2026年10月、パート・アルバイトが社会保険に加入するかどうかを分けてきた「月額8.8万円(年収106万円)」の賃金要件が撤廃される予定です。さらに2027年10月からは、企業規模要件が「51人以上」から「36人以上」へ下がります。非常勤の看護補助者・医療事務・パート看護師を多く抱える医療機関にとって、採用条件と人件費の前提が変わる話です。本記事では、厚生労働省・日本年金機構の公表資料をもとに、確定している内容と、判断を誤りやすい実務上の論点を整理します。

2026年10月に何が変わるのか?

変わるのは、短時間労働者の加入要件4つのうち「賃金要件」1つだけです。週の所定労働時間20時間以上という要件は残ります。企業規模要件(51人以上)も2026年10月時点では変わりません。

現行の4要件

現在、適用事業所に使用される短時間労働者が健康保険・厚生年金保険の加入対象となるのは、1週間の所定労働時間または1月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満である人のうち、次のすべてに該当する場合です(出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」2026年4月17日更新)。

  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 所定内賃金が月額8.8万円以上であること(賃金要件)
  • 学生でないこと
  • 勤め先が特定適用事業所等であること(厚生年金保険の被保険者数51人以上=企業規模要件)

撤廃されるのは賃金要件だけ

このうち賃金要件が撤廃されます。理由は、要件として機能しなくなったためです。厚生労働省は「賃金が時給1,016円以上になった場合に、週20時間以上働くと、月額賃金が8.8万円以上となり、自動的に賃金要件を満たします」と説明しています(出典:厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」令和8年1月作成)。

根拠は、2025年6月13日に成立した年金制度改正法(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律・令和7年法律第74号)です。同法は賃金要件の撤廃を「公布日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」としており、厚生労働省年金局年金課の政令案概要では施行期日が令和8(2026)年10月1日と示されています(出典:厚生労働省年金局年金課「厚生年金保険法施行令等の一部を改正する政令案について(概要)」e-Gov意見公募資料)。厚生労働省・日本年金機構の広報資料は、現時点ではいずれも「令和8年10月に撤廃予定」と表記しています。

企業規模要件はいつ、どこまで下がるのか?

10年かけて段階的に縮小し、2035年10月に事実上撤廃されます。医療機関にとって影響が大きいのは、2027年10月の「36人以上」への引き下げです。1年あまり先の話であり、賃金要件の撤廃より実務負担は重くなります。

時期対象となる企業等(厚生年金保険の被保険者数)
現在51人以上
2027(令和9)年10月から36人以上
2029(令和11)年10月から21人以上
2032(令和14)年10月から11人以上
2035(令和17)年10月から10人以下(=規模を問わない)
出典:厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」(令和8年1月作成)および「法律説明資料(概要版)」より作成

なお、この時期を待たずに加入対象とすることも可能です。厚生年金保険の被保険者数が基準に満たない企業等でも、被保険者の同意に基づく事業主の申し出により「任意特定適用事業所」となり、加入要件に該当するすべての短時間労働者を加入対象にできます(出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」)。

自院が「51人以上」に当たるかどうかは、どう数えるのか?

数えるのは職員の総数ではなく、厚生年金保険の被保険者数です。そして法人事業所の場合は、法人番号が同一のすべての適用事業所を合算します。1施設あたりの人数で判断すると誤ります。

数えるのは厚生年金保険の被保険者数

日本年金機構は特定適用事業所を「1年のうち6月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業等」と定義しています。短時間労働者本人はカウントに含まれないため、週20時間台のパート職員を何人雇っていても、その人数では企業規模要件の判定は動きません(出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」)。

法人番号が同一の適用事業所は合算する

「法人事業所の場合は、同一法人格に属する(法人番号が同一である)すべての適用事業所の被保険者数の総数」で判断します。複数のクリニックや介護事業所を1つの医療法人で運営している場合、1施設あたり15〜20人でも、法人全体では51人を超えていることがあります。この場合、すべての施設が特定適用事業所となります。

逆に、法人格が分かれていれば別々に数えます。厚生労働省の年金部会資料は「資本関係があり、一体的に経営される企業グループであっても、各法人単位で企業規模要件を満たさない場合は、強制適用対象とはならない」と明記しています(出典:厚生労働省年金局・保険局「被用者保険の適用拡大 参考資料集」第16回社会保障審議会年金部会・2024年7月3日)。医療法人と別法人の関連会社(給食・清掃・事務受託など)を持つグループでは、判定が法人ごとに分かれます。

判定は「1年のうち6月間以上」の見込みで行う

基準日時点の人数ではなく、1年のうち6月間以上51人以上となることが「見込まれる」かどうかで判断します。年度途中の大量採用や、逆に退職が重なる時期がある医療機関では、月ごとの被保険者数の推移を把握しておく必要があります。該当・不該当の届出手続きも日本年金機構が定めています。

個人立の診療所は「個人事業所の適用拡大」の対象になるのか?

