成可能とするだけの合理的な根拠があると認められるか」で、A評価30点・B評価20点・C評価10点・D評価0点です。次に重いのが⑦⑧⑨の各20点です。
内示を受ける前に機器を発注してもよいですか?
補助対象になりません。質問集は、国による内示前に調達したICT機器等は対象外であり、ここでいう「調達」は納品や契約を想定していると回答しています。
目標を達成できなかった場合、補助金は必ず返還になりますか?
必ずではありません。実施要綱は、成果が認められなかった場合には「補助金の返還を求める場合がある」という書き方をしており、災害の発生等やむを得ないと認められる場合はその限りではないとしています。一方で、申請内容を偽り不正の手段により給付金の支給を受けたと認める場合は、補助金の全部の返還を求めるとされています。
参考資料
- 厚生労働省医政局長 / 「令和8年度(令和7年度からの繰越分)医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業の実施について」(医政発0213第22号)別紙「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業実施要綱」 / 令和8年2月13日発出 / https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001656395.pdf / 確認日:2026年9月10日
- 厚生労働省 / 「国による評価基準」(医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業) / 令和8年度事業 / https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001695815.pdf / 確認日:2026年9月10日
- 厚生労働省 / 「『業務効率化計画』作成に関する主なご質問」 / 令和8年7月17日(下線部追加) / https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001727878.pdf / 確認日:2026年9月10日
- 厚生労働省 / 「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業について」(事業の概要・現時点のスケジュール(予定)) / 令和8年度事業 / https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70522.html / 確認日:2026年9月10日
本記事の配点表は、厚生労働省「国による評価基準」の15項目と、同省「『業務効率化計画』作成に関する主なご質問」に示された配点(20点・30点・10点の3区分と合計180点)を突き合わせて作成したものです。項目ごとの点数を1対1で示した一覧表は原典に存在しないため、④⑤を「必須」欄に基づき配点対象外として扱った点は本記事の解釈です。申請にあたっては、都道府県からの案内と原典の記載を必ず確認してください。

