
医療法人の理事長が決算のあとに都道府県へ出すものは、1種類ではありません。医療法第52条第1項は、事業報告書等の届出を毎会計年度終了後3か月以内と定めています。これとは別に、同法第69条の2第2項に基づく経営情報の報告が、病院・診療所ごとに求められています(厚生労働省「医療法人に関する情報の調査及び分析等について」)。前者を出さない場合は、理事・監事が20万円以下の過料の対象になると医療法第93条第7号に書かれています。
決算後に都道府県へ出す書類は、法律上の根拠で2系統に分かれます。1つは医療法第52条第1項の事業報告書等の届出で、法人全体の活動と財産の状況を知事に届け出るものです。もう1つは令和5年の医療法改正(令和5年法律第31号)で加わった経営情報の報告で、収益・費用や職員の状況を、法人が開設する病院または診療所ごとに報告します(厚生労働省の同ページ)。
| 事業報告書等の届出 | 経営情報の報告 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 医療法第52条第1項 | 医療法第69条の2第2項 |
| 単位 | 法人 | 病院・診療所ごと |
| 主な中身 | 事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況に関する報告書、監事の監査報告書など | 収益・費用、職員の職種別人数など(様式1=病院、様式2=診療所) |
| 期限 | 会計年度終了後3か月以内 | 会計年度終了後3か月以内(外部監査対象法人は4か月以内) |
| 出し先 | 主たる事務所のある都道府県(知事) | 主たる事務所のある都道府県(一括) |
厚生労働省のリーフレットも、この2つはどちらも義務だと明記しています。なお、この制度の主語は「医療法人」です。個人が開設する診療所は、医療法第52条・第69条の2の対象ではありません。
届出の前に、法人内で済ませる手順があります。医療法第51条は、毎会計年度終了後2か月以内に事業報告書等を作る義務を定めています。そのうえで届出の期限が3か月以内なので、承認の作業に使える余裕は実質1か月ほどです。
| 順 | やること | 根拠 |
|---|---|---|
| 1 | 決算後2か月以内に事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況に関する報告書などを作成する | 医療法第51条第1項 |
| 2 | 監事の監査を受ける(公認会計士等の監査対象法人は、その監査も) | 同第4項・第5項 |
| 3 | 監査を受けた書類について理事会の承認を受ける | 同第6項 |
| 4 | 理事が社員総会(財団は評議員会)に提出し、貸借対照表と損益計算書は承認を受け、それ以外は内容を報告する | 医療法第51条の2 |
| 5 | 事業報告書等、監事の監査報告書(監査対象法人は公認会計士等の監査報告書も)を知事に届け出る | 医療法第52条第1項 |
届出のあとも残る義務があります。貸借対照表と損益計算書は作成から10年間保存し(第51条第3項)、事業報告書等と監査報告書は、社員総会の日の1週間前から5年間主たる事務所に備え置いて、社員や債権者から請求があれば閲覧させます(第51条の4)。都道府県も、定款や届出書類について請求があれば閲覧に供する決まりです(第52条第2項)。届け出た内容は、第三者に見られうる書類だと考えて作ってください。
決算書そのものの読み方は、承継の文脈では承継で決算書のどこを見るかの記事にまとめています。
経営情報の報告は、医療法第69条の2第2項が根拠です。法人に対して、開設する病院または診療所ごとに収益・費用その他の事項を知事に報告するよう求めています。診療所だけを開設する法人も、診療所の分(様式2)を報告します。厚生労働省は、この情報を集めたデータベース(医療法人経営情報データベースシステム、MCDB)を使って分析結果を公表しています。
厚生労働省の「経営情報の報告の取扱い(第3版・令和7年3月31日事務連絡)」によると、様式は3種類です。
診療所の様式2では、医業収益・医業費用(材料費、給与費、委託費、減価償却費など)と、職員の職種別の人数を扱います。基準日は項目ごとに違い、基本情報は会計年度の最終日、職員数は給与総額の対象期間の7月1日、給与総額は原則として直近の暦年(1月1日〜12月31日)です。暦年でなく会計年度で記載することも認められています。決算期が3月でも12月でも、「いつ時点の数字か」を項目ごとに確認してから入力に入る必要があります。
租税特別措置法第67条第1項の社会保険診療報酬の所得計算の特例(いわゆる四段階税制)を適用して所得を計算した会計年度は、経営情報の報告の対象外です。ただし、対象外であることは様式3で都道府県に出す扱いです。「対象外だから何もしない」ではありません。事業報告書等の届出は、四段階税制の有無にかかわらず必要です。
厚生労働省のページは、システムによる報告を推進しています。初めて使うときは専用のIDが必要で、事業報告書の届出と共通のIDです。持っていなければ、主たる事務所のある都道府県に連絡します。操作説明書(第1.1版)によれば、前年度の情報の一部が次年度の入力欄に自動で入り、保存時にエラーと警告が表示され、「届出実行」のあと都道府県が承認または差戻しをする流れです。ブラウザの「戻る」ボタンは使わないよう注意書きがあります。様式ファイルは2026年8月4日に関数が修正されているため、前年のファイルを使い回さず、最新版を取り直してください。