なりません。医業はもともと法定17業種に含まれており、常時5人以上を使用する個人事業所は現行制度で既に強制適用だからです。2029年10月の個人事業所の適用拡大は、これまで非適用業種だった業種を対象とするものです。

厚生労働省が示す法定17業種の第14号は「医療」です(ほかに物の製造、土木・建設、物の販売、教育・研究、社会福祉、士業など)。2029年10月からの拡大で新たに対象となるのは、農業、林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業などです。しかも、2029年10月の施行時点で既に存在している事業所は当分の間対象外とされています(出典:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」厚生労働省「年金制度改正法 法律説明資料(概要版)」)。

個人立診療所で確認すべきは「常時5人以上を使用しているか(=既に強制適用か)」と、「短時間労働者の加入要件が変わることへの対応」の2点です。常時5人未満の個人事業所は今回も強制適用の対象外です。

「週20時間」はどう判定するのか?

判定するのは実労働時間ではなく、就業規則や雇用契約書で定めた所定労働時間です。残業でたまたま週20時間を超えても加入対象にはなりませんが、週20時間以上で働く状況が2か月を超えて続く場合は、加入対象となることがあります。

所定労働時間が週単位で定まっていない場合の換算

シフト制で月単位・年単位の所定労働時間しか定めていない場合、日本年金機構は次の算定方法を示しています(1年間の月数を12、週数を52として週単位に換算する考え方です)。

  • 1か月単位で定められている場合:1か月の所定労働時間を12分の52で除して算定する。特定の月の所定労働時間に例外的な長短がある場合は、その月を除いて算定する
  • 1年単位で定められている場合:1年間の所定労働時間を52で除して算定する
  • 1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合:その周期における1週間の所定労働時間の平均により算定する

たとえば1か月の所定労働時間が80時間の非常勤職員は80÷(52÷12)=約18.5時間で20時間未満、90時間なら約20.8時間で20時間以上に該当します。月80〜90時間で契約している職員が多い医療機関では、この境界のすぐ内側と外側に人が集中している可能性があります(出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」)。

2か月以内の期間を定めて使用される者は対象外

2か月以内の期間を定めて使用される人や、臨時に使用される人などは、健康保険・厚生年金保険の加入対象から除かれます。ただし当初の期間を超えて引き続き使用される場合の取扱いは別に定められているため、短期契約を反復更新している場合は個別に確認してください。

保険料の増加分を軽減する仕組みはあるのか?

あります。企業規模要件の見直しなどにより新たに加入対象となる短時間労働者のうち、標準報酬月額が12.6万円以下の人については、3年間にわたり、事業主が負担割合を増やして本人負担を軽減できる特例的な措置が設けられます。事業主が追加負担した分は、その全額を制度全体で支援するとされています。

厚生労働省が示す軽減後の労働者負担は次のとおりです。

標準報酬月額(年額換算)労働者の負担
8.8万円(106万円)本来の負担の25/50
9.8万円(118万円)本来の負担の30/50
10.4万円(125万円)本来の負担の36/50
11万円(132万円)本来の負担の41/50
11.8万円(142万円)本来の負担の45/50
12.6万円(151万円)本来の負担の48/50
13.4万円(161万円)本来の負担の50/50(軽減なし)
出典:厚生労働省「年金制度改正法 法律説明資料(概要版)」。3年目は軽減割合を半減

対象は、従業員数50人以下の企業などで働き、企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者であって、標準報酬月額が12.6万円以下である人です。期間は3年間で、2026年10月から始まります。労使合意に基づいて任意に社会保険を適用する場合でも、この支援措置を活用できるとされています(出典:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」厚生労働省「年金制度改正法 法律説明資料(概要版)」)。

この措置は就業調整(働き控え)を避けるための本人負担軽減の仕組みであり、事業主が自らの本来負担を減らせる制度ではありません。なお、事業主向けの支援策(労働者の収入を増加させる事業主への支援、事務の支援、生産性向上等に資する支援)は、資料上「検討しています」と記載された段階で、内容は確定していません。

賃金要件の撤廃に例外はあるのか?

