令和7年の雇用動向調査で「医療,福祉」に何が起きたのか?

常勤にあたる一般労働者が、入る人より辞める人のほうが多い状態に転じました。厚生労働省が令和8年8月31日に公表した令和7(2025)年の雇用動向調査で、「医療,福祉」の一般労働者は入職率13.1%・離職率13.6%となり、入職超過率はマイナス0.5ポイント、つまり離職超過です(出典:厚生労働省「令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況 2 産業別の入職と離職」表4-2)。前年の令和6年は入職率13.1%・離職率13.1%で、入職超過率はちょうどゼロでした(出典:厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況 2 産業別の入職と離職」表4-2)。

もうひとつ、離職者数の順位が入れ替わりました。令和7年の離職者数は「医療,福祉」が1,200.2千人で全産業のうち最も多く、次いで「卸売業,小売業」1,120.8千人、「宿泊業,飲食サービス業」1,042.7千人の順です。入職者数は「宿泊業,飲食サービス業」1,220.6千人に次ぐ1,215.2千人で2番目でした。令和6年は離職者数の最多が「卸売業,小売業」1,427.0千人で、「医療,福祉」は1,135.4千人の2番目でしたから、1年で首位に入れ替わったことになります。

この調査は、常用労働者を5人以上雇用する事業所から14,840事業所を抽出し、上半期9,277事業所・下半期8,807事業所の有効回答を集計したものです(出典:厚生労働省「令和7(2025)年『雇用動向調査』の調査結果を公表します」令和8年8月31日)。全数調査ではなく標本調査である点は、後述のとおり読み方に効いてきます。

なぜ一般労働者の「離職超過0.5ポイント」が重いのか?

同じ年に、産業全体は逆方向に動いているからです。令和7年の産業計は入職率14.7%・離職率13.7%で、離職率は前年より0.5ポイント低下し、入職超過率は1.0ポイントへ0.4ポイント拡大しました。就業形態別に見ても、産業計の一般労働者は入職率12.0%・離職率11.4%で、入職率は0.2ポイント上昇・離職率は0.1ポイント低下しています。

つまり、世の中全体では常勤の出入りが落ち着く方向に動いた年に、「医療,福祉」の常勤だけが離職率を13.1%から13.6%へ0.5ポイント上げました。景気や労働市場全体の変動では説明しにくい動き方です。採用の現場で「どこも人が採れない」と説明されがちな局面ですが、少なくともこの1年に限れば、他産業と同じ理由で動いているとは言いにくい数字になっています。

令和6年・令和7年の入職率・離職率・入職超過率(単位:%、入職超過率はポイント)
区分 入職率 R6 入職率 R7 離職率 R6 離職率 R7 入職超過率 R6 入職超過率 R7
産業計(計) 14.8 14.7 14.2 13.7 0.6 1.0
産業計(一般労働者) 11.8 12.0 11.5 11.4 0.3 0.6
医療,福祉(計) 14.1 14.5 13.8 14.3 0.3 0.2
医療,福祉(一般労働者) 13.1 13.1 13.1 13.6 0.0 −0.5
医療,福祉(パートタイム労働者) 16.6 17.6 15.7 15.9 0.9 1.7

入職超過率は、入職率から離職率を引いた値です。プラスなら入職が離職を上回る入職超過、マイナスなら離職超過を意味します(出典:厚生労働省「令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況 主な用語の定義」)。

パートタイム労働者の入職超過1.7ポイントは朗報なのか?

常勤の穴をパートで埋めている姿としても読めるため、単純な朗報とは言い切れません。「医療,福祉」のパートタイム労働者は入職率17.6%・離職率15.9%で、入職超過率は前年の0.9ポイントから1.7ポイントへ拡大しました。人数でも入職者443.0千人に対して離職者401.6千人で、41.4千人の入職超過です。

一方で一般労働者は入職者772.2千人に対して離職者798.6千人。人数の差は26.4千人の離職超過です。計で見ると入職1,215.2千人・離職1,200.2千人となり、わずかに入職超過(入職超過率0.2ポイント)が残ります。全体では辛うじてプラスに見えるのに、就業形態を割ると常勤が減ってパートが増えている、という構図です。

この構図が自院にも当てはまるかどうかは、この統計だけでは決まりません。ただし「全体の頭数は埋まっているのに夜勤帯や責任者層が薄い」という現場感覚と整合する動きではあるので、常勤とパートを分けて自院の数字を出す価値はあります。数字の出し方は後述します。

この数字が自院について言っていないことは何か?