条文に書いてあるのは、事業報告書等の側です。医療法第93条第7号は、第52条第1項に違反して届出をせず、または虚偽の届出をしたとき、医療法人の理事・監事を20万円以下の過料に処すると定めています(刑を科すべきときを除く)。法人ではなく役員個人が対象になる点に注意が必要です。
経営情報の報告については、厚生労働省のリーフレットと取扱い(第3版)に、未報告時の罰則の記載は見当たりません。ただしリーフレットは「報告期限が過ぎていても都道府県へご報告ください」と呼びかけています。罰則がないから後回しでよい、という読み方はしないほうが安全です。期限に間に合わないと分かった時点で、早めに都道府県の担当窓口へ相談してください。
期限は「会計年度終了後3か月以内」なので、決算月から数えます。2026年10月時点でいえば、7月決算の法人は10月末、8月決算の法人は11月末、9月決算の法人は12月末が目安です。3月決算なら、事業報告書等の作成は5月末、届出は6月末が目安になります。
| 会計年度の終了月 | 事業報告書等の作成(2か月以内) | 届出・経営情報の報告(3か月以内) |
|---|---|---|
| 3月 | 5月末 | 6月末 |
| 7月 | 9月末 | 10月末 |
| 8月 | 10月末 | 11月末 |
| 9月 | 11月末 | 12月末 |
| 12月 | 翌年2月末 | 翌年3月末 |
上の表は月末を基準にした目安で、実際の日付の数え方は都道府県の案内で確認してください。外部監査の対象となる法人は、経営情報の報告が4か月以内とされています。事業報告書等の期限を含め、自法人の扱いは都道府県に確認するのが確実です。
医療法人を承継するときに、この2つの届出が見落とされやすい理由は、義務の主体が個人ではなく法人だからです。持分譲渡で理事長が交代しても、法人は存続し、届出の義務も法人に残ります。事業譲渡と持分譲渡の違いのとおり、持分譲渡なら法人格がそのまま引き継がれるため、売り手の時代の届出状況も、承継後の法人がそのまま背負うものとして確認しておく必要があります。一方で、個人開設の診療所を事業譲渡で買う場合は、この制度の対象外です。買い手が新しく医療法人を設立するなら、その法人の会計年度が終了するたびに義務が生じます。
承継前の確認では、次の3点が実務上の焦点になります。第一に、過去の事業報告書等が期限内に出ているかです。都道府県には閲覧の決まりがあるため、売り手に控えを求めるのに加えて、閲覧が可能かどうかを都道府県に確認する方法もあります。第二に、MCDBのIDと担当者が誰名義かです。理事長交代で連絡先が変わるなら、都道府県への連絡が要ります。第三に、直近の決算期がいつかです。承継の直後に期限が来る法人もあります。承継後の最初の90日で何を見るかは承継直後30〜90日の記事、院長が自分で持つ業務の線引きは院長が経営実務を抱えない体制の記事に整理しています。
この2つの制度の主語は「医療法人」です。医療法第52条第1項も第69条の2第2項も、医療法人に課す義務として書かれています。個人が開設する診療所は対象ではありません。ただし、医療法人化したあとは対象になるため、法人化の計画があるなら決算後の事務が増えることを見込んでおきます。
別の制度です。事業報告書等は法人単位の書類で、医療法第52条が根拠です。経営情報の報告は病院・診療所ごとの収益・費用や職員の情報で、第69条の2第2項が根拠です。厚生労働省のリーフレットも両方を義務としています。MCDBでは同じIDを使いますが、出す内容は別に用意します。
よくありません。経営情報の報告は、その会計年度については対象外になりますが、対象外であることを様式3で報告します。事業報告書等の届出は四段階税制と関係なく必要です。
事業報告書等については、届出をしない場合に理事・監事が20万円以下の過料に処される規定があります(医療法第93条第7号)。経営情報の報告は、資料に罰則の記載は見当たりませんが、リーフレットは期限後でも報告するよう求めています。間に合わないと分かった時点で、都道府県の担当窓口に相談してください。
届出の義務を負うのは法人です。前の理事長の時期の決算であっても、法人として期限内に出すことになります。実際に誰が書類を整えて署名するかは、承継の時期と決算期の関係で変わるため、売り手・買い手・都道府県の三者で、引継ぎの前に確認しておくのが安全です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の届出の要否や期限、過料の適用を保証するものではありません。実際の届出にあたっては、管轄の都道府県の医療法人担当窓口および税理士・行政書士等の専門家に必ずご確認ください。数値・制度は2026年10月時点の情報に基づきます。
公開日:2026年10月7日/最終更新日:2026年10月7日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身