あります。最低賃金法第7条の減額特例の適用を受ける労働者で、報酬が月額8.8万円未満の人は「特定減額特例対象者」として、当分の間、厚生年金保険の被保険者となりません。ただし申出により任意で加入することは可能です。

特定減額特例対象者は厚生年金保険法附則第4条の6第1項に規定される概念で、「適用事業所に使用される、70歳未満の短時間労働者のうち、最低賃金法第7条の規定の適用を受ける労働者であって、報酬が8.8万円未満である者」と定義されています(出典:厚生労働省年金局年金課「厚生年金保険法施行令等の一部を改正する政令案について(概要)」)。最低賃金法第7条の減額特例の許可を受けて雇用している職員がいる医療機関では、対象者の有無を確認しておく価値があります。

事務長・経営者は、いま何を確認しておくべきか?

2026年10月までに必要なのは、賃金要件の撤廃によって新たに対象となる層の把握です。2027年10月に向けては、法人単位での被保険者数の推移把握が中心になります。

  • 法人番号単位で、厚生年金保険の被保険者数(短時間労働者を除く)の月別推移と今後の見込みを把握する
  • 非常勤職員を「週の所定労働時間20時間以上/未満」で仕分けする。20時間以上でありながら所定内賃金が月8.8万円未満の層が、2026年10月に新たに加入対象となる
  • 雇用契約書・就業規則の所定労働時間が実態と合っているかを点検する。判定に使われるのは契約上の所定労働時間である
  • 月単位・年単位でシフトを組む職種について、週換算した所定労働時間を算出しておく
  • 50人以下の場合は、保険料調整制度を利用するかどうかを判断する
  • 対象職員への説明を準備する。配偶者の扶養から外れる一方、厚生年金が終身で加算され、傷病手当金・出産手当金の給付を受けられるようになる
  • 一般の被保険者と短時間労働者の区分が変わる場合は、被保険者区分変更届の提出が必要になる

よくある質問

2026年10月に企業規模要件も撤廃されるのですか?

いいえ。2026年10月に撤廃される予定なのは賃金要件(月額8.8万円)のみです。企業規模要件は2027年10月に36人以上へ引き下げられ、以後段階的に縮小されます。

週20時間未満のパート職員も加入対象になりますか?

今回の改正では対象になりません。厚生労働省は「週の所定労働時間が20時間未満であれば、原則社会保険の加入対象にはならず、残業等により一時的に労働時間が週20時間以上になったとしても社会保険に加入はしません」としています。ただし、週20時間以上で働く状況が2か月を超えて続く場合は加入対象となることがあります。

1施設あたり20人程度の医療法人ですが、対象外と考えてよいですか?

いいえ。法人事業所の企業規模は、法人番号が同一であるすべての適用事業所の被保険者数を合算して判断します。複数の施設を運営していれば、1施設20人でも法人全体で51人以上となり、既に特定適用事業所に該当している可能性があります。

個人立の診療所も2029年10月から新たに強制適用になるのですか?

いいえ。医療は法定17業種の⑭に含まれているため、常時5人以上を使用する個人立診療所は現行制度で既に強制適用です。2029年10月の拡大は、農業・林業・漁業・宿泊業・飲食サービス業など、これまで非適用業種だった業種が対象です。常時5人未満の個人事業所は今回も強制適用の対象外です。

職員数が51人未満でも、短時間労働者を社会保険に加入させられますか?

できます。被保険者の同意に基づく事業主の申し出により「任意特定適用事業所」となることで、加入要件に該当するすべての短時間労働者が加入対象になります。2026年10月以降にこの仕組みを使って任意加入する場合は、3年間の保険料調整制度も利用できるとされています。

賃金要件が撤廃されると、年収130万円の扶養の基準も変わるのですか?

変わりません。厚生労働省は「年収130万円以上となると、20時間未満で働く場合でも、配偶者の扶養(第3号被保険者)から外れ国民年金と国民健康保険の保険料が発生します」と説明しており、収入が一時的に上がった場合に事業主の証明により引き続き扶養が認められる特例があるとしています。今回の改正で撤廃されるのは、短時間労働者の被用者保険適用要件である月額8.8万円の賃金要件です。

参考資料

本記事の最終確認日:2026年8月31日。賃金要件の撤廃時期および企業規模要件の縮小スケジュールは、施行期日を定める政令および今後の関係通知により変更される可能性があります。個別の適用判断は、管轄の年金事務所または社会保険労務士にご確認ください。

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