4つあります。いずれも、社内資料に引用する前に押さえておきたい点です。

第一に、「医療,福祉」は病院・診療所だけの区分ではありません。日本標準産業分類の大分類Pにあたり、医療業のほかに保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業を提供する事業所が含まれます。老人福祉・介護事業や保育所もここに入ります。逆に、処方せんに基づいて医薬品を調剤する事業所(調剤薬局)は大分類I「卸売業,小売業」の6033に分類されるため、この数字には含まれません(出典:総務省「日本標準産業分類(平成25年10月改定)大分類P 医療,福祉」e-Stat 詳細情報)。医療機関だけの入職率・離職率ではない、ということです。

第二に、標本調査です。5人以上の常用労働者を雇用する事業所から14,840事業所を抽出した結果であり、0.5ポイントという差は標本誤差の幅と重ねて読む必要があります。概況の数値は表示単位未満を四捨五入しているため、内訳の和が合計と一致しないこともあります。

第三に、入職者・離職者の定義が自院の感覚とずれます。入職者は「事業所が新たに採用した者」で、他企業からの出向者・出向復帰者を含む一方、同一企業内の他事業所からの転入者は除きます。離職者も同様に、同一企業内の他事業所への転出者は含みません。複数施設を運営する法人では、法人内異動が統計上の入職・離職に計上されない点が効いてきます。

第四に、離職理由の産業別内訳は概況に載っていません。令和7年の離職理由別離職率は、「個人的理由」(結婚・出産・育児・介護・看護・その他の個人的理由の合計)が10.2%で前年より0.5ポイント低下、「事業所側の理由」(経営上の都合・出向・出向元への復帰の合計)が0.9%で0.1ポイント上昇しています。性別では、「個人的理由」は男性8.8%・女性11.7%で、女性は前年より1.2ポイント低下しました(出典:厚生労働省「令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況 4 離職理由別離職率の推移」)。ただしこれは全産業の数値で、「医療,福祉」に絞った内訳ではありません。さらに概況は、離職理由が「離職者がいた事業所が回答した理由」であると注記しています。本人の申告ではなく事業所側の認識である点は、退職面談の記録と突き合わせるときに影響します。

自院版の入職率・離職率をどう作り、何と比べるか?

定義をそろえて自院の数字を作り、上の表と並べるのがいちばん早い使い方です。概況の定義は次のとおりです。

  • 入職率=入職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数 × 100
  • 離職率=離職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数 × 100
  • 入職超過率=入職率 − 離職率
  • 常用労働者=期間を定めずに雇われている者、または1か月以上の期間を定めて雇われている者
  • パートタイム労働者=常用労働者のうち、1日の所定労働時間が一般の労働者より短い者、または所定労働時間が同じでも1週の所定労働日数が少ない者。それ以外が一般労働者

この定義に沿うなら、分母は年初時点の在籍者数で固定します。年間平均在籍者数や年末時点の人数を分母にすると、統計の数値と比較できません。また1か月未満の雇用や日雇いは常用労働者に入らないため、スポット勤務の医師やスポット派遣は分子・分母のどちらからも外します。法人内の施設間異動も、上で触れたとおり入職・離職には数えません。

比較先は3つ用意しておくと解像度が上がります。①「医療,福祉」の一般労働者13.6%、②産業計の一般労働者11.4%、③自院の前年の値です。①を超えていれば業界平均より抜けている、③より上がっていれば自院で何かが変わった、という読み分けができます。職種別の採用難については、看護職員の確保策と領域別の求人倍率を扱った記事も併せて確認すると、母集団の外部要因を切り分けやすくなります。

なお、離職率の高さがそのまま採用コストの増加につながるかは別の検証が要ります。紹介会社を使う場合の費用構造は人材紹介手数料の相場と開示義務化の記事で整理しています。また、経営指標を公的データで点検する手順は公的ベンチマークデータ4種の記事にまとめました。

よくある質問

令和7年雇用動向調査はいつ公表されましたか?

令和8年8月31日です。上半期と下半期の年2回の調査結果を合算し、年計として取りまとめたものが今回の公表分にあたります。

「医療,福祉」の離職率14.3%は病院の離職率と考えてよいですか?

いいえ。日本標準産業分類の大分類Pの数値であり、医療業のほかに保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業を含みます。病院・診療所だけを取り出した数値ではありません。調剤薬局は別の大分類に入るため含まれません。

「離職超過」とは何を意味しますか?

入職率から離職率を引いた入職超過率がマイナスの状態、つまり離職率が入職率を上回っている状態を指します。令和7年の「医療,福祉」の一般労働者はマイナス0.5ポイントでした。

自院の離職率を業界平均と比べるとき、何に注意すべきですか?

分母を「1月1日現在の常用労働者数」にそろえること、一般労働者とパートタイム労働者を分けて計算すること、法人内の施設間異動を入職・離職に数えないことの3点です。定義がずれると、差が実態なのか計算方法なのか判別できなくなります。

参考資料

本記事の数値は、いずれも厚生労働省「雇用動向調査結果の概況」の記載を典拠としています。e-Statに掲載されている統計表そのもの(付属統計表を含む)は参照していません。また、「医療,福祉」を中分類(医療業、保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業)に分けた入職率・離職率は概況に掲載がないため、本記事では扱っていません。令和6年調査の概況については公表日を確認していないため、参考資料には調査対象年のみを記載しています。